TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#375

街中で襲撃を受け、逃げ出してきたスフェーン・サダミ・アンナの三人。

アンナはどこぞの馬の骨も知らぬ自称『偉大なる教祖が見出した異能の申し子』らしい。彼女はインプラントチップを埋め込んでいない無記載児であり、それだけでまともな家庭環境でないことは明らかであった。

 

「はぁ〜、着いた〜」

 

そして全速力で走り続けたことで貨物ターミナルに到着をした頃には、すっかり足回りがエーテルの結晶が幾つも生えてしまっていた。

 

「追手は…いなさそうだ」

 

耳を動かし、スフェーン以上に敏感な聴力を生かして自分たちの跡を付けてくる足音がないことを確認する。そしてその事を確認すると、スフェーンはそこでやっと一息吐いてからアンナを地面に立たせる。

 

「終わった〜、疲れた〜」

 

スフェーンはそこでアンナを見る。

 

「アンナちゃん。怪我は?」

「完全無欠な私に?怪我なんてしませんわ」

「…そっか」

 

スフェーンは堂々と胸を張る彼女の無事にとり会えず安堵する。少なくともスフェーン的には『子供は怪我をして成長する』と思っているので、一度もそう言う怪我をしたことがない彼女に対しては寧ろ不信感があった。

 

「アンナちゃん。怪我をしてから学ぶこともある」

「怪我?なぜ率先して血を見なければなりませんの?」

「いや、怪我ってだいたい事故でしょうに」

 

そんな事を言いながらコンテナヤードを歩く三人。

 

「で、私はどうしてこんな臭いの漂う場所に?」

「我慢してちょうだい。一時的だから」

 

そこでスフェーンは言うと、アンナは首を傾げる。

 

「どこに連れて行くのですの?」

「いや、まだ特には…」

 

そして着替えたアンナは自分のいま置かれている状況をうまく理解できずにここまで来ていた。

 

「そもそも何で逃げ出したのよ」

「…」

 

その時、アンナの足が止まった。

 

「?どうした」

 

すぐにサダミが気が付いて気にかけると、彼女は少しだけ足が強張ってから一歩を踏み出す。

 

「…いえ、久しぶりに外に出たから。それで飛び出しただけですわ」

「ふーん…」

 

その時、スフェーン達は内心で思う『あり得ない』と。少なくとも何かしらの理由で逃げ出したとはいえ、彼女を追いかけた白装束は躊躇なく殺せと言っていたのを二人は聞いている。

 

「ですので、少ししたら戻りますわ」

「…そっか」

 

そこでアンナを見てスフェーンはサダミに目配せをすると、彼女はアンナの首元に出力を落とした電磁警棒を当てた。

 

「うぐっ!?」

 

そして一瞬でアンナは気絶させられると、意識を刈り取られた。

 

「よっと」

 

そして気絶体となったアンナをスフェーンは抱えると、そこでサダミが質問をする。

 

「彼女は異能者か?」

「ええ、だいぶエーテルが侵食しているからね」

 

スフェーンはそこで彼女の体内から感じるエーテルの奔流を視認する。

 

「だから…」

 

そこで彼女を抱えながら脳神経まで侵食をされたアンナのエーテルを使う。

 

「…やっぱり」

 

その際、彼女の中で滞留していたエーテルを感知し、その詰まりをエーテルを操作して流れを促す。

 

「見れた?」

「十分に」

 

そこで自分たちの合造車に乗り込んでベッドの上で寝かせると手首に手錠をかける。

 

「ほい」

 

スフェーンが彼女を列車と紐で括り付けている間にルシエルを介して情報が渡される。

 

「うおっ」

 

それを見た途端、その強烈な画像を見て思わずサダミは溢してしまう。

 

「…強烈な映像だ」

 

そしてじっくりと映像と共にそれらを見た後に顔をこれでもかと顰めてから縛り終えたスフェーンが言う。

 

「連中、悪魔崇拝者だよ」

「…何でよりにもよって自然主義者よりやばい連中なんだ」

 

サダミの丸眼鏡に映された映像には誰かを磔に火を焚べる集団が囲む映像や、子供を殺して食事をする映像があった。少なくとも子供が見て良い景色では無い。

 

「通報?」

「多分もう警察は目をつけてるでしょう?」

「…この国の現状を忘れたか?」

「あっ…」

 

サダミに指摘され、そこでルシエルが補足をする。

 

『現在、この国は政権基盤が揺らいでおり、警察の監視も十分では無いかと』

「そうだった…」

 

そこで思い出すのはここに到着したばかりに市電から見たデモ行進。

 

「使い物にならないか」

「それどころか、この規模なら賄賂受け取ってお目溢しじゃ無いのかい?」

「かも知れない」

 

少なくともそんな明らかやばい組織がこんな少女に逃げられるような状況になっているのがおかしい話だが、

 

「しかし暴れてもバレない」

「…」

 

サダミが一言言うと、スフェーンは少々訝しんで呆れる。

 

「やりたいだけでしょ」

「そんなそんな」

 

しかし彼女の顔は笑っていた。

 

「…んっ」

 

すると気絶をしていたアンナがゆっくりと目を覚ますと、そこでスフェーン達を見た。

 

「っ、貴女達!がっ!」

 

そこで彼女は掴み掛かろうとしたが、自分が手錠をされて尚且つ列車の壁に括り付けられていている事を自覚する。

 

「早いね」

「もう起きたの」

 

そこで回復の早いアンナに軽く答える二人。

 

「どーどー、落ち着け落ち着け」

「これの何処が落ち着いていられると!?」

 

アンナは至極真っ当とも言える反論をすると、彼女のデコにサダミが手を当てる。

 

