今回もまた元となった場所がありますが、かなり昔の記憶ですので結構施設に関してはあやふやなところがあります。ご了承ください。
「ヒュ〜ッ!」
その時、その速度に体の中のリミッターが外れていく様な危険な解放感を感じる。
足元には一面の白。太陽に反射し、わずかに煌めきを持っている地面。
シャーッ!
その上を滑走する音が確かに彼女の耳に聞こえると、他にも色とりどりの服を纏った人たちが群がっており、スフェーンは足元の二本の板を平行に横に滑らせて停止する。
「シャアッ!私の勝ちぃ!」
「早ぇよ馬鹿!」
赤いスキーウェアを纏った彼女は、後ろを振り返って青いスキーウェアを着ていた少女を見る。
「んじゃ、後で奢りね」
「全く…」
軽く呆れながらサダミはストックで地面を刺し、体を前に滑らせる。
視線の先に集まっていた色とりどりのスキーウェアを着た面々はそこで両足につけていたスキー板を外し、スノーボードも手に抱えてゴンドラに乗り込んでいく。
現在、二人は休暇を取ってあるスキー場を訪れていた。
山頂まで一気に登っていくゴンドラに乗り、その中でスフェーンはゴーグルを外して隣に座る黒猫の獣人を見る。
「スノボなんて何年ぶりにやったか…」
「でも久々にしては上手くない?」
二人はそう言ってゴンドラの中で言う。
今回、サダミはスノーボードを、スフェーンはスキーを選択しており、それぞれ慣れるために二本ほど滑走していた。
二人はスキーもスノーボードもできる二刀流であるが、気分でお互いに違う道具を持ち出していた。
「んで、この後どうする?」
「山頂の登ったら、途中リフトに乗って周回でいいでしょ」
そう言ってサダミはポケットからスキー場のゲレンデマップを確認する。
今の季節は冬、四季のある王国の北部のウィンタースポーツが盛んな地域で彼女達はスキー場を訪れていた。
「OK。まあここは人が少ないからいいわね」
「気をつけるべきは、ここはローカル線の終点だから帰る時間をミスると何時間も待たされることかね」
サダミはそう言って宿泊中のホテルの裏手にあるはずの駅を思い出す。
路線の名前は夕貼支線、今も国内最大級のコークス用石炭採掘場がある夕貼炭鉱を抱える一大鉱山都市である。
現在はリゾート地開発により貨物駅と旅客駅は完全に分けられており、また専用の石炭輸送用貨物線の開業によってこの支線はほぼほぼ旅客専用路線となっていた。
「まあ正直冬以外だとあまりスキー場って来ないわよね」
「今はまだ良い、冬季特別列車が出ているから」
二人はそんな事を話していると、ゴンドラは山頂に到着をして、そこで外の世界に放り出される。
「こっちはいつでも」
「ちょっとお待ち」
準備を終えたサダミにスフェーンはブーツの爪をスキー板に引っ掛けて固定をする。
「よし、いける?」
「うん」
二人は確認をすると、そこで白銀の斜面を見下ろす。
市が市民へのレジャー施設のスキー場として整備が行われたこの山。山頂からは石炭の露天掘りをしている様子を上空から見下ろす事ができる。夏はここで避暑を楽しめるという。
「うわぁ…やっぱりでかいわね」
「石炭の街と言われるだけはある」
その巨大な露天掘りされている採掘場を見て思わず感心してしまう。少なくとも衛生写真やドローンを使わなければ全景すら把握不可能なその採掘場は、深さ五〇〇メートル、周囲は三〇キロまで掘られている。
夕貼炭鉱は国内最大級の炭鉱であり、ここでは毎日三二〇トンの採掘が行われ、バケットホイール・エクスカベーターが数台稼働しているのが伺える。
真冬の現在でも露天掘りがされている炭鉱は採掘された土砂から石と砂を分別して石炭輸送列車に乗せられる。炭鉱ではそうした採掘した土砂を運ぶために多数の軽便鉄道が敷設されていた。
この大陸全土を収めているこの国では資源の循環サイクル網が国主導で整備されており、またこうした鉱山や油田は全てエネルギー・資源公社が採掘を管理していた。
これがもし、まだ企業が国を支配していた時代であったなら無秩序な採掘が行われていた事だろう。
しかし市民革命により、はるか昔に企業が全てを支配していた時代は終結を迎えた。
皮肉にもパシリコが理想としていた企業による支配からの解放は、その国が亡国を迎えたことによる武器や技術の流出が理由で戦禍時代による世界大戦を経て自然消滅していった。長い戦争により疲弊した企業にトドメを刺したのは、パシリコの民主主義に心を燃やされた活動家達であった。
パシリコ共和国の政教一致の原則は独裁に繋がり、のちの民主主義に生かされることはほぼなかった。しかし民主主義の考えはこの世界に広く浸透して久しい。
王国と名がつくこの国においても選挙は行われている。王侯貴族による行政区に分割されて選挙区が用意され、立候補した議員達に投票を行う。
彼女達とて国籍を有する国民であるため、今まで何度も投票所に足を運んでいた。
「さて、滑ろうか」
軽く露天掘りの炭田を見てから彼女は板を斜面の近くまで引き摺るように進む。
「ん。あ、因みに今回は賭けは無しよ」
「えぇ〜」
先にサダミの言った一言に不満になるスフェーン。しかしスキーとスノーボードでは出せる速度に差がどうしても生まれるため、この条件はむしろ当たり前とも言えた。
「まあ良いか」
しかしすでに二回勝っていたので、彼女は特に不満を漏らす事なく滑走を始める。山頂からの坂は中級者コースと非圧雪の上級者コースとあり、スキー客を楽しませてくれる。
「よっと」
「だから早いっつーの!」
ゆっくりと大きく弧を描きながら斜面を降っていくスフェーンにサダミが言う。最も長いコースをゆったりと降りていく予定なので、彼女達は実に優雅に滑っていた。
ここは新雪の雪を踏み固めた完全パウダースノウ。人工雪じゃ無いから転けても安心。
おまけにここは地元民が多いスキー客ばかりであるので、馬鹿みたいにスピードを出してぶつかってくる奴もいない。これのなんと素晴らしいことか!
