TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#382

「っ!?」

 

血塗られた鍾乳洞にて、スフェーンはとある宗教団体にご挨拶に来ていた。

 

「あっぶな」

 

スフェーンは目の前のサイボーグを前に刺突を避けていく。

 

「よっと」

「っ!?」

 

その瞬間、スフェーンはムートンジャケットのポケットに入れてあったサングラスのガラス片を投げつける。

 

「あああぁぁああぁあああっ!?」

 

そして投げつけられたガラス片が目に突き刺さると、幻覚痛でサイボーグは目を覆う。

アンナとの出会いから始まったこの不思議な縁によって、スフェーン達は血溜まりの祭壇で大立ち回りをする。

 

「…」

 

光学迷彩が壊れかけ、疎な光学迷彩を起動させる目の前のサイボーグ。

 

「今はどうだか知らないが、かつて君は優秀な研究者。ペンドール・ハンデとしてサイボーグとエーテルの融合。そして不老不死の研究を行っていた」

「…黙れ」

 

その顔は表面の擬似皮膚が剥がれて、その下の人工筋肉も所々断裂していた。

 

「エーテル学会員として、君は人間の140年の壁を超える手段として、学会から全面的な支援を受けた」

「黙れと言っている!」

 

スフェーンは敢えて相手の神経を逆撫でする。

 

「そして君は140年の壁を越える方法を編み出した。完全に体を機械化した状態でもね。…うおっと」

 

その瞬間、目の前にサイボーグの踵が振り下ろされて地面にヒビが入った。

 

「しかしその一ヶ月前、協会の方でも140年の壁を越える方法が見つかった」

 

そこでサダミが生き残って死に体となっていた信者の頭に、先程食べていたケバブの串を刺す。そして脳幹まで突き刺した後、確実に仕留めると遺体を放り投げていく。

 

「不老者の技術は瞬く間に世界に広がり、君は二番手となった」

「黙れ黙れ黙れ!」

 

彼は壊れたレコードのごとく同じ言葉を何度も繰り返して指先の高周波ブレードを振る。

 

「貴様に何が分かる!?」

 

余所者が土足で踏み込んできたような感覚にペンドールは表情を歪ませる。

 

「いやぁ、ジョンとは長い付き合いでね。エーテル学会と今の異能協会…昔のエーテル協会のイザコザとかも色々と聞いているんだ」

 

スフェーンはその訳を話すと、ペンドールは目を見開いた。

 

「初期型!?なぜ生きている!」

「初期型じゃないっての!…まあこっちとしては、吸収されなかった学会員がまだいたことの方が驚きだよ」

 

かつて、マックス・ブレトーを筆頭に長年存在していた『エーテル学会』とネクィラム・キヨシ・オカダをトップとした『エーテル協会』が真っ向から対立したことがあった。二つの研究機関はそれぞれ異能に関する論文を提出しており、後に抗争となった。

 

元々、エーテル協会というのは学会を事実上の追放になったネクィラムが、軍警察のエーテル関連研究機関が集まってできた組織だ。設立当初からエーテル学会を意識して組織されており、優秀な研究者を囲い込んでいた。

 

「まあ、そこでエーテル協会は『不老者』を、エーテル学会は『不死者』を全面的に推すようになった」

 

そして今から昔、まだ戦禍時代の最中に起こった闘争を思い出させる。

 

「で、君たちの学会は負けた。認知の面で不死者は不老者に負け、多くの人間がPTSDに罹った」

「…」

 

その二人の対決を邪魔しないようにガヤのサダミは独り言の体で血塗れの自分の盾を回収する。

 

「不老者は体の血液がエーテルに置換される影響で、空間エーテル濃度がゼロでも手から異能を放てる。対する不死者は、それができない代わりに死ぬ事のない人を作り上げた」

 

他に生き残りがいないかを探し、他の信者達を探す。

 

「やっぱり、みんなサイボーグだ」

「まあでしょうね。不老者なんて、コイツの敵だし」

 