「冷たっ!何をするんですの!?」

「…」

 

そこでアンナの額に触れて確認をした彼女は、アンナに聞く。

 

「アンナちゃん。どんな異能使っているの?」

「っ!?」

 

その時、アンナは目を見開いて動揺した。

 

「そ、それは…できませんわ」

「何故?」

「…私は、呪われた子ですから…」

「何で呪われた子なの?」

 

そこで列車の席に座って聞くスフェーン。彼女はしっかりとアンナの目を見ており、その目は全てを見通す虹と、全てを優しく飲み込んでしまいそうな暖かい灰色の双眸を持ち合わせおり、見ているだけで彼女に不気味さと面白さの二面性をアンナは感じ取った。

 

「…私の異能は…人を燃やしてしまうから…」

「燃やす…炎因子?」

 

スフェーンが聞くと、アンナは知らないように首を傾げた。言葉は知っているが、意味は知らない様子だった。

 

「炎因子?」

「昔、今の異能協会がまだエーテル協会と名乗っていた頃に異能研究者のチャールズ・ハリファックスが提唱した異能の系統の呼称だ」

「??」

 

どう言う事だろうかと途端に説明を受けて首を傾げるアンナ。彼女はサダミの言っている言葉は理解できても意味がわからなかった。

 

「まあ詳しい話はそう言う専門家が教えてくれるだろう。どれ、ちょっと使ってみるか」

「っ!?危険ですわ!」

 

異能を使うと言うことにアンナは驚愕してスフェーンを見る。

 

「大丈夫大丈夫。人形相手にやってみればいいだけだし」

 

彼女はそういうが、アンナは首を横に振る。

 

「無理です。私の異能は…生き物にしか使えないのですし…」

「生き物?」

「…ええ」

 

アンナは頷くと、スフェーンを見る。

 

「「…」」

 

そんな彼女にスフェーンとサダミはお互いの顔を見合わせると、アンナを見る。

 

「アンナちゃん。ちょっと失礼?」

 

そこでサダミが片手にライトを持って彼女の目にライトを当てる。

 

「…」

 

ライトを当てて瞳孔の確認を行うと、サダミは次に手を広げて言う。

 

「手。よく見て」

 

アンナはサダミの指示に従って彼女の手を見つめると、彼女は握っていた右肘の腱をグッと押し込んだ。

 

ボッ「!?」

 

すると上腕二頭筋反射によって異能の発動条件が整い、彼女の右手が少し赤く蒸気を上げた後に火がついた。

 

「ひっ!」

 

一瞬で肉の中の血が蒸発し、発火点を超えたことでサダミの手が燃えてしまった。

部屋の中にはエーテルの不完全燃焼の香りが漂い、それを見たスフェーンが一言。

 

「おー。こりゃすげぇ」

 

彼女はそこでサダミの手を水の張った洗面器に入れると、ジュッと音を立てて手が冷やされる。

 

「…」

 

アンナは鼻に残るエーテルの香りに茫然となった後にサダミの手を見て言う。

 

「だから…呪われた子なのに…」

 

そして力が抜けてベッドに座り込んで茫然となる彼女。

 

「成程。タンパク質に火が付く勢いの熱を与えるわけか」

「それだけじゃ無い」

 

そして洗面器で手を冷却した彼女は自ら手を抜くと、彼女の手は赤く焼け爛れてケロイド状になっていた。

 

「見て」

 

サダミはアンナに見えないようにスフェーンを手招きするとそこで先ほどのアンナの異能を見せる。

 

「ここ」

「おぉ…」

 

そして燃えた手の甲の盛り上がった肉を見る。

 

「すごいわね」

「異能は個人差が出るが…これはもはや外れ値だ」

 

二人はアンナの異能を見て云々と言っていると、

 

「…えふっ」

 

後ろで二人の嫌な声が聞こえ、振り返ってみるとアンナは泣きかけており。それを見てスフェーンとサダミは慌てて手を見せる。

 

「ほらほら。安心しなって」

「?」

 

そこでスフェーンが指差すと、サダミの燃えた手のひらは何事もなかったかのように綺麗だった。

 

「え?でもさっき…」

「傷が治りやすいの。まあ不老者だからね」

「不老者…っ!」

 

不老者と言う言葉にアンナはすぐに自分の持っている知識が結びつく。

 

「お父様が言っていた悪魔の化身?!」

「「ぶっ」」

 

それを聞き、二人は同時に吹き出した。

不老者と言うのはエーテル生体学の天才、ジョン・ルートヴィヒ・オッペンハイマーが開発・実用化した技術である。エーテル生体学の到達点とまで言わせしめた不老者の開発は人類の『140年の壁』と獣人の『80年の壁』を崩した。

 

エーテルと人を直接結びつけたこの技術は、自分を実験台一号にして完成させた。

エーテル・ボンバと不老者、その両方を完成させた彼は『天使と悪魔を飼う天才』と呼ばれていた。今でも彼はその二つ名を持って、どこかに隠れて暮らしていると言われていた。

 

「不老者が悪魔の化身?」

「面白いが。冗談にするのは気分が悪いな」

 

スフェーン達は笑っていると、アンナは至って真面目な顔で言う。

 

「だって、お父様はそう言って…」

 

アンナは言うと、スフェーンは苦笑気味に聞く。

 

「あーね。私たち悪魔の化身かよ」

「そう見えるかい?」

「え…?」

 

そこでアンナはスフェーン達を見上げて聞く。

 

「え?じゃあ…お二方は…」

「そうだよ」

「年齢詐称をしているよ」

 

二人はそう言うと、不老者であるという事実を知って困惑をした目を浮かべた。




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