TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#407

「オーラーイ、オーラーイ」

 

両手に誘導灯を持ちながら黄色いヘルメットを被ったサダミが誘導を行う。

 

「ストップ〜」

 

視線の先には赤い尾灯を付ける合造車の幌。朝霧が発生する早朝のとある操車場で分岐点を通過して列車が熱く乾いた排気を出しながら、巨大な三つのスポーク動輪を回転させて後進していた。改造された合造車と二台の炭水車を連結したその列車はその後ろに多数のホッパ車が並んでいる。

 

「何メートル?」

「五メートル」

「了解」

 

運転室で操縦を担当するスフェーンが聞くと、一旦停車した後に誘導灯に従って列車を自動連結器で繋げる。

 

ガシャン!

 

重い金属同士がぶつかる音が響くと、空のホッパ車がわずかに音を立てた。すると操車場に一人の初老の男性が来る。

 

「悪いね。ヘルプ頼んで」

「いえいえ、依頼されたら断りませんよ」

 

彼は港湾地区の貨物輸送を担当する鉄道管理局の職員であった。彼は喫茶店の常連客でもあった。

 

「この時期は輸出量が増えるんだ」

「今回は小麦ですか」

 

そこで穀物専用にクリーム色に塗られているホッパ車を見る。

 

「どうしても本線級の機関車の方が牽引力があるからね。頼んだよ」

「分かりました。とりあえず受け取りに行きますね」

「ああ、気をつけて」

 

そこでスフェーンに答えると、彼女はそのままエーテル機関の出力を上げて早朝に渡されたスジに沿って貨物線に繋がる分岐点を通過していく。

 

『信号青、閉塞良し』

「本線進入、良し」

 

手元でブレーキとマスコンを操作しながら列車は複線の川沿いの路線を走る。五〇両連結されたホッパ車はそのまま港湾地区の操車場から貨物線に入っていく。これから山間部のサイロと港湾部の小麦輸送に従事する予定であった。

 

「しかし、いつもは路面機関車が走る場所に幹線級機関車ですか」

 

その列車を見送り、最後に連結された制御車を見送ったサダミが言う。

 

「昔から手伝ってくれてるそうじゃないか」

「まあ初代の頃からこの時期はそうですね」

「ははは、さすがだよ」

 

不老者ならではの感覚に職員はもはや理解が及ばない話に思わず苦笑してしまう。先代に連れられて紹介されたが、この二人は国ができた当時からあの場所に住んでいると言い、一説によるとあそこはアン1世に下賜されたという噂もあった。

 

「まあ、ここの路線は鉄道管理局が定める二級路線。あのサイズの機関車なら問題なく走れるさ」

「今まで事故はありませんでしたけど…」

 

これから穀物を受け取りに向かい、港湾地区の穀物備蓄基地まで運ぶ依頼を受けているスフェーンはナッパ服を着て機関車に乗り込んでいた。

 

「〜♪」

 

運転室でスフェーンはマスコンを操作しながら川沿いの路線を走る。見慣れた景色の中を敷かれた二本の線路は朝霧の中を前照灯を照らして走る。

路線は隣を流れる河川の堤防に沿うように敷設され、そのまま王都を抜けて郊外の農耕地区に向かう。

 

「こんな早朝からよくご機嫌ですね…」

 

その斜め後ろの幌に立つアンドリューがやや唖然と見ていた。

 

「小母は昔からこんな感じぞ」

「むしろ私としてはこんな小学生しかやらんような事を大の高校生がやる事実に驚きなんだが?」

 

反対の機関助手席で仮免を持っている響が代わりに答え、やや苦笑気味にド偏見をぶち込むスフェーン。今日の運行にはこの二人に、今も寝たままの時雨が同行している。目的は物流網の視察と近年の鉄道経営の合理化の有効性だとかを見て論文にまとめるとかなんとか…。まだ梅雨にも入っていない時期にこれである。早ぇよ。

 

「一応、社会見学自体は高校生でも最近はやるんですよ?」

「マジか」

「俺は知らないけど、王立学校以外でこういうのってやるの?」

「さぁ?今のカリキュラムなんて知らないし」

 

そこで青信号である事を確認すると、新しい閉塞区間に入ってタブレットを触って信号を送る。

 

「流石に手慣れていますね」

「まあここら辺はマジで昔と比べて平和だからね」

 

色々と変わってしまったものだとしみじみとした様子で語るスフェーン。

 

「…因みにどのくらい?」

「建国直後とか?まあ一番古いと本当に世暦二桁の頃に来たかな」

 

恐る恐る響が聞くと、アンドリューは驚愕した顔を見せた。

 

「…桁違いの古さですね」

「本当によく覚えているよね。『資本権威時代』のこととか知っているんだからさ」

 

もはや呆れてしまいそうな表情をするアンドリュー。前に聞いていたとはいえ、その圧倒的な歴史を感じさせない雰囲気に唖然となる。

 

「よくそれほど生きていて雰囲気が隠せますね」

「技よ技。これくらい出来ないとすぐに不老者って死ぬから」

「「…」」

 

二人はそう言うと、今まで歴史上に名を残してきた多くの不老者達の結末が過ぎる。

 

「大体が暗殺か処刑されて消えていくからね。不老者って」

「それは…まあ」

 

大抵がその権力者となって生きることになる不老者。見た目も変わらず、永遠と細胞分裂を繰り返して生き続ける不老者は、その特性から一般人とは違い多くのルールが適用外だったりする。

 

