TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#388

店の中は狭かった。街の長老に紹介を受けて入った店だが、狭い通路の側面の壁には大量の茶具が用意されていた。

 

「スンスン…少し香りますね」

「釉薬の香りね」

 

そこで店内に立ち込める釉薬や顔料の香りに話していると、

 

「誰だ?」

 

奥から男の声が聞こえてヌッと顔を出してきた。髭面が特徴的なその店主はスフェーン達を見てその身なりから推察をする。

 

「…あの、良い茶具を見繕っている者でして」

「仕入業者か?」

「あぁいえ、観光ですが…」

 

そこでスフェーンは座り込んで足元にあった茶杯を見る。

 

「しかし美しい青磁ですね。手に取っても?」

「…どうぞ」

 

店主からの許可をもらい、スフェーンは置かれていた一つの茶杯を手に取る。

 

「これほど透き通った青磁は珍しいですね。龍泉青磁ですか」

「…そうだ」

「どなたが作られた物なんでしょう?」

 

そこでスフェーンが吟味して聞いたので、店主はスフェーンの意図を見抜いた。

 

「何が欲しい?」

 

店主はスフェーンが何か欲しいものがあってここの来たのだと察した。

 

「実は玲瓏磁を探しておりまして」

「…なるほど」

 

その陶器の名を聞き、店主は一瞬視線をスフェーンに向ける。

 

「欲しいのか?」

「ええ、一式置いてありませんか?」

「…待ってろ」

 

すると店主はスフェーンの注文を聞いて店の奥に消えていった。

 

「玲瓏磁?」

「ああ、見覚えがある思うぞ」

 

聞いた事のない陶磁器の名を聞き、首を傾げたルシエルにスフェーンは言うと、少し音を立てて店主が戻ってきた。

 

「珍しい注文をする。この陶器を知っているのか?」

「ええ、昔にとある職人の作品を見て惚れ込んでしまって」

 

する丁寧に梱包された箱から一つの茶杯が包み紙から取り出された。

 

「あぁ…」

 

それを見てルシエルは疑問が氷解した。これは名前を調べなくてよかったと同時に思った。

 

「なるほど、蛍手の事ですか」

「そうとも呼ばれているね」

 

その陶器は口元を青くなる釉薬で塗られているが、それよりも目を引くのは穴の空いたように見える白磁であった。

 

「玲瓏磁、穴の開けた陶器に石英の成分を混ぜた釉薬を塗り込んで完成させる珍しい陶磁器。お茶を注ぐと穴の開けた部分に色が入り、美しい柄を作り出す」

「はぁ〜、綺麗ですね…」

 

そこでルシエルもその茶杯に刻まれた龍を模したのであろう、ガラス質の透明な部分は光を通すと貫通した。

 

「ん、ちゃんと本物だ」

「当たり前だ。うちは本物しか取り扱わねえよ」

 

そこで持っていたライトを当てて本物かどうかの確認をすると、店主が不満でに表情を顰めた。

 

「すごい、とても細かく掘られていますね」

 

龍を模したその茶杯を前にルシエルが思わず口にすると、スフェーンはそこで言う。

 

「で、作ったのがこの人だ」

「え?」

 

彼女に指摘され、ルシエルは驚いた顔で見上げ、店主も面食らったような驚いた顔をした。

 

「ついでにこの人は右利き」

「…なぜ分かった?」

 

店主が聞くと、スフェーンは答える。

 

「貴方の手の爪に薄く乾いた土がこびりついている。これで貴方は日常的に土に触れている、しかも水分を多く含んだ粘土質の土だと言うのが分かる。白っぽい色からおそらく磁器土だろう。

そして手が手先しか荒れていない。普通なら手全体が何かとこの時期は荒れやすいが、彼の場合は荒れている上に赤く腫れている。これは何かしら強い薬を日常的に手先に使っている人の手だ。

歩き方も、かなり腰に注意を払っている。おそらくヘルニアで、そうなる程長い時間座っている証拠にもなる。

あと手の日焼け跡、時計の跡がついている。これは陶芸家が窯の前で長時間火の番をしていたことによる日焼けと推測できる。

他にも手にあるペンだこ、これは長時間ペンか筆を握っている証拠だ。今時こんな長い時間ペンを握るのは受験生意外だと限られてくる。

おまけに親指と人差し指が長い、これは陶芸家が日常的にろくろを回して整形するための職業病だ」

 

次々と彼が陶芸家であることを証明していくと、最後に言う。

 

「そして、貴方がこの茶杯を持ってきた時にこれが本物であると確信していた。それはなぜか?答えは簡単」

「…俺が作ったから、か?」

 

店主は短く笑ってスフェーンに言う。

 

「そう、その時の貴方の言葉には少し強い言葉使いだった。これは自分の作品が怪しまれていることに対して不快感を覚えたからだ」

「すげぇな、シャーロック・ホームズ?いや、エルキュール・ポアロか?」

 

そこで彼は茶杯を前にすぐに陶芸家であると言い当てたスフェーンに舌を巻いた。

 

「で、買うのか?」

「他にありますか?」

「…ちょっと待ってろ」

 

すると店主はスフェーンが茶具に詳しい人間であると推察をすると、上に向かって叫ぶ。

 

「おい!ちょっと手伝え」

 

しかし返ってきたのは無音だった。

 

「チッ、出てこないか」

 

店主は軽く舌打ちをした後に階段を登っていく。

 

「従業員ですか?」

「いや?息子だ。ゲームばっかりやっている馬鹿息子だがな」

 

呆れたように彼は階段を登ると、そこでスフェーンを呼ぶ。

 

「おい、こっちにある。見に来てみろ」

「はーい」

 

そこで急な階段を登ると、そこにも積まれている他の陶磁器を見つめる。

 

