TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

439 / 439
#439

故にスフェーンやサダミを見ているとついついこんな事を考えてしまう。

 

ーー彼女達は、子を失うことが怖くないのだろうか?

 

ユウナは子は一人しかもうけず、その為に愛情が注がれて育ったからなのだろうか。

あるいは養子しかとらないことから血のつながりがないからなのだろうか。

 

そんな子供に関することは女性としてついつい考えてしまうことがある。

 

「(彼女は、自分の子供でなくても幸せなんだろうか…)」

 

彼女はふと考えてしまう。彼女達の経営するカフェには自分もよく足を運ぶが、いつの時代になっても彼女達の家には子供がいる。

養子を迎え入れ、育ててきた子供は数知れず。スフェーン達は今もどこからか拾ってきた子供を育てていた。

 

いつか、子供に先立たれることが怖くないのかと聞いた時、彼女達は口を揃えてこう答えた。

 

『確かに、育てた子供に先立たれるのは辛いわよ』

 

前置きでまず彼女はそう言った後、煙草を吸いながら話す。

 

『でもね、私たちみたいな歳を取らない人間からすればそれが当たり前になるんだから、いずれは慣れて来る。

人間って、いつの時代もそうだけど不思議と自分の置かれた環境に順応してくるんだよね』

 

スフェーンはそう言い、煙草の灰を捨てる。

不老者の喫煙率は高い。理由として、快楽を受けると同時に体に害を与えるからだ。

 

長いこと生きてきた不老者と言うのは、次第に心を病むようになり、自殺率の急増というデータに反映されるようになった。

そうした長い歴史から不老者達は死ねるが、そこに自然死が最も良い死に方とされる古来からの風潮が合わさり、自殺は毛嫌いする風潮が生まれた。

最も望ましいとされる死因が老衰である今の時代で、普通な死に方というのがQOLの視点からも最も望まれている。そして不老者と言うのは老衰による死去は望めない。

そのため彼らは病死を渇望するようになった。その結果行き着いたのは喫煙文化であった。

現在、雇っている従者もほぼ全員が喫煙者であり、炭水車に喫煙室が用意されると聞いてすでに多くの従者が喫煙室を利用していた。

 

『まあ、それが私たちを人たらしめているかけらの一つなのかも知れないけど』

 

時に、不老者は変わらぬ見た目から多くの誤解を招き、動乱の象徴となった。

多くの権力者はこの施術を受け、自らの権威を不動のものとすべく奔走した。そしてそれが独裁政権に直結し、腐敗し、革命や混沌をもたらした。

 

『不老者ってのは、獣人と違ってエーテルによって生まれた人種だ。人の手が加えられた人種という点では同じだが…』

 

研究の結果、獣人というのは不老者との相性が良いことが確認されている。そして今の時代、不老者となった獣人は面倒な事に自らを進化した人類と定義する思想家がいた。その最初の思想を提言した、カール・シュターデルからシュターデル主義と呼ばれている。

そしてエーテル空間濃度が皆無であっても己の異能を行使できるために、最近では魔法や魔力とも言われている始末である。

 

「私も、煙草始めようかしらね」

「なんだ、願望でも出たのか?」

「いや?ちょっとスフェノス達の事を思い返しちゃってね…」

「なるほど。まあ好きにして構わないが、吸うのなら離れてくれ」

 

ジョンはそう言って唯一の妻を見つめる。少なくともここまで付き添ってきた妻に対する対応なのかとガヤ達は思うかも知れないが、ユウナはすっかり慣れていた。

一千年を生きた賢人と世間から表される男。それがジョンという男である。脳のインプラントチップに刻まれた個人情報は暗暦のものであり、それが彼を彼たらしめていた。

 

「あら、スフェノス達は吸っていても長いわよ?」

「あの二人は例外だよ」

 

軽くため息をついて彼はそう返した。

不老者の発明のきっかけとなった資料は、かつての師であるネクィラムが生前に残した無数の資料の中に残されていた古いデータであった。

 

「彼女達…特にスフェノスに関しては以前より所長が目をつけていた人物だ」

「どういうこと?」

 

やや含みのある様子にユウナは初耳な話で驚いた。彼女に関する話はとことん調べていた気がしたが、それでも知り得なかったことがあるのかと。

するとジョンは一瞬ハッとなった後に小さくため息を吐いた。

 

「…いや、まああまり気にしないでくれ」

「?」

 

どう言うことだろうかと思ったが、彼女の脳裏にはスフェーンやサダミで確認されている他の異能者とも微妙に違う異能を思い出す。

つまりは深く考えてはいけない事なのだろう。長く生きてきたユウナは、やけにその時だけ疲れた表情を見せた夫に察した。

 

「そう…」

 