彼女達が話す間、ペンドールは足の修復を行う。修復箇所から蒸気が上がり、今まで断裂していた人工筋肉や骨格。神経系や破裂した内臓などが回復していく。

 

「…」

 

ペンドールは首元にエーテルの詰まった注射をすると、瞬く間に体は蒸気を上げて修復されていく。

 

「流石に、初期の量産性を考慮しない不死者は初めて見たわね」

 

今まで出会ってきた不死者よりも段違いに修復速度の速い肉体に思わず興味深く見入ってしまう。

 

「話はそれだけか?」

 

そして顔も傷口が消えたペンドールが問う。

 

「そうね…まだ言いたいことはあるわ」

 

スフェーンはペンドールに話を続ける。彼女は先ほど購入をしたばかりの軍用ゴーグルを被っており、目元は覆い隠されていた。

彼女の視界には回復を行ったペンドールの体温と姿勢、先ほどの受け身で得た相手方の瞬発力と機動力を計算していた。

少なくとも不死者がサイボーグと言う話は今までの記憶や資料の中に存在していなかった。基本的に彼らは生身の人間を使用しており、不死者はエーテルを使うことで体の修復を行える。

多分、ジョンの若返りと同じく開発者しか知り得ない方法があるのだろう。

 

『スフェーン、向こうは多分…』

「(分かってるって。人質にはさせないよ、多分)」

 

スフェーンはルシエルに短く答えると、そこで修復を終えて裸体状態のペンドールを見る。

 

「男の裸体を見てもねぇ…あいや、正確には元…か」

 

彼女は体の修復を終えて、いつでも攻撃を仕掛けてくるであろう状態に色々と思うところがあった。

 

「だからって不老者と反政府系住民の虐殺は時代錯誤も甚だしいの」

 

スフェーンは拳銃(TRR8)を取り出して発砲。拳銃弾はサイボーグの左肩を貫通した。

当然、この動きを前にペンドールは反応できていた。

 

「っ!」

 

しかし体がそれよりも先にサダミの放った拳銃弾を捉えており、連射された拳銃弾と一発のマグナム弾。双方のダメージを計算して後者を受ける選択をする。

 

「グッ…!」

 

撃たれた傷口から循環液が流れ出る。サイボーグの血液とも言えるそれは今もこの祭壇に流れ続けていた。

 

「一人を殺せば殺人者だが、百万人を殺せば英雄だ。 殺人は数によって神聖化させられる」

 

彼女は古語を引用し、足元の確認をする。

 

「では極悪犯罪者を殺した場合は?それもまた英雄に数えられると思わないかい?」

 

そこで彼女は準備を終えたように前を見る。

 

「さて、行きましょうかね」

 

スフェーンはそこで吐いていた血と循環液だらけのスニーカーとスニーカーを脱ぐと、素足で溜まった血と循環液の池に足を付ける。

 

「ふぅ…」

 

そして一旦目を閉じると、頭上の鹿角から無数の林檎の花が咲き始め、白い花弁が一斉に咲き誇る。

 

「ふんっ、流石に今日は大量だなぁ!」

 

彼女は途端に笑みを見せると、その鹿角から木の葉も生えてくる。

 

「っ!」

 

その瞬間、足元の体液が波打ってサイボーグが警告を促すほどの急激な空間エーテル濃度の上昇。

ペンドールは相手が不老者であり、その特性を誰よりも知っている彼だからこそスフェーンの異常性にすぐに察知する。

駆け抜けるために足を生み出した時、

 

「?!」

 

ズルリと、足を泥に引っ掛けたように前方に転けてしまう。しかし違和感をすぐに感じた。

 

「…浮いた!?」

 

そこでペンドールは慌てて手を地面につけると、自分の体が水中で泳いでいるような感覚になった。

 

「面白い」

「ちっ…不老者め…」

 

