複座式オートマトンというのは、第一〜第三世代辺りまでのオートマトンでは当たり前の構成であった。
オートマトンと言うのはその昔、人類誕生の星のとある極東の国で急斜面でも土木作業が可能なように開発された四脚のショベルカーが始まりだと言われている。
「もう昔の話か…」
「ん?どうかされましたか?」
操縦席で柔軟に道路を走る途中、スフェーンの独り言にジェフリーが反応をした。
「ああいや、何でもない」
やや慌ててスフェーンは首を横に振ると、ジェフリーは首を傾げつつも首を傾げながらも席に座り直す。
現在、古いOSのアップデートを終えて道路を巡行モードで走るオートマトンをスフェーンが操縦していた。スフェーンは新しいOSにすると扱いが難しくなるので代理ドライバーでジェフリーのオートマトンに乗り込んだが、これは嘘である。この機体の場合はOSをアップデートしても問題なく操縦が可能であった。
だがスフェーンはジェフリーや、彼女の使役する燕太郎と呼ぶ猿に違和感を覚えて彼女に着いていく口実を考えただけであった。
「でもすごいですね、最新のOSと言うのは。ほとんど揺れてない…」
複座式オートマトンの車内でジェフリーはそう言って舗装が所々割れて浮き上がっている道路を走っていても車内に吊るしたお守りが揺れない車内に驚く。
「ショックアブソーバーを電子制御で自動的に動かしてくれるからね」
「へぇ…」
完全に専門外で、オートマトンに関しては貨物の積める二人乗り乗用車的なイメージしかなかったジェフリーは感心したように揺れない車内の窓を開ける。
「ゲホゲホッ」
しかしこの季節は砂埃が舞っており、そのことを失念していたジェフリーは入ってきた砂に咳き込んですぐに窓を閉めてしまう。
「気をつけてよ?」
「す、すみません…」
操縦席で渋滞の車の隙間を縫って走るスフェーンに軽く謝ると、彼女はそこでいつの間にか巡行モードから歩行モードに変わっていたことに気がつく。
「あれ?市街地で大丈夫なんですか?」
「ん?あぁ…」
オートマトンは基本的に市街地での歩行モードの使用は建設現場や港の荷役などでしか認められていない。
無論、これは暗暦時代から続いてきた歴史である。理由として『歩行モードの致命的な遅さ』が主な理由である。
足に格納されたタイヤ(一部は膝を曲げてタイヤを出すタイプもある)を展開して走る巡行モード(形態とも言う)では時速六〜八〇キロ程度で走行可能だが、歩行モードとなると時速一〇キロ程度が限界である。それ以上の速度を欲すると脚部の大幅な改造を必要とし、パーツの摩耗も強烈に早くなってしまう。
人間が走るよりもやや早い程度の速度で道路を歩かれては車や路面電車からしても、車道の真ん中を走るチャリンコレベルに邪魔でしかない。渋滞の原因ともなってしまうため、主に市街地の移動でこうしたオートマトンは基本的にタイヤを展開する巡行モードが基本である。
「渋滞を抜けられるならこの方が早いっしょ?」
「えぇ…」
舗装が割れた道路でも安定して歩くオートマトン。少なくとも跨がれた車やバイクに乗っていた運転手たちは生きた心地がしないだろう。事実、コックピットの窓から見える運転手たちの顔は青くなっているのが見えた。
ちなみに、アスファルトが割れると言う面でも市街地内での歩行モードは禁止される場合が多い。
単座形でも軽自動車程度の重量があるオートマトン。その重量が軽自動車と違って四点では無く、二本の足裏にかかる。当然、圧が分散されないのでかかる重量も増えてしまい、アスファルトに負担がかかってしまう。そしてこの道路はアスファルトに砂がかかり、長年の劣化から一部ひび割れていた。
「ちょっと揺れるよ〜」
「うおっ!?」
そこで少し歩行モードで地面に空いていた大穴に足を入れると、オートマトンの姿勢が一瞬傾いた。
「キッ!」
その時、後ろのケージに入れられていた燕太郎も小さく悲鳴を上げて眼前に近寄る地面を見る。
「…」
操縦席に座ったスフェーンは傾いた機体を簡単に腕を地面に付いて姿勢を崩さないように機体を動かすと、そのまま足を付けた窪地から脱出をする。
その時、視界が斜めに傾き、お守りも重力に沿って傾いたのを見てジェフリーは思わず顔を青くしてしまう。
「大丈夫そ?」
「は、はい…」
その様子を感じ取ったスフェーンが聞くと、ジェフリーは無理矢理『大丈夫だ』と言う言葉を捻り出した。
スフェーンのオートマトンの操縦技術は卓越しており、人の体のように動かすと簡単に渋滞を抜けて街を出る。
「ふむふむ…」
そしてナビで自宅と記された場所に向かって移動をすると、その場所は郊外の一角であるとわかる。
『場所はナルバシーク戦役跡地ですね』
「(何だっけ、確か大災害直前最大の海戦だっけ?)」
『現在、世界史で確認されている大災害以前最後の戦闘です。無数の宇宙船が砂漠であるこの地に墜落しました』
そこでルシエルにスフェーンは自分の記憶の中の歴史を思い出す。
『ここの来る途中にスフェーンが寄り道をしたあの宇宙船の残骸もそうした遺跡の一つですよ』
「(なるほどね〜)」
この街の周りには、大災害以前の宇宙船がゴロゴロと転がっている。
