ただこの世界基準でいくと、エーテル機関を分散配置した列車と言う事になります。
かつて、
『来る者拒まず。去る者追わず』『郷に入れば郷に従え』の精神でこの荒野と鉄の残骸の広がる大地を争うことで生きてきた。
そんな赤砂傭兵団の実質的な引率者だったのがレッドサン。
幾多もの戦いを退け、多くの敵を葬ってきた最強と呼ぶに相応しいと万人が認めたオートマトン乗りの傭兵だ。
その名がいた事で相手の企業が停戦を求めて来た事もあったと言う。
赤き太陽の如く傭兵達を上から見ていた彼の実力は伝説として語られるほどだ。
何処の企業にも所属せず、ただ己の信念。心に従って戦う。
この星、トラオム最強の傭兵は羨望の証でもあった。
彼の代名詞でもあった赤と灰色の塗装と、荒野の日の出を模したマーキングは今でも伝説として語り継がれていた。
ただ意外にも、彼個人に関する情報は。彼が男という事以外は分かっていないのである。
『スフェーン?起きてください』
意識の奥底、エーテルの光と共に少女スフェーン・シュエットは目覚める。あれ、昨日は何をしたっけ?
……ああそうだ。昨日は旧式機でも買い取ってくれる中古屋に行って、元々使っていたオートマトンをコンテナセット毎売り飛ばして、野盗から貰った武装を整備してたんだ。
元々何処でも寝れるように設計された体ではないが、精神が染み付いており。硬いコンテナの床で寝てしまっていたようだ。
「この体じゃあ、前と違って色々と苦労するな」
『現在のスフェーンの身体能力は十二歳の女性の平均値と酷似しています。ただ、スタミナに於いては平均値を大きく上回っています』
改めて聞くと悲しくなるものだ。前までは年の行った男だったのに、今ではこんな少女だ。昨日乗ったオートマトンも、前の時のようにぶっ続けで装備品の点検を行うには体力が足りなかったようだ。
『今や私たちは追われる身です。あの場所から遠ざかる事が賢明な判断になると思います』
「…そうだな……」
忘れようとすると、逆に鮮明に思い出してしまう。
「逆効果か……」
『大丈夫ですか?』
「ああ、問題ない」
体を起こし、辺りを見回すとそこはこの前新調した軍用オートマトンのコンテナだった。
コンテナセットと呼ばれるオートマトンを格納し、尚且つ微調整用の部屋まで完備されたタイプのコンテナだ。正直需要がこんな事くらいしか無いが。何処の企業も、自前のPMCの兵士用に準備していた。ただ傭兵でこう言う装備を持っていた人間は見た事がなかった。
「仕事か?」
『いえ、規則正しい生活は。スフェーンの健康状態向上に繋がります』
「そうか……」
自分とルシエルの付き合いももう何ヶ月か。ここかでかなり長い道のりだったように見えて、意外と短くも思える。
『運輸ギルドより何件か仕事の募集がございます』
「ああ、見せてくれ」
コンテナから運転室に移動し、そこで日の光を浴びた少女の格好は下着一枚。
初めは女物を買うのには抵抗もあったが、慣れとは恐ろしいし。何より下に何も履かずに過ごすのは男の時からの性で体が拒絶していた。
正直、この体になって一番悲しいのはこの絶壁の胸かもしれない。もっと膨らみが欲しかった……。
『車両の積載量を鑑みた結果、こちらが宜しいかと』
「個人の依頼か……」
基本的に企業の依頼は荷物が多い。理由は簡単、会社の規模がでかい上にそう言う企業相手の運び屋は相応にデカい機関車を持っている。
あくまでも自分はフリーの零細運び屋、しかも半年前にギルド証明書を発行して貰ったばかりの新米だ。
いずれは貨車を増やすのかもしれないが、今は昨日に更新したオートマトンの影響で財布はすっからかんだ。
「よし、依頼を受けよう。時間制限は?」
『四日後までにカール・ポート貨物ターミナルまで』
場所を聞き、スフェーンは一瞬体が反応する。
「港とはな……」
『大陸を渡らない分、いくらか疲労は溜まりにくいと思われます』
大陸横断用にカーフェリーというものが存在するが、流石にそれを使うとなると色々と制約がかかる。
金もかかるので今の状態では借金をしてしまうことになる、それは勘弁だった。
「シフォーフェンからカール・ポートまで四日か……」
『依頼受注を確認。エーテル残量、問題なし』
計器の確認を行いながらスフェーンはルシエルに確認する。
「荷物は?」
『現在、六番ガントリークレーンがコンテナ集積センターより依頼物を運搬中です』
地下型ではないコンテナターミナルでは、ガントリークレーン専用の路線が存在し。エーテル機関で俊敏に動くクレーンがコンテナの仕分けを行っている。
『管理局より通信。POFT300407は十二番線にて待機。荷物の集積が完了次第、出発してください』
「了解。エーテル機関、始動」
電子グローブによる本人認証を完了し、エーテル機関始動時特有の骨笛のような音ともに貨物列車は動き始める。
「信号よし、十二番線に移動。ポイント切り替え確認」
ゆっくりと停車する貨物列車の中を縫うようにスフェーンの列車は出発ホームに移動する。
するとそこでは既に分かるほど巨大な貨物列車、複々線専用貨物列車『ネフィリム』が発進準備のためにコンテナを大量に積み込んでいた。
大陸最大の貨物列車は専用に作られた軌道を最高時速400キロで走る。
そして走る際は必ず鉄道管理局より接近警告が伝えられる。理由は簡単で、このサイズの巨体が高速で走るもんなら周りに巨大な風を撒き散らす。その影響で変な事故に遭わないようにする為だ。
