TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#391

『こちら監視班、対象が戻ってきました』

『誘拐されたわけじゃ無いのか?』

 

店の反対の廃ビルの一室で双眼鏡を使って二人の監視員が無線で伝える。

 

『分かりませんが、監視を続行します』

『変わったことは?』

『外見からはありません』

 

そしてどこにあるか分からない本部と交信を行い、店に帰っていく一人の少年を見る。

 

『よろしい。対象を連れ去った者の所在は?』

『まだ発見の報告はありません』

『聞き取りをしますか?』

『それは別で行う。監視班はそのまま待機せよ』

 

彼らは無線でやり取りを終えると、その後に電源を落とした。

 

『…無事に帰ったみたいですね』

 

それを上に照射された指向性スピーカーで聞いていたルシエルが言う。

 

「帰ってなかったら自分が面倒なことになるだけよ。よっぽどアホじゃなかったら言うこと聞くでしょう」

 

夜中の裏通り、ビルの屋上で着ていたトレンチコートの光学迷彩を使って姿を隠し、眼球の光学望遠を使って少年がそのまま帰っていったのを監視していたルシエル。スフェーン達は変な事をしないよねと後ろから見ていたのだ。

ルシエルはともかく、スフェーンの姿は労働者風にも見えるので廃ビルに背を預けて立っていてもあまり違和感がなかった。

 

『しかしこうも暗号の低い無線を使うとは…』

「まっ、独裁国家だから無理もないんじゃない?」

 

あるいは短距離通信であるがゆえにそれほど秘匿することもないだろうと言う向こう側の気の緩みもあるのかもしれないが…。

 

『だからと言って堂々と無線傍受とは…』

 

呆れたようにルシエルが言うと、スフェーンは反論する。

 

「別に無線の傍受はなんら違反じゃないもん」

『割り込むのはもっぱら犯罪のど真ん中ですけどね…」

 

するとビルの屋上から飛び降りてきたルシエル、彼女の瞳は空色に染まっていた。

 

「よっと、お疲れさん」

 

スフェーンは六階建ての屋上から飛び降りた彼女を姫様抱っこで抱えると、そっと地面に下ろした。

異能のおかげで音も立てずに着地をすると、光学迷彩を切って可憐な少女の姿が現れる。

 

「では戻りましょう」

「そうね、嫌な予感がプンプンする」

 

スフェーンは長年の経験から嫌なモノを感じ取ると、すぐに裏通りから去っていく。

 

「しかし、機体カバーを取っただけで警察が来るとは」

「多分、開けたら警報装置が鳴る物でもつけてたんでしょうね。ただそう言うのって、だいたい輸出用兵器のブラックボックスにしか付いてないイメージだけど…」

 

そして先ほどの少年から聞いた情報を参考に考えていく。

 

「そもそも普通、チート行為を起訴するならハッキング防止法違反で起訴するはずよ。それが執行猶予も無しに…」

「ええ、この国の判例としてもチート行為はハッキング行為として認められています。器物損壊罪で執行猶予なしに懲役刑となるのは、明らかに国法の定めた範疇を超えています」

 

表通りに出て、二人は監視カメラの所在を確認しながら歩く。

ここは完全な邪推だが、彼らはゲームでチートを使えるツールを開発して、それを裏で売って儲けるつもりだったに違いない。碌でもないと普通だったらいうが、こうも大事となるといささか違和感を覚える。

 

「(まあまだ下手に監視されていないからいいけど)」

「(しかし相手は国家警察です。これから接触するのは昼限定の方がいいと思いますよ)」

「(そりゃあね。流石に二人じゃ荷が重いよ)」

 

そこで海岸沿いを走るトロリーバスに乗り込むと、彼女達は運輸ギルドまで帰路に着く。

 

「(で、チートが使えないゲームなんてあり得ないわけなんだけど)」

「(どう言うことでしょうかね?)」

 

二人は早速、先ほどの少年が監視されていた理由を考える。

まず二人は、店に入る瞬間に自分達に向けられた疑惑の視線を感じ取っていた。多分、向こう的には何かしら情報を聞きに来た人間と思われたのかもしれない。

 

「(そもそも監視される理由が疑問よ)」

「(私たちを怪しんでくれと言っているような物ですよ。あれは)」

 

あの状況で少年がなぜ捕まらなかったのかは情報不足で疑問だが、そもそもの問題としてあのゲーム機体が原因である。

 

「(あの若造曰く、全部のロムとソースコードを使ってもチートができなかったらしいけど?)」

 

そしてトロリーバスを降りると、そこの屋台で販売されていた仙草ゼリー入りミルクティーに吸い寄せられて購入する。無論、ルシエルは一番大きいサイズを、スフェーンは普通サイズを注文して受け取る。

 

「まあ、ゲーム側の防御が彼らの予想を超えて頑丈と言うこともあります」

「めっちゃ確率低いけどな」

 

運輸ギルドの中に入り、そのまま通り抜けて留置線に向かう巡回バスの列に並ぶ。

 

「あの感じだと、多分中には入れた」

「ですが効かなかったと?」

「そゆこと」

 

スフェーンの口調からルシエルは察すると、大きな疑問が浮かんだ。

 

「普通じゃああり得ないでしょ?」

「ええ、内部に入れたと言うのならチートを行うソースコードは確実に作用できるはずです」

 

彼は先ほど、『コード自体はありふれたもの』と言っていた。それはつまり、中のシステムを見たと言うことになる。

 

