パトリシア立憲王国を建国する際、女王となるアンナ・パトリシアには多くの援助があった。
元々は『万病を治癒可能な聖女』として優れた異能者であった彼女は、後に民を率いて国の指導者へと上り詰めた。彼女はその際に援助を行った見返りとして交流の深い順から爵位を授けた。有名なところで言えばアンデルセン財団やサックス家だろう。
当時は専制君主制国家として建国を国際的に認められた当時のパトリシア王国では、そうした国際的に影響力のある家々が貴族に名を連ねていた。
現在、この国には十二の大公と二三の公爵が存在している。
「サックス家は王国建国時に協力をした公爵家の一つ。十二大公と違い、直接の血族ではないが列記とした貴族」
「それも公爵。いつぞやの際に王族と結婚したと言うことだ」
ジェローム・サックスから始まった系譜であるサックス家も、パトリシア王国建国の際に傭兵団を率いて建国を援助した歴史から公爵の地位を授けられていた。
「三男とはいえ公爵家」
「なんでウチみたいな庶民の家に遊びに来るかね」
「王立学校に行かせたら貴族とも交流しなきゃならないってことだ」
そうしてデミグラスソースをかけてバンズを挟み込んでハンバーガーを完成させる。
サックス公三男、アンドリュー・サックス。公爵家の三男ともなれば、どこかしらの家と政略結婚で婿入りするのが伝統的な文化である。
「サックス公は、傭兵の血筋でありながら爵位を貰った珍しい家系」
「しかもアンデルセン公と同様に直系の一族であり、共にウエルズ大陸出身」
「故に両家の仲は良い」
世界唯一の大陸国家であるパトリシア立憲王国。そこの貴族は今となれば世界に名だたる名家ばかり。
その中でもサックス公とアンデルセン公は暗暦から家系図を持っていると言うことで公爵家の中では特別な存在として扱われていた。
「そこら辺はご本人に聞くのが早いでしょ」
「詳しい貴族を知っているのか?彼女は」
「王が変わるたびに顔を出してるって言う話だけどね」
とても余人には聞かせられないようなとんでもない話をした後、完成したハンバーガーセットを両手に持って運び出す。
牛脂で揚げたフライドポテトも付けた旨味と背徳感たっぷりのセットである。
「しかし、あのアンドリューって子。ビビるくらい君に似てたね」
「君がそう言うなら…余程だな」
彼女はそう言うと、ある準備を始めた。
「ん?」
そこでスフェーンは、厨房のフライヤーの前でジャガイモをスライサーに通して薄切りにしていくサダミを見た。
「何作ってるの?」
「
「おお、美味いやつやん」
厨房にフライヤーがあるこの家では、揚げ物を派手にやることができた。
「揚げ物をやらない家はだいたい不幸な家だからね」
「何それ?」
スライスしたジャガイモを水にさらして余計なデンプンを落としたジャガイモを前にサダミは言った。
「今までの経験」
「おおう…」
長い間、ここで店を構えてきた経験者の言葉は重かった。正直、揚げ物を『できない家』は知っているが『やらない家』と言うものをスフェーンは知らなかった。
そしてさらしたジャガイモを取り出して水気を切り、ジュワッと音を立てて揚げられる薄切りのジャガイモ。
「良いねぇ、味付けは?」
「塩でいいだろう。誰も喧嘩しない」
彼女はそう言ってフライヤーの網を持って色が変わる様子を見る。
「よし、出来上がり」
そして出来上がった一枚をサダミが手に取った時、
「いただき!」
横からスフェーンが顔を出してサダミのつまんだポテトチップスを持っていく。
「んん〜、美味い!」
「…はぁ」
その様子を見て呆れてしまうサダミ。サクサクと音を立てていたポテトチップスを再度手に取って食べてみる。
「うん。良さそう」
揚げたてのそれをボウルの中に入れると上から塩をひとまき。ボウルを持ってかき混ぜるとせとものの皿に盛り付ける。
「のりしおにはしないのね」
「それは私の好みだ。お客が好きかどうかは分からない」
ジェローム・サックスには八人の子供がいる。五人の男児と三人の女児はそれぞれが遺言に則ってサックス家の仕事を引き継いでいた。
すでに彼の死は確実なので首を傾げられることはないが、どことなく直径の子孫となると気になってしまうのがサダミの思いであった。
「おーい」
階段を登って呼びかけると、三階のドアが開いて響が出てくる。
「どうした?母さん」
「これ、皆で食べなさい」
「はーい。ありがとう」
響は出来立てのポテトチップスを受け取るとそのまま部屋に戻って行った。
「何だった?」
「母さんからだって」
ベランダで椅子を並べてゲームをしていた時雨が聞くと、響は片手にポテトチップスを持っていた。
「おお!作りたてじゃん!」
それを見て時雨は飛びつくようにポテトチップスを食べ出す。
「呆れたもんだ…」
「花より団子ですね」
そんな時雨に呆れた視線を向ける響とアンドリュー。
「さて、さっさと課題終わらせるか」
「そうだね」
学校で同じクラブに所属する男二人はそう言うと、時雨に響が馬場チョップを入れて今日の学校の課題を終わらせにかかった。
