ペットとなる動物というのは基本的に可愛いか、格好良いが前提につく生き物である。
世の中、今までの人類の歴史の中で『ペット』と言うのは遥か昔の石器時代から存在していた。
「…」
その日、灼熱の太陽の日差しが差し込む中で、スフェーンはある場所で呆然と立ち尽くしていた。
「あっつ〜」
そしてネックガードを被り、ゴーグルとガスマスクを付けたまま思わず言ってしまう。
『そりゃあこんな灼熱の砂漠の中にいたら暑いでしょうよ』
それにはルシエルも呆れて彼女と同じ景色を見上げる。
『しかし大きいですね』
「そりゃあね、大災害以前の宇宙船の残骸だからね」
荒野の砂丘に不時着し、三つに折れた船体。かつて、もう歴史の彼方の話となってしまった旧暦の時代に使われていたその宇宙船は、本来であれば密閉されているであろう区画はこじ開けられた後がある。
「…」
その中でスフェーンはその巨大な船体に一歩足を踏み入れる。
巨大な船体は航空機を意匠に持ち、全翼機を模したその機体はすでに多くの盗人が盗み出し、企業が調査をし尽くした後なのだろう。もはや外装が残されただけでそれ以外の何もかもが残されていなかった。
「ヒュ〜、つめて」
そして巨大な影となっている船内はこの砂漠の中においてよく冷えていた。
『外気温、摂氏二四度。湿度二二%です』
「うほ〜、立派な休憩所だ」
船のエンジンもすでに持って行かれており、元々は艦載機格納庫であった空間は砂漠に住まう野生のラクダの休憩所となっていた。
今でも空にエーテルが浮かび、永遠とエーテルが降り注いでいる影響で世界はまだ荒野が大半を占めている。
「失礼〜」
そこで日陰で休んでいたラクダの群れから離れて砂漠に戻ると、
「うぅ…」
「かはっ」
砂丘の片隅で呻き声を上げながら倒れる無数の人や残骸を見る。
「ひっ!?」
すると戻ってきたスフェーンを見て誰かが悲鳴を上げて、恐ろしいものを見たような顔をした。
「女を見て怖がるんじゃないよ」
『…スフェーン、野盗団を一人でオートマトンに乗って壊滅させた時点で説得力皆無です』
「え?…あぁまあ…そうか」
そこで多くの多客車両やテクニカルが残骸となっている中、一台のオートマトンは唯一ほぼ無傷で残されていた。
「しかし、最近の野盗ってのは弱くなったわね」
そこで残骸となったテクニカルを見て呟く。少なくともまだスフェーンとルシエルが知り合った頃、こうした犯罪組織というのは装甲戦闘車両を持っているのが当たり前であった。しかし最近は、どちらかというとトラックに対戦車ミサイルや機関砲を装備したテクニカルが主体になっている気がしていた。
『都市国家が国家になって久しい時代です。治安の統制が行われている影響なのでは?』
「まあその分、犯罪の種類が複雑怪奇になってややこしいわけだけど…」
彼女は独り言を呟く様に見えていると、足元に転がる一人の野盗を見る。
「あーあー、まただ」
その野盗は生命維持装置が起動しているのだが、見た目が若い。インプラントチップでスキャンを行うと、年齢もまだ二〇代の若造であった。
「また若い子だよ」
『本当多いですね。こういう闇バイト』
「呆れたものだよ」
スフェーンはそこで付近で生命維持装置が起動した他のサイボーグ達も観測をしながら、国連軍の回収部隊が到着をするまで一箇所に野盗を集めていた。
「よっと」
スフェーンはオートマトンに乗り込み、コックピットから生命維持装置の起動したサイボーグ達を回収していく。
器用にマニピュレーターを操作し、サイボーグを二人ずつ並べていく。
「しかし、最近のオートマトンも変わったね」
そこで操縦する第七世代オートマトンを前に呟く。
『第七世代オートマトンは四肢が人工筋肉で覆われた機体です。動きもそれ相応に変わるでしょう』
「こんなのほぼ人みたいなもんだよ」
こう言ったオートマトンは第五世代は関節のみにとどまっていたが、その後に脚部、腕部、胴体と徐々に人工筋肉で全身が覆われて行き、第八世代になって頭部以外が人工筋肉で覆われた新しいオートマトンが誕生した。
『現在のオートマトンは『魂なき巨人』とも言われる多脚車両です。まあ人工筋肉による整備性の問題から、今でも非人工筋肉の第四世代機が活躍しているわけですが…』
「マジで第六世代の旬が一瞬で終わった気がする」
そこで重量級サイボーグを両腕に抱えて砂漠を歩く姿はなかなかにシュールであった。
「よいしょ、これで最後でしょう」
最後に野盗を並べ終えると、ハッチを開けて下車をした彼女は野盗の持っていた対戦車用収束手榴弾をコックピットに投げ入れる。
ッーーー!!