だから聞かない。詳しく聞くと多分、色々な関係が変わってしまうのだろう。そのように考えた。

故に、この話をすることは二度とないのだろう。

 

 

 

 

 

駅を出発し、複線区間を走る列車。防砂林で植え込まれた樹木の合間を抜けながら列車は走る。

 

「そろそろ上り坂。だいたい二‰」

「了解」

 

機関車の運転室ではスフェーンはマスコンの操作を行う。

巡航速度で列車は駆け抜けており、予定では当初の時刻表よりも六時間遅れの到着である。

 

「遅延も甚だしいわね」

「国鉄だったら確実に料金返却ものね」

 

ジョイフルトレインはそこで曲線区間を走ると、山間のトンネル区間に進入する。巨大な動輪を高速回転させて巡航速度で走ると、エーテル機関の回る音がトンネルに響く。運転室に見える小さな窓から前方に見えるトンネルの出口を確認する。

 

「そろそろ自動運転に切り替えてもいいんじゃない?」

「そうね。トンネル抜けたらいいかも」

 

今後の天候は晴れ。路線状況も悪くならないことは確信できるため、スフェーンは信号を確認してトンネルを出たのを確認すると運転台の自動運転の電源を入れた。

 

「はぁ。またしばらくはゆっくりできるかな」

 

彼女はそこで早速背を伸ばして運転室後部に用意された追いリング・ベッセルに手を伸ばす。

 

「いっつもお茶ばかりね」

「馬鹿野郎、私の血液のお茶だぞ」

「イギリス人かよ」

 

サダミがツッコミを入れると、スフェーンはすでに保温していたアールグレイをティーカップに注ぐ。

湯気が立ち、白磁のカップに注がれる紅茶は透き通った赤褐色をしていた。その後にカップにサダミが紅茶を注いで牛乳を入れる。

 

「牛乳後入れにアールグレイのミルクティー?徹底的に英国人に喧嘩売ってくスタイルじゃないのよ」

「詳しくないからこれくらいで勘弁して」

 

彼女はそう言うと、カップを傾けて一気に飲む。

 

「ふむ。まあ、淹れてしばらく経っているならこんなものか」

「お、分かってきたじゃん」

「何年いると思っている」

 

彼女はそう言い、ややジト目でスフェーンを見る。現在、スフェーンの身長は一七〇半ば。サダミの変わらぬ身長からすれば目の前の女性は身長が変わるのもどうなのだろうかと人外な雰囲気にもはや慣れてしまった。

 

『稗田野様』

 

するとインカムで連絡が入る。

 

「何でしょうか?」

 

紅茶を片手に飲んでいたところを何だろうかと思っていると、執事言った。

 

『明日の朝、モーニングの際に使用するコーヒーの仕込みのお手伝いを願いたいのですが…』

「?分かりました」

 

どう言うことだろうかと思いつつ、彼女は二つ返事で答えると、続いて質問をする。

 

「豆は何を用意していますか?」

『ケニアAAを。まだ焙煎前の一品でございます』

「分かりました」

 

サダミはそこでポケットから懐中時計を取り出して時間を確認する。

 

「すぐに行きます。食堂車でいいですか?」

『かしこまりました。準備をしてお待ちしております』

 

執事は丁寧な口調で答えると、それを聞いていたスフェーンが苦笑する。

 

「流石ね。最高級の豆をポンと用意するなんて」

「店でも滅多に注文されないと言うのに…」

 

彼女はそう言うと運転室を出る。

 

「あと任せた」

「ん、お任せあれ」

 

スフェーンは頷くと、サダミは制服姿のまま機関車を抜ける。

 

 

 

そして食堂車に着くと、そこで執事は最初に言った。

 

「お客様からのご要望で『朝は運転士が入れたコーヒーが飲みたい』と」

「ああ…」

 

その一言で理解した。そして誰がそんな事を注文したのかも容易に想像がつき、確かに普段金払って飲んでいる物を無料で注文できるならまあ頼まないわけはないかと納得できてしまった。

 

「分かりました。とりあえず明日淹れる分の焙煎もしないといけませんね…」

 

予定では、明日の朝は列車で朝食が振舞われる。内容はすでに知られており、その時に紅茶かコーヒーを提供するのだが、それを淹れてくれと頼まれたのだ。

 

「なんでスフェも呼ばなかったのか…」

 

キャニスターに保存された焙煎前の豆を見ながら彼女は呟くと、半歩後ろに立っていた執事が訳を話す。

 

「飯豊様はご指名を受けませんでしたので」

「ああ、まあ機関車に誰もいないってのはまずいけどさ…」

 

サダミはそう言うと、キャニスターの中に詰められた豆は異物や黒豆、死豆、カビなどの焙煎前に判別可能な不純物が全て取り除かれているのが分かった。おそらく購入した際に全てあらかじめ選別をして瓶詰めしてくれたのだろう。

