TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#410

「最近はよくオフィス街に出かけていると言う話だが…」

「はい」

 

アンドリューはソファに座りながら正直に頷いた。

場所は王都中心部、サックス公タウンハウスの執務室。この国の領地を分け与えられた王侯貴族は王都にタウンハウスを用意し、自領にカントリー・ハウスを持つことが最低ラインであると言われていた。

 

「で、態々許可を貰いに来たのか」

 

『常に公平であれ』を家訓に掲げ、子供に相応の教育を施すサックス公爵家。三男アンドリュー・サックスもその家訓に従い、長男同等の教育を施されていた。

 

「お願いできますでしょうか?」

「…」

 

王国に従属する二三の公爵の一つであるサックス公。

 

「アンディは徴兵検査も基準外だったな」

「…はい」

 

少し影を落として頷くアンドリュー。春先の身体検査でも徴兵要項に満たしていないという理由で徴兵不適の診断をされた彼は、軍への入隊も門前払いという扱いを受けてしまった。

一般的に貴族の間で徴兵逃れは貴族ではないと言う烙印を押される。すると顔に出ていたのか、彼の父は少し微笑んで言った。

 

「心配するな。『行かない』と『行けない』では天と地ほどの差がある。徴兵に行けないことを言う人間はその常識を知らない人間ということだ」

「分かっています」

 

公爵の男としての教育を施された彼は、見た目も中身も、身長以外はもっとも初代当主のジェローム・サックスに似ていると言われて育ってきていた。

 

「まあ聞かれた身だから言わせてもらうと、『自由にしてくれ』と答えておこう。学業に支障をきたさない程度ならどうしようと構わん」

「わかりました。ありがとうございます」

「…生真面目だな。私だったら特に聞きに来ないぞ」

 

どこか呆れるような目線で言われ、アンドリューは苦笑して返す他なかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「やれやれ…」

 

店先で箒で掃きながらため息を吐くのはルシエル。彼女は軽く首を回してから店先の路地を見る。

制服の着物を纏い、スフェーンのミニサイズ版に見える彼女は、時雨達には遠い親戚の不老者として言っていた。彼女は今、他のリソースを振り分けて我慢していた。

 

「お待たせ〜」

 

するとエンジン音が聞こえ、雁木造りの軒先に一台の三輪(ダイハツ)自動車(ミゼットMP5)が止まる。乗っているのはスフェーンであった。

 

「危ないですよ。馬鹿なんですか?」

 

そして開口一番ルシエルはスフェーンに怒鳴った。彼女が軒先で箒を履いている間に、スフェーンは裏の車庫から走り出してコの字で回ってきていたのだ。

 

「試してみたかったのよ」

「私が溶けたのを見られたらどうするつもりだったんですか…!?」

「こんな朝っぱらに出る奴なんかほぼいないよ」

「ほぼって言っている時点で自覚ありますよね?」

 

箒を片付けながら詰る彼女はそのまま運転室に乗り込むと、スフェーンがアクセルを踏んで走り出した。

 

「何を買うんですか?」

「知り合いの農園から郵便があるらしくてね。駅着だから取りに行くの」

「ああ…この時期ですと、梅と桃ですか?」

「大当たり」

 

昔から贔屓にしている農園からの直送便。この三輪車は横転しやすいのがネックで安売りされていたところを安くサダミが買い叩いたのだ。

正直、これを買うなら普通の軽トラでよかったじゃんと思うが、これを言うと彼女から脳天チョップを喰らうので言わない方が身のためである。

 

「どうせなら自宅まで届けて欲しいですが…」

「だって戸口輸送のほうが安いんだもん」

 

赤信号でトラックは待っていると、横を警察の白バイクが抜けていく。

横断歩道を今時珍しい剥き出しのサイボーグ化された腕を降ろす男や電話をかけている獣人の女性。空ではドローンは配達業務を行なって近くで段ボール箱を投下する。道路も併用軌道を走る路面鉄道が乗降客を乗せて走り出す。

 

「…しかし、変わったわね」

「そうでしょうか?」

 

そんな様子を見ながら呟いたスフェーンにルシエルは首を傾げた。

 

「だってほら、昔と違って銃を持った人が少なくなったとは思わない?」

「あぁ」

 

