エーテルと人との融合をテーマに研究がなされた事で出現した新たな人種である。
ホモ・サピエンスから分離したこれらの人種は総じて
現在、そうした自らを進化した存在と定義した獣人や不老者達は時にテロリスト認定を国家から受ける過激派集団になることも多々あった。
「全く…」
「オーラーイ。オーラーイ…」
サダミが誘導灯を灯しながらガントリークレーンから降ろされる荷物を見上げて、スフェーンはため息を吐いた。
機関車の前方には
「今回の編成は?」
「まあ、上客を乗せるからね。客車の割には重いわよ」
そこで今回の列車編成を見て軽くため息を吐いて連結作業を行う。
「なのに装輪戦車装備か…」
「必要なの」
スフェーンの務めている会社に預けている自家用車を前にサダミが首を傾げた。
「特に今回はVIP様方が乗車されるわけだし…」
彼女はそう言い、少し忌々しげに表情を歪めた。
始まりはカフェでバイトをしている時の事だった。
「君達に依頼をしたい」
開口一番でそう言ったのはカウンター席に座ったジョン・ルートヴィヒ・オッペンハイマーその人である。エーテル・ボンバと不老者の開発者である彼は『天使と悪魔を飼う天才』として有名な研究者であった。かのネクィラム・キヨシ・オカダの一番弟子であった彼は、軍警察が国連軍に名前を変えた際の動乱やパシリコ戦争の最中に自然主義者から命を狙われたことで度々名前を変えて隠れながら生活をしていた。
「え、嫌なんですけど」
そんな彼からの依頼に即答でスフェーンは返す。
「なぜかね?先進技術研究所の名誉所長からの依頼だぞ?」
王室から爵位を授与された際、彼は当時使っていた偽名であるリー・サン=ジェルマンからサンジェルマン伯爵と呼ばれそうになった所を、教え子にして養子でもあった初代女王アンナ・パトリシアの策略によって本名で爵位が授けられていた。
「だからよ。絶対、面倒ごとになるから」
「そうだろうか?私は至って真面目な依頼だと思っているのだが…」
「その認識、だいぶ歪んでますぜ?」
カウンターを挟んで注文を受けたアフォガードを提供しながらスフェーンは答える。
「どうぞ、仕入れたばかりの豆です」
「ありがたい」
その隣でエスプレッソマシンの清掃を行うサダミ。二人の経営しているカフェは今日も静かな空間を提供していた。
「それで何だがスフェノス、頼まれて欲しいんだ」
「だから嫌ですって…」
暖簾に腕押しのような雰囲気で二人は会話を彼これ四度は繰り返している。
「ス…クサビ、依頼を聞くだけ聞いたらどう」
いい加減面倒になってきたのでサダミが言った。ちょっとキレ気味であったので、スフェーンは反論が許されずに話だけを聞いた。
「…分かったわよ」
「すまないね。サダミさん」
「いえ…彼女の気持ちも分からなくはないですよ?」
「え?」
しかし味方と思われた彼女に背中から刺されたような気分になりながらも、スフェーンに依頼を話す。
「今度、支援者や一部研究員とパーティーをすることになった」
「へぇ」
単刀直入に要約された依頼を聞き、頷くスフェーン。
「会場は私が持っているジョイフルトレインにしようと考えている」
「はぁ…」
ジョイフルトレインを持っているなんて、やっぱり金持ちは違うなあと内心で思った。
ジョイフルトレインと聞くと昔の時代であれば団体専用列車に分類される車両区分であったが、最近は個人で所有している二両以上の編成を意味する言葉としても使われていた。
「生憎、私の持っている車両は非常用の気動車しか連結していなくてね。そこで腕の良い運転士を探している」
「で、私に頼ってきたと」
「ああ。運輸ギルドに君に指名依頼を出す前に伝えておこうと思っていたんだ」
ジョンはここまで態々タウンハウスから訪れた理由を話した。
「ちなみに先に言っておくと、お断りさせてもらって宜しくて?」
「それは困る。私も君のような運転士を他に探すのは面倒なんだ」
ジョンは今までの長い付き合いで、目の前で依頼を断った女性が運輸ギルドの中では珍しい腕利きの運び屋であると言う話は知っていた。
なお、自分も同じ立場の人間に身を落とした数世紀があったので、彼女が名前を複数持っていることに特段違和感を覚えなかった。
「ま、頼むなら他を当たって頂戴。そんなVIPしかこなさそうなパーティー、確実に狙ってくる連中がいるに決まっているじゃない」
スフェーンはそう言ってジョンからの依頼を断ろうとした時、彼は持っていた携帯の電卓を叩く。
「ならこの依頼料でどうかな?」
「「?!」」
そう言ってポンと出してくれた金額は、スフェーンとサダミの二人の目玉を大きく見開かせるほどの金額であった。
「嘘でしょ…」
「こんな金額をポンと出せるんですか…」
「すげぇ、流石は伯爵家」
