うどんタクシーを使わなくても二泊三日で十五軒ほどお世話になりました。
地元民に教えてもらったおすすめのうどん屋、美味しかったです。
神社への参拝を終え、あのまたクソ長い階段を降りる事となったスフェーン達。山頂にほど近いこの神社でスフェーンは思いついたように膝を地面に付けてサラに背中を向けた。
「ほれ」
「え?何する気?」
人間、階段を登る時よりも降りる時の方が体力を使う。その為、既に体力が限界を迎えつつあるサラに背中を差し出す。
「この後倒れられてリアル階段落ちなんて勘弁だから」
「Endless SHOCKじゃあるまいし」
サラは呆れつつも、少し不安を感じたのでスフェーンの広げた背中にお邪魔する。
「失礼するわね。よっと」
そしてサラがおんぶされると、スフェーンは簡単に立ち上がって階段を降り始める。
「あら、結構安定的」
「一番はレンジャーロールだけどね」
「私怪我人じゃないわい」
「でも腰やってるやん」
そんな事を言いながらスフェーンは階段をさっさと降りていく。実質的な山下りだが、ちょっとスピードが速いようにも思える。
「大丈夫?貴女が転けてズデーンとかやめてよ?」
「んな簡単に落ちるかい」
スフェーンはそう言って飛ぶように階段を降りる。少なくとも行きの苦労が何だったんだろうと思う肌には足が軽やかである。
「ひゅ〜、流石ね」
サラはスフェーンの鹿の獣人らしい坂道が得意な走り方に舌を巻く。
実際に言うと違うのだが、スフェーンは人を背中におぶっているにも関わらず、ひょいひょいと階段を降りていく。
あっという間に本宮に戻ってくると、そこでサラの注文で社務所の前に停止する。
「お守りいるの?」
「家族用にね。ほら、御朱印集めが趣味の子とかいるし」
「…よく覚えているわね」
二四人も子を作った女傑というべきか、自分の子供たちの趣味は全部記憶していたらしい。
サラはそこでいくつか神札授与所でお守りや御朱印を購入する。
「おみくじは?」
「え?やるの?」
そして別のテント下で用意されていた狗のおみくじを前にサラが聞いてきたので思わず驚く。まだそんなおみくじを引く年齢なのか?と。
「まあどっちでもいいけど」
「私はやってみるつもりよ?」
そんなわけでサラとおみくじを一つずつ購入。
「七種類あるんだ」
「いいわね」
そこでおみくじを一つずつ取って開いてみる。
「おっ、狗じゃん」
「良縁に出会い?もう遅すぎるっての」
サラは出たおみくじに苦笑すると、次にスフェーンのをみる。
「スフェーンは?」
「これ」
そこで中に入っていた隣の本殿を模した物を見せてサラはやや驚く。
「あら、一番いいやつじゃないの」
「大当たり引いたよ」
スフェーンは大開運のおみくじを引き当てると、それをポケットに入れて本殿を見る。
「運良いわね。相変わらず」
「なんでこれでガラポンとかは当たらないんだろうね」
スフェーンは首を傾げると、長年の付き合いでサラは即答した。
「欲深いからでしょ」
「ははは、違いない」
その答えに軽く笑って彼女は頷くと、回廊で繋がれているもう一つの施設を見る。
「しかし古い建物ね」
「昔からあって、色々と修繕をされているとかって話だけど…」
古い、今時珍しい木でできた施設を見て軽くそう言い合うと、お土産も購入し終えて帰りのルートの階段を降りていく。
「よっほっ」
「うほ〜」
若干恐怖が勝つが、帰りの方がサラは圧倒的に楽だった。
『現在、体内エーテル循環速度が早まっています。危険域まで残り四〇%』
「(了解)」
ルシエルの注意喚起に短く答えると、サラを背負ったまま簡単に降りていってしまう。あまりやりすぎるとエーテル結晶が突き出てしまうので、注意が必要であった。
「この先の旭社でお参りしたら飯食って次に行くわよ」
「OK」
そしてささっと旭社まで到着してしまうと、そこで一旦サラを下ろして参拝を行う。
「しかし帰りの早いこと早いこと」
「スタイリッシュに行きまっせ」
「タクシーじゃないのよ?」
そう言うと横を階段を登っていく籠が通り過ぎる。
「あら?」
「ああ、お金払ったら送ってくれるやつですね」
アンドロイド二人が担いでいる籠を見てスフェーンが説明を入れた。
「あれに乗ればよかったのに…」
「高いから私の財布じゃムリ」
そう言い登っていく籠を見送ると、そこでスフェーンが膝を曲げる。
「代わりにシュエット・タクシーがありますよ」
「まあ随分とお安いタクシーなことで」
軽く笑いながら彼女はスフェーンにおんぶしてもらうと、そのまま階段を降りていく。
二人の老婆が降りていく様を見た他の観光客は何事かと言った疑問の様子で見送っていた。
「あっ、ちょっとお待ち」
そして先ほど通った桜の生える大門の近くの坂道でサラが言うと、スフェーンは足に力を入れてブレーキをかける。
「どした?」
「ここで飴売ってたでしょう?あれ買いたいの」
「ああ、あれね。おけおけ」
そして大門が見えてくると、その前で傘を差していた売り子に近寄る。
「これ一つ」
「ありがとうございます」
売り子をしていた若い馬の獣人の少女がサラに売っていた加美代飴を渡す。
「支払い」
「はいはい。…ちょっとくらい現金持ち歩きなさいよ」