滑っている最中に後ろから突き飛ばされて数メートル吹っ飛ばされることもなく、一瞬死んだかと思わせてくる様な重傷を負わせられることがない!
突き飛ばされて逃げられることもないし、スノーボーダーは
『気をつけてよ』
『私としちゃあ
斜面を降りていたスフェーンは見上げて斜面の上から滑ってくるサダミを見る。彼女はスノーボードを選んで獣人用の耳の付いたヘルメットを被っており、目立つ様に青いスキーウェアを着ていた。
本当につくづく思うのだが、軍人じゃない奴がスキー場で白い服を着てくる意味が分からなかった。
こんな一面が真っ白な世界で、いくらゲーミングカラーの反射をしているとはいえ、太陽光で床面が煌めけば判別は不可能になる。そして今日は二度ほどその白いスキーウェアのせいで人とぶつかりそうになった
「今何時?」
「そぉねだいたいね〜」
サダミの質問にスフェーンはつけている軍用ゴーグルで時間を確認する。
「十二時くらい」
「え?もうそんな経ったか」
すでに滑り始めてかなりの時間が経っていたので、少し彼女は驚くいてしまう。
「楽しい事はすぐに時間が経つってね」
「やめてくれスフェーン。言葉は容易に人の心を抉るぞ」
スフェーンの言葉にサダミはそう言うと、山の途中にあるレストランに向かう。
「うっわぁ…」
「人で満杯だな…」
しかし店内は昼時である為、他のレジャー客達が詰めかけていた。
「…後にすっか」
「せやな」
その人混みを前に二人は時間遅らせることに同意すると、そのまま板を持ってリフトに向かう。下から一番上まではゴンドラがあるが、途中の斜面の移動はリフトのみであった。
「ここは人が少ないから滑りやすいわね」
「やだよ?有名なスキー場行ったって人が多すぎて」
「分かる」
リフトに乗りながら二人はそんな話をする。別にスキーをしにくるだけであるのならこのゲレンデで十分である為、彼女達はひたすらに登っては下る工程を繰り返していた。
リフトに乗り、安全バーを下ろしてゲレンデを登っていくと、その途中でゲレンデを降っていく他のレジャー客達を見ていく。
「…ほぼスノボいないじゃん」
「正直ミスったと思ってる」
そして降っていくメンツを見ながらスフェーンが言うと、サダミは少し申し訳なさそうに降っていくスキー客を見ていく。このスキー場は、別にスキー専用のゲレンデではないのだが、割合で見るとほぼほぼスキー専用のゲレンデの様にも見えた。
「明日、スキーに変えようかな」
「やめてよ、レンタル代かかるじゃん」
ボソッと呟いた一言にスフェーンはそう言って返す。今回は自前の物を持ってきているので、初日にも関わらずすぐに滑り出すことができていた。
そしてサダミはスノーボードを見つめていた。
「ナイターどする?」
「勘弁。滑るなら明日にしてくれ」
夜になると、昼間に溶けた雪が凍って滑る際にガリガリと音を立てて滑ることとなるので、人工雪を使った時の様な怖さがあった。
まだ初日で慣れていないと言う理由で彼女はナイターを滑らないと伝えると、スフェーンもそれに頷いてリフトは終点に到着をする。
「よし、行きますか」
「了解」
改めてゴーグルを付け直し、ネックウォーマーで顔を冷やさない様に準備を整えるスフェーン達。
「こうやって見るとまじ強盗にしか見えない」
「本当にスキー場だから許される格好だよね」
因みに現在、スフェーンは角が抜け落ちた為、人間が使う様の黒いヘルメットを持っていた。
『気温もそうですが、スキー場は太陽光線が反射をする上に山の上ですので、日焼けも十分注意する必要があります』
「真冬にヒリヒリしたくないわね」
「どうする?そろそろ塗り直す?」
ルシエルの注意にサダミが聞いて日焼け止めクリームを取り出した。
そして露出している顔に塗っていくと、ふと手に感触があった。
「あ、雪だ」
「まあこんな曇りなら降ってくるわ」
すると曇り空の空から白い雪が降り始めると、二人はその空を見上げた後にクリームを片付けて再び滑り始めた。
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