TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#398

猿回しを披露する女性は、多くの芸を昼と同様に披露していく。

 

「…」

 

片手でベルジャンフライを食べながらスフェーンはその芸を見ながら持っていた硬貨を探す。

 

「あれ…?」

 

ガスマスクを外して食べていた彼女なのだが、そこで手持ちの硬貨がないことに気がつく。

 

「しまったなぁ…」

 

先ほどのベルジャンフライで硬貨を使い切ってしまったことを思い出すと、そこでルシエルが聞いてくる。

 

『両替機行きますか?』

「いや…あると思う?ここに両替機が」

『…ないですね』

「でしょ?」

 

ゴミ箱に空容器を捨て、ガスマスクをつける前に煙草を取り出して火をつける。

 

「ふぅ…」

 

昔から変わらない味わいを前に安心感を感じながら公設市場のベンチに座りこけるスフェーン。

 

「…」

 

そして座った先に見える市場を見下ろす。

自走式立体駐車場をリノベーションして作られたこの公設市場は多くの出店が出店許可を得ずに営業を行うことが可能なように市が整備した施設だ。

こうした施設は多くの都市で散見され、国が出来上がって久しい現在でも都市というのは色濃く残っている。スフェーンも地元のスーパーと同程度にこうした地元の市場というのは見つけるとついつい寄り道をしてしまう。

 

「あーあー…」

 

そしてそうした公設市場は営業許可を取らなくても出店ができるという理由で、多くのアングラな商品も出回っている。そうした商品というのは大抵麻薬や盗品といったブラックマーケット的なものも売られていた。

 

「マジックマッシュルーム売ってら…」

『純正コカインもあるみたいですよ?』

「わぁ〜、終わってら」

 

立ちっぱなしで薬の売人が取引をしている様を目撃してしまい、軍用ゴーグルの望遠で取引されている品物を見て苦笑してしまう。

 

「言っても昔使ってたからなぁ…」

『まあ暗暦時代は何もかもが罷り通っていた修羅の時代でしたから…』

 

ルシエルもその時代を生きた人として少し懐かしむ。ただし、コカインを使っていたのはスフェーンが傭兵時代の話。今はそうした薬物を使わなくとも脳内ホルモンの分泌を調整可能だった。

 

「まあ、打ちすぎて死んでいったやつなんてゴキブリと同じくらいいるだろうからね…」

『おまけに、完全サイボーグ化してもそうした快楽は残るので電子麻薬(デジタル・ドラッグ)なんて代物が昔からあるわけですが…』

 

ルシエルは呆れたため息を吐いて公設市場で売買されている品物を見る。

すると背中の方から拍手が聞こえてきたので、スフェーンはそこで振り返ると先ほどの猿曳が猿回しを終えた直後であった。

 

「あ、終わったか」

 

スフェーンはガスマスクをつけると、そこで散らばっていく人の中で片付けをしている女性に近づく。

 

「よっ」

「あっ、昼間の」

 

話しかけると、その特徴的な軍用ゴーグルとガスマスクを装備したスフェーンに、すぐに女性は気がついた。

 

「また会おうとは予想外ね」

「あぁ、はい…そうですね」

 

女性も唖然というか、呆れというか、そう言ったような視線をスフェーンに送った。

 

「どうも」

「キキッ!」

 

足を曲げて彼女の足元にいた猿に視線を向けると、その猿はスフェーンを見上げてその後にゆっくりと手を伸ばしてきた。

 

「おぉ、どうしたどうした?」

「キィ!」

 

スフェーンもその動きに気がついて手を握ると、猿はそのまま座り込んだ彼女に腕と足をあげてよじ登った。

 

「え?」

「おー、ヨシヨシ。どうした〜、いい子じゃないか〜」

 

そしてそのまま頭を撫でられる猿を見て女性は驚いた目線を見せた。

先ほどまで女性の近くで猿回しをしていたその猿はスフェーンに驚くほど懐いており、それを見た女性は思わず呟いた。

 

「すごい…その子、人に懐くなんて今までなかったのに…」

「へぇ、そうなの?」

「ウキキッ!」

 

スフェーンが猿に聞くように見ると、猿は短く返事をするように鳴いた。

 

「おー、ヨシヨシ。いい子だねぇ」

 

何処ぞの孫を可愛がる婆さんと言えば良いだろうか。少し濁声で頭やらを撫で回す手の動きは完全に子供をあやすそれとそっくりであった。

 

「…凄いですね。失礼ながらお名前をお聞きしても?」

「ん?スフェーンよ、貴女は?」

「あっ、ジェフリーと言います」

 

ジェフリーはスフェーンに懐いた猿に驚きながら自己紹介をすると、彼女はスフェーンに懐く猿を前に思わず聞いてしまう。

 

「その…スフェーンさんは、動物を飼っていた経験があるんですか?」

「飼っている…」

 

スフェーンはジェフリーに言われた瞬間、脳裏にサダミの顔が思い浮かぶ。

大きな耳の、真鍮製丸眼鏡を付けた黒猫の獣人の少女の顔が脳裏に浮かぶと、彼女は頷く。

 

「まあ常にでっかい黒猫を飼ってるようなものだけどねぇ」

 

直後、脳内のサダミがカッとなって爪を立てる顔が思い浮かんだが、そんな脳内彼女の攻撃を意に介さずジェフリーを見る。

 

「でっかい、黒猫…あっ!黒豹とかですか!」

「ズコッ」

 

ジェフリーの斜め上の発想に思わずガクッと肩が傾いてしまうと、呆れた視線を送る。

 

