休憩時間は数時間程度しかないので、やや急足でスフェーン達は店に入って注文をする。
「チーズ工場に直営店か」
「まあまずいことは絶対無いわよ」
店の中に入り、二人席に座って注文を終えたスフェーンは言う。
「フォンデュとラクレットとはまた…」
「でもここのチーズは王宮にも卸されている一級品もあるわよ?」
二人はそう話すとジョッキに入れられたビールが出てくる。近くの醸造所で造られた出来立てのビールである。
ジョッキに注がれた黄金色の液体は上にきめ細やかな白い泡が浮かんでいる。
「んん〜、っぱ出来立ては最高ね」
「そりゃそうさ」
ジョッキを一気に飲み干して満足げなスフェーン出てきたチーズフォンデュも白ワインとキルシュを使ったフルーティーな香りが微かにしてくる。
「「いただきます」」
手を合わせて二人は早速盛り付けられていたソーセージに串を通してチーズを纏わせる。
「んん〜、美味ぇ」
「この味はエメンタールをメインに使っているか」
「あとはモン・ドールかな。少し木の香りがするから」
「…よく分かるな」
少なくともそれほど歳の差を持たず、自分でも鍛えた舌を持っていると思っていたが、スフェーンは一発で使われているチーズを判別していた。
「まあね。ほぼほぼエメンタールとキルシュの香りで消されているから、多分この店の好みってところかな」
彼女はそう言い、満足げにブロッコリーを一口で頬張る。先ほどのソーセージも少し面白く、赤身肉を使った比較的さっぱりとするソーセージであった。
「これはバゲットも進むねぇ」
「ビールとの相性もいい」
そして二人は黙々と食の手を伸ばしていくと、店員が片手に四角いフライパンと焦げ目の付いたジャガイモの乗せた皿を持ってきて目の前で見せる。
「ラクレットです」
そう言い直前まで熱せられていた熱々のラクレットチーズを目の前でかけてから提供される。ドロっと溶けた焦げ目のあるチーズがじゃがいもと絡めていただく。
「美味」
「ん〜、やっぱラクレットよね」
満足げに二人は提供されたラクレットをフォークで刺して一口。ジャガイモがメークインを使っていることでしっとりとした食感でありながらもそのものの味があっさりとしているためチーズの味を引き立てている。
「店でもやったことがあるが…あまり採算性がなかったな」
「まあ準備の方に金がかかるわよ。これは」
そう言い、二人は色々とカフェ経営で試行錯誤し続けている日々を思い出す。
「後でお土産もなんからしいものを買わないとな…」
「タイキックは喰らいたくないからね…」
「そもそもなんで子供にタイキックされなきゃならないんだ…」
思えばたくましく育て過ぎたもんだと少し後悔をしながら二人は食事を進めた。
その後、食事も満足に終えて駅に戻ると、二人はすぐに制服に着替えた。
ジョンの保有しているジョイフルトレインは招待客がいない間に一斉に清掃を始めていく。
「おお、流石ね」
戻ってきた後、制服に着替えて武器を背中に背負った状態で二人の運転士達は他の侍従達が主人不在中に車内の清掃と食材の納入を行なっていた。
彼らは慣れた手付きで招待客の部屋に入ってシーツや布団を新しいものに変えていく。そしてここにいる人間の大半はそうした寝台列車にも慣れているため、広げていた荷物は片付けられていた。
「動くホテルね」
「元々そう言う風に教育された人間しかいないだろうに…」
そして食堂車に新たに積み込まれていく食材の入ったカートを見る。
基本的にここで働く従者…まあオッペンハイマー伯に仕える彼らは全員が不老者であり、そのため全員が異能者と同義。そしてこの国では異能者は兵役義務が課せられ、不老者は定期的に兵役義務が課せられる。
基本的に国民皆兵を謳うこの国では、人種によって兵役義務が分けられていた。
不老者は年を取らない肉体を有し、身体中の多くをエーテルによって置換していることで異能にも強い親和性があった。そのため多くの国で不老者に定期的な兵役義務が課せられている。そしてそれは死亡するまで続く。
そういった事情もあってここにいる不老者は全員が従軍経験があり、尚且つ従者としての教育の一環で王室御用達の高級ホテルでみっちり研修を受けていた。その為、このジョイフルトレインは優秀な人材が揃えられているといっても過言ではない。
「まあ、不老者って自分の意思でなる以外にできないんだけど」
「少なくともこれだけ経って不老者の子供ができない時点でそう言うことだろう」
運転室で煙草を吹かしながら二人は炭水車の上に登って自衛武装の30mm連装ガトリング銃を確認する。短銃身の七本が束になったこのガトリング銃は対空・対地両方で使える優れもので、弾種を変更すれば軽装甲目標も破壊可能であった。
「どう?」
「問題無さそうね」
この連装の自衛武装は焼尽薬莢を使用し、焼夷榴弾や硬芯徹甲弾を使用していた。
砲塔と連動して動くガンカメラも問題なく動いており、二人は武装の確認をしていく。
「…ん?」
その時、サダミはふと不思議な匂いを感じ取った。嗅ぎ慣れない香りで、人の香りともう一つ。
「…爆薬?」
「え…?」
そこでスフェーンはやや驚いて振り返った。
その時、駅に停車した列車を遠くで見ている一組の男女がいた。
「…」
