TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#414

サラの吸っている葉巻はキューバ葉巻と呼ばれる、今の時代では名前しか残っていないブランド品である。

最高級の葉巻を示す代名詞であり、かつて多くの権力者が吸い、映画にも出てきたことのある銘柄である。

 

「あなたって、昔からそうだけどドレスもスーツも似合うってちょっと反則じゃない?」

「そうかね?」

 

移動中の車内。自動運転中にスフェーンとサラは話している。

スフェーンに関しては飲酒運転になってしまうが、彼女のアルコール分解能力は人外の域に達しており、軍警の抜き打ち検査でも引っかかったことは一度もなかった。

 

「スーツもいけたから燕尾服とかも諸々着せてみたけど…」

 

そこでサラは懐かしむようにスフェーンに着せた衣装の数々を思い出す。葉巻に火を付け、紫煙を昇らせてスフェーンに聞く。

 

「何でも似合うってどういう事?」

「私に聞かれても…」

 

スフェーンはそう答えると、そこで煙草に火をつけて二人は首を傾げた。

長い付き合いだが、スフェーンには多くの疑問が残っている。先の何を着せても雰囲気に合ってしまうところもそうだが、彼女の生まれもまだ判明していない。彼女がいうには昔傭兵をやっており、その節で列車をもらったとか。

 

「ふぅ…それで、この後どこに行く予定?」

「海か山か」

「両方は?」

「…相変わらずね」

 

スフェーンは呆れたため息をつくとサラを見る。

 

「まあ山の方で行きますか…」

「どこに行くの?」

 

サラは聞いてきたので、スフェーンはそこで聞いた。

 

「足腰って強い?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

列車はある地方都市に到着をすると、貨物駅を降りて旅客駅に向かうスフェーンとサラ。

 

「あら、バイクで行かないの?」

「途中までなら行けるけど…まあ電車に乗っけて行きますか」

「え?」

 

話を聞いて首を傾げたサラだが、スフェーンは対して気にしたそぶりもなく旅客駅に向かう。

 

「よっと…」

 

スフェーンのバイクは二人乗っても余裕のある超大型のリッターバイク。エーテル機関搭載車なのでエンジンを切って乗せる必要があった。

スロープを下ろしてからサラにヘルメットを被せて走り出す二人。

 

「静かね〜」

「まあ地方都市だからね」

 

閑散としており、遠くには昔話でしか見ないような形状の山が並んでいる。

貨物駅は港にほど近い場所で、多くのコンテナが積み卸し作業をしている。

 

「旅程は?」

「二泊三日。今日明日で山と海に行きます」

「最終日は?」

「静かな場所の予定」

「オッケ〜」

 

歳不相応なハキハキとした様子のサラ。正直、家族の方には申し訳ないが、今の彼女を止められる人間なんていないのが悲しい現実である。

 

「切符を一枚」

「分かりました。特大大型荷物ですね」

 

駅に到着をし、早速窓口でバイクを載せる切符を買う。

 

「エーテル機関搭載車は、車内では必ずエンジンを切ったまま乗せてください」

「分かりました」

 

切符を受け取るときに諸注意を聞きながらスフェーンはエンジンを切ったバイクを手押しでホームにあげる。

 

「へえ、このサイズでも行けるの」

「たまにダメだけどね」

 

駅のプラットホームで、指定の乗り場で待っている間にサラとそんな事を話していると単線の線路の上を警笛を鳴らして二両編成(高松琴平電気鉄道)の電車(600形電車)が入ってくる。

 

「ぶっちゃけ昔のヤツ(CT125)でよかったな〜って」

「買い替えなさいよ」

「愛着湧いちゃった」

 

エアコンプレッサーの音を聞いて車内に少しドーピングをしながら入れた彼女はそう言ってバイクを愛でる。

 

「やれやれ…」

 

それにはサラも理解した様子で苦笑をする。言っている意味は理解できるからだ。

 

「死んだらどうするの?」

「その前に売るわよ」

 

そう言いつつもしばらく事故廃車になるまでこのバイクに乗り続ける人の発言である。

 

「はっ。こう言うのはね、壊れるまで乗るタイプなのよ」

「よくお分かりで」

 

サラの的確な推測に自分でもそうなるだろうと思ったスフェーン。列車はのどかな田園地帯を走る。

 

「珍しいわね、ここまで緑が多いのも」

「ここら辺は除染活動もかなり活発にされているとか聞いてるけどね」

 

緑の山や木々が広がる環境にサラは興味深く見て、その横でスフェーンが解説を入れる。

 

「あのエーテル植物?」

「そうそう。ここら辺は綺麗な湧き水もあるら酒造が盛んだとか」

「おぉ〜」

 

地酒と聞き、途端にそれが気になる様子のサラ。

普段から良いものばかり食べてきた彼女が喜ぶのはスナック菓子ややっすいコンビニスイーツといった普段食べないもの。あるいはその地方でしか見つけない食べ物。

 

「良いわねぇ、地酒。えっと?地元スーパーの方がいいんだっけ?」

「そうそう」

 

スフェーンは頷くと、列車は他にも乗客の乗降がありながら終点の駅まで向かう。

 

「琴ゞ〜、琴ゞ〜」

 

終点の駅に到着して駅を降りると、目の前にはいくつかの土産が立ち並んでいる。

 

「ここは?」

「ここら辺の観光名所の神社」

「なるほど…」

 

神社と聞いて納得ができたサラ。場所的に山岳信仰のある神社なのだと推定できた。駅の近くにはコンクリート製の鳥居が設置され、まさしく観光名所として賑わいを見せていた。

