冬のレジャーでスキー場に訪れていた二人。二人とも昼間にひとしきり滑り終えた後は夕食である。
「はぁ、流石に滑ったな」
「まあ何本滑ったかは数えていないけどね」
部屋に戻り、夕食の前にホテルの中にある売店に立ち寄る二人。
「なにこれ?」
「メロンだそうだ。ここら辺で採掘される石炭を使って作られているらしい」
ホテルの売店で売られていた赤い果肉のメロンを見て二人はそう話す。石炭が多く採掘されるこの地域で豊富に使用した名産品として作られたメロン。
「怖っ、なにこれ?」
「熊メロンというらしい」
「いやまんまだけど…」
そこで夕貼のご当地マスコットであるという熊メロンという文字通りヒグマにメロンの被り物をしたマスコットがいたのだが、その熊がリアルすぎで余裕で夜中に出てきたな悲鳴が上がりそうな見た目をしていた。
「リアルすぎるって。子供泣くぞこれ」
「こりゃあ子供には見せられんな…」
そこで人でも食い殺していそうな…いや、多分殺ってる雰囲気すらあるそのマスコットに二人して苦笑していた。
「どうする?土産」
「メロンを買って帰ろう。流石にこれはちょっと…」
熊メロンを前に二人はやや引き気味にそのマスコットキャラクターを見ていた。正直、マスコットって可愛くあるべきなんだなぁと心の底から理解した瞬間である。これがいわゆる不気味の谷現象か?などと考えながらデフォルメされて多少は可愛くされた熊メロンのぬいぐるみを見る。
「近くにメロンを売ってる市場があるって話」
「帰りに寄り道してみるか」
そこで二人はこの街の観光案内の地図を見上げながらパフレットを見ていた。
「この街には近くに鉱山博物館があるらしい」
「へぇ、いつの?」
「古い炭鉱を改築したという話らしい。この先にあるそうだ」
「行ってみようかねぇ…」
この地域は炭鉱の街としても機能しており、今は特に冬本番である。夜のこの時間帯にも降雪が確認されており、明日のスキーも期待できそうである。
「んん〜」
ホテルのレストランはバイキング形式。中身は至ってオーソドックスなメニューが並んでいた。
「茶色ばっかり。子供でもあるまい」
半眼でサダミはスフェーンが盛り付けた皿を見る。彼女の皿にはミートパスタにフライドポテトにソーセージにベーコンと、とにかく肉と芋の子供が撮ってくるような内容であった。
「彩加えなさいよ」
「蟹がある。赤いで?」
「そういう意味じゃねえっつてんでい」
サダミはそう言いながら自分が山盛りとってきた蟹の脚を割る。
「好きなものを好きなだけ食う。これに何か悪いことでも?」
「体調を崩す。胃もたれ起こすぞ」
「別にこれ式のことで胃もたれなんかしないわよ」
二人はそう言いながら食事をとっていく。
『スフェーン、流石にこの内容は栄養の偏りが激しいのでは』
「芋は野菜やねん」
『んなアメリカ人じゃあるまいし…』
ルシエルとシエロもそんな彼女の暴論に思わず表情を引き攣らせると、スフェーンはそんな彼女達の意見をシャットダウンするように、とことん腎臓に残業代を支払う必要が出てきそうな勢いで白米も食べていく。
「呆れたものだ。散々栄養やらなんやらで言ってくるというのに…」
「お客に出すもの可搬が得なきゃならないでしょ?ほら、最近はそういうのが流行を見せるしね」
「仕方あるまい。大体、企業が出す食料品は高カロリーすぎるんだよ」
食事をしながら二人はそんなことを言い合って夕食を食べる。スフェーンはバイキング形式の食事を前に元をとるような勢いで提供されていた全ての領地を一通りとってくる。そしてそんな食べ方に気持ちは理解できるが、一品一品をかなり量を取ってくる彼女にサダミは呆れていた。
「出禁くらうなよ」
「んなネットの故事じゃあるまいし」
スフェーンはそう言いいながら皿を持って再びバイキングに取りに向かう。今日の彼女の目元は珍しく軍用ゴーグルが取り付けられておらず、糸目で彼女は虹色の瞳を隠していた。螺鈿に反射する灰色の髪は明らかにそれが人工的なものと思わせつつ、その生え方に自然的な発生の仕方を見せつけている。
「全く…」
相変わらず目立つ髪色だと内心でサダミは思う。世の中にはド派手なピンクや真紫色に髪の毛を染めたりする人はいるので彼女の灰色の髪というのもあまり目立つ事はない。だがあの螺鈿に反射する髪はどこにいてもよく見えた。
夕食を終え、二人は併設された温泉施設に向かう。施設は通路でつながっており、二人は風呂に必要なセットを持って向かっていた。
「ここのは天然温泉らしい」
「本当なの?」
「石炭が取れるって事は本当じゃ無いの?」
「地下水って事?」
たまに温泉と称してボイラーで加熱した水道水を流す場所もあったりするため、この国にはそうした温泉に関する定義が法律で定められていた。
「まあ銭湯と温泉を同じ値段で入れって言われたらたまったものじゃ無いわね」
「そりゃあね…」
そこでわざわざ天然温泉と書かれた施設に入る。この街は近くに炭鉱があり、そこから湧き出る地下水と考えると理屈は通るかと内心で想像を掻き立てながら着替え始める。
「熱いの大丈夫?」
「馬鹿にすんな」