そこでスフェーンを睨みつけると、彼女は笑って返す。

彼女の頭上の鹿角の林檎の花は満開を迎えており、木の葉も生い茂ってあらゆる場所からエーテルを放出した。

 

「悪いね。遊ばせてもらうよ」

 

そして彼女は着ていたムートンジャケットを脱いで近くにいたルシエルに投げる。

 

「頼んだ」

「は、はいっ!」

 

慌てて飛び出してムートンジャケットをルシエルは受け取ると、それを見ていたサダミは苦笑する。

 

「あーあー…」

 

彼女の趣味の時間になると確信し、積み上げた遺体の山の上に立つ。

その側には倒れた少女もおり、最初の無反動砲の斉射で爆風に吹き飛ばされていた。

 

「ま、しばらくは眺めますかね…」

 

そして彼女が積み上げた遺体で出入り口を覆ったことで、実質的にこの空間は二人だけの空間となっていた。

 

「処理、どうしますか?」

 

するとスフェーンのジャケットを受け取ったルシエルが聞いてきたので、サダミは首を傾げる。

 

「取り敢えず、運よく子供は殺さなかったけど…」

 

すると直後に彼女は熱源を感じ取り、咄嗟にルシエルを掴んで屈む。

 

ッーーー!!

 

するとその直後に遺体の壁に大穴が空き、蒸発をした際の水蒸気爆発で多数の肉片と血痕が二人に被る。

 

「あっぶな」

 

咄嗟に盾で防護をしたが、一部の肉片が二人に漂う。ペンドールの放った高出力レーザーが山を撃ち抜いたのだ。

 

「あっ」

 

その時、二人の目の前にか弱いほど細い腕がべちゃりと音を立てて落ちてきた。少なくともこの空間において子供は二人しかいなかった。ましてや一人は祭壇の上に今でも横になっていた。

 

「や、やっちゃった…」

 

ルシエルは顔に手を当てて思わずしくじった表情をすると、それを冷静に見ていたサダミは言う。

 

「向こうが勝手に片付けてくれそうね」

 

すると直後にレーザーを放ったペンドールにスフェーンは空気中に放出をしたエーテルを固定させ、ペンドールを宙に浮かせた状態で止めると顔面に蹴りを入れた。

 

「がはっ」

 

顔面を素足で蹴り飛ばされたと言うのに顔面の骨格まで綺麗に折れたことにペンドールは疑問になる。

 

「…丁度いい」

 

彼女はそこで両腕を大きく広げる。

 

「子育て経験のある親として、お前に教育してやるよ」

「っ…!?」

 

するとスフェーンの腕にスッと影が入ると、二本の腕はそれぞれ分割される。

 

「何だ!?それは…聞いたことがないぞ!?」

「でしょうね」

 

そして六本に分かれた腕は彼女の意のままに稼働し、その内の四本がペンドールの四肢を掴む。

 

「おい、よく聞け。子殺しの差別主義者」

 

そのままグイッとペンドールの顔を近づけて彼女は言う。ペンドールは自分の周りの濃いエーテルによって体を一切動かせなかった。

不意打ちの一発も避けられ、顔を蹴られたことで不足気味の循環液がまた漏れる。

 

グシュ「っ!」

 

そして不意打ちを行った高出力レーザーや電磁加速銃と言った四肢を握り潰す。

一本ずつ、ゆっくりと破壊していくのでペンドールはなぶり殺しの如く体を破壊される。

 

「なぜ不死者が不人気だったか、ガヤだった奴が教えてやろう」

 

そして四肢を握り潰し、そのまま引き千切る。

 

「がはっ!」

 

ブチブチと、明らかに人からしないような音が聞こえると、四本の腕はペンドールの四肢をもぎ取った。その返り血を顔に浴びると、彼女は付けていたゴーグルを外す。

 

「っ…」

 

そして現れた灰と螺鈿の瞳は、ペンドールを萎縮させるのに十分な鋭さがあった。




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