「へぇ、陶器も扱っているんですか」

「ああ、工房には他にも勤めている奴がいる」

 

そこで置かれていた陶器を見て湯呑みを見る。この店は名前に茶の名を使っているからか、主に茶道具を取り扱っていた。

 

「工房直送品とは、信用できますね」

「おいおい、いくら詐欺商品が多いからって喧嘩売ってんのか?」

「そんなそんな」

 

スフェーンは軽く否定をして他にもやや乱雑に積み上げられた陶磁器を仕舞い込んだ箱を崩さないように通り抜ける。

 

「確かこれだ」

 

そして奥の方に置いてある箱を指差す。

 

「まずはどかさないとな」

「あっ、ナルホド〜」

 

そこでスフェーンは内心でしくったと思った。先ほど、取り出してきた時も珍しい注文をしたと言っており、それはつまり、玲瓏磁はそれほどこの店では売られていないという意味であったのだ。

 

「売れていないんですね」

「どうしたって知名度が低い。青磁、白磁の方がそりゃあ売れるさ」

 

店主はそう言って箱をスフェーンに渡してくる。

 

「すまん、廊下に置いて良いから避けてくれ」

「あはい」

 

そこで人が一人通り抜けられるのでやっとなこの激狭通路をバックして渡された陶磁器入の箱を置く。

 

「?」

 

すると箱を置いたときに手前の部屋の扉が僅かに空いており、そこから微かに人の香りを感じた。

 

「…」

 

スフェーンはそこでその不可思議な香りから荷物を置くと、

 

「あっ」

 

自然とドアが開いてしまい、中が全開となる。

 

「ぬおクッサ!?」

 

そして中から溢れる香りに思わず顔を顰めて声に出てしまう。なんと言うか、生活臭が凄まじかった。店の釉薬や新品の陶磁器の香りが吹き飛ぶような人間の香りである。

 

「っ!?」

 

するとそんなスフェーンの声に反応したのか、布が擦れる音が聞こえた。

 

「おい龍二!」

 

その時、全開になったドア目掛けて店主がズカズカと部屋の中に突入をしていった。

 

「な、なんだよ親父!?」

「客だ。手伝え馬鹿野郎!」

 

そして軽い悶着の後に首根っこを掴まれた状態で連れ出された一人の若者。眼鏡をつけたその人物は清潔そうではあり、毎日着替えて食事をしっかり摂った健康的な生活をしていることは伺えたが、いかんせん何かに怯えたようにスフェーンを見た。

 

「あ、どうも」

「ひゅいっ!?」

 

スフェーンを見たその若者は彼女の被っていた軍用ゴーグルにビビった声を出してしまった。

 

「何ビビってんだ!ほら、玲瓏磁を出すの手伝え」

「は、はい…!!」

 

そしてその少年は何かに脅迫されているように店主にケツを蹴り上げられてから店に並んだ陶磁器から玲瓏磁の入った箱を一発で探し出す。

 

「えっと、これとこれで…あっ」

 

玲瓏磁を探す中で少年は何か思い出したようにスフェーンにヘコヘコと頭を下げる。

 

「い、いらっしゃいませ…」

「遅いわ、阿呆んだラァ」

 

それを見て呆れて店主はため息を吐いた。

 

「ったく、いきなり怯えやがってよ」

 

一言文句を呟くと、店主は少年に言う。

 

「玲瓏磁を纏めたら、その客に見せてくれ。俺は下にいる」

「え?ま、待ってよ親父…」

 

それを聞き、少年は慌てて振り返ったが時すでに遅し。すでに店主は階段を降りていってしまった。

 

「…」

 

そして二階に取り残された少年はスフェーンを見ると、諦めて怯えを抑え込んだ口調で話しかけてくる。

 

「え、えっと…こ、これが玲瓏磁の、青磁鳳凰…です。あっ、中身は茶道具一式が入って…ます」

「なるほどね」

 

そこでスフェーンは聞く。

 

「中身って、見せてもらえる?」

「あっ、はい。どうぞ」

 

少年はそこで足元に箱を置くと、そこで中身を取り出す。

 

「ほう…」

 

中身はこれまた綺麗な青磁の玲瓏磁であり、形どられた鳳凰のガラス面は透き通っていた。

 

「綺麗だ。丁寧な造り込みがされている」

「そ、そうですか…」

 

少年はスフェーンの純粋な感想にどこか安堵したため息を吐くと、次に茶壺(チャフウ)茶海(チャーハイ)蓋椀(ガイワン)と言った他の茶器を見せてもらう。

 

「うーん、こりゃあ見事な茶器だ」

 

一つずつ確認し、そこで丁寧な出来栄えに購入を考え始める。

 

「えっと、ああそうだ。この茶杯(チャーペイ)の二個は予備で、割れた時用のものです」

「なるほどね」

 

そこで説明を聞き、そこでスフェーンは初手で当たりを引いたと確信した。

 

「ただ、衝撃に弱いので…」

「ええ、よく使っているから分かっているわよ」

 

スフェーンは言うと、少年は理解したように数回頷いた。

 

「慣れているんですね」

「ええ、カフェでよく使っているからね」

「そ、そうですか…」

 

そこで少年はスフェーンがカフェで日常的にこの茶具を使用していると推察すると、そこで少し考えて提案をする。

 

「でしたら…こう言った陶器は割れやすいですが、変えも効きやすいので…どうでしょう?」

 

少年は玲瓏磁とは別に近くにあった陶器製の茶道具を勧めてくる。塗装はないが、綺麗な円形をした赤茶色の陶器は繊細な一面もあった。

 

「良いセンスだ。これも買おう」

「あ、ありがとうございます」

 

スフェーンの即決に少年はやや驚いて反応した。




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