「え?不老者ってこう…山羊のツノが生えてて…」
「それ本物の悪魔やん」
アンナはスフェーンの鹿角を見て言うので思わず言ってしまう。
「確かに古代より山羊は悪魔の象徴だな。だがスフェーンの角は鹿で、逆に幸運の証だ」
「でも黒猫は不吉の象徴じゃないの」
「馬鹿じゃないの?魔除けの招き猫つってるでしょう?」
サダミはスフェーンに言うと、彼女は大層怪しんだ目線を向ける。
「…魔除け、できてる?」
「お黙り!」
目下問題に巻き込まれている現実に目を背向けながら二人は話していると、アンナは恐る恐る聞く。
「え?じゃあお二方は…」
「最低でも二〇〇年は生きているよ」
「っ!?」
そこでアンナは恐ろしい彼女達の年齢を聞き、思わず後退りしてしまう。
「あははっ!いい反応だねぇ」
「スフェーン…」
少なくとも今でこそ不老者は世間一般にも受け入れられたが、数十年前。まだパシリコ共和国による自然主義が世界的に全盛期を迎えていた頃、不老者と言うのは何十年経とうが見た目が変わらないと言う理由と身体中にエーテルが廻っている事で強力な異能を放つことができた。
しかし自然主義者は、何十年経とうが姿の変わらない不老者達を『自然の通りから外れた怪物』と名指しで批判し迫害を実行。当時は有象無象の集団であった緑林教の権威をより高めるための材料として扱われた。その果てがポーリン事件である。
「まあ、少し前まで迫害をされることがあった種族だよ」
「…」
スフェーンはアンナに言うと、彼女は思わず唾を飲み込んでしまう。
不老者はその生い立ちから自然主義者の敵であった。強力な異能を使えることや歳を取らないその容姿から『魔女』と言われることもあった。
「じゃ、じゃあ…二人は…」
「別に逃げ隠れた暮らしはしていないんだけどねぇ…」
警戒心を見せる彼女にスフェーンは呆れて煙草を取り出すと、そこでピタッと動きが止まった。
「…はいはい、分かったよ」
そして誰かに言われたように取り出しかけた煙草を片付けると、アンナに呆れた顔で言う。
「そもそも普通の不老者は人なんて喰わんて」
「人を食うのはそう言う趣味の人間だけだ。歳を取らないだけで、不老者というのはただの人間と変わらない」
サダミはアンナに説明をすると、彼女はそこで二人を改めてみる。
少なくとも二人が異能を使えるのは先ほど知っていたが、納得ができた。少なくとも低威力の異能しか放てないあの状況であんなに強力な電撃を放てるのは不老者以外にできなかった。
「まあ今の時代は自然主義者が逆に迫害される立場ってのが笑えない話だけど」
パシリコ解体戦争の後、自然主義者の扱いというのは全盛期よりも悲惨なこととなった。彼らは一様に差別主義者のレッテルを貼られ、世間から白い目で見られることとなった。
「じゃ、じゃあ不老者になって、神様とかにはなれない…ということですの?」
「神様?」
アンナはスフェーン達にいうと、サダミはそこで苦笑した。
「不老者は不老不死じゃないし、ましてや神様じゃないさ」
「そ、そんな…」
アンナはスフェーン達から現実を伝えられると、確然とした表情を浮かべていた。
「悪いね。夢潰すようなこと言って」
「でも言わないと未だに不老不死と勘違いする人間がいるぞ」
スフェーン達は不老者に関してそういう話をしていると、アンナはスフェーンを見る。
「…」
その時、彼女は驚いていた。そもそも、不老者というのを間近に見たことのなかった彼女は、自分の想像以上に特別感のない目の前の二人を見て唖然となっていた。
「…」
その後、砂漠に太陽が落ちていくのを機関車の屋根から眺めているアンナ。あの後、手錠と縄を外され、自由の身となってからスフェーン達の列車の上で茫然と過ごしていた。
「どうした?」
すると下で夕食を買ってきたスフェーンが呼びかけたので、アンナは下を見る。
「よっと」
すると彼女は列車の屋根まで一っ飛びで上がってくると、アンナの隣に座る。少なくともこの高さを一回で飛び上がれるなど、異能以外でできるとは想像できなかった。
「ほら、夕食」
「あ、ありがとう…ございます…」
そこで受け取ったアライェスをアンナは見る。
「いただきます」
「い、いただき…ます」
アンナは少し慣れない様子だったので、スフェーンはそこで聞いた。
「あら、こういうのって慣れていないかな?」
「い、いえ!そんなことは…!!」
アンナはそこで否定する反応を見せたので、スフェーンは『必要最低限の教育だけなんだな』と感じた。
少なくとも彼女の記憶を見た時、まともな教育はされていないんだろうなというのは予測していた。
そもそもな話、お金に関する話を一切知らない様子の彼女は、世間一般に出れば学ぶようなことをしていないという時点で色々と大問題である。
「美味しい?」
「…はい。とても」
そこでアライェスを食べて少し笑ったアンナ。ピタパンにこれでもかと詰め込んだ羊肉から溢れる肉汁は少女の顔をゆるませることは簡単だった。背徳的なまでに詰まっている肉汁は噛むだけで口が汚れてしまうほどだった。
「熱っ」
「気をつけなよ〜」
少し遅い気がするとアンナは思ったが、彼女も同様の物を食べていたのを見る。