指摘をされて、そこでルシエルは納得できた。時折見かけることはあるが、それは大抵が傭兵である。

一般人まで長物の銃を持っているという光景は、この見えている景色の中では少ない気がした。

 

「大体、この国で銃持ったまま店に入ると嫌な顔されること増えたじゃん?」

「まあ…それはそうですね」

 

そこでルシエルは考える仕草を取ってここ最近の国内での仕事の雰囲気を思い出す。少なくとも国内の治安は安定しているこの国では、傭兵以外が目に見えてわかる武器を持っていることはほぼない。昔から国軍による野盗討伐などにより、治安向上が成されている。

 

「拳銃規制も強化されていますからね」

「でもお二人は銃をお持ちですよ?」

 

ルシエルは時雨と響が拳銃持ちであることを指摘する。

 

「路線上じゃあね。護身用で認められているから」

「…呆れた物ですよ」

「ロケットランチャー使ってる奴に言われたかないでしょ」

 

そんな話をしていると王都の数多くある貨物駅の一つに到着する。中の鉄道郵便に行って受付を行うと、すぐに荷物はターレットトラックで運んできてくれる。

 

 

 

多数の牽引台車付きで。

 

 

 

「どうやって載せんのよ!?」

「今年は豊作だったから、お得意さん価格でおまけしてくれたそうですが…」

 

愕然となるスフェーンの隣で同封されていた手紙を読むルシエル。ざっと牽引台車五台分の段ボールである。しかも山盛り。

 

「桃が二台分と梅が三台分…」

 

見てみなさい。運んだアンドロイドも『え?この量食べるの?』という怪訝な目をしているぞ。少なくとも注文した三倍は届いている。

 

「これだと作業に時間がかかりそうですね。来年の梅酒には困らなさそうですが」

「それ以前に運べる?これ」

 

この軽トラックに載せられるのは最大三五〇キロ。限界まで積んだとしても一回で運べるか疑問である。

 

「だから四輪にしなさいって言ったのに…」

「それ以前に軽トラは最大で三五〇キロまでしか想定されていませんよ」

 

ルシエルはそう言いながら段ボールを抱える。

 

「最悪、私の膝の上に乗せればいいだけですし」

「過積載で怒られらたかないよ。私は」

 

ややジト目でスフェーンは段ボールを抱える。この段ボールは一個につき十キロ。ご丁寧に冷蔵便である。

とても他人である駅員さんに『要りませんか?』なんて聞けるわけもないので、困惑気味の視線を受けながら積み荷を乗せていく。

 

「大丈夫?」

「過積載は二倍以上積んでなければバレませんよ?」

「…マジで横転しないようにしないと」

 

スフェーンは桃の段ボールを持ちながら思った。

 

 

 

そして何とか全ての荷物を乗せて、幌を張って慎重に帰路に着いて軒先に停車する。

 

「サダミ〜、手伝っ…」

 

そして降りて即刻、店の暖簾を潜ると、カウンターでアンドリューが座ってサダミと話していた。

 

「ああ、お帰り」

「手空いてる?」

「無いから時雨達呼んで」

「おーい」

 

スフェーンは階段に向かって叫んだが、返事がないのでルシエルを出動させる。

 

「あの子は?」

 

すると見知らぬ少女にアンドリューが首を傾げると、サダミが言う。

 

「ルシエル、クサビの親戚だ」

「え?親戚?」

「無論、不老者だけどね」

 

するとルシエルは階段を降りてきて、その両腕にはズルズルと首根っこを掴まれて降ろされる時雨と響の二人。

 

「ちなんどくと、この三人の中で一番怖い」

「…」

「あなたに言われるのはいささか不満ですよ」

 

絶句するアンドリュー、サダミに反論するルシエル。

 

「ほら、働いてください。終わったらスフェーンが回転寿司を奢ってくれますよ」

「え?」

 

突然話を聞かされ、目が点になるスフェーン。

 

「っしゃあ!三貫盛りぃ!」

「大トロ死ぬほど食ってやる!」

 

回転寿司・奢りと聞き、途端にやる気を出す二人。せめてサ○ゼにしてくれよ財布に優しいんだから。

しかし普段であればタダ働きなところ、寿司というバイト代があることで二人はセカセカと荷下ろしを始める。

 