あれから長い年月が過ぎたと言うのにも関わらず、砂漠気候特有の雨のほぼすらない乾燥した大地は、ただでさえ朽ちにくい大災害以前のモノをほぼそのまま残していた。下は砂漠と言うこともあり、破損した宇宙船は軟着陸をして完全な破壊を逃れたが、激しい艦隊戦の影響で多くの宇宙船は修復不可能な傷を負っていた。
とある歴史学者によれば、この地域で墜落をした宇宙船の中でも比較的状態の良いモノは初期の段階で軍警察が持ち去ってしまったという。
それと同時に、この地域に住まう住民の系譜はこの戦役に墜落をして生き延びた船の乗組員であると結論付けた。
「あっ、この先です」
「おぉ…」
そして街をはずれ、だんだんと地面が砂に覆われてきた頃、ジェフリーは後ろから指示を出した。
『こんな不便なところに住んでいるんですか』
「(ってか、ここ戦役跡地じゃん)」
視線の先には一つの宇宙船の残骸があった。
「(すごい場所に住んでるわね)」
『ええ、こんな街はずれに住居を構えるとエーテル病の可能性も出てきてしまいますよ』
基本的に今のトラオムにおいて街が出来上がる基準は、空間エーテル濃度の低い場所となる。
大災害の後、永遠と降り注ぐこととなったエーテルは肺から血管に流れることでエーテル病となる。
そしてこの地域の空間エーテル濃度は中の上ほど、長年積み続けてもエーテル病に罹患する可能性が低いが、それでも一般的な場所よりかは危険であった。
「(それに…)」
その時、スフェーンは同時に嫌な予感を感じる。
これは傭兵の時から感じ取りやすいモノだ。こう言う時は大抵、面倒な事が起こると言うのが今までの経験で学んでいる。
『スフェーンの勘は良くも悪くも当たりますからね』
「(良いのか悪いのかね…)」
歩行モードで砂漠を歩くと、オートマトンはジェフリーが居を構える宇宙船の残骸の前にオートマトンを停車させる。
「ふぃ〜」
「ただいま〜」
オートマトンをパーキングモードに入れ、コックピットハッチを開けて二人は砂漠に足を付ける。
「…」
ジェフリーに嘘をついてここまで来たが、違和感は宇宙船に近づくたびに強くなっていく。
『宇宙船の居住区画を改造した住居の様ですね』
「(ちょっと嫌な匂いがしてきたよ)」
スフェーンはそう言うと、ジェフリーが話しかけてきた。
「スフェーンさ〜ん」
「ん?」
そこでジェフリーの声に反応して首を回すと、彼女は手招きをしていた。
「こっちにどうぞ」
「え?上がって良いの?」
「大丈夫ですよ。取られるモノとかは特にありませんし」
彼女はそう言うと家のドアを開けた。スライド式のドアで、本人の認証がなければ開かないように設計されていた。
そしれドアの向こう、彼女の家を覗き込んだ。
「っ…」
その景色を見た時、スフェーンは思わず息を呑んだ。
「っーー!!」
「!!」
部屋の中には有りとあらゆる動物が鳴き声を上げており、ケージの壁に張り付いていた。
部屋を見ると天井から光も差し込み、動物達の毛色はとても良い。
「ごめんなさいね。ちょっとうるさいかもですけど」
「あっ、あぁ…」
愕然となったスフェーンはジェフリーの言葉で現実に引き戻される。
何というか、綺麗であるはずなのに悍ましいものを見てしまったような気分だ。
スフェーンの想定としては、彼女は必要以上にペットを強制的に繁殖させる違法ブリーダーの可能性を考えていた。
「すぐ、お茶を持ってきます」
ジェフリーは部屋の中の小さなちゃぶ台の前までスフェーンを案内すると、そのまま台所と思われる場所に消えていく。
その間、スフェーンは左右の部屋いっぱいまで積み上げられたケージを見上げる。
犬や猫、猿やウサギ、鳥までありとあらゆる動物がケージの中に入れられ、帰ってきたジェフリーに向かって鳴き声や一部唸り声をあげていた。
「…」
そうした動物にスフェーンは唖然となりながらジェフリーの顔を思い出す。
一般的にペットの飼育というのは金持ちの道楽である。あるいは家畜として飼っていたモノが、愛着が湧いてそのまま買うこととなったというパターンもある。
「すみません。これくらいしかお出しできないのですが…」
するとジェフリーが戻ってきて両手にマグカップを持っていた。
「あぁ、どうも…」
スフェーンは周囲の音を消してしまいたくなりながらも、彼女の用意したお茶を手に取る。
『香りから毒物は検出されていません』
念の為、警戒して粘膜に付着した成分を確認したルシエルが報告を入れると、スフェーンはそのままコップを傾ける。
「ジェフリー、この動物達は?」
「ああ、この子達はスラム街で野良生活をしていたので、引き取った子達なんです」
スラム街で野良、これだけで違和感がある。
少なくともトラオムの世界では野良の動物というのはいない。
スフェーンは直感的に彼女の行っている行為の異常性に気がついた。
「…こんなにいっぱい飼ってて食費とか大丈夫なの?」
スフェーンはそう聞くと、ジェフリーは首を横に振って無問題と言った。
「保護活動を支援してくれる人がいるので大丈夫ですよ」
「…そうなんだ」
彼女は自分の行っている行為に自信を持った様子で答えており、それを聞いたスフェーンは引き攣りそうな顔を隠すようにコップを傾けた。
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