その時、アンナは改めてスフェーンの顔をよく見る。彼女の虹と灰の双眸と整っている容姿は、印象に残る顔をしている。
不思議なのはこれほど覚えやすい目と顔をしているにも関わらず、記憶に残らない点である。アンナはまだ出会って数時間しか経っていないからかもしれないが、それほどの顔ならインターネットとかでも話題になりそうな人だった。
だが彼女がこの街を歩いても誰も彼女のことを無向きせず、逆にあの時は聖職服を着ていたアンナばかり見ていた。私がこの街で有名だからなのかもしれないが、それにしたって普通は誰が運んでいるのかと思われるはずだ。
「(と言うより、私はスフェーンさんのサングラスを…)」
そこでふと自分が踏み抜いた彼女のサングラスのことを思い出し、途端に顔を少し青くした。
「…」
アンナはスフェーンの買ってきたアライェスを見て聞く。
「そう言えば、まだお二方のお名前をお聞きしていませんでいたわね」
「ん?あぁ、そう言えばそうだったわね」
するとスフェーンも思い出して自己紹介をする。
「だいぶ遅いけど、スフェーン・シュエット。しがない運び屋をしているわ」
「コーディエライト・シャノワール。この列車の料理人兼運転士」
すると運転室のドアを開けてサダミが顔を出した。彼女はドアを開けて早々に自己紹介をしていたので、密閉された運転室に聞こえていたのかと彼女の聴力の強さに驚いた。
「あら、聞いていたの?」
「私の聴力を舐めるな」
彼女はそう言うと簡単に列車の屋根に逆上がりの要領で登ると、そこで片手にケバブを取り出して食べ始める。彼女の大きな黒い猫耳は超人的聴力を獲得していた。
「はぐっ」
そしてケバブの巨大な円形の肉塊にかぶりついた。
ケバブと聞いてイメージするのは、出店のそばでデカい塊肉がゆっくりと回転してバリカンなどで肉を順次こそぎ落としていくイメージがあるが、それはドネル・ケバブと呼ばれる本来のケバブとはまた毛色が違う食べ物である。血を分けた親戚のような食べ物であり、本来のケバブは串焼き全般を指す。
「美味…」
サダミは香辛料を塗してこんがりと焼き上げられた魚肉ケバブを満足げに食べる。
「相変わらず魚好きね」
「当たり前さ、猫はタンパク質が大切なんだから。ただまぁ、ネズミがあれば一番なんだが…」
「…猫の魚好きは日本だけの文化よ」
スフェーンはサダミに少しツッコミを入れると、そこでアンナが聞く。
「ネズミ?」
「そう、この黒猫一番の好物」
「一番食いごたえがあるのはタケネズミ。鰹節も可」
サダミがいい笑顔で堂々と言っており、彼女の好みを聞いたアンナは一言。
「…下手な獣人よりも獣に近いんですね」
「そうだよ。こいつ、昔から野生児みたいな食生活でしょ?」
スフェーンが言うと、サダミは呆れた視線をスフェーンに向ける。
「だったら鹿の獣人なんだから肉食うなよ」
「五月蝿い五月蝿い。私は雑食性だよ」
スフェーンはアライェス片手に反論をする。
「じゃあ好きなのは」
「タラの芽の天ぷら、コシアブラの新芽、イタチ。一部腐肉も可」
「…」
アンナは絶句した。彼女の好みもそもそも彼女の好みの中には普通食べちゃいけないようなものも混ざっている。確かに鹿には腐肉食の食生も確認されている雑食性があるが、大抵は草食動物のイメージが強い。
「その…野生児ですのね」
「生きていくためにはなんでも食べることがおすすめよ〜」
「け、結構ですわ…」
やや引き気味に答えてしまったのでスフェーン達は少々つまらなさそうな顔をした。そもそも、アンナにとってネズミやイタチなど未知の領域の食べ物であり、そもそ害獣が食べられるのかと言う認識だった。
「し、しかし…特徴的なものがお好きですのね」
「まあ獣人ですし?」
「特に私たちは野生に近いかもね」
スフェーンは言うと、アンナは野生味の強いこの二人の獣人は参考にならないと感じ取った。
「(この二人、長く生きていて何をしていたのでしょう)」
少なくとも二〇〇年は生きていると公言し、長い時間を生きてきた二人。しかし彼女達から不老者の話を聞いてみたかったが、最初に『不老者は神ではない』と言われ、そのことが永遠と脳内をグルグルと回り続けていた。
「…」
そして丁寧に一口ずつ彼女はアライェスを食べる。
「…あの」
そして少し間を空けてから彼女は隣に座る不老者の二人に聞いた。
「お二方は、神様ではないとおっしゃいました」
「えぇ」
「そうだね」
二人は頷く。先ほど二人は不老者は神ではないと断言しており、不老者=神と思っていた彼女はそこで唖然とした表情を二人に見せていた。
こう言う事は他の地域でもあったので二人は慣れていたのだが、少女は頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けていた。
「こんな事を聞くのは、お二方はわからないのでしょうが…」
そこで彼女は神ではないと否定した二人に聞いた。
「神様になる方法って…どうすればいいんでしょうか?」
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