世界は二度焼かれた。
一度目は大災害。
理由はトラオム独立後の企業間内紛による長い戦争、旧暦の頃に起こった遠い昔の戦争だ。
異常なまでに活性化したエーテルが吹き出し、津波となって地上の全てを押し流した。
今日までトラオムを覆ったエーテルの空、それを作った元凶である。
二度目は戦禍時代末期。
理由は当時、世界最大のエーテル産出地であった富野諸島。その一つ、イデオン島にてエーテル貯蔵庫への攻撃に端を発したエーテルの異常活性化による爆発事故。島の山が吹き飛び、巨大なエーテルの噴水が空高く噴き上がった。
世界は再び、エーテルの空に覆い尽くされる原因となり、また戦禍時代の終わりの兆しとなった。
戦禍時代。
それは復興を遂げた世界が再度荒廃した戦争に明け暮れた時代である。
世暦に改暦が行われて少しした頃、集団虐殺事件であるポーリン事件を境に始まったパシリコ解体戦争。
当時、世界第一位の経済大国であったパシリコ共和国。その国家は政教一致を原則に掲げる緑林教が実質的に支配しており、その中の排他的思想を持った思想集団による不老者、異能者への差別。ポーリン事件によって明るみとなった虐殺を経て軍警察を主導にパシリコ指導者、および緑林教の活動監視を行うための軍事介入が行われた。
そして軍事介入から一年半後、パシリコ共和国は全土が占領され、その後アリアドール合州国やサブラニエ連邦共和国を筆頭に領土分割が行われた。
しかし戦争末期、パシリコ共和国から世界中にE兵器の情報が公開され、E兵器は軍警察の専売特許ではなくなった。
各国がE兵器を製造し、それを使った戦争を始めた。それが戦禍時代である。
一〇〇年以上続いたこの騒乱の時代は島一つが吹き飛び、空にエーテルが再び噴き上がった頃で収束を迎えた。
「当時は凄まじい地震が世界中を襲っていましたからね」
「いやぁ、流石にビビったよね」
ルシエルに頷くと、スフェーンは機関車の圧力計を確認する。
「ん、よし」
そして手元のハンドルを操作し、速度を徐々に落としていく。
「今日の荷物、結構重いから」
「わかっていますよ」
そこで運転席に備え付けたタブレットの監視カメラを確認する。
分割された画面にはそれぞれ全方位に取り付けられた監視カメラであり、周囲の状況を一枚の画面で確認できた。
「荷物は30mm銃身と155mm砲身」
「その他自走砲と修理パーツでしょ」
現在運んでいる品物は、この国の傭兵団に納入する某軍需企業が輸出用に販売している自走砲と、PMCのオートマトンに納入する自動小銃の部品であった。
今でも、世界中に延びた鉄道網は都市間交通の基本であった。一度に大量の物資輸送が可能な貨物列車は多くの物資輸送を担い、客車を連結することで旅客事業も行っていた。
「で、帰りは別なんでしょ?」
「ええ、役員輸送ですが…」
「なるほどね…」
そこで次の仕事を聞いてすこっしょっぱい顔をする。
運び屋という仕事において、最も嫌う仕事と言われれば重要人物の輸送である。基本的の旅客列車は一般的な貨物列車と違い、乗り心地を必要とされるので走り出しに慎重な操作が必要となる。貨物列車は基本的に旅客列車よりも重いため、最初の走り出しの際に最大出力まで上げる必要がある。しかし旅客列車は軽いので、いつも貨物列車ばかり運んでいると少々運転が粗雑になってしまうのである。
「でも評判ですよ?運転の腕前」
「やだね。面倒臭いったりゃありゃしない」
そこで加減速を調整して制限速度まで速度を落としていく。
貨物列車は長い編成を組み、操車場まで進入を行う。
「…」
「五メートル…三、二、一」
「ブレーキ」
そして指定された停止位置で列車を停車させると、すぐに待機していたガントリークレーンがコンテナを回収していく。
「オーラーイ」
そして依頼主が修理を終えた自走砲を回収しに訪れており、装輪式自走砲は地面に順次下ろされていく。
「依頼完了の報告が来ました。次の仕事は一週間後です」
「じゃあ、それまで観光でもしますか」
到着した都市は
「一週間後の出発ね…」
そこでリレー方式で別の機関車が待機している頭端部を確認する。
『連結解除をします』
「了解」
そして解結を担当するルシエルが言うと、付けていたゴーグルに映像が映される。
別にゴーグルがあるからタブレットはいらないのではと常々ルシエルから言われているが、色々と便利なものは便利なのである。なので列車はタブレット二台稼働で対応していた。
「解結確認、前方良し」
そこでマスコンを操作して解結を確認して少し前進をすると、静かに金属が外れて機関車は僅かに前進して停車し、安全確認を行う。
「前方、信号良し。安全良し」
頭端部に機関車がいないことを確認し、安全のために警笛を短く鳴らしてから機関車はゆっくりと前進する。
そして分岐点を機関車と合造車が通過すると、信号が切り替わって分岐点が切り替わる。
「後進切替。安全良し」
そして運転席の切り替えスイッチを操作して後進モードにする。
『後方、信号青。出発良し』
「了解。ブレーキ解除」
そこでブレーキを解除し、マスコンを操作するとゆっくりと
多くの機関車が操車場では出入りをしており、転車台の前では方向転換を行う機関車が列を作っていた。
「あーあー、混んでるね」
『特にこの時期はそうでしょう』
「どうして?」