「なんでそっちの方向行くのよ…」

「え?おかしいですか?」

「黒豹飼うのにどれだけ金がかかると思ってんねん」

 

黒豹を買うケージや餌代、そもそもの黒豹の購入金額諸々を加味した金額を脳内電卓ですぐに弾き出すとため息をつく。

 

「まあ動物の飼育費なんて、私にとってみればタダみたいなものですから」

「な、なるほどね…」

 

その一言だけで、スフェーンは『動物園に就職しとけよ』と内心で思ってしまう彼女の思想を察した。

 

「動物、好き?」

「大好きです」

「おおぅ…」

 

その一言だけで彼女がどう言う人なのかを把握したスフェーンはゆっくりと視線を猿からジェフリーに移すと、彼女はそこでまだ片付けをしていないことにハッとなって猿のリードをスフェーンに預ける。

 

「すみません。すぐに片付けるので、預かっててもらってもいいですか?」

「え?あ、良いわよ…」

 

懐いている猿を預けたジェフリーはその間にすぐに広げていた猿回しようの道具を片付け、その間猿と戯れているスフェーン。

昼間はジェフリーのことを嫌がっていた猿は驚くほどスフェーンに懐いており、グローブ越しでも猿は満足そうにスフェーンにすり寄っていた。

 

「うわぁ、可愛い子ねぇ」

「凄いですね。芸以外で滅多にそんなことをしなかったのに」

 

これにはジェフリーも思わずスフェーンの人柄が気になるほどであった。

 

「ははは、こう言う変んな人が好きなのかもねぇ」

 

そこで彼女は猿の毛を少しめくって確認をしてみる。

 

「(ケジラミはいないのか…)」

 

整った毛並みや痩せこけた様子もない目の前の猿を前に、スフェーンは違和感がさらに大きくなる。

彼女は、ジェフリーが動物虐待をしているのではないかと言う疑惑があったのだが、体調や毛の様子を見ていると至って健康的な、管理された丈夫な猿であることに間違いない。

 

『体温も全然正常値です。特に違和感はありませんが…』

「(こう言う時、動物の心でも読めたら良いのにな〜)」

 

異能の一つに読心術がある。それは異能者同士でしか使用できない技であり、同じ人同士でなければ使えないと言う制約もある。

かつて…正直、『名を言ってはならない』部類に入っていると思われるあのネクィラム・ラボがかつてイルカやクジラといった海洋生物から象やネズミといった陸上生物といった生物全般で実験を行ったことがある。

しかし結果として、まともな会話はできないと言う結論が出された。調教をすればいくらか話せるようになるそうだが、そこまでして調教をする必要もほぼないと言うのが結論として出された。

 

『むしろそう言うのはスパイ動物じゃないと無理ですよ』

「(知っているよ。エーテル病に罹患している海洋生物ってだけでまず珍しいんだからさ)」

 

基本的に『閃いた!』と思ったことは大抵が『かつて誰かが同じことをしている』のであり、同じ人間同士、考えてやってみることは一緒である。こう言う時、インターネットとは便利でその『閃き』をすぐに調べられる。

 

「(でもケジラミもなく、毛並みも綺麗で、餌もちゃんと与えられている)」

 

その猿を前にスフェーンはどんどんと疑問が膨れていくと、片付けを終えたジェフリーが近寄ってきた。

 

「燕太郎、ありがとうございました」

「あぁ、いやいや。君、燕太郎っていうの?」

 

スフェーンは初めて猿の名前を聞くと、そのまま猿を抱いたまま立ち上がる。

 

「よかったら手伝うよ。ジェフリー、あんまりオートマトンの操縦は得意じゃないんでしょう?」

「え?!」

 

その一言でジェフリーは驚いた表情を見せると、公設市場近くに駐車されていたオートマトンを見上げる。

 

「あー、複座型ね」

「あ、あの…」

 

そこでタイヤを設置させた複座型オートマトンを前に猿を抱えたままスフェーンは簡単に登ってしまう。

 

「第五世代、オーディ製B1…民生品だけど、よくこんな古い車種を使うね」

「中古ですよ。燕太郎達を家から運ぶのにちょうど良いですから」

 

ジェフリーは人の車をジロジロと見ているスフェーンに少し不満げな顔を浮かべる。

 

「でもこうもOSが古いんじゃねぇ…同乗者が泣くわよこれ」

「え?」

 

ジェフリーはスフェーンの呟きに疑問符を覚えると、彼女はそのままコックピットのメンテナンスハッチを開けてそこに手首からコードを持ち出して機器に差し込んだ。

 

「…やっぱり、中古車だから最新のOSにアップデートしていないね」

 

彼女はそこで複座型のオートマトンのシステムのアップデートを行う。

 

「え?アップデートってお金がかかるんじゃあ…」

「しないしない。このOSは一般に公開されているヤツだし。そもそも認定じゃない中古って、あえて業者が自動アップテートをさせるプログラムを取っ払って、OSのアップデートの代理費用をむしりとるって詐欺もあるくらいだし」

「そ、そんな…」

 

彼女はそう言うと、データのダウンロードを完了させてからオートマトンのコックピットを開ける。

 

「まあ、これで多少はマシに動くと思うわよ」

 

アップデートを完了させ、そのままジェフリーに行って猿を背中のケージに入れて荷物も荷物室に入れると、その後に助手席にジェフリーが乗り込む。

 

「アップデート直後に初乗りはちょっと危ないからね」

「あ、はい…分かりました」

 

そこでアクセルをスフェーンは踏むと、オートマトンは流れるように走り出した。




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