勝負に負けて飲み物を奢る事になったスフェーンは、そのままホテルのカフェに移動して提供されたメロンサイダーを飲んでいく。
「んん〜、滑った後に飲むサイダーも中々…」
「こんな真冬にサイダーとはねぇ」
そこで赤い果肉を使ったサイダーであるのを示すように同じ色合いのサイダーを飲むスフェーンとサダミの二人。この地域の名産品であるメロンを使ったサイダーを二人は満喫していた。サダミは二杯のメロンサイダーを注文しており、他にもいくつかパンやソフトクリーム、サンデーなども注文していた。
「フロート付きとはね」
「メロンパン美味し」
二人はそこでメロンサイダーやパンをモリモリ食していく。メロンを名産品にしているためなのか、メロンパンが推されていた。
「でもメロンパンって、メロン使われているわけじゃないんだけどな…」
「それ言ったら多分いろんな方面から怒られると思うよ?」
スフェーンの呟きにサダミはそう言うと、メロンパンの最後の一口を放り込む。凄まじい勢いで掃除機のごとく二人の胃袋に瞬く間に消えると、二人はそこで立ち上がって外に出ていく。
「んじゃあ、飯にすんべ」
「ほいよ。レストランは何かあるかね」
そこで満足げに出て行ったのを見て店員はやや困惑気味に二人を見送っていた。
「あの二人、ソフトもサンデーも食べたのに…」
いやはや、若い胃袋というのは恐ろしいなとそのアンドロイドの店員は思っていた。
「まあ、無難にカツカレーかな」
「君っていつもそれを選ぶな」
そしてレストランに移動をして券売機の前に立つと、彼女はそこで一通りのメニューを見た後にカツカレーのを注文していた。
「スキー場に来たらカツカレーでしょ」
「ちょっとなに言ってるかよく分かんないっす」
彼女の謎の持論にサダミは即答すると、彼女は味噌ラーメンを注文する。
「カツカレーって何処で食っても安定した味だと思わない?」
「んなビッグ○ックみたいな…」
スフェーンの持論に苦笑気味に答えるサダミ。正直理解はしかねる。これならまだ指数にもなった食べ物の方が安定した味なのでは?と思ってしまう。
「変なこだわりだ」
「あら、それは好みの問題でしょ?」
食券を持って二人は食事の列に並ぶと、厨房でいかにもな感じのおばちゃんが食券を持って料理を作っていく。
「もうザンギくっとけよ」
「生憎、それは帰りの駅で食べる予定なの」
「ザンギカレーがあったのに?」
「だってそれって唐揚げカレーでしょ?唐揚げはレモンと合わせて食べないと」
「
二人は泥沼と化し易いレモン唐揚げ論争になりかけたところで、まるで流れ作業のように二人の注文したカツカレーと味噌ラーメンが提供される。
「「いただきます」」
そして二人は空席難民になりかけたところを辛うじて見つけたすみっこのカウンター席に座って食事を摂り始める。
「んん〜、美味」
「やはり温かい食べ物はよく沁みる」
五臓六臂に染み渡りそうな勢いで二人はそれぞれ食べていく。
箸で掬い上げた麺をレンゲにとぐろを巻くように収めてから口に運び入れる。その時、麺に絡まったわずかな味噌のスープが存在感を発揮する。
「ンマ」
熱いものが苦手なサダミですらこの極寒の中を滑っていると、熱々のラーメンでも箸がよく進む。先ほど、サイダーやサンデーといったより冷える食べ物を体内に入れていたからだろうか、思わず丸くなりそうなところをこのラーメンが温めてくれる。
「あちっ」
しかし油断するとスープを飲んだ時に軽く舌を火傷してしまう。
「はははっ、気をつけるのよ?」
「分かってるって」
その隣でスフェーンは軽く笑ってスプーンでカレーのルーをご飯にかけていく。
最初にルーに浸っていた部分のカツを齧り、次にかかっていない部分を食べてサクサクとした食感を楽しむ。次に添えられていた赤いタイプの福神漬けを合わせながら二切れ目のカツを齧る。スキー場で食べるカツカレーというのは家で食べれいる時よりも何となく美味いと感じてしまう。
「美味ぇ…」
そして黙々と食べていく二人。他にもレストランにはスキー客が集まって食事を始めており、早めに二人は食べ終えるとサダミが部屋にヘルメットを置きに向かう。
「さっきカフェに行った時においてくればよかったのに」
「人間、効率よく動こうとするとかえって非効率になるの」
スフェーンにそうサダミは言ってヘルメットを部屋の中に置いてくると、頭に白いニット帽を被って戻ってくる。それは昔、耳が大きい事で会うニット帽がなかった為にスフェーンが毛糸で編んだ代物だった。分厚く、彼女の耳のサイズに合わせて作ったオリジナルのニット帽。被ると彼女の耳に合わせてニット帽が膨らんだ。
「ヘルメットだと聞き取りづらいの?」
「まあ、後ろとかは意外と聞き取りづらかったり」
そこで彼女は耳を動かしてみる。この大きな耳のおかげで彼女はとても音に敏感だ。だがそれが弊害となってあまり大きな音は苦手だ。
「転けないでね?」
「君が賭けでスピードを出さなければ」
「オケオケ」
そこで彼女は生返事で頷くので少し怪訝な表情でサダミは見つめると、二人はそこで外に向かって歩き始める。