 

「ん、取り敢えずもう始めちゃってもいいですか?」

「かしこまりました」

 

執事は頷くと、早速彼女はガスコンロと手網を持って豆を日にかける。

この産地の豆は中深煎りがおすすめであるため、長年の経験で磨き上げられた腕前の見せ所である。

普段の店であるなら面倒なので焙煎機を使って一気にやってしまうのだが、おそらく今回の依頼した客はそれをお求めではないだろう。

 

「フフフ…」

 

面白い、とコーヒーの腕に自信を持った彼女は思った。

少し経つと、パチパチとハゼと呼ばれる音を立て始める焙煎中の豆。青臭い香りが漂い、白っぽくなってから一気にここから見覚えのあるコーヒー豆の色に変わっていく瞬間である。

コンロの周りにチャフと呼ばれる水分が抜ける段階で出てくるものが散らばっていると、次第に香ばしい香りが漂ってくる。

 

本当は焙煎後に一晩おいて、その後にさらに三日ほど熟成期間を用意した方がもっと美味しいのだが、あいにく焙煎したての豆を提供することになってしまう。

食堂車の厨房では数名の料理人がすでに朝食の下準備を始めていた。




お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。

新たな依頼をピックアップ致しました。

  • 娯楽禁止の街
  • 永遠の統治者
  • カフェ(外伝)
  • 病院(外伝)
  • その他外伝
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す(作者:暁刀魚)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

異世界にTS転生し、前世の娯楽が失われたことで空虚な毎日を送っていたカグラは、ある日魔力を込めた剣で岩を切ることを経験する。▼前世ではあり得ない強さを手に入れる楽しさに目覚めたカグラは、剣の道を邁進するようになった。▼本人としては異世界での数少ない娯楽を楽しんでいるだけなのだが、自由気ままに強さを求めるカグラを、周囲は天衣無縫の修羅とみなした。▼これはそんな…


総合評価:18823/評価:8.64/連載:117話/更新日時:2026年05月08日(金) 18:05 小説情報

ある聖女の記録(作者:黄金りんね)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

生まれ変わったら魔物はびこる地獄めいた世界に転生してしまったエリザ。聖句の詠唱なしで教会が秘匿する奇跡を扱えるエリザは、あれよこれよという間に聖女となり、世界を救うために奔走することとなった。▼はたから見れば奇跡だよりで無双するカスじゃないか、と自分で自分にあきれつつ魔物と戦い続ける主人公。▼それが、「実際に」はたからどう映るかはわからないようで、気が付けば…


総合評価:8041/評価:8.32/完結:51話/更新日時:2026年03月09日(月) 18:25 小説情報

「は?負けたいんだが?」(作者:天野ミラ)(オリジナル現代/冒険・バトル)

最高の魔法少女である私が最も輝くのはきっと───負ける時なのだろう。▼全ての百合好きと曇らせ好きと負け犬ワンちゃんへこの小説を捧ぐ▼これは、ちょっと人より性癖の尖った(本人談)マゾでナルシストな現役最強魔法少女が、周りを曇らせたり、溺愛されたりする純愛?百合物語である。▼直崎ゆきふり 様よりスクイレのファンアートをいただきました!▼とっても可愛く描いていただ…


総合評価:5977/評価:8.59/完結:78話/更新日時:2026年02月13日(金) 20:12 小説情報

時止めのキャロル〜かつての邪神はいま、少女となって魔をふるう〜(作者:陸そうと)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

かつて時間停止の魔術を用いて邪神同士による大戦を制した最凶の邪神・ゾアは、▼遠い未来で人間の少女・キャロルとして転生を果たす。▼前世では実感することができなかった本物の「自由」を追い求め、▼キャロルは邪神の力を宿しながらも一介の魔術師として日々を生きていく。▼ヒトであり邪神。▼邪神でありヒト。▼最凶の邪神は、最凶の少女となって魔術を振るう。


総合評価:4329/評価:8.71/連載:66話/更新日時:2026年05月17日(日) 07:00 小説情報

TSして承認欲求爆発しちゃった俺がガチ全能系クラスメイトに愛されて幸せになっちゃうまで(作者:あるふぁせんとーり)(オリジナル現代/コメディ)

白山セイ:TS有自覚美少女。元はノーマルインドアメガネ男子だったが春休みに発症したTS病によってつよつよ顔面偏差値な巨乳美少女になってしまった。入学前に自撮りがバズってからというものの承認欲求が暴走しかけている。▼黑谷アメ:全知全能なクラスメイト。ガチ魔法使い系美少女。一切脈絡のない「魔法」の力で未来予知も現実改変もなんでも出来る。入学式でセイに一目惚れした…


総合評価:3362/評価:8.58/連載:93話/更新日時:2026年05月01日(金) 01:20 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>