そしてコックピットで派手に手榴弾が爆発を起こすと、オートマトンがフレームが真っ二つに折れて破壊された。
「お掃除完了〜」
スフェーンは爆発したオートマトンを背に砂漠で待っていると、遠くからクアッド・ティルトローターの音が聞こえてきたのですぐに列車に戻った。
「よし、出発進行〜」
今回の依頼物であるタンク車を牽引するスフェーンはすぐに機関車の運転室に戻ってマスコンを操作する。
通報自体は行っていたので、そそくさと危険度の高い単線路線を走り出す。
『しかし…』
そこでルシエルは改で今のスフェーンの格好を見る。
『その見た目は流石にまずいのでは?』
「え?そう?」
指摘をされ、スフェーンは首を傾げた。
今の彼女は顔の軍用ゴーグルにガスマスク、これでまず顔は全面的に隠される。おまけにネックガードで首裏も隠している上に帽子を被っているので肌が見えなかった。
『ほぼ素肌ないじゃないですか』
「その方が熱中症にならずに済むでしょう?」
『それはまあ…こんな砂漠地帯ではそうですが…』
そこで列車は静かに街中に向かう。
そして列車は目的地に到着をする。
場所は緑溢れる砂漠の中の街、ビバゥ。単線区間の治安は比較的悪い地方の小規模都市であるが、ここら辺は旧暦時代から多数の大災害以前に遺物が残されていた。
「…懐かしい感覚ね」
列車が操車場で停車し、そこで機関車を降りたスフェーンは砂漠の中の街ということではるか昔に訪れた街のことをふと思い出す。
『あの頃とは何もかもが変わりましたよ』
「分かってるって」
当時、まだ駆け出しだった頃の出来事をふと思い出す。
「この街にも乾物が用意されているのかしらね?」
『ええ、大抵の砂漠気候の街では乾物が提供されていますから。多分あると思いますよ』
この街は小規模の街で、近くの村々から人や物が集約される地でもある。鉄道路線は物流の基本であり、トラオムで生きる上では欠かせないモノである。
この街での荷役を終え、貨車とともに留置線に留め置かれることとなったスフェーン達はここで二日ほど停車を余儀なくされていた。
「しかし、この先が通行止めとはね…」
スフェーンはそこで軍用ゴーグルに付近の路線状況を確認してため息を吐いてしまう。
『この先で大規模な砂嵐です。その後の砂の撤去作業も考慮すると、砂嵐が終わってから二日はかかってしまうでしょうね』
「…つまり砂嵐が終わるまで動けないと」
通行禁止の真っ赤かな路線図を見て今後の予定を考えなければいけなくなる現状にどうしたものかと思ってしまう。
『ええ、この先の砂嵐はかなり大きいそうですので…』
「砂嵐が収まるまで待機ですな…」
軍用ゴーグルにガスマスク、その他諸々の装備を着け、同時に背中に散弾銃を背負って街に出る。
『街の治安は悪いです。武器の携帯をするべきでしょう』
「分かってるわよ」
散弾銃やスピードローダーを降ろし、ナッパ服の上から防弾チョッキやら何やらを装備した彼女はそのまま街に出る。
街はどちらかというと傭兵よりも国連軍の兵士の方が多く見受けられた。
「国連軍の方が多いわね」
『どうやら近くで空軍の訓練が行われている様ですよ?』
「あー、なるほど」
遠くではジェット機の轟音が聞こえ、上空を国連軍の戦闘爆撃機が通過していく。
「空中空母か…」
そして遠くで空に浮かぶ飛行船を見つけた。
世界中に多量の兵器を有する国連軍は、鉄道路線や船舶を中心とした物流網を中心に国連管轄下の武装組織として軍警察から名を変えて存続してきた息の長い組織である。
陸軍・海軍・空軍と存在し、今残っている宇宙船はすべて空軍が管理していた。
『発艦始め〜!発艦始め〜!』
空中空母は下半分が飛行船の構造であり、上半分は二段の甲板を持った空母である。五本ある電磁カタパルトから一度に航空機を発艦させることが可能である。
『主翼、尾翼、並びに各種センサー、問題無し』
『了解。発艦する』
まず初めに下の第一甲板の二本の電磁カタパルトから発艦し、次に上の第二甲板のアングルドデッキに仕込まれた電磁カタパルトから一斉に航空機が発艦を行う。二機一個編隊のロッテ戦法で組まれた戦闘機編隊はそのままエーテルに支配された空に上がると、訓練を開始していた。
「街の郊外とはいえ、流石の音ね」
山向こうで行われている訓練音を聞き、スフェーンは誰かが文句を言いそうなどと思いながら街を歩く。
「…ん?」
そんな中、街の一角で人だかりができているのを見かけた。
「何だありゃ?」
スフェーンはその人だかりが何なのかが少し気になったので近づいてみると、
「ほい!お次はこちら!」
そこでは笑顔を振り撒く女性が片手に金属の輪を持っており、もう片方の手はリードを掴み、その先には一匹の猿がいた。
「あぁ…」
『猿回しですね』
それを見たスフェーン達はすぐに大道芸をしていると理解すると、女性の猿曳は飼っている猿に連続で輪を潜らせてそれを見た観客達は拍手をする。
そして猿曳をよじ登った猿はそのまま持っていた輪を括り抜けると、逆上がりの要領で猿は輪の上に登ってクルクルと歩いていく。
「(本物?)」
『よく調教されていますね。体温は本物の猿ですよ』
その芸達者な猿の動きを見てルシエルに思わず聞いてしまうと、サーモグラフィで確認をして本物の猿であると判断する。
「どうも、ありがとうございました〜」
その後も演目をいくつか見せた後にお辞儀をすると、見物料が女性に渡されて猿回しが終わった。
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