彼のような著名な研究者などは、通常の貴族と違って領地を持たない貴族である。つまり、この国の貴族に求められる地方行政官としての役割を与えられない代わりに、国の技術発展のために惜しみない努力を持って奉仕をしなければならなかった。
『十万ドルポンとくれたぜ』の勢いで凄まじい金額のウィールを提示してきた。
「どうかな?不満ならもっと増やしてもいい」
ジョンはそう言って二人に相談を持ちかける。そして依頼金額を見た四人は話し合う。
『どうしますか?』
「(え?受けるの?)」
「(どう考えたってやるべきでしょう、こんな金額。しかもウィールで支払ってくれるのよ?)」
ルシエルに軽く驚くスフェーンと金額を前に乗り気なサダミ。
『ちなみに現在のカフェの経営状況は常に赤字ギリギリです。この仕事を受注することである程度の予算の確保も可能となります』
そこでサダミの意を汲んでか、シエロが今のカフェの経営状況のグラフを丁寧に見せながらプレゼンを行う。
「(でもこんな美味しい行事、絶対どこかの武装集団に襲われるわよ?)」
スフェーンはそう言い、すでに話を聞いた段階で嫌な予感を感じ取っていた。しかし破格とも言える相場の三倍の金額を提示されては彼女達は揺れていた。
『依頼は旅客輸送に分類されます』
『ついでに言うと、乗客は恐らく運転士の腕が悪いと文句をつけるでしょうね』
「(私、貨物メインの人間なんですけど?)」
「(今までも何度か経験してるからいけるでしょ)」
サラッと恐ろしいことを言うサダミにスフェーンは愕然となる。
「(え?命かける案件よこれ?)」
「(少なくとも企業の指名依頼よりはマシだと思われ)」
『PMCは今回は襲ってこないと思いますよ?』
『逆にテロリストなどの融解を目論む武装組織による襲撃が多いでしょう。良かったですね、彼らは列車を破壊するようなことはありませんよ』
「(どこがよ!)」
すっかりスフェーン以外の三人は依頼料に揺れていた。
「で、受けてくれるのかい?」
するとジョンがそんな彼女達の顔を合わせた仕草を見て問いかけてくると、サダミが答えた。
「ちなみにこの依頼に注文はありますか?」
「ない。強いて言うなら、招待客はあまり多く傭兵が乗り込むことを望んでいない」
彼の返答を聞き、サダミはスフェーンを軽く小突いた。すると彼女は諦めた様子でため息を大きく吐いた。
「分かったわよ。受ければ良いんでしょ?」
「ああ、持っている車両はここに預けてある」
返事を聞いた瞬間、ジョンはつけていた眼鏡を操作してスフェーンに送信する。
「予定日時とルートはすでに指定する」
「了解」
するとすぐにスフェーンの持っていた携帯に運輸ギルドから指名依頼があったことを知らせる通知が届く。すでにスフェーンの運輸ギルドでの登録番号は知っていたので、すでに準備は整えていたのだろう。
「ルート指定か…」
仕事用のタブレットを取り出して今回受注した仕事の内容の確認を行った。
そして仕事を受注し、軽く調整を行いながらスフェーンは早朝のまだ陽も出ていない時間帯に留置線から必要な客車を連結しに向かう。
「視界良し。障害物無し」
「連結器確認、良し」
この留置線は主に旅客事業を専門に車両の取り扱いを行っている車両基地。主にここは個人所有の鉄道車両を取り扱っていた。
「五メートル」
線路に降りて旗を振るサダミ。この留置線は全長制限があるものの、エレベーター装備の十二階建ての立体操車場である。
場所は王国首都郊外。鉄道管理局が保有している巨大な操車場には多種多様な客車が留置されていた。
基本的にここはジョイフルトレインが取り揃えられ、王侯貴族が所有する列車が並べられている。この国の大半の領地持ちの貴族は自前の移動手段と、自分の家の前まで敷かれた線路を持っている。新年の王族主催の祝賀会や諸々の行事に合わせて移動可能なように、余裕があれば航空機を持っていた。
「四、三、二、一…」
サダミの誘導に合わせて列車を後進させると、直後に重たい金属の音が響いて連結がされる。そして連結後に外れないかを確認するために列車を前後させ、外れないことを確認するとすぐにサダミが連結器と緩衝器の下に潜ってジャンパ線の接続を始める。運転室でスフェーンは信号を確認し、同時にタブレットに映し出される編成を見る。
「一〇両編成のジョイフルトレインかいな…」
金持ちだなあと改めて思いながら列車の編成を確認する。列車はサロンカーなにわをモデルに作られ展望車を最後尾にラウンジカーやコンパートメント、寝台を備えたよりどりみどりの設備を備えていた。
「これじゃあ合造車が荷物車だよ」
そう言い、預けて正解だったと苦笑しながら彼女は勤めている会社のPMCから借りる資材の受け取りのために連結を完了し、幌を接続されて戻ってきたサダミに確認をとる。
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