「ねえ、なんか量多くない?」

「豊作で割増キャンペーンだってさ」

「だからこんなに積んでいるのね」

「飛んだありがた迷惑だな」

 

そうして座敷席に次々と積み上げられていく梅と桃の入った段ボール。

 

「なんだ、ここは農園の直売所か?」

 

揶揄うように積み上がっていく段ボールを見て常連客が言った。

 

「桃が痛むからそれ以上積むな!…んなわけあるかい」

 

指示を飛ばしながらスフェーンは呆れて返す。

 

「それ、桃と青梅かい?」

「そうだよ。いるかい?」

 

テーブル席に座っていた老人の質問に頷いて段ボールの一つを持って行かせる。

 

「はぁ〜、こりゃあいい梅だ」

 

元農業公社に勤務していたベテランは一発でそれが工場生産された物ではないと理解する。

 

「こんなに不揃いな梅は農園育ちだ。飯豊さん、こんな良いもんを仕入れていたのか」

「当たり前さ。これ使って仕込んでんだから」

「何と贅沢な…」

「案外、農園に直で行くと安かったりするの。茶葉も一番なのは現地に行かなきゃ買えないのと同じよ。ほら」

 

スフェーンは事情を話しながら常連客に梅を入れたビニールを手渡す。

 

「これは家内も喜ぶ。悪いね」

「いえいえ」

 

軽く彼女は首を横に振ると、それを見ていたアンドリューが言う。

 

「気前がいいですね」

「消費出来ないなら、分けてもらったほうが無駄にならないと言うことだ」

「そう言うことですか」

 

そして全て運び終えたのだろう。ルシエルが最後に桃の箱を座敷に並べて店内に甘い香りと青臭い香りが漂う。

 

「で、なんでアンドリュー君はきたんだい?」

「ああ、その件で一つ吉報」

 

サダミはそこでポンとアンドリューの肩を叩く。

 

「今からバイト追加」

「よろしくお願いします」

「…ほぉ〜」

 

アンドリューは席を降りて一礼をしたので、品定めをするようにスフェーンは彼を見た。

 

「え?!」

「アンディがここでバイトするの!?」

「はい。親から許可は取りましたので」

 

頷くと、梅の段ボールを見た響達は光が差したような顔をした。

 

「親から許可って…」

 

生真面目だなぁ、と本当に昔のジェロームを見ているような気分になりながらスフェーンは苦笑する。

 

「あれ?前に絢音さんで精一杯とか言ってなかったっけ?」

「問題なく払える。高校生だから安い分ね」

「へぇ〜」

 

今からバイトになったアンドリューに響達は驚いていた。

 

「それで、この店では給仕をすればいいのですか?」

「あ、それはね…」

 

するとそこで響がアンドリューの手を引いて縁側に座らせる。

 

「え?何を…」

「まあまあまあ…」

 

時雨も不気味な笑みを浮かべながら見てくるので、嫌な冷や汗が垂れてくる。

 

「よっと…」

 

縁側と庭園の間には一本の清流が流れており、川から引いた水が流れている。

 

「何をするの?」

「これ」

 

疑問に思った彼に響が段ボール一杯の青梅を見せる。

 

「梅の下拵えをしっかりしないと、梅酒ってカビたりするのよ」

「は、はぁ…」

 

アンドリューに竹串が持たされ、両脇を響達に座られてがっちりと抑えられる。

 

「まず梅を洗うところからで…」

 

そこで段ボールを横にして上流から一気に青梅を流し込む。梅は清流の網に引っかかって止まると、そこで梅を洗って次の区画に放り込む。

 

「んで、直送の青梅だから大きさごとに分けて、水にさらしてアク抜きをして、乾燥させて、水気を拭き取って…」

「一つずつ竹串でこのホシを取っていくの」

 

そこで時雨が取り出した梅のなり口を見せて指さす。

 

「え!?これ全部?!」

 

そこで彼は驚いた顔をして振り向く。そこには大量に積み上がった梅の入った段ボール。

 

「そうよ」

「んで、やってると寝てて瞼に青梅が浮かんで来るんだ。こりゃあ、三日はかかるぜ」

 

その時、両脇で死んだ目をした響達が梅を洗う。

 

「「フフフフフフ…」」

 

その時の二人の目は死んでおり、アンドリューはここにバイトに入ったことを心底後悔した。




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