観光に来た神社で、階段登りという苦行をさせられているサラとスフェーンの二人。
双方ともにいい歳をし過ぎた婆ちゃん達であるので、側から見れば年寄りの冷や水に見えるかもしれない。
「ヒィィ…」
苦労してやっと境内に入ったことでさらに登らされる二人。
「ここから何段?」
「もう少し」
長い石階段を、杖をついて登っていくサラの一歩後ろでスフェーンが答える。
「へぇ…へぇ…」
肩から息をしながらサラは階段を登り切ると、支えていたスフェーンが言う。
「ここが本宮?」
「いや、旭社ってとこだって」
そこには総﨔造の豪華な木造の施設があり、屋根には銅板が使われていた。
「え?まだなの?」
こんな施設だというのに、本宮ではないと聞いて絶句するサラ。
「ここでお参りしちゃだめ?」
「ルールだと最後にここにお参りしろってさ」
引き返したいと思ったが、スフェーンの絶望的なお言葉を聞いてため息が漏れる。
「最後に一三三段の階段があるって」
「…無事に登れる気がしないわ」
「後ろから支えてるから」
スフェーンはそう言って森の中の石畳を歩く。
「はぁ…流石に静かね」
植林をされ、丁寧な保全がなされている山肌を見てサラは言う。
「歩いていると、他のことが考えられなくなりそうね」
「案外、煩悩が抜け落ちるってこんな感じなのかもねえ」
「それ神仏習合してるじゃないのよ」
横でサラがツッコミを入れると、取水舎が見えたが、看板が下ろされている。
「あ、水ないんだ」
「節水ですって」
そこには節水のために取水舎は運用を取りやめている旨が記されていた。
「今年は日照り続きなのかしらね?」
「どうせ人工降雨装置使うでしょ」
そんな事を言いながら森の中を歩く。よく育った木々の木の葉のおかげで日差しが遮られている。
「怖いわね」
柵から見える明らかに急な斜面を見て一瞬震えるが、スフェーンはそれほどと言った雰囲気で他の観光客と同様に石階段を登っていく。
「落ちたら終わりね」
「少なくとも土曜サスペンスになっちゃうわね」
急な石階段は一段一段が大きいこともあり、登るので結構体力を使う。おまけに柵が両脇にしかない非バリアフリー設計である。
下をチラリと見てその角度に思わず足が笑いそうになるが、それを杖をついて抑えて階段を一歩ずつ登っていく。
参道の途中にはいくつか小さな社も存在し、それぞれに神々が祀られている。
「まるで神様の集会ね」
「言えてる。本殿の先にも学問の神様の神社があるんだって」
そう話していると、二人の目に前にこれまだ急な階段が現れた。
「ここ?」
「そそ。この先に本宮でござぁす」
スフェーンはそう言うとやっと中間地点だと分かって表情が変わる。
「よっしゃ。行きますかね」
「腰逝くなよ〜」
そして石階段を登っていくと、だんだんと木のないひらけた空間が見える。
「おぉ〜」
そして登り切って視界に広がる本宮が見える。
「結構遠いわね」
「階段がある分余計にね」
取り敢えず登り切った開放感により、サラは近くの木陰で杖をついて休憩をする。
隣には展望台があり、そこからは広大な景色が一望できた。
「おぉ、流石に高いわね」
「標高どのくらいなのかねえ…」
展望台で景色を眺めて軽く休憩をする二人。七八五段の階段も登り切ると、上に上がるに連れて色々と考えていたことがどんどん抜けていくような感覚になる。案外、スフェーンの言っていることも間違ってはいないかもとサラは感じながら本宮に参拝をする。
片手に輪硬貨を持って二礼二拍一礼。一応、賽銭箱には独自通貨とウィール通貨で分けるように札がされているが、お構いなしに参拝客は放り込んでいる。
「ねえ、海の神様って何願えばいいの?」
「航海安全とか?」
「私船乗りじゃなんだけどなあ…」
「ま、何でもいいんじゃない?」
「雑ぅ〜」
本宮への参拝を終えて、この先につながる道を見ながらスフェーンはサラに聞いた。
「行けそう?なんか山頂近くまで登るらしいけど」
「登山じゃないの。難易度はいかほど?」
「さぁ?」
すると奥から子供が走って降りており、かなりの老人達も先に進んでいっているのが見えた。
「こんな感じ」
「なるほど…」
自分よりも年下が多い雰囲気の参道。いや、ここは山道というべきか。
「奥に四つくらい神社があるらしい」
スフェーンは隣でルシエルが調べてくれた情報を口頭で伝える。
「なら行きますか」
「無茶しないでよ?」
「勿論」
そこで比較的緩やかそうな坂道や階段を登り始める二人。ここも木々が生い茂った空間で、隣には多数の石碑が備えられている。
「うわぁ、流石に多いわね寄付者が」
「まあね。これだけ大きな神社だと…」
石碑には神社への寄付者が掘られており、中には旧暦の暦を使った石碑まで残されている。
「私も一筆しようかしら」
「やめといた方が良いかと。やるにしたって財団名の方が良いでしょ」
そんな事を言って石碑の横を歩く二人。
「まあ私も昔は霊能者とかにお願いをしたこととかもあったけどね」
「あ、やっぱそうなんだ」
「ええ、そりゃあ私だって人間だもの」
