この上港は世界の防犯都市において毎年世界一を誇る治安を維持している。また世界有数の貿易港と内包し、そこで莫大な利益を上げていた。
上港を支配している東衛臣民国は現在、
そして国家の経済発展の名のもと、国家主導でインフラ整備が行われた。その際、国際鉄道連盟に対し『鉄道路線の引き渡し』を要求した。
しかし国連傘下の組織である国際鉄道連盟は『国際鉄道管理条約』の条文に基づきこれを拒否、同時に国連はこれを理由に東衛臣民国の国連への加入拒否も行った。
世界中に敷設された路線は、ほぼ全てがこの国際鉄道連盟の管理下に置かれている。
基本的に国家が独自に路線を持つことは、それ即ち『敵対的行動を画策している意図がある』とみなされ、経済制裁の対象となる行為である。空路や陸路による輸送も各国が打ち上げた人工衛星によって監視される今、独自路線を地下に持つことは国際社会への挑発でもあった。
国際鉄道連盟は複々線専用貨物列車の運行も行っており、独立したばかりの東衛臣民国はこれの独自建造と並行して国内の整備を行おうとしていた。
この一連のクーデターと独立宣言に対し、国連は東衛臣民国に独立の承認と国連加盟の代わりに鉄道路線の引き渡しの棄却を要請。東衛臣民国は複々線専用列車の建造が認可されたことでこれを受諾、正式に国際社会に認められた国家となった。
現在、この国は『革新政策』による大規模なインフラ整備によってこの数十年、類を見ないほどの発展を見せていた。所謂、開発独裁の形態を取っていた。
「ふーん…」
合造車の車内、そこでスフェーンは着替えていた。
「どう?新しいスーツ」
「…フルオーダーですからね。まあよくお似合いかと」
その姿を見た顔パックをしたルシエルは端的に彼女のセンスを褒める。彼女の着ているものは、昔に着ていた吊るしのスーツでは無く、フルオーダーで注文をした一品だった。
ブラウンのコーデュロイ生地のジャケット、同色のベストに、わずかにストライプの入った薄い灰色のシャツカラーは長め。パンツはライトグレー、ネクタイはピンクと紺のストライプ、右上がりの英国式である。
「ラペルが短いから古臭く見えますね」
「元々シャツは下着だった歴史よ?下着は隠すものでしょう?」
「古いですよ。大体、ラペル大きいのも用意しているのに」
そして最後にキャスケットを被ると、角用に開けられた穴に引っ掛けて帽子を固定する、これは獣人用である。
「しかし元が灰色の髪色ですから、ブラウンとは相性がいいですね」
着替えたスフェーンの色合いに違和感を感じないその配色にルシエルは思った。
「どう?男っぽく見えるかい?」
彼女の場合、ウルフカットな上に胸元をサラシで押さえつけてあるので少し声を低くすれば男性のように見えた。
「身長は平均より低いですが、その角がある分大きく見えますよ」
現在、彼女の身長は一六〇半ば。俗に学生スタイルと呼称している身長だった。
「全く呆れたものですよ。身長に合わせてサイズも変わるんですから」
「十センチよ?」
「だからって、一四〇半ばの私と今の一六〇半ばの貴女では服のサイズは変えなければなりませんよ」
ルシエルは隣の化粧台の前でクリームをペタペタ塗って整えながら答える。
「でも流用できるでしょう?」
「大人スタイルは無理ですよ。あれ一七〇半ばなんですから」
故にムートンジャケットにジーンズと黒セーターのセット以外でその身長に対応した服を持っていなかった。
「しかし…」
すると着替え終えた彼女は隣でケアをしていたルシエルを見る。
「こんなにクリームいるかね?」
そこで彼女は外用や香りで五種類のクリームを持つ彼女に疑問を持った。すると言われたルシエルは少し表情をムッとさせる。
「私は粗雑な貴女と違って肌のケアが必要なんです」
「そりゃあね、私ケアしなくてもこれですから」
「…今、世の大半の女性を敵に回しましたね」
しれっと爆弾を投げたスフェーンにジト目を向けると、彼女は下着姿のまま白いフリルの付いた臙脂色のスカートを履き、上には花柄の白いフリルブラウスを羽織る。
「どうです?袴をイメージしてみたのですが?」
「おぉ〜、良いんじゃない?」
そこでスフェーンはその服装に満足そうに頷くと、最後に帽子を選ぶ。
「この場合ですと、カンカン帽が宜しいでしょうか?」
そこで衣装棚に用意されている帽子を選んで被ってみる。フェルト製のブラウンのその帽子は、造花と網飾りが付けられていた。
「比較的この地域は暖かいので、日傘の方が必要ですね」
「完全に構図がお嬢様に付き従う労働者みたいになってるんだけど…」
やや表情を引きつらせながらスフェーン達は準備を終えると、列車を降りる。
「とても機関車から降りてくる格好ではありませんね」
「どっちかというと旅客便だよ」
ルシエルはトレンチコートを羽織っており、運輸ギルドを歩く。
運輸ギルドもは今や国連傘下の国際組織であり、中では多くの人々が出入りを繰り返している。
「乗るものは?」
「こちらに、お嬢様?」
態とらしくスフェーンは言うと、そこで駅前には