片方は双眼鏡を使って出発準備を行なっている列車を観察していた。
「そろそろよ」
「了解。炭水車の上に武装した二名がいる。気をつけろ」
『了解しました』
持っていた無線から返答を確認すると、その次に侍従達が客室のドアを開けて清掃を行っているのを見る。
「あの機関車は?」
「運輸ギルドで雇った運転士だそうよ。記録では十分な腕前で、不老者ね」
「鹿と黒猫の獣人か…制服を着ているぞ?」
「支給されたかもしれないわね」
二人はそんな会話をしながら双眼鏡で観察をしていると、視線の先で炭水車に登っていた二人はそのまま視界から見えなくなる反対側に降りて行った。
「気をつけろ。一人が反対に降りて行った」
『分かってます。今目の前に足音がしましたよ』
返答があると、これ以上の通信は控えてきた。
「…」
息を殺してその人物は首を曲げて横を見る。そこには磨かれた茶色のロングブーツが見え、白いパンツと女性の話し声がした。
「
「ちょっと待って。多分予備があると思う」
声の反射からして、片方はまだ炭水車の上にいる。どうやら車両に設置された防御兵装の装填をするらしい。少なくとも機関車にハードキル型のアクティブ防護システムを装備した車両であると確信する。
「(動力部の破壊は外からでは厳しいな…)」
事前に聞いていた情報とはいえ、この機関車の重武装さには苦笑してしまう。巨大な三つの動輪の奥でその女性はそのまま話していた。
「…」
サイボーグであったその人物は機関車の台車と線路の間に挟まって隠れており、その手には爆薬と起爆装置のセットが握られている。これから機関車の底部に設置して走り出しとともに起爆する算段であった。
「後ろいって取ってきて」
「了解」
軽く言うと、その降りてきた女性はその場を後にし、安堵したため息を漏らしそうになった。そして事前の作戦通りに爆薬を仕掛けようとした時、その人物はふと違和感を感じた。
「…っ!?」
そしてその違和感に勘づいた時、思わず息を呑んだ。
そこではいつ降りていたのか、足音ひとつ立てずに線路に降りたサダミが銃口を突き出しており、銃床すら肩に当てていないソマリア撃ちの姿勢を取っていた。
「動いたら撃つ」
「っ!」
短機関銃を持っており、この距離であったらこの威力の拳銃弾であってもサイボーグの男は蜂の巣になる。
男は咄嗟に爆薬のスイッチを入れようとした瞬間、サダミは引き金を引いた。8x22mm南部弾の銃声は駅によく響くと、その音を聞いた他の従者達が反応して走ってきた。
「あれは?」
「気付かれたか…」
そしてその様子を生で見ていた二人組はすぐに持っていた起爆装置に手を伸ばして二回グリップを握ったが、反応がなかった。
「…」
どう言うことだと困惑気味に再度二度素早く握るが、爆発の炎は見えない。咄嗟に車のナビを広げると、一切通信ができなくなっていた。
「妨害電波?!」
「軍用だ。強力なジャミングをかけてる」
ここで電磁パルス攻撃を仕掛けなかったのは、仕掛ける爆薬が電気信号を頼りに動いており、電磁パルス攻撃でスパークを起こせば爆薬に引火すると判断したからだ。少なくともこの距離まで届く電波妨害は軍用以外では考えられなかった。
「これでは起爆できん。撤収するぞ」
そしてすぐに二人組は起爆装置を片付けて車に乗り込むと、そのまま監視していた場所から走り去っていく。
そして銃声が響いた駅では、多くの従者が集まった。
「何があった?」
「テロリストだ。死体になったが…」
サダミはそう答えて動輪の間から射殺したテロリストを見下ろす。その手には爆薬が握られていた。それを見て思わず絶句し、退避を叫ぶ執事。
「どう?」
「問題ない」
すると機関車の下に潜ったスフェーンがその爆薬に手を触れる。
「起爆装置は時限式じゃない。遠隔式で…多分監視役がいたわね」
そして爆薬だけを掴んで異能で宙に浮かせる。
「爆薬は?」
「古いC-4。まあ機関車吹っ飛ばすくらいならできるわね」
事前に強力なジャミングを発し、通信装置を妨害したことで自動的に起爆装置が機能しなかったところを見て、恐らく安く作ったのだろう。実際、見た目も全然スマートじゃなかった。
爆薬の周りをエーテルで固定し、ショートさせるための回路に手持ちの絶縁テープを巻き付ける。
「解体は?」
「今やる。まあ、そんな難しくないからすぐに終わるわ」
仕掛けられようとしていた爆薬は車体に取り付けるために色々と軽くした皺寄せで構造が単純になっていた。衝撃で動くようなことも無く、ショートを起こす回路と受信装置が組まれているだけだった。
「どうせなら地面設置にすればよかったものを」
「ダメでしょ。どっちにしても」
そして爆薬にサブの起爆装置がないことを確認してから剥き出しのコードを切って爆弾を無力化した。蓄電池すらないので、ショートも起こらなかった。
「爆弾がお粗末だ。素人が作ったの?」
思わずスフェーンはそう呟くが、見ていた執事達は爆薬を前に口を揃えて言った。
「気味が悪いくらい落ち着いていないか?!」
あまりにもあっさりとした爆弾解体に彼らはもはやどんな反応をすれば良いかわからなかった。
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