「だから私たちはずっとあそこで暮らしている」

「…上に立とうとは思わないんですね」

「ヤダよ。上に立てばその分他人の人生も背負わなきゃならなくなるもの。そう言うのは長い間そう言う教育を施された人間にやらせればいいし、やりたい奴がどうせ出てくるから、そう言う奴に任せればいい」

 

堂々とした責任転嫁であるが、いっそ清々しいので逆にスッキリしそうなものだった。

 

「そろそろ信号」

「OK」

 

そこは黄色信号が出ていたので、列車は一度信号前で停車をする。

 

「さて、少し休憩するかね」

 

スフェーンは列車を止めて響の方を見ると、彼は席を降りて運転室後部の機械から湯気が立つお湯が出てくる。

 

「これは?」

「ボイリング・ベッセル。王国軍の戦車とか装甲車にも搭載されている湯沸かし器よ」

「へぇ…便利ですね」

「実際レトルトとかも温められるから重宝している」

 

そこで響が持ち出した綺麗な陶器。アンドリューは産地が気になった。

 

「喫茶店でもそうですけど、クサビさんはこう言った陶磁器が美しいですね」

「そう?色々と運び屋の仕事で気に入った陶器を買って帰ったりしているのよね」

 

少し得意げに彼女は言うと、湯呑みを受け取って傾ける。この作品もとある旅で手に入れた一品だった。

 

「センスは母さんよりも小母の方が良いからね…」

「やぼったいのよアイツは」

 

ため息を吐く響にスフェーンは答えると、信号が青に変わったので列車はゆっくりと走り出す。流石にこの長さのホッパ車となると空貨車でも重量がある。

 

「もうすぐ分岐点」

「了解」

 

そして川沿いの複線区間を走り終えると、王都外縁の超々高層建築物などが消え始め、次に巨大なプレハブの工場群が現れ始める。

 

「食品工場ですか?」

「ここら辺はみんな植物工場ね」

 

国策として食料自給率八〇%を目標に定め、穀物や野菜の育成を行っており、この国では麦や米と言った穀物は輸出対象となっている。

多くの企業の創設した農場都市は多数の農作物を生産しており、穀物を貯蔵するサイロが無数に並んでいる。

 

『当該列車は五番ヤードにて待機』

「了解」

 

管制塔からの誘導を聞き、列車は分岐点前で停車した後にポイント切替が行われた事を確認してからゆっくりと進み始める。

空から永遠とエーテルが降ってくるので、まともな農場をやろうとするとどうしてもコノハナのような広い土地が必要になり、活性化エーテルは植物を枯らす効果があるのでビニールシートが必要となる。

そうなると必然とそうした天然物は値が上がる。一部見栄っ張りな小金持ちなどがこぞって買うので需要があるとか。

 

「解結するよ」

「はーい」

 

列車を止めると、すぐにスフェーンは響に言って彼は列車の後ろに走り出す。

 

「時雨、起きろ」

「んにゅ〜…」

 

そして合造車の二段ベッドで寝ていた時雨はまだ寝言を言いかけており、少し腹を立てた響は彼女にデコピンを入れた。

 

「ってぇ!」

 

スフェーン直伝の激痛デコピンを喰らって一瞬で目覚めた彼女は赤く染まったデコを抑えて起き上がった。

 

「解結作業するから急げよ」

「ひっでぇ」

 

弟に雑な扱いをされたことに不満に思いながら合造車を後ろに走る彼女。列車の貫通扉を開けると、その下でジャンパ線をすでに外している響を見下ろす。

 

「尾灯照らして」

「はいはい」

 

子供の頃からスフェーン達にやらされたので、二人は手慣れた様子で解結作業を行う。

運転室では列車情報が無くなったのを確認してスフェーンがインカムに聞く。

 

「どう?」

『錠外せる』

「OK、始めようか」

 

そこでブレーキ解除を行い、合造車に付いているカメラの映像を軍用ゴーグルで網膜投影をしながらマスコンを操作する。錠を抜かれた自動連結器は簡単に外れると、五メートルほど間を開けて一度停止。安全に外れたのを確認した響が乗り込んだ後に機関車は空の貨車を置いて転車台に向かう。

そして方向転換を終えると一本隣の待避線を走り、既に穀物を積載した五〇両のホッパ車と連結を始める。

 

「流石に手慣れてますね」

「まあ昔から手伝わせてたからね」

 

簡単に解結・連結を行う響と時雨にアンドリューが舌を巻くと、横でスフェーンは理由を言う。

 

「子供?」

「そそ、まあ中学生の頃から手伝ったかな」

「え?それダメじゃあ…」

「バレなきゃ良いのよ。響に関してはもう仮免持ってるし」

 

鉄道管理局の規則に違反している発言を聞いて苦笑するアンドリュー。基本的に想定されていないとはいえ、子供に解結作業をさせると言うのは危険極まりなかった。

 

「そういえば響はホバーバイクも持ってましたね…」

「ローンで買ったらしいけど、通学に使えないんじゃ意味ないわよね」

 

そう言うと聞いていた響がやや不満げな顔をして助手席に座る。

 

「じゃあ校則変えてくれよ」

「出来たら苦労しないよ」

「アンディ?」

「うーん、どうだろうなあ…」

 

流石に聞かれて苦笑するアンドリュー。王立学校の校則ではバイク通学は許可されているが、ホバーバイクは禁止されていた。

 

「聞いてみることもできるとは思うけど…」

「マジ頼む。休みくらいじゃないと使えないんだ」

 

懇願する彼に『流石に僕でも無理な気がする』とアンドリューは苦笑していた。




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