「神?」
「神様…」
少女の質問に二人は彼女を見ながら一瞬停止する。脳がフリーズしたと問われれば否と答えるが、突拍子もない質問を受けたと答えたら頷いてしまう。
「そうか…」
「な、なるほど…」
スフェーン達はそんなアンナから聞かれた純粋な質問にスフェーンは真顔で、サダミはやや失笑気味にアンナを見る。
「神、ね…」
サダミはそこで隣に座る義姉を見ると、義姉は至って真面目な顔をしていたのでやや驚いてしまった。
「…」
そして彼女が少し間を空けているので、答えに時間がかかるものかと思った。
「まず、結論を知りたい?」
するとスフェーンはアンナに聞いたので、彼女はどう言うことかと少し困惑しながらもゆっくりと頷く。
「うん。じゃあ結論から言うと『簡単に神様には成れない』と言う答えが最適だろう」
「…」
完全な否定をしない答え方にアンナは食べかけのアライェスを手元に持ったままスフェーンの顔を見つめる。
「世の中、『神』と定義されるモノは多種多様だ。それは歴史を見ても同じことが言える」
スフェーンはそこでアンナに歴史談義も交えながら話す。
「そもそも『神』とは何なのか。そこから話すとだいぶ面倒になるが…」
「…それは自論?」
「そりゃあね」
サダミの質問にスフェーンは頷くと、彼女は少し笑った。
「なるほど…面白い仮説が聞けそうだ」
彼女は楽しみな様子で食い終えた串を仕舞う。アンナはそんな彼女の表情を見て、スフェーンの顔を再び見る。
「聞かせてください」
アンナはそこでそう言うと、スフェーンは小さく頷いてから話し始める。
「多くの多神教の中の神々は天候や愛などを分かりやすい形に還元している場合が多い。まあ有体に言えば天候や災害の擬人化ね」
「なるほど…」
「多分、世界初の擬人化はそう言った神様だと思うよ」
スフェーンはそこでアンナに神様についての説明をする。
「天照大神は太陽、オーディンは戦争と死、ゼウスは天候。
目に見えるものとか、死や愛などの目では分からないもの。あるいは火災や地震、噴火などの当時の人々では手に負えない、圧倒的な無力感を感じたもの。
そう言うものにアミニズムを感じて、人々はそれを恐れたり敬うことで長い期間をかけて『神』を作ったんでしょうね」
スフェーンの説明を聞き、サダミが一つ言う。
「いわゆる、八百万の神・シャーマン・精霊。そう言った類のモノか」
「そう」
彼女は頷くと、アンナに説明の続きをする。
「で、多くの人々はそうしたアミニズム信仰を行う土着の神が形成されるようになった。それで、神を形成するようになった」
「その点、緑林教は異質なのか…」
そこでふと、昔を思い出すサダミは呟く。
「そう、過去の歴史と照らし合わせるなら…朝鮮語が広まり方としては近いかな」
かつて一世を風靡した新興宗教の緑林教。その宗教の広まり方と言うのは、少々強引なモノであった。
パシリコ共和国、引いてはその前身である緑化連合。それらの都市は緑化連合に加入する代わりにオベリスクの設置と緑林教の施設の設立、民主的な自由選挙を求めてきた。
当時、緑林教の名前は使われていなかったが、一種の宗教的要素を持ち合わせていたことは事実である。元はホームレスなどの保養施設で、炊き出しなどを行なっていた施設の設立と市議会にそう言った制度を敷くことを求めてきたのだ。
植物の販売権と農業を行いたかった都市では徹底した監視の代わりにそれらを選挙などの妥協をした上で受諾したが、一度市内に入ってしまえばあとは向こうの手筈通り。長い期間をかけて民主的な自由選挙を行うことを公約に絶対的な人気を市長に立てて緑化連合傘下に取り込んだ。
「まあ例外は放っておくとして…ともかく、長い間をかけて人々は神を作った。と言うのが私の考え方かな」
「じゃあ…多神教の神の多くは現象の擬人化である。と言うことですの?」
「一部例外はあるけどね。過去にしっちゃかめっちゃかに神様を作った時代があったから」
飲み込みの早いアンナにスフェーンは頷く。こう言う時、飲み込みの早い頭はありがたいと思う。本当に見た目相応の年齢なのかと思ってしまうが、体を診てみると異能者であることに違いないが、不老者ではないことは確認済みであった。
「でも、そうでない神様もいると言うことですの?」
アンナの質問にスフェーンは頷く。
「そう、有名なところで言えばヤハウェ、ゴッド、アッラー。いずれもユダヤ教、キリスト教、イスラームの同一の唯一神として有名な神様」
「…何も、旧暦の時代の神々ですわね。それも、今の時代ではほぼ信仰されなくなった古代の…」
「正確には中世以前の宗教よ。人類の歴史上、地球外に初めて人々が居住を始めた年代からが時代区分では近世の定義になっているから」
スフェーンはアンナの歴史認識の間違いを指摘すると、
「ですが、その中でもキリスト教はイエス・キリスト神の子であって受肉をして人となったと言われている」
「と言うことは人ですの?」
「そうそう。で、まあここら辺は結構ややこしいからざっくり流すけど、この神様は『名前を言ってはならないあの人』案件なのよ」
「へぇ」
途端のへぇボタンを押し始めるアンナ。