人力車自体は地元でも馬の獣人がよく走っていたりする乗り物だが、ここのは基本的に市内の移動手段のメインだった。
「近くに良い食器屋は無いかい?」
「食器屋?お客さん珍しいね」
車夫の馬の獣人はスフェーンの注文に珍しがりつつも、その注文に応えなければ客は去って行ってしまうので考える。
「大通りの食器屋じゃダメなのかい?」
「いや〜、茶器でいい店がないかなってね」
「なるほど、お客さん物好きだね」
そこで車夫は思い当たる食器屋の場所を提案する。
「ちょっと治安が悪いが、詳しい人がいる」
「わかった。連れてってくれ」
「はいよ」
そこで車夫は前金の硬貨を受け取ると二人を乗せて幌を立てて運輸ギルドのロータリーを離れる。
馬の獣人が引いているので時速二〇キロほどで走っており、人よりも圧倒的に早かった。
「しかし、随分景気が良さそうだね」
その道中、スフェーンが街並みを見ながら聞くと車夫は言う。
「都市部はインフラ整備で活気に満ちている。都会はどんどん発展して行っているよ」
「なるほど…この祭りもそう言うわけかい?」
「そうさ。田舎からよーけ人も出てる。俺もそうさ」
そこで信号待ちをして停車をすると、今日も今日とて上港の観光で街に繰り出していた。
「お客さん、観光客?」
「ああ」
「いつから?」
「昨日からだ」
スフェーンは少し男っぽく、低めに答えると車夫はすっかり彼女を男性と認識して話す。
「なるほど。祭りが目当てかい?」
「そんなところだ」
すると信号が変わって人力車は走り出すと、喫茶店の中に用意されたゲームを見る。
「(あれは…)」
そのゲームは昨日やったあのシューティングゲームだ。すると車夫はその機体を見たルシエルを見て反応する。
「あれかい?お嬢さん」
「え?あぁ…ええ、並んでいましたもので」
ルシエルは言うと、車夫はその機体を見た後に少々苦笑させる。
「最近はみんなあれに夢中だ。猫も杓子も、皆〜んな齧り付くようにやってる」
そこで至る所に設置されたゲーム機体を見る。
「よく広告も出ていた鳴物入りのゲームだ。俺の故郷の駅にも置かれるくらいだ」
「流行っているんですね」
「ああ、そりゃあもう大流行よ」
すると人力車は交差点を左折して少し裏通りに入る道を進んでいく。
「噂じゃあ国が開発に関わっているっちゅう話だ。まあこんだけ色んなところで見たら、お上がお金出しているのかもわからんがな」
車夫はそう言うとそこで少し薄暗い裏通りに入る。裏通りは建物がひしめき合っており、少し汚くなってきている。
「ここは?」
「再開発前の区画だ」
「…」
一本裏に入っただけだと言うのに、街の雰囲気はどことなく暗くなっていた。
「おーい、陳さん」
「?」
すると車夫は道路脇で子供達と遊んでいた一人の老人に話しかける。
「アンタに聞きたい人がいるってさ」
そこで人力車からスフェーンが降りると、帽子をとって胸元に持ってくる。
「あぁ、観光客か」
その老人はいかにも、と言った具合で綺麗に長く伸びた白い髭が生えた老人であった。
「いい茶道具を探しているって言うから、陳さんなら知っているかと思ってね」
「そうかそうか…」
するとその長老とも言える容姿をしたその人物はスフェーンを見てすぐに察したように話す。
「なら、この二つ先にある『煎茶草子』と言う店に行くといい。あそこならいいものが置いてある」
「ありがとう。老師」
そこでスフェーンは謝礼で硬貨を渡すと、車夫に言ってその店に案内を頼む。
「頼んだ」
「はいよ」
そして人力車が消えると、座っていた老人はスフェーンから受け取った硬貨に触れる。
「やれやれ、気を遣うお人だったな」
彼はスフェーンが不老者であることを直感的に見抜いていた。
「二つ先と言っていましたね」
「でっかい区画です。街一個飛び越えるようなもんですよ」
車夫はそう言って裏通りで人が少ないからと少し飛ばして走る。
「少し揺れまっせ」
「おっと」
そこで手鏡を開いていたルシエルは揺れる人力車に思わず車体にしがみついてしまう。
「早い早い早い!」
「ヒェッ」
男だったならタマヒュンものな速度に少し顔を青くする。
「痛っ!」
すると何かの段差にひっかけたのだろう、反動でスフェーンは思い切り頭をぶつけ、同時に幌に角が突き刺さって穴を開けてしまった。
「あっ」
「いっけね」
ビリッと思いっきり頭が幌に突き刺さり、思わず車夫が呟いてしまった。
「お客さん、着きましたっせ」
そして道中でトラブルがありつつも人力車は無事に目的地の店に到着した。
「ありがとう。帰りも頼めるかい?」
「まかせろ。あぁ、ちょっとデカいの持ってこようか?」
「頼んだ」
スフェーンは車夫にそう言うと、ルシエルと共に店を見上げる。
裏通りにある店ということで何かと静かで小さな店の扉だった。看板も古く、スフェーン達は人力車を降りた後にその店のドアを静かに開けた。
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