見事な腕前の猿回しを前にスフェーンも他の観客と同様に拍手を送ってから持っていたコインを投げる。
「ありがとうございます」
猿回しをしていた女性は投げ入れられる見物料を前に嬉しげに笑顔を振り撒き、現地通貨やウィール通貨を投げ入れる。
その足元では猿が棒立ちでリードにつけられて立っており、猿回しの演目を終えても落ち着いていない様子で周りをキョロキョロと見回し、見ていた観客の一人と視線が合うと、リードが思いっきり引っ張られる勢いで飛び出した。
『腕の良い猿曳ですね』
「まあ見る価値は十分あるでしょ」
コインを投げ入れ、そこで会場を離れていく観客達を見ながらふと思った。
「(でも動物には彼女、怖がられているのね)」
『え?』
ルシエルはスフェーンの指摘に驚いて首を傾げた。
『何故です?』
これほどの芸を見せられるほどなら、猿曳と猿の間には深い仲がありそうだと思っていた。と言うより、普通ならそういうものだと考えるのが自然である。
「(動物って正直でしょう?)」
『まぁ…』
「(あの猿。飼い主の猿曳に近寄っていないし、周りを見回している。見慣れない場所に来たからといって、あんな観客に攻撃的になるってことはあんまりないんじゃない?)」
『そうでしょうか?』
そこで再度彼女のそばにいる猿を見てみると、その猿はピョンピョンと跳ねて観客に威嚇していた。
『本当ですね。威嚇してます』
「(基本的に猿が攻撃的になるのは、自分が追い詰められている時とかだから…)」
『え?虐待をされていると?』
「(さぁ、私にも分かんないけどさ〜)」
猿回しを見ながらスフェーンは持っていた散弾銃を背負い直すと、そこで片付けの準備に入っていた女性に話しかける。
「あの、ちょっと失礼」
「うお!びっくりしたぁ!」
話しかけられ、そして軍用ゴーグルとガスマスクで素顔を隠した容姿を見て思わず彼女は驚いた声をあげてしまう。
「ど、どうされましたか?」
彼女は話しかけてきたスフェーンを見て聞いてきたので、スフェーンは彼女の足元にいる猿を見て聞いた。
「いやぁ、さっきの猿回しが凄かったって言いた方だけなんですけどね」
「あっ、そうでしたか。ありがとうございます」
女性もスフェーンの態度を見て少し警戒度合いを緩めると、足元の猿を抱いて立ち上がる。
キーッ!キーッ!
すると抱き抱えられた猿はグッと腕を伸ばして女性のに拒否感を示していた。
「…随分と凄いですね」
「はははっ、まだこの子はきて新しい子ですからね」
彼女はそう言って嫌がっている猿を抱えてスフェーンを見る。
「すみません。また別の場所に呼ばれているので、私はこれで」
「あっ、そうですか」
女性はそこですぐにその場を離れるために道路を少し小走りで消えると、残ったスフェーンにルシエルが聞いた。
『で、どうでしたか?』
「猿の方に傷はなかったけど…なんだか、歪な感じよね」
猿の嫌がり方の違和感に首を傾げていると、近くの駐車場から音を立てて一台のオートマトンが走り出して行った。
「あっ、さっきの人だ」
するとアクリル板の貼られたコックピットに先程の猿曳の女性が乗り込んでいた。彼女は次の猿回しの会場に向かう様子で、足元のタイヤを展開して巡航速度で走り抜けていった。
『動物愛護団体行きですか?』
「いや、流石にそこまでは…そもそもアイツら役立たー’sだし…」
そこで街の中を歩いて軽く観光がてら、食料調達に向かう。
時間帯は間も無く夕刻に入ろうと言う頃、懐中時計で時刻を確認したスフェーンは街の市場の前に立つ。
「さぁ!安いよ!安いよ!」
「採りたてデーツもあるよ」
昔と違い、共通電子通貨が使われなくなって久しく、ここではウィール通貨や自国通貨が取引に使用されていた。
当時は電子通貨よりも現物の方が信用されており、銃弾がそのまま通貨として使った事もあった。
「今の時間でも市場はやっているのか」
『この時間帯ですと夕食で出店が多い時間帯かと。それにここはこの地域の物流の拠点ですしね』
砂漠のオアシスとでも言うべき場所に街があるので、ここには大勢の住民がいた。
大抵のトラオムの街というのは鉄道と共に発展しており、鉄道路線の敷設を積極的に行っていた時期というのはスフェーンが生まれる前からであったので、その詳細を肌身で感じたことはない。
「これ一つ」
「はいよ」
そんな中、スフェーンは市場の屋台で大豆や蕎麦の穀物を購入し、ウィール通貨で支払う。
「ウィールね…旅人さんかい?」
「そんなところですよ」
支払う通貨を見て店主が聞いてきたのでスフェーンは頷く。
国連が発行し、国際的な信用力のあるウィール通貨。この通貨は国際的に信用をされた通貨であるため、多くの国連加盟国で使うことが可能な紙幣である。
「換金所に行かなきゃならんじゃないのよ」
「ははは、これは失礼」
そしてウィール通貨は一般でもかなり出回っている通貨でもあるので、国を超える仕事をする人であればまずメインで使用する通貨である。
「生憎、支払いの持ち合わせがこれしかないものでね」
「全く…買ってくれなかったら追い返していたところだよ」
少し冗談まじりで店主は言うと、そこで購入して袋に詰め込まれていた穀物の袋を見る。購入したそれらは、後で駅まで運んでもらう予定だ。
購入した穀物は合造車のパントリーで保管し、帰ってカフェに納入する予定となっている。
「店主、一つ聞いても?」
「何だい?」
そこでスフェーンは聞いた。
「ここら辺で一番美味い店ってどこにあります?」
「美味いか…」
美味い店を聞かれた店主はそこで少し考えて思い当たる店をふと思いつく。
「あっ!出店で美味い店があるな」
「どこにあります?」
「ベルジャンフライの店だが、黄色とピンクの屋根で並んでいると思うぞ」
「分かりました。ありがとうございます」
店主もキロ単位で穀物を購入した客に対し、親切に答えると彼女もおすすめ店舗を教えてもらって満足げに会釈をして店を後にする。
公設市場は風の吹き抜ける密閉されていない空間だが、おかげで近くの湖から水揚げされた淡水魚の泥臭い香りが風に流されて不快感のある香りはほぼしなかった。
『出店ですと、公設市場内でしょうか?