「ちなみにヤハウェの誤訳でエホバが生まれたらしいけど」
「へぇ」
そこでサダミのトリビアを聞くアンナ。
「とまあ少し話がずれちゃったけど、中には生前の功績が評価されて神様になった人もいる」
「神様になった人…」
「有名どころ言えば東郷平八郎。彼は日本海海戦での歴史的大勝を飾った事で後に東郷神社と呼ばれる神社が建立された。
他にも乃木希典を祀る乃木神社、児島源太郎を祀る児島神社、安倍晴明を祀る晴明神社。ちょっと最後の人は伝承では稲荷神の子だからイエス・キリストに近いかもしれないけど…」
スフェーンは次々と神になった人々の例を出していくと、サダミが言う。
「あとあれじゃ無い?ローベルト・コッホ」
「ああ、北里神社もそうね。ローベルト・コッホと共に北里柴三郎も祀られた神様の一人ね」
そこれ次々と神様になった人の名が出てくる。
「あとは漫画の神様と言われた手塚治虫、特撮の神様の円谷英二、バスケの神様のマイケル・ジョーダンとか。〇〇の神様なんてよく言われている人も神様よね」
「なるほど…」
何もある分野に特化し、歴史に深く名を残した偉人たち。そう言った人々も神の一つとして大衆から『神様』と呼ばれている。
「こんな感じで、神様と呼ばれた人たちは意外と多くいるわね」
スフェーンは説明をおけると、そこでアンナに言う。
「と言うわけで、結構『神様』になる方法はある。例えば、神話レベルまで伝説的なナニカを残したりする。そうするとSNS上で『〇〇の神様』なんて周りの人間が勝手に言い出すから」
「…」
スフェーンの結論にアンナは目を見開く。少なくとも彼女は想像だにしていなかった方法だった。
「神は…作れると?」
「インターネットが普及している今の時代ならね。まあ聖書と違って背景がうっすい神様になっちゃうから、アンナちゃんの言う神様とは違うだろうけど」
「すぐに広まる分、すぐに忘れ去られやすい…ネットミームと同じか」
サダミが言うとスフェーンは笑ってしまった。
「神様になりないなら今の所、何かの宗教の教祖以外になる方法はないわよね。イングランド国教会みたいに」
「それはちょっと違うような気が…?」
「でも教祖になったら神話も何もかも作り放題よ?」
スフェーンは言うと、アンナは彼女の言った『神様になる方法』に目を輝かせていた。
「神には…なれる方法があるのですね」
「時と場合、状況によるけど。神様は作ることができるわね」
「おぉ…!!」
アンナは話を聞いて期待するように食い入って話を聞く。
「ただし、これには相当な努力と運が必要になってくる」
「なるほど…」
「例えば権力者。そうね…国王とかになったら、建国神話を作れて、そしたら神様になれるわね」
彼女の話は、アンナにとって道が開けたような、快感すら覚えるような、解放されたような、謎が解けたような、そんなものを感じさせた。
革命的な話を聞いたように彼女はスフェーンの話を記憶に刻み込んだ。
「ああ、これはあくまでも夢物語見たいな話だから。間に受けちゃダメよ?」
「ええ、もちろんですわ」
アンナは頷くが、見ていたスフェーンは思った『不味いかも』と。そしてサダミを見ると彼女は『やってんねぇ』と苦笑していた。
『スフェーン…』
これにはルシエルも呆れてしまうと、次にアンナを見る。
彼女は明らかに何かに目覚めたような眼差しを向けており、彼女は持っていたアライェスを落としかける。
「ちょいちょい。落とすよ」
「あっ」
指摘をされ、アンナは自分が食事中だったことを思い出すと慌ててアライェスを食べる。
「溢さないのよ」
「あ、はい」
そこで丁寧に夕食を食べ終えると、そこでアンナは今着ている服がスフェーン達が街中で着せ替えた物だと言うのを思い出し、そこで同時に今日起こった出来事を振り返る。
「…」
そして同時に、自分がいたあの場所には帰れないのだろうかと思ってしまう。
「…私は、巫女なのに」
「(巫女?)」
その呟きがサダミの耳にはしっかりと聞き取られ、スフェーンも同様であった。彼女は半分トランス状態のようになっており、今は周りが見えていない。彼女の口は比較的軽いであろうことは今までの言動で想像が付くので、そこでサダミが聞く。
「巫女って?」
「…私は、昔からお父様から巫女として教育を受けたのです」
「あの燃えている祭壇の?」
「…そうですわ」
アンナは小さく頷き、話すにつれてだんだんと表情が暗くなっていく。
「私はただ巫女として祈りを捧げるのが仕事。ですが…」
「お父様が…同じ孤児院で育った子に剣を突き立て、それで…」
そこで彼女は手が僅かに震えた。
「…大丈夫」
「っ!」
その時、スフェーンの白く細い手がアンナの手を包む。その手は人並みに温かく、柔らかかった。アンナは顔を上げると、眼前にスフェーンの顔があった。
「大丈夫。大丈夫だから…」
そこで彼女を包むように腕を回すと、そのままアンナの体を丁寧に引き寄せる。
「…」
その時、アンナは逃げ出す直前のあの景色を思い出し、途端に体が震えて、同時に涙が溢れてしまった。
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