「ふぅ…」
そして二人は登る前に喫煙所で一服する。
『スフェーン…』
『サダミ?』
「良いの良いの。どうせ迷惑はかけてないんだし」
「そう言うこと」
二人の吸う頻度はワンカートンが一ヶ月で消費される程度である。ルシエル達は二人の喫煙癖に怪訝な様子で見てくるので、二人は無視して煙草を吸っていた。
傭兵をしていた頃からずっとこの有様である。最初の数年こそ代替品で我慢させていたが、いざ肉体が可変可能になった途端に喫煙である。すっかり依存していると言っても過言では無い。
「はぁ〜」
煙を吐き、ゆっくりと登っていく紫煙。一本分吸い終えたところで二人はゲレンデを登るゴンドラに乗り込む。
「ゲレンデで吸う一服はまた違うね」
「それはそう」
ゴンドラの中、他のスキー客と同様に窓の外から滑走をしていく姿を見ながらゴンドラが上昇していくのを見ていく。
「どこを滑る?」
「まあ、さっきと同じ感じで回っていけばええんでない?」
山頂まで一気に登るゴンドラに乗って二人はそんな事を言いながら軽く確認をする。
「うっしゃ」
そしてゴンドラが山頂の駅に到着をすると、そこで板を持って彼女はブーツとスキー板を接続する。
「行ける?」
「いつでも」
駅舎の休憩室には数名のスキー客が座っており、山頂から見える露天掘りの炭田を見ていた。昔は炭鉱だったそうだが、今は採掘方法もまるで変わっていた。
「よし、行こうか」
そうして二人は斜面を降り始める。
「ちょっと長い距離のルートで行ってみようで」
「ん、了解」
スフェーンに頷くと、二人は斜面を滑走して滑っていく。
スキーやスノーボードの醍醐味といったらこう言う事なのかもしれない。普段とは違う環境である為にそれだけで楽しいと思える。そこに速度が追加されたらもはや言う事なはい。
「よっと」
人をかき分けてゆっくりと滑っていくと、後ろからサダミも追いかけてスノーボードでゆっくりと弧を描く。これでリフトなんかに乗っているとすぐに時間が経過してしまうものだ。
「へぇ、随分とまた長い事で」
「ほぼクロスカントリー見たくなっちまった…」
そこで二人は地図に乗っていた長めのルートを滑っていた。しかしそのコースは斜面というよりも道で、時折止まってしまうこともあった。その度に二人は地面を蹴って進んでいた。
「しまったな。これなら長い初心者コースの方が良かったかも知んないね」
「まあ二回目は無いでしょうね」
そう言い二人はそのコースを進みながらふとサダミは山の斜面を見上げる。
「…ん?」
その時、斜面の中腹の辺りに小さな社が立っているのが見えた。
「あっ、社がある」
「え?あ、本当だ」
そこでスフェーンは振り返ってサダミの視線を追うように見上げてそこに社があったのに気がつく。足元に夢中であった為、通り過ぎた事に気が付かなかった。
「へぇ、こんな場所にあるんだ」
「何を祀っているのかね」
そこで二人は斜面を見ながらその社に向かって軽く一礼をして参拝をしてからそのまま先に進んでいく。
「ナイターまでとりあえず滑ろうか?」
「ん、一旦夕食を取った後に滑ろう」
サダミは頷くと、スノーボードを蹴ってその場を去っていく。
その後、ナイターの時刻に入って山間の景色が暗くなると、そこでスフェーンはナイターように灯りの付いていた斜面を見て思わず言う。
「雪やばく無い?」
「完全に吹雪いているね…」
リフトを降りて見下ろした景色を二人は苦笑気味に見ていた。辺りの雪は凄まじく、そのナイターの明かりすら薄ぼんやりとした灯籠のようになってしまっていた。
「こりゃ一本滑っただけで戻った方がいいかもしれないわね」
「とっとと帰らないとやばいでしょこれ」
スフェーンも頷くと、二人はもう登ってしまった後だった為に斜面を滑っていく。
夜のスキー場は昼間の間で溶けた雪が寒さで再結晶化しており、まず地面が硬いのが滑っている板から感じ取れる。転けたら痛いアレだ。人工雪を使ったときのような硬さがあり、他にも数名のスキー客が滑っているのが窺えた。
「スフェーン?」
「大丈夫」
流石に視界不良の吹雪の中である為、サダミはスフェーンが滑っているザリザリとした音を聞きながら居場所を特定する。周囲の音を聞こうと思うが、この風が吹いている環境ではスフェーン以外で滑っている音を聴くのはほぼ不可能だった。
「うおっ!?」
「どうした!!」
するとスフェーンの方から驚いた声がしたので、何かと思った直後、足元の硬い感覚が突然柔らかい感覚に包まれた。
「しまった!コース外に出たか…!!」
直後、彼女は記憶していたゲレンデマップを思い出し、ナイターには閉まっているは圧雪コースと今自分たちがいるであろう場所を想像しながら柵が見えなかった方に首を傾げていた。
「急いで戻ろう」
「ええ、でも柵ってどこにあったの?」
「この吹雪だ。風で倒れたかもしれない」
視界にお互いの目立つ色合いのスキーウェアを見て言うと、二人は周りの景色を見た。
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