「戦闘、長引いているわね」
セコイアの森を走っている最中、特別寝台車の車内でユウナが溢した。
「ああ、だが優秀な部下達だ。今の一人も犠牲を出さずに職務を全うしている」
その反対でジョンも頷いて装甲車の砲撃で微かに揺れたブランデーの入ったグラスを見る。
「でもだいぶ危ないわよ?」
自慢の天窓も防護シャッターによって閉鎖され、カメラの映像が投影されているが、そのおかげで先ほど迎撃されたAWDの車両の映像が見ることができた。
「なるほど、狩には十分か…」
そこで彼は薄く笑みを浮かべると、爆発で揺れた列車の振動を感じる。
「うごっ!?」
その瞬間、パイロットの短くて小さい悲鳴が漏れると、被っていたヘルメットを貫通して一本の柱が貫通していた。その柱を辿ると、オートマトンの燃料タンクが割れていた。そして脳幹を破壊されたことで一撃で無力化される。
直後にその虹色に光る柱は液状に融解して死体の膝上に垂れる。
「流石に慣れたものね」
「比較的疲れるんだが…これ」
軽く肩を叩いてスフェーンが言うと、その能力を行使した彼女は軽くため息を吐いて煙草に火をつける。
そして一撃で急所を突いた腕前にスフェーンは成長を感じた。エーテルを変質させるこのが可能なこの能力はこうした戦場では無類の強さを誇っていた。
「やっぱり強すぎる。戦場の常識をちゃぶ台返ししたようなものだ」
「でも使うんでしょ?」
「無論だ。こっちだって死にたくないし、機関車だって奪われたかない」
彼女はそう言うと、再び能力を用いて攻撃を行う。目標は探知できた全ての敵対勢力。容赦と慈悲はこの体になった時にあの墓場に置いてきたつもりだ。
「すっかり夢中になってらぁ」
スフェーンはそう言って、少し興奮を抑えたような口調で対戦車ライフルを運転室の窓枠に合わせて固定してから発砲。
一〇センチ以上の長さもある真鍮製薬莢に詰め込まれた火薬の量というのは、流石に対戦車目的で作られたこともあって反動が大きい。
本来の運用は、弾芯に軟鉄を使用し、着弾時に戦車の装甲を剥離させて殺傷を目的にしていたそうだが、今日の日進月歩の装甲の進化は、分厚さだけでなくその剥離した装甲への対策も十分なスポールライナーの装備によって対策がなされている。
『命中、重量級サイボーグの生命維持装置始動を確認』
彼女の軍用ゴーグルに内蔵されている望遠機能は、狙撃眼鏡として十分な役割を果たしていた。槓桿を九〇度回して操作して手前に引く。するよ薬室からボトルネックの真鍮製薬莢が呼び出して運転室に転がり、再度押し込むと弾倉から競り上がった新しい弾薬が装填されていく。
「いって」
そして発砲をすると、発射されたソフトポイント弾は隠れていた襲撃者の肩に命中し、中でゆっくりと花が咲くように裂けながら中のサイボーグのチューブやコードを引き裂いていく。
軍用での使用は認められていないこう言った武器だが、テロリスト相手には考慮されていないので、遠慮なくスフェーンは使用していた。
「くそっ、何だこの弾!」
「
すでに13.2mm機関銃や30mm自動擲弾発射機を持ち出している辺り、手遅れ気味ではあったが襲撃者たちは絶句をした。
そうして深夜に森林区間での戦闘が続いていると、森の上から轟音が侵入してきた。
「国家憲兵隊だ!」
「くそっ、来やがったか」
上空を軍用の低視認迷彩に国家憲兵隊所属を示すマーキングの施されたジャイロダインが一旦通過して列車と襲撃を行っている部隊の確認を行った。
路線上での襲撃の通報を受けて最寄りの駐屯地から駆けつけていた。そしてセコイアの木々の上を通り抜けたジャイロダインのコックピットでパイロットが攻撃の閃光を確認する。
「
森林の中でローター音が聞こえる中でも聞こえ、確認できる曳光弾や砲弾の爆発。時間帯は夕刻。間も無く陽が沈む頃合いである。
国家憲兵隊は、戦時中は軍の憲兵として軍管轄になることを前提に国家警察に軍と同様の編成と装備を与え、暴動鎮圧やデモ対応を行う為に組織された部隊。
この国では国連軍は鉄道関連施設の防衛のみを管轄しており、路線上の警護は身柄引き渡しを前提に国家憲兵隊が担当していた。
『カヴェナンター1、こちらHQ。攻撃を許可する。使用火器は実弾、並びに誘導兵器に限定。路線上の安全確保を優先せよ』
「カヴェナンター1、了解。これより攻撃を開始する」
王国陸軍と同じジャイロダインは、国連軍と違って弾数を補う目的で機首に20mmガトリング銃を装備。六枚の翼を上部に持つシングルローターのジャイロダインは旗が飛ぶ様な重低音を奏でながら機首のガトリング銃を発射する。
毎分数千発の間隔で発射される20mmの徹甲榴弾は容赦無く森に隠れていた敵に対して効果を発揮する。シーカーを起動し、熱源探知で対戦車ミサイルを発射すると、隠れていた多脚戦車に命中てして爆発する。
「やっと来た…」
「上手い具合に電波妨害を掛けていたのかしらね」
上空を飛ぶジャイロダインを見て安堵したスフェーンは胸を撫で下ろすと、その横でサダミが到着に遅れた理由を推察する。上空では二機一組で編成されたジャイロダインが飛行をして森林への攻撃を行う。
『スフェーン、妨害電波の発信源を特定しました』
「ん、ドローン撤収させたら焼いちゃって」