そう言った有名どころであれば桜花武士団のサクラ・ハマダが有名だろう。預言者として彼女は多くの権力者の相談を受けていた。
「サクラとかにお願いを?」
「まあね。彼女の噂は常々聞いていたし」
流石に彼女のような『一族』がいるような金持ちとなると、そうした『霊能』や『予言』を多く気にするところである。
無論スフェーンもそこら辺は重々知っていたし、昔家に出入りしていたそういう人がいるのも覚えていた。よく繁華街とかにいる世相占い云々ではなく、所謂『表に出てこない』霊能師たち。異能者の一部はこれで財を成しているとかなんとか。
「霊能に頼らない経営者じゃなかったのね」
「流石にそこまで規模がちっちゃくないもの。もう一族よ」
カジノ街の母はそう言うと、先ほどよりも比較的緩やかになった階段を登っていく。
「しかし、本当に登山ね」
「まあね。山頂らへんまで行くわけだし…あっ、一個めの神社だ」
そこで最初の神社を見つけて軽く参拝を行なってから参道を登っていく。
「さっきよりはマシね」
「まあでも短いの多いし、全体的に坂道だから時間がかかりそうよね」
奥社まで一三六八段の階段があり、今は大体どのくらいなのだろうか。
『この先の神社は九二三段目にあるそうです』
「(おお、サンクス)」
ルシエルがさらりと説明を入れてくれる。実に有能な姉である…私が妹ということにいささか不満があるが。
「おっ、これだこれだ」
そして登っていると、遠くに朱色の建築物が見えてきた。大抵あの色は神社に使われている色であった。
「二つ目の神社だ」
「やっとか」
先ほどのものより大きな様相の神社にサラは軽く母屋を見上げる。
「この先にもあるんだっけ?」
「そうそう。山頂近くの神社ともう一つ」
「へぇ」
サラはそこでスフェーンが胸に下げているネックレスを見る。それは昔、最初に出会った時に贈ったネックレスである。蝶の形を模したダイヤモンドが埋め込まれた装飾品。スフェーンと会う時は必ず彼女はつけてきていた。贈った側の人間としては物持ちがいいなと思うと同時に嬉しいと思った。
「…ん?」
その時、妙な違和感を感じて彼女の着ているジャケットの脇を見ると、そこに黒光りする
「えっ!?何持ち込んでんの?」
「ん?あぁ、自衛自衛」
聞かれてすぐにスフェーンは彼女が何を言ったのかを理解してやや適当に返す。
「馬鹿じゃないの?ここ所持禁止よ?」
「そうそう治安官いないって。こんな場所」
「こんな人ばっかの観光名所に治安官がいないとでも…!?」
サラは治安官に銃規制違反でしょっ引かれたくないと言外にスフェーンに詰め寄ると、彼女はそれをヒラリヒラリと交わす。
「大丈夫だって。悪いと思ってないもの」
「それが大問題だっての。私だって流石に持ってきてないっての」
「そもそも体力的に銃撃てないでしょ」
「それはアンタも同じでしょうが…!」
サラは
「まあ大丈夫よ。今のところ質問もされてないし」
この地域を取り仕切っている人物の意向により、民間人の銃の所持がこの地域では厳しく取締られていた。
「捕まったら?」
「護衛ってことで通す」
「マジかこいつ」
神社を後にしながらドン引きするサラ。スフェーンは完全に自分を盾にするつもりらしい。
「ま、あと四五〇段くらいあるから急ごうか」
「げっ、まだそんなにあるの?」
切り替えたスフェーンの話に顔を顰めるサラ。
「そうよ。まだ先は長いからね〜」
「はぁ…全く、よくそこまで杖なしで歩けるわね」
呆れた様子でサラはこれだけ登っても足腰がピンピンしているスフェーンを見る。
「そりゃあほぼ毎日動いていますから」
スフェーンは運び屋として常にどこかを走り回っており、彼女は自分の体が丈夫であることに自信を持っていた。
「羨ましいわね。そんな頑丈な体」
「サイボーグ化したら?」
スフェーンの提案にサラは即答する。
「ヤダ。私は老衰で死ぬって決めているの」
「はははっ、なるほどね」
今の流行り…というよりもサイボーグが実用化された時代から度々議論されるQOLについて、最も人らしい死に方というのを多くの人が求めていた。
「サイボーグは両腕で十分」
「まあその歳で腕を外さないのはすごいと思うけど」
そこで三つ目の神社を確認してそのまま目の前を過ぎると、そこから先にさらに階段が続いていく。
「へぇ…」
「よくやるね」
「ここまできたら登り切ってやる…」
「おお、コンコルド効果〜」
そこで最後の階段を登ると、石の鳥居が見えてきた。
「「着いた〜」」
そして一番奥の奥社に辿り着いた。
「うわぁ、いい景色だ」
「流石に疲れた…」
ともに白寿越えの老人二人は数時間かけて山を登り切って神社に辿り着く。
神社の境内からは本宮よりも雄大な景色が見え、参拝よりも登った達成感の方が大きかった。
「これ、無事に帰れるかな?」
そんな登り切った快感に満ちるサラの横で、スフェーンは今まで登ってきた階段を思い出して少々不安を覚えていた。
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