『鉄道管理局よりネフィリム12号。積み込み作業完了まで残り百十五秒』
『こちらネフィリム12号了解。積み込み完了次第、専用軌道まで低速運転を実施する!』
基本的に鉄道管理局の規則により、企業の持つ複々線専用列車は最優先で通される。流石は企業だと思いたいが、この複々線専用列車は企業間の合同出資で建造されている。そして鉄道管理局は企業の合同出資で発足している。当たり前と言えば当たり前なのだ。
昔に同じ型の車両には何度か乗ってはいるが、正直列車単体の装備が都市の防衛砲と同じな時点で威力はお察しの通りだ。敵機撃墜云々以前に先ず野盗はあの列車に近づかない。
接近する度胸があるのは企業レジスタンスか軍警の強襲揚陸艦、もしくは人質目的に臨時で結成された野盗同盟くらいだ。
自分だって極力関わりたく無い相手だ。
『鉄道管理局よりPOFT300407』
すると貨物ターミナルの管制塔から無線が入り、スフェーンも応じる。
「こちらPOFT300407、どうぞ」
『間も無くネフィリムが発進する。荷物の積み込みを完了次第、衝撃に注意せよ』
「了解」
何気に複々線専用列車の発進を間近で見るのは初めてだと思った。是非とも間近で見ようと思ったが、その前に車両の防護シャッターが下された。
『スフェーンの安全の為です。もし続きを見る場合は、ウィンドウ機能をお使いください』
降ろしたのはルシエルのようだ。仕方ない、映像でも本物に近いから今回はこれで我慢するとしよう。
『全コンテナ搭載完了』
『ガントリークレーンは撤収を開始』
『エーテル機関、出力上昇』
『活性化エーテル率、5%まで上昇』
『列車各砲台稼働準備よし』
『機関出力最大』
ネフィリムを覆っていたクレーン群が撤収を完了し、車体各部にエネルギーが入ると先頭の船のような巨大な機関車がブォンとホルンを吹いたかのようなエーテル機関の稼働音を見せるとゆっくりと台車が動き出す。
ネフィリムの大きさは平均的なコンテナ船と同等、つまり海に浮かぶ船舶がそのまま陸上を走るようなものだ。
当然走り出しはもっそりとしており、同時に意外と地面が揺れる。
低速運行とはいえ、この後専用軌道に入れば時速400キロ出るのだからまさに巨人の名に相応しい大きさだった。
そしてネフィリムが貨物ターミナルから見えなくなるまで遠く行った後、ようやく自分の列車の発進許可が降りた。
『こちら鉄道管理局。お待たせしましたPOFT300407。発進を許可します』
「了解、POFT300407出発します」
通信を終えると、スフェーンは敢えて運転席に座って少々クラシカルなツーハンドルマスコンを駆使して列車のブレーキを外してマスコンを回す。
徐々に速度が上がり、コンテナを一段積んだ短い貨物列車は走り出す。
スフェーンの車両は最大三段積みも可能だが、空気抵抗やらを考えると一段積みの方が軽いし早いしおまけに見た目もスッキリする。
「加速性能ならこっちだって負けないぞ」
『電力が圧倒的に違いますので張り合うのはお勧めしませんよ?』
「元々単機で勝てる相手じゃないさ」
もはや一つの動く要塞と化しているその車両はおそらく専用軌道に入ったのだろう。速度的には追いついているはずだが。その姿は確認できなかった。
電子グローブで周辺の路線図を確認すると、鉄道管理局の公開している他列車の現在位置も含めた今の鉄路の様子が映し出された。
『カール・ポート到着までの進路設定。自動運行に切り替えます』
「了解」
基本的に列車の運行は自動運転が基本だ。なにか緊急事態が起こった時のみ、手動での運転に切り替える。
まぁ、そういう時は大体野盗やレジスタンスが襲ってきた時なのだが……。
『久々の手動運転は楽しかったですか?』
「ああ…」
マスコンから手を放し、窓から荒野の景色を眺める。
大災害のエーテル噴出により大地は汚染され、この星の緑は大半が失われた。一部では降り注ぐエーテルに対応した植物が急速に拡大していると言う話だが…。
少なくとも自分という存在が誕生してこの方、森というのは見た事がなかった。
「ちょっとオートマトンを見に行くか…」
『ならば自己防衛用装備の点検を開始します』
列車の自己防衛用の装備の30mmガトリング砲。元々置かれていた車両をそのまま使っているので些か火力不足は否めない。
「やれやれ、金ばかりが消えていくな…」
『何事も始めたては火の車です。車両の火力向上を行うのも一考と思います』
必要事項に車両の武器換装が入るとスフェーンは軽く溜め息を吐きながら運転室の真後ろにあるのオートマトン格納コンテナに入った。
運輸ギルド登録情報
運輸ギルド登録番号:790824
本名:スフェーン・シュエット
職業:無契約運送業者
犯罪歴:無し
所有車両番号:POFT300407
依頼達成率:100%
メモ
半年前に登録を済ませた新人の運び屋だが、腕は立つようで依頼達成率は今の時点で100%だ。
仕事も順調にこなし、我々から仕事を与えるに足る人物であると推定。
運送量は少量であるが無契約の運送業者なので、非正規依頼は容易いだろう。ただし、単独で動いているようでこの先の情勢によってはPMC傭兵を派遣する必要有り。
無口で正体が分からないのが少し不気味だが、真面目に仕事をこなすので企業にとっても扱いやすい駒となるだろう。
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