 

「ここら辺では有名で、海の神様を祀っているとか」

「へぇ〜」

 

神社に観光に来たスフェーンに納得した様子でバイクを駐輪場に停めて境内に向かう。

通り道には多数の店が立ち並び、その道中でサラは石階段を見る。

 

「あら階段」

「これ登ってくよ〜」

 

スフェーンはそこでポケットに手を入れて階段を登る。

 

「この先も結構階段が続くらしいからね。気をつけて」

「ええ、そのようで」

 

サラはそこで見上げてわかるかなりありそうな参道を見て体力と相談を考える。

 

「杖いる?」

「まだ結構」

 

有料で杖の貸し出しが行われていたが、サラはそれを断って階段を登っていく。まだ階段は緩やかで、両脇には土産物屋が並んでいる。

 

「随分とまた長いわね…」

「まあね。健康にはいいんじゃない?」

「ババア相手にあまり無理させないでほしわね」

 

黙々と二人は話しながら石階段を登っていく。時折階段が何かしらの影響で少し浮いていたりするので、少し警戒しながら階段を上がっていく。

 

「斜行エレベーターとか、ケーブルカーもないのね」

「んな便利なものないよ。ここには」

 

何処ぞの登山鉄道みたいな便利な道具を求めるが、スフェーンは首えお横に振ってサラは顔が引き攣ってしまう。

 

「へっこらしょ。へぇ…」

 

そして階段を一〇〇段登り切ったあたりから少し息切れの様相を見せるサラ。

 

「大丈夫?おぶろうか」

「まだまだ…」

 

齢の割にはとても元気な彼女は、そこでスフェーンの手を借りながら階段を登りきる。

 

「はぁ…随分と長い階段ね」

 

そこで軽く振り返ると、眼下には山道と鉄道路線が軽く見えた。

 

「まあまだこれでも全然だけどね」

「そうなの?」

 

首を傾げるサラにスフェーンは頷く。

 

「ええ、とりあえずここで一旦休憩しようか」

 

そこで彼女は大門の前の休憩所らしき場所で売られている『冷やし甘酒』を見る。

サラも大門の奥を見ると、まだ参道が続いていることに思わず声に出して驚いてしまい、ここで小休憩がないとやってられないと感じた。

 

「これ二つ」

 

スフェーンガ注文を入れると、すぐに飲み物が提供をされたので傘の下に入って二人は休憩をする。

冷やし甘酒は砕いだ氷を少し入れた甘酒だが、三六五段の階段を登った後だと体に染み渡る感覚になる。これだけ登って汗もかいてしまったので熱った体をこれで冷やしてくれる。

 

「この歳になると階段登るのも一苦労ね」

「むしろ登れる方が意外なんですけど」

 

サラの呟きにスフェーンは苦笑気味に返す。少なくとも一二〇を超えた婆さんがサイボーグ化手術も無しでこの石階段を登ったことが驚きである。ついでに言うと彼女の両腕はサイボーグ化されているので、普通は一般人よりも移動するだけで苦労するはずなのだ。

 

「一応借りてきたんだけどなぁ…」

 

スフェーンはそこで先ほどレンタルした杖を片手に持つと、サラが言った。

 

「まだ登るの?」

「ええ、と言うかこっからが本番」

「…いったいどれだけ登るのよ」

 

まだ到着する気配すらないことにサラは疑問に思う。もしこれ以上登るなら本気で杖やスフェーンのおんぶも検討しなければならない。

 

「本宮までは下から数えて七八五段、山頂近くの奥社まで数えて一三六八段」

「アホですか?」

 

真顔でサラはスフェーンの顔を見る。

 

「ちなみにここは三六五段目でこざいます」

「…」

 

本宮まだ半分以下、最奥まで四分の一程度であるという事実に愕然と顎が下がってしまうサラ。

 

「本宮で諦めましょう」

「え?ここまで来たのに?!」

「ババアだっつてんでしょ?無理させんな阿呆」

 

サラにしては珍しく至極真っ当な返事が飛び出してきたことに軽く驚くスフェーン。

 

「ちょい、私を変人かなんかと同じにするんじゃないよ」

「あだっ」

 

すると思考を読んだようにスフェーンにデコピンを入れた。腕はサイボーグなので昔から変わらない痛みが襲ってくる。

 

「さて、行こうか」

「そうね」

 

そして気持ちを切り替えるように飲み終わったコップを片付けて大門を潜ると、そこでは少々面白いものが傘を立てた露店で売られている。

 

「何これ?」

「加美代飴だって」

 

そこでは扇形のべっこう飴が小さい木槌とセットで売られていた。

 

「このハンマーで砕いて食べるのか」

「そうらしいね」

 

売られている飴を見て二人は『とりあえず土産は帰りで』と言うことでそのまま素通りしていく。

 

「おぉ、ここは緩やか」

 

大門を抜けた先は一部段差や小さな階段はあるものの緩やかな坂が続いており、両脇に石灯篭や桜が鎮座している。

 

「この先にすごいの居るって」

「何?」

 

そこでしばらく道なりに歩くと、視線の先に大きな施設を見る。

 

「あっ、なるほど厩舎ね」

 

よく見ると二匹の馬が飼育されており、いわゆる神馬が暮らしていた。

 

「じゃあここからがそう言うわけか…」

「まだまだ先は長いよ〜」

「ちょっとしなくても地獄絵図よ。こんなの」

 

そこでようやく設置されていた境内の地図を前に軽く絶望しているサラに、スフェーンは労わりながら彼女を見た。




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