親切心で黒猫の獣人であるサダミに聞くと、彼女はカッと目を見開いて返してきた。地雷を踏んだ自覚はなかったのに地雷を踏んだような気がした。だって猫って水苦手やん。
「うほ〜」
そして色々な長ものを脱いで施設につながるドアを開けると、幸いなことに他に人がいる様子はなかった。
「貸切だ」
「遅めにきて正解だったな」
そこで二人は最初に体を洗いにシャワーの前に立つ。
「ほれほれ」
「んあ〜…」
そしてスフェーンがマイシャンプーを使ってサダミの頭を洗っていく。程よく力が込められてマッサージのようになった。いまのスフェーンはサダミとほぼ同じ身長であるため、彼女の少し視線を上げた所に大きな耳が水に濡れて立っていた。そして頭のツボを押されて半分溶けていた。
彼女は随分と限りなく猫に近く、少し前…と言ってもこの体になって一〇年ほどであったが、水に入ることを嫌がっていたのはいうまでも無い。他にも魚が好きだったりやたら爪のケアを気に掛けたり、気まぐれなところがあったりと、本当に猫を相手にしているような感覚だったのを覚えている。
「寝るなよ〜」
「うーん…」
昼間の滑走の疲れとツボ刺激によって半分飛んでいるようにもなるサダミ。
スフェーンはシャワーがぬるま湯になる程度まで冷ましてから彼女の頭から泡を落としていく。熱いものが苦手であるのはよく知っている為、黒い黒曜石のようなショートボブの髪の毛を丁寧に洗い流していく。
「どう?」
「良いよ〜。部屋に帰ったらそのまま寝れそう…」
彼女はそう言ってから頭を思い切り振った。
「うわっ!!」
反射的にではあったが、水をたっぷりと髪でやられたので大量に水飛沫となってスフェーンに襲いかかった。
「犬かアンタは!」
「失敬な」
そして辺りが水浸しになったのを見てスフェーンはシャワー片手に怒鳴ると、サダミは反論していた。
「「あぁ〜っ」」
そして二人は体も洗い終えてから温泉に浸かる。
「気持ちえぇ…」
「あったまる…」
窓の外ではひたすらに暗闇が広がっている。雪が降っているのだろうか僅かに見える照明に小さな影が写っていた。
「人がいないって良いわね」
「全く」
彼女はそう言って二本ある尻尾を腕のように動かしてずり落ちかけたタオルを直す。この獣人、猫又のように尻尾が二つある為、自分とは別の意味で隠す必要があった。全くもって面倒なことではあるのだが、彼女の核を作った際にどういう訳なのか彼女は黒猫の獣人に変質していた。おかしい、予測通りなら普通の少女が産まれてくると思っていたのだが…。
お陰で買ってきた服も臀部に穴を開けなければならない面倒な事になった。まあその間に妙に背中がもっこりしていたあれはあれで面白すぎて笑い転げてしまったのだが…。
「人目につけられないっていうパターンかもしれないけど」
「まぁ…それはそう」
そこで彼女は少し気まずそうに頷く。まず二人の生まれは生まれだけに異常であるのだが、それ以上にサダミの場合はこの外観の問題が大問題すぎた。
「羨ましいね。着替えの最中も人目を気にする必要が無いんだ」
「知らんて。そんな私に責任なすりつけんでくれよ」
嫌味たっぷりに言ってきたのでスフェーンも苦笑して答えるしか無い。
「そもそも、あの時点で死なせればよかったものを…」
「あんなしょぼい理由で殺されちゃあね。実験体になっただけマシだと思わない?」
「それが大問題なのよ!」
サダミはそこで身体を起こしてギリッとスフェーンを睨みつけた。
「何でったって死んでから一千年以上も生きなきゃならないのか」
「だって、その方が面白いでしょう?」
「はっ、どうだかね」
スフェーンはそこで目の前に見える崖を見つめる。対する自分は双子山があるのを確認する。全く、生まれは同じ筈なのにどうしてここまで差が出たのかと内心で思う。意外とコイツはそっちの方が趣味だったしするのだろうか?妻だってそっちだったしな…。
「…貴様」
その時、サダミは彼女の視線が自分の胸元にあることを感じ取ると、今までの経験から彼女が何を考えているのかを大方察した。
自分の文句に耳を傾けるどころか、この望まれていない自分の状態に憐んでいる様子すら感じとられ、彼女はイラッと来て反撃の意味合いも込めて彼女に近づく。
「その身長でこんなデカいの持ちやがって」
「イデデデデッ!馬鹿!」
そしてスフェーンの胸元を鷲掴みにしてからその手に力をこめる。
「引き千切れるわ!」
「黙れ!」
その直後、スフェーンが頭を叩くと、彼女はそこで彼女の両手にずっしりと感じた重みを感じたりながら湯船に沈む。この時点でまず二人ともアウトであった。もし他に人がいれば大目玉であった。
「…」
そしてサダミは水面に顔を浮かべると、彼女はその手に感じた感想を口にする。
「ゴムボール見たいだった…」
「おう、そうかい」
その感触に呆然と見上げていると、仁王立ちで目元に影を落としたスフェーンが見下ろしていた。
「遺言はそれで良いか?」
「…うぇっ?!」
その時、サダミはスフェーンの言葉に驚くと、彼女は左手で握り拳を作って振り上げていた。
その直後、浴場に悲鳴が響き渡った。
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