「でしょうね」
昔は市営駐車場だったであろうこの施設はこの時間帯でも多くの叩き売りが行われており、警察官の巡回も確認された。
こうした申請無しで営業を行う施設は、出入りが簡単で直接購入できる分、多くの規制品や贓物売買が行われている事もあった。
ガシャーンッ!!
すると近くでモノの割れる音が響くと、鉄パイプで組んであった出店を破壊して重量級サイボーグが飛び出してきた。
「どけぇええ!!」
「うおっ!?」
咄嗟にスフェーンは持っていた散弾銃に銃弾を薬室にすぐに装填をしてレバーを倒すと、安全装置を切って照準を合わせる。
ッ!
軍用ゴーグルの照準で超硬ワックスを腕を振り上げた重量級サイボーグの男の肩に合わせて引き金を引いた。
「あっ!」
超硬ワックス弾は低殺傷の銃弾であるが、12ゲージ弾の大きさとなるとサイボーグの装甲板に命中して砕けずにめりこんで最低限の稼働部位を破壊してしまう。
「畜生!」
「ひゅいっ?!」
肩に命中し、至近距離で放たれたことで超硬ワックス弾は重量級サイボーグの動きを止めた。
「くそっ…うがっ!?」
腕が破壊され、重量級サイボーグがスフェーンを掴もうと視線を向けた直後、背中から追いついた警察官が持っていた電磁警棒を叩きつけて生命維持装置を作動させる。
「あっぶな」
地面に倒れてきた重量級サイボーグを前に慌てて横によけて避けると、警察官の一人が手を出してきた。
「大丈夫ですか?」
「あ、えぇ…」
彼女はそこですぐに面倒ごとから逃げるために取り押さえられる重量級サイボーグを尻目にその場を離れる。
「治安悪いな〜」
『公設市場なんて、犯罪者を炙り出す罠と同じですからね』
営業許可を取らずに店が開ける分、何でも取り扱う公設市場ならではの光景に疲労感を感じると、一角で人が列を成しているのが見えた。
「あ、あれか」
視線の先で目立つ黄色とピンクのポップ風な屋根の出店、そして行列。間違いない、目的地である。
「並んでんな〜」
そう言いつつも列に並んで出店のメニューを見るスフェーン。
『ベルギーが発祥の料理であるベルジャンフライ。もしくはフリッツ…これ、フライドポテトと何が違うんですか?』
「これこれ、喧嘩売るんじゃないよ」
軽くルシエルに言うと、列は順調に進んでいってそこで注文をする。
『…やっぱりフライドポテトじゃありません?』
「いや…えぇ?」
そしてすぐに出てきたベルジャンフライを見てルシエルは首を傾げる。
「まあ芋料理、肉料理は大抵美味いから」
そう言ってスフェーンは付け合わせのソースにディップして頂く。
「んん〜っ、すっぺ」
サムライソースと名付けられたマヨネーズにハリッサとレモン汁を加えたソースを前に顔にシワが寄る。
山盛りのベルジャンフライをつまんで食べながら公設市場を歩いていると、
「あら?」
公設市場の一角で人だかりができており、よく見てみると見覚えのある顔が猿回しを披露していた。
『さっきの人ですね』
「今度はこっちかい」
昼間と同じ女性が再びここで猿回しを披露しており、見覚えのある猿が先ほどと同じ動きをしていた。
『相変わらずの動きですね』
「上手いもんよね〜」
片手でベルジャンフライを食べながらその猿回しを再び見ていると、近くで見ていた観客の耳打ちが聞こえてきた。
「また来てるよ」
「今度は猿芸?この前は鷲連れてきてなかったっけ?」
「どれだけ動物を飼っているんだ…?」
基本的にペットというのは食費や諸々含めて金がかかってしまう。愛玩動物として飼うのは富裕層の遊びでもあった。
しかしこうやって芸披露で集金を行うのはよく聞く話だった。
「金持ちには見えないけどな」
「なんか動物愛護団体からお金もらっているって話だけど」
「あぁ〜、そっち系なの?」
噂話を前に少々表情を歪める観客。古来より散々いじられてきた話だが、スフェーンは違和感を感じながら再び彼女を見つめていた。
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