王立学校に通うにしてはいささか家柄に問題がある二人だが、とある人物の推薦から二人は王立学校に通っていた。
「じゃあここの積分は…」
「こっちは不定積分になるよ」
「うげぇ、雲旗先生の課題キッツー」
本来は王族や貴族が通うような学校に、響や時雨のような一般家庭育ちの生徒は違和感が出てくる。
国名の通り、立憲君主国家であるこの国では貴族と平民の間は見えない境目がいくつもある。
「(…なるほど)」
しかし、王立学校に通っていても違和感のない二人の理由がアンドリューには理解できた。
「(二人の家はお金持ちなんだ。だから振る舞いも整っているんだ)」
それはこの庭園を見ればすぐに理解できた。
こんな王都の目立たない区画にあるとはいえ、これほど丁寧に管理された庭園を持っている時点で店は特別なことを使うことを想定して作られているのは一目瞭然であった。二階は個室と言っていたが、廊下に足音が響かない時点でとても良い防音設備を持っていることが一瞬で把握した。
「(何より二人を育てた母。母子家庭とは聞いていたけど…多分、響が『小母さん』と言っている人から教え込まれたんだな)」
アンドリューは生まれた時からの教育で人を見る目を持っており、先ほど会釈をしたスフェーンから貴族に似た雰囲気を感じ取っていた。
「しかしこれ美味しいね」
「出来立てだからね」
その時、アンドリューは食べたポテトチップスの美味さに思わず言ってしまうと、三人はそれを食べながら課題を解いていた。
「終わった〜!」
そして全ての課題を片付けて満足した時雨。バルコニーで課題を解いており、時折貨物線を通過する列車の音を聞いていた。
「しっかしいい庭園だな〜」
「でしょ?ぶっちゃけお気に入りなのよね」
「でも大学に行かないなら追い出されるけどな」
ケラケラと笑って響が言うと、彼は帰りに駄菓子屋で買ったシガレットを咥える。
今日は時雨の提案でアンドリューを自宅に連れ込んでいた。帰りに駄菓子屋に寄ったりカラオケに行こうとしたりと、珍しい体験を前にアンドリューは新鮮さを感じていた。
「二人はいつもこんな感じなの?」
「そうね〜、店を開けてる時はこんな感じ」
「小母さんが帰ってくる時は駅に集合だったりしてる」
ちょうど時間帯は日の入りの時刻。この上に屋根裏部屋があるとはいえ、ベランダで三人は地平線に沈んでいく太陽を見ることができた。
「お店って、どのくらいで閉まるの?」
「ん〜、今日はバー営業もするから遅いね」
「え?でも喫茶店じゃないの?」
「バーもやっているんだよ。定期的に」
「へぇ…」
アンドリューはそこで少し興味を示した様子だったので、反応を聞いた響が言う。
「バーに行くなよ?未成年だったら捕まっちまう」
「あっ、悪い子だ〜」
「それくらいわかってるよ」
子供でもわかる常識だとアンドリューは言って反論する。そして彼は腕時計で時間を見てから立ち上がる。
「さて、僕はそろそろ帰らないと」
「おっ、そう?」
「見送ろうか?」
もうそんな時間かと響が部屋の時計を見て時雨が提案するが、アンドリューは軽く首を横に振った。
「大丈夫。そろそろ迎えもくる頃だし」
彼はそういうと、事情を察した時雨が言う。
「かぁ〜。流石に忙しいか」
「ううん、いつもの頃だからね。もう慣れたよ」
彼はそう言って肩をすくめると響が付いていく。
「明後日の発表、頼んだぜ」
「ああ」
同じクラブの二人は、前年の頃からの付き合いの友人であった。
二人はそのまま店の入り口に向かうと、そこで喫茶店を通過して店を出る。
「じゃあな」
「また明日。学校で」
アンドリューと響はそう言うと、店先に停まっていた黒塗り高級車のドアが開いてアンドリューを乗せて行った。
車が見えなくなるまで響は見送ると、彼はその後に店を戻った。
「さあ、手伝ってもらうよ」
「えぇ〜」
そして直後にサダミ腕を引っ張られ、私服に着替えてからエプロンをつけて強制的に働かされた。
「ほら、トマト無くなりかけてるから走って買ってきて!」
「俺もうクタクタだよ〜」
「男でしょ?行ける行ける」
「そんな根性論なんか旧暦時代に終わってるっての!」
そう言いつつも店用のカードとエコバッグを持って出て行く。その間、スフェーンも三階に隠れやり過ごそうとした時雨を強制着替え&引きずり出して強制労働である。
「時雨、盛り合わせ一つ」
「ひ〜!もうバー営業なの?!」
「違う。上の予約客」
「とっとと帰ってくれよ〜」
手伝いに駆り出された時雨は、育て親に言われてヒーヒー言いながら厨房に立つ。するとそれに気がついた座敷席に座っていた常連客が聞いた。
「お?時雨ちゃん厨房入りか?」
「そうよ〜」
サダミが頷くと、常連客達にとっては『夜のメインの注文許可』の合図であった。
「じゃあアスパラのバター焼き」
「俺、アサリの酒蒸し」
「焼きそばくれ〜」
「んも〜、注文早いっての!!」
そんな常連客達に時雨はやや怒鳴り気味に返した。
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