スフェーンはルシエルに許可を出すと、彼女はドローンの速度を落として列車と並走させると、運転室から腕を伸ばしたスフェーンが胴体を掴んだ。
その直後、ルシエルは強力な電磁パルス攻撃を行い、一瞬にして付近一体のすべての電子機器が一時的に使用不可となる。その威力は凄まじく、上空を飛行していたジャイロダインのパイロットもマニュアルモードへの切り替えを余儀なくされるほどであった。
「おー、静かになったものだ」
電磁パルスは一瞬であったが、その一瞬でスフェーン達は森林区間を抜けて駅に停車をした。
「「『『はぁぁ…』』」」
そして駅でブレーキを掛けて速度計が〇を示した瞬間に四人は大きくため息をついて倒れ込んだ。
「戦闘状態解除して」
『了解しました』
ルシエルはそこで列車全体に降ろしていた防護シャッターを全開にさせると、乗っていた添乗員や乗客達も戦闘が終わったのだと認識をした。
「片付けて、列車の損傷を確認しなさい」
執事が言うと、一斉に彼らは不発弾を絨毯の上から一つ残らず回収して展開していた機関銃を壁の中に格納して準備を行う。
「はぁ、流石に疲れた」
「どれだけ潜んでいたの?」
「この後車両点検か…」
ややゲンナリとした様子を一瞬漏らしながら彼等はそれぞれがやるべき仕事を始める。
まずは乗客の安全確認。中に入られていないとはいえ、至近距離で敵車両を擲弾で破壊している。その為すべての車両のドアを開放して乗客達の怪我の有無を確認する。
「お怪我は?」
「問題ない。それよりも君達の活躍は素晴らしかったと言わせてくれ」
貴族の招待客の一人はそう言って従者達を褒め称えた。彼はかつて軍に属した経験のある人物であったことからも尚更いい気分な様子だった。
元々、この国出身の貴族の多くは兵役の際に予備士官学校を卒業する。予備士官学校は戦時中に少尉又は中尉任官をされる予備役兵を育成するための学校である。一定以上の学力を必要とし、卒後に様々な得点があることからも毎年受験者は多い。
移民であれば八年、国籍保有者であれば最長で二年の兵役義務を求められるこの国。戦時に入った場合、最も人数が減ってしまう少尉や中尉の数を補うための措置であった。
「かしこまりました」
絶賛されたことを前にベルボーイは一礼をしてから扉を閉じた。
他でも招待客を前に安全確認を行うと、その中の一人は今の戦闘に少々緊張がほぐれて大きなため息を吐いて従者に外に出て空気を吸いたいと願うと、了承を得て彼は駅に降りる。
「ふぅ…」
駅のホームに立ち、大きく息を吸い直して列車を見つめる。
自分とてこうした鉄火場にはまだ入社当時の平社員時代に遭遇したことがあり、当時はどんな対応をしていたかなどと思っていると、先頭の機関車から降りてきた二人の運転士に見覚えがあった。
「あっ」
その二人を見た瞬間、その男は軽く小走りで二人の元に近づいて話しかける。
「こんにちは」
「ん?おお」
するとスフェーンが男に反応をして笑みを見せた。
「こんなところでお会いになれるとは」
「いやはや、恥ずかしいね。カフェ以外で会うと」
「いえいえ、よくお似合いですよ」
彼の知っている二人は常に赤と青の着物姿で働いている二人ばかりであったので、今来ている草色の肋骨服にシャコー帽は新鮮であった。
「そうかしら?」
「動きずらいからあまり好きではないんだが…」
背中に銃を降ろしていた二人を見て一瞬驚いてしまったが、先程の森林でのことを振り返って武装するのも道理だと思考を切り替えた。
「しかし、珍しい銃ですね。薬莢式ですか?」
「ええ、電磁パルスでも暴走しない最強の防衛策よ」
「なるほど」
男はそこでスフェーンの持っていた彼女よりも長い全長を有した対戦車ライフルを見る。
スフェーンは鹿の獣人であるため、頭の上から一対の美しく磨き上げられた角が無数に枝分かれを起こしている。
「お二人はオッペンハイマー伯とお知り合いなので?」
「まあね、たまに店に来ていたりするし」
「やはりそうでしたか。昨晩の夜食の団子でわかりましたよ」
「あら嬉しいことで」
横で耳を傾けて尻尾を揺らしていたサダミは嬉しそうにしており、スフェーンは言葉で答えた。前々から運び屋をしているとは聞いていたが、これほどの機関車を保有しているのは少々以外であった。
「しかし立派な機関車だ。これなら農業公社から依頼が来るわけだ」
「ジョ…オッペンハイマー伯が設計を担当したんです。まあ、見ての通り野盗とやりあえる性能はありますよ」
彼女はそう言うと煙草に火をつける。昨今の禁煙ブームに中指を立てていくスタイルはいつもの彼女であった。
「でも驚いちゃった。貴方が乗っているなんて」
「これでも会社では部下の方が多いんですよ?」
「でしょうね」
そこでサダミがパリッとした良いスーツを来ている男を見て言った。普段は喫茶店に休憩によく来る疲れた会社員的な雰囲気の方が強かったが、今はまるっきり違った。良いところの会社の役員という空気がムンムン溢れていた。
「毎日それで店に来てよ」
「いやぁ、肩が凝りますよ。あの場所にはラフな格好で行くのがちょうど良いんです」
「ははっ、まああまり変な格好じゃなかったら良いんだけど」
スフェーンは軽く笑うと、紫煙が風に流れた。
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