すると視界にルシエルが一つのホームページを写した。
「あぁ、祭日ってことね」
そこには煌びやかな祭りの山車や花吹雪の舞う写真が映され、街の中心部で祭りが行われることを伝えていた。
『ええ、ですので貨物の輸送量が増えているわけです』
「どうせ臨時列車も運行されているでしょうしね」
『つまりはそう言うことです』
ルシエルは言うと、その意味を彼女は誤解しなかった。
「つまり、街に出るととんでも無いことになってるってことか…」
『出店などが立ち並んでいると思いますよ』
ややゲンナリするスフェーンと祭りに浮き足立つルシエルが良い対比となっていた。
その後、列車の方向転換を終えて留置線に機関車を停車させた二人は街に出る。
「んで」
「すごい人ですね」
ちょうど今は春の祭りであり、街には多くの住民が大通りを歩いていた。
「これ一つ」
「オッケ〜」
そこである店で注文を入れると、紙皿に米と煮込まれた輪切り
「叉焼飯ね」
「ここのは比較的甘い味付けのようで…脂身も多いですね」
二人は路肩に座りながら食事を摂る。足元には他にも購入をした容器が置かれ、かなりの量があった。
「これは?」
「
「見て、脂でテッカテカ」
そして一口噛むと、混ぜ込まれたネギの食感と程よいラードの香り。思わず二口目が進んでしまう。
もはや揚げられてしまった端のネギはパリッと程よい香ばしさを感じた。
「他には?」
「これがえっと…」
そしてペロリと行ってから新しい容器を取り出す。
「
「ロバって…また珍妙なものを」
「タケネズミじゃ無いからまだデェ丈夫だ」
その瞬間にサダミのくしゃみが聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
彼女は今頃、カフェでいつも通りの仕事中だ。あとでお土産を買って帰ると約束をしているので、何かいいものはないかと見繕っていた。
「ロバと言えば家畜でよく見るからね…どんな味か」
「馬肉と同様の味なのでは?」
ルシエルはそんな予測をしながらスフェーンと同様に一口。
「ふむ…ほぼ馬肉ですね」
「香辛料が効いてて食い易く作られてる」
他にも細切りキャベツと玉ねぎが混ぜられ、臭みの少ない
「下手な肉まんより脂っこくなくて食べやすいわね」
「…またメニュー入りですか?」
「アリかな…店先で売ってみると言う手もあるし」
「やれやれ…またサダミがキレますよ」
そんな話をしながら次に入ったのは蟹店だった。
「この時期、上海蟹が旬の時期です」
「なるほどね」
そして店内で上海蟹の姿蒸しを注文する。
「量はいかがなさいますか?」
「特盛で」
スフェーンが即答すると、一瞬店員や聞いていた周りにいる人の手が止まった。
「…かしこまりました」
しかし店員もプロであるため驚愕を表に出さずに注文を受けると、その後にルシエルが豆知識を披露する。
「『西風響、蟹脚痒』、西風が吹くと蟹の足がムズムズする。古来において冬の到来と蟹の旬を意味する諺だそうで」
「へぇ〜」
1へぇ反応し、スフェーンもならと言わんばかりにトリビアを披露する。
「んなこと言ったら、上海蟹のshanghaiは他動詞で使えるんやで?」
「また古語ネタですか…」
ルシエルはやや呆れ気味に阿里山茶を飲んで話を聞く。
「ちなみに意味は『麻薬を使って(酔いつぶして)船に無理やり連れ込む』『拉致する』『騙して(無理やり)嫌なことをさせる』『…をパチンコで撃つ』」
「ろ、ろくな意味が無い…」
そしてその英単語の意味を聞き、表情を引き攣らせる。ちなみに本当に辞書にこう書いてある。
「これは一種のスラングに近いらしいけど、その昔船員が不足していた時代に酒に薬を混ぜて無理やり働かせていたからだって」
「…つまり、言葉の意味になるくらいやりまくってたってことですね」
「多くの船の目的地が上海だったからって言う説もあるらしいよ」
「あるいはその逆か…」
そんな事を話していると、二人の間に赤く染まった多数の蟹が出てくる。
「お待たせしました。酒蒸しと姿蒸しセット、特盛です」
そして上海蟹の蒸し焼きセットが提供されると、蒸籠に用意された
軽く数十皿はあり、もはや十人ほどの人を必要としそうな聳り立つ丘のような量に他の見ていた客は絶句していた。
「なるほど。蟹味噌と合わせてくれと言うことか」
「んっ硬い…」
腹を割り、甲羅を取ってからパキッと音を立てて半分に割ると、中から箸でカニ身、味噌、卵、白子と言った内容物を掻き出して食べる。
「あちっ」
そして蒸し立ての蒸しパンを手に取って千切る。
「ンフ〜」
「身が詰まっていて甘いですね〜」
二人は満足げにその上海蟹を黙々と食べていく。この店は量が多いことで話題だからこそ入って注文をした。
「卵がプチッとなるねぇ」
「雌蟹どうぞ」
「はいはい」
そして二人はモリモリと蟹を消費していく。
「ん〜、満足」
「酒蒸しが臭みも消えてよかったですね」
そして殻だけになった大皿を前に満足げに二人は席を立つ。
「「ご馳走様でした〜」」
二人はそう言って店を後にすると、空になった大皿と、それを食してもまだ余裕のありそうだった姉妹に常連客もやや恐れ慄いた目をしていた。
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