「でも、チートは使えなかった。これって可笑しいと思わない?」

「ええ、内部に侵入できてチートが使えないのはいささか変ですね」

 

そこでスフェーンはバスを待っている間、運輸ギルドの施設の柱に掲示されているホログラムの広告を眺める。その広告は『まるでリアル!?本物の戦場にいるかのような高揚感を楽しめます!』と銘打たれた新しい、VRMMO型ゲームが発表されていた。

 

「リアルな…本物の、戦場…」

 

そして流れる迫力圧爆発などのデモプレイ映像を見てルシエルは何かがハマったような気がした。

 

「ん?何か分かった?」

 

彼女の変化にすぐにスフェーンが気がつくと、両手にミルクティーのコップを抱えてルシエルは広告を見る。

 

「…スフェーン、あの少年が監視されていた理由。ちょっと不味いかもしれませんね」

「ほぅ?」

 

その時、吸ってはいるものの深刻げな表情をしたルシエルにスフェーンも『本気な奴だ』と少し周りを警戒した。

 

「で、お嬢様のご意見は?」

「…」

 

その時、巡回バスのマイクロバスが到着をしたので二人はバスに乗り込んだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

スフェーンに諭され、家に帰った少年。

 

「ただいま〜」

 

家に帰ると、そこでは多数の積み上げられた茶器達を見る。

 

「…寝ているか」

 

多くの販売されている陶磁器は全て自分の持つ窯で焼き上げられた品々。自分の家の窯を使用する職人は多くおり、この店に卸すことを条件にろくろを回して制作を行なっている。

 

「…」

 

少年は返事がないのを聞き、店主は祝い酒の深酒で寝たと察すると静かに店に積み上げられた茶器の一つを手に取る。それはスフェーンに勧められた天目茶碗であった。少年はそれを静かに手に抱え、ライトを片手に茶碗に光りを当てる。

黒と黄褐色の竜の目を思わせるような鮮やかな色使いと無数の縦筋。俗に禾目天(のぎめてん)目茶碗(もくちゃわん)と呼ばれる茶碗である。

数多くある天目茶碗の一種であり、他に油滴天目茶碗や曜変天目茶碗、灰被(はいかつぎ)天目茶碗と言った、一部は国宝にも指定される素晴らしい逸品である。

作成者の少年はこの作品を『竜睛(りょうせい)』と名付けていた。

 

「…」

 

その茶碗を丁寧に両手で持った少年はしばらくその茶碗を愛でるように見続けた後、その茶碗をそっと箱の中に戻した。

 

「はぁ…」

 

そしてそのまま梱包をしてしまうと、その茶碗の箱を片付ける。すると脳裏に先ほど出会した客のことを思い出す。

 

「あの人、なんで男装をしているんだろう…」

 

少年はそこで、スフェーンの姿や声は男らしいが、体の作り方と歩き方が女性であると見抜いており、なぜ男っぽく見せているのかが疑問だった。

隣にいた少女も少女で、見た目通りとは思えない口調や雰囲気があった。

 

「…」

 

そこで彼の脳裏によぎったのは学校の授業で習った種族の話だった。

 

「…不老者」

 

少年は学校の授業の道徳と世界史の時間で習った人種を思い出す。

 

『不老者は獣人と同様、人為的に作り出された種族でありーーー』

 

それはある有名な研究者が作ったとかなんとか、それで歳を取らないとか言っていた。

今までも不老者で歳を取らない人がおり、歴史の教科書に載った人も多い。有名なところで言えばパトリシア立憲王国のアン1世や開発者のジョン・ルートヴィヒ・オッペンハイマーなんかがそうだ。後者なんて、一千年以上を生きている賢者でもある。

 

「もしかして…」

 

少年の脳裏にはそのことが思い浮かんだが咄嗟に首を横に振る。もし二人がそうであったとしても、今は全く関係のない話であった。

 

「あっ、そうだ」

 

少年はそこで思い出したように茶碗を片付けると、そこで階段を登る。

 

「…」

 

階段を上がると、そこでは居間の灯りが落とされており、父が深酒でそのまま寝入った様子はなかった。

ちょくちょく、酒を持ったまま寝てしまうことの多い父だが、今日はその心配がなくて安心していた。介抱する必要が無いと察し、念の為居間の明かりをつけていないことを確認してから部屋に戻る。

 

「ふぅ…」

 

そして自分の部屋に戻り、そこで少年は深夜に部屋の電気をつける。

昼間に女性に思い切り臭いと言われてしまった部屋にはパソコンの他に生活に必要な最低限の設備が残されていた。

 

「…」

 

少年は昼間にスフェーンが思いっきり言っていた事を覚えていた。そして傷心していた。

 

「明日絶対片付けよ…」

 

事実上のやらない宣言をすると、少年はパソコンの前に座る。机に上に置かれた基板やコードは以前にチート用のプログラムを作成しようとした時に使った残骸である。

 

「…あっ、そうだ」

 

その残骸を見て少年はスフェーンの事を思い出す。

 

「確かログは残ってたよな…」

 

友人が逮捕されてからと言うもの、一度も触れた事が無かったこの基盤。

 

「サーバーは確か…」

 

機体のカバーを外してチート用のプログラムを仕込んだ際、色々と情報を仕入れており、その時に使っていたサーバーなんかも少年は記憶に覚えていた。

 

「…調べてみるか」

 

少年はそこで久しぶりにパソコンの電源を入れると、そこでサーバー検索サイトを開いて覚えていたサーバー名を入れて検索をかけた。




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