サラは基本的にブラックカード以外を持たない人間であることは昔から知っている。少なくとも共通電子通貨を使っていた頃を知っている人間なんだから、もう少し現金主義であっても良いのでは?と思ってしまうのがスフェーンの本心だった。
「生憎、荷物は軽くしておいた方がいいの」
「…現金の方が居場所バレにくいのに」
「あら、もうそんなことを気にする年齢ではなくてよ?」
「本当かなぁ?」
正直、毎度思うことだが、この人の脳みそってマイナス二〇歳くらいしていそうな気がする。少なくとも年齢と行動が釣り合っていないのは確実である。
「よし、さっき登る時に美味しそうなお菓子屋見つけたから寄り道するわ」
「お菓子屋?」
大門を抜けて、先ほど休憩をしたカフェを通り過ぎてサラは階段を杖を付きながら一段ずつ降りていく。
「そうそう、杖借りた時に見つけたの」
サラの手を取りながら階段を降りていく。行きでも思ったが、帰りだとずっと山を見下ろすような形で階段を降りていくので、だんだんと地上に近づいていっているような気がする。
「(まるで景色が違うわね)」
山頂近くは鬱蒼とした木々で生い茂っていたにも関わらず、ここら辺は街と呼ぶに相応しいほど人工物が多い。
山頂まで苦労して登った時にふと思った色々なことを考えていたのがどんどんと消えていく感覚。多分、昔にこの神社を建てた人間はこういうのにスピリチュアルを感じたのかもしれない。
「こ↑こ↓」
するとスフェーンの独特なイントネーションに現実に引き戻されると、数段下で待っていたスフェーンが指差した。その店は階段の途中の店の一つで、和菓子屋だった。
「ここ…」
「そうそう、和三盆使ったベビーカステラだって」
「ベビーカステラかい」
ズゴッという擬音が聞こえてきそうなほど肩を落としたサラは呆れた様子でスフェーンを見る。
「本当目がないわね」
「ぶっちゃけ夏祭りとかであったら玉せん並みに買っちゃう」
彼女はそう言って店先でベビーカステラを注文する。スフェーンと長い付き合いだが、彼女は見つけると必ず買っていくほどにベビーカステラが大好きである。時折もらうこともあったが、なんか彼女の体の二割くらいはベビーカステラでできているんじゃないかと思うほど食べる量が多い気がする。
「一番大きいので」
「かしこまりました〜」
そして彼女は相変わらず、一番大きいサイズのベビーカステラを注文をする。いつものことだが、ため息をつきたくなる。
「よくそんなに食べてお腹いっぱいにならないわね」
「甘いものは別腹よ」
そして店員が袋に入れたベビーカステラを手渡す。
「お待たせしました〜」
「ありがとうございま〜す」
そして受け取ったスフェーンはまだ出来立てなのか、ホカホカの温かいベビーカステラの一つを取って食べる。
「んん〜、美味い」
「一ついい?」
「どうぞ。あっついから気をつけて」
スフェーンはそう言ってサラは一つを手に取ると、確かに焼きたてなのか湯気が立っていたベビーカステラを口に一口。
「んっ、甘すぎないわね」
「食べやすい薄味ね」
砂糖の中でも高級品の和三盆を使っているという店の宣伝は本物のようで、このカステラは甘すぎない生地だった。
外は少し硬く焼かれており、中はふっくらとしていた。たまに中の生地がとろりとしている場合もあったが、ここは芯までしっかり焼く派の店だったようだ。
「…なんだか、貴女=ベビーカステラが脳裏を過るわね」
「そりゃあ好きですもん」
スフェーンはそう言ってパクパクと熱々のベビーカステラを口に放り込んでいく。
彼女の部屋のぬいぐるみの中にはベビーカステラを恐らく模したのであろうすごい見た目のぬいぐるみも置かれていたのをふと思い出す。
「本当に好きよね…」
サラは横で掃除機のごとく食べていくスフェーンに苦笑気味に見ていると、足元を一段踏み外した。
「うおっ!?」
「危ない!」
幸いにもすぐにスフェーンが反応してサラの体を支えたことで事なきを得た。
「あっぶねぇ。気をつけてよ?」
「ええ、足元が疎かになっていたわね。失敬失敬」
サラはそこで使っていた杖を借りていたという店に返すと、眼下に広がる階段を見る。
「あとどのくらい?」
「もうすぐかな」
スフェーンはそう言うと、片手でサラのつけていた手を掴んで階段を降りていく。歳が歳なら百合とか変に思われそうだが、生憎のババア二人。介護されているんだなと言う目線で見られる。
「よいしょっと」
そして最後の一段を降りると、そこで安堵した様子でサラは今まで降りてきた階段を見上げた。
「ようやく戻って来れたわね」
「ええ、疲れた…」
軽くスフェーンは腰をトントンと叩くと、そのまま緩やかな山道を歩いていく。
「あら、もうこんな時間なのね」
「まああれだけ階段を上り下りしていたらね」
サラが身につけていた腕時計を見て軽く驚くと、スフェーンは山道を出ていく。
「そろそろお昼にしようかと思っていたんですけど…食べれますか?」
「もちろん。腹の虫が鳴きそうよ?」
「わかりました」
スフェーンはそこでここら辺の名物料理を調べていたので、近くのお店に移動する。
「居酒屋?」
「いや、昼は普通にお店やってるみたいですよ」
参拝した神社の参道近くの店に入ってスフェーンは早速注文を始めた。
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