目が覚めた時、妙に暖かいことに気がついた。
「…?」
体を起こすと、そこで目の前にはパチパチと音を立てて燃えていた焚き火があった。
「…」
焚き火を誰かが焚いていたのかを思うと、その直後に彼は朧気に誰かと話していたことが思い出される。
「あれは…」
凍える雪の中で雪を固めていた二人組の人。目も冴えそうなほどの赤と青の色の服を着ていた二人組。
吹雪の中で呆然と歩いた時に見つけたその二人は、顔も覚えてすらいないが、その赤い服を着た方の女性に殴られたのを思い出した。
「…」
彼はそこで殴られた後頭部に手を当てると、そこで自分の手が目の前の焚き火で熱くなっていることに気がついた。
「?」
どう言うことだと手袋を思わず外すと、そこには血の通った赤い手があった。この行軍ですっかり感覚のなくなっていた彼の手は温まっていた。
彼はそこでこの焚き火を焚いたのが誰なのかを理解した上で、その二人がどこかに行ってしまったのかとかまくらを出て外に出ると、そこは深夜の猛吹雪が吹き荒れていた。
「一体何処に…」
彼はそこで自分をかまくらの中に引きずったであろうあの二人を見回して探すが見当たらなかった。
一つお礼でもしておきたいと思ってかまくらのそばに落ちていた自分の装備品を回収する。
「うっ…!?」
その時、彼は心臓に強い痛みを感じるとそのまま雪原に倒れ込んで動かなくなった。
夕貼にてウィンタースポーツを堪能していたスフェーンとルシエル。スキーとスノーボード両方を使ってゲレンデで一頻り楽しんだ彼女達は、最終日に全ての荷物を持ってホテルのフロントでチェックアウトの準備をしていた。
「忘れ物はないよね?」
「無い…と思う」
フロントで彼女達は荷物を確認して忘れ物がないことを確認して頷く。ボストンバッグに洗濯をしたスキーウェアやワックスを丁寧に落としたスキー板やスノーボードを傾ける。
「うん、無い」
極力荷物を減らしていた二人はそこで忘れ物の有無を確認した後に荷物を持ってホテルを出る。他にも同じようにホテルではチェックアウトが行われており、全員が同じことを考えているに違いない。
「またのご利用をお待ちしております」
端末を操作して電子なアナウンスがされて二人はホテルを出ると、そのまま外に出て隣接している駅に入ってそこで売られていた特産品のメロンを使った商品などを売っている土産物屋に入る。無論、先にスフェーンはホテルで熊メロンのデフォルメされたバージョンのぬいぐるみを購入済みであった。
「へぇ、メロンも売ってるじゃん」
「この時期はメロンの旬じゃないから工場産でしょうけどね…」
そう言いサダミは雪がガンガン降っている今の時期に段ボールに箱詰めされているメロンを見る。直売所であるためか、市場で見ているメロンよりも大きいサイズのくせに値段が安い。
「店に出せそうな感じじゃない?」
「ええ、これだけ安いと考えものね」
二人はそう言いながらメロンの箱買いも考えていた。
「メロンかぁ…」
「あのサイダーを真似してもいけるし、サンデー・パフェあたりも考え物…」
次々と二人は果物としてのメロンの用途を模索していく。
「食べ頃っていつくらい?」
「三週間後らしい」
そこで店先に用意されていたメロンの成熟期間を書いた札を見る。この時期ともなると寒いせいか熟成期間が長めに設定されていた。
「メロンって硬い方が好き?柔らかい方が好き?」
「アールス系なら硬め。それ以外は柔らかい方が好き」
「ふむふむ。私はどっちの柔らかい方が好きだからなぁ。ピリってくるぐらい甘く熟した方が美味しい気がする」
「まぁ、そこら辺は完全な好みの問題だな」
そこでメロンを箱買いしようかと考えていると、
「に、逃げろ!!」
直売所の外で誰かの悲鳴が上がってその姿を見た面々が慌てて逃げ始めていた。
「「?」」
その光景に何があったのだろうかと興味本位で直売所の外を覗いてみた。
「何があった?」
「さぁ?」
そこで首を傾げていると、道路に一つの大きな影が飛び出してきた。
「「っ!?」」
その影に二人は驚く。そしてスフェーンが驚いた声を出す。
「熊ぁ?!」
「あれヒグマでね?」
道路に飛び出してきた熊を見て誰もが驚いて建物の中に隠れていく。その大きさは二メートル近く、成獣であると理解できる。
「近くに小熊がいない」
「じゃあオス?」
「分かんないけど…」
二人も危険であると重々わかっているので、少し警戒をしながら直売所の建物の中に入ろうとする。
すると徘徊するようにそのヒグマは顔を左右に振っており、その度に二人は体を隠した。
「畜生、この時期なら冬籠の時期でしょう?」
「冬眠しなかった熊なんじゃないの?」
フーフーと威嚇する鳴き声を漏らしながら人里に降りてきた熊に誰もが驚愕をする。最近は熊出没注意の看板がよく張り出されていたが、まさか本当に出てくるとは思っちゃいなかった。
「熊の獣人が越冬しないとの同じでさ」
「そもそも獣人は冬籠しねえっての」
サダミがスフェーンにツッコミを入れると、そのヒグマは何かを見つけたようにこっちに一直線に歩いてきた。
「嘘でしょ…!!」
「やばいって。こりゃ逃げんと」
そこで道に現れた熊を前に二人して驚愕しながら背負っていた小銃や持っていた拳銃を取り出す。
「こっわ」
サダミとスフェーンは思わず持っていた銃に銃剣を装備する。いざとなったら突き刺してでも身を守るためだ。
「「…」」
二人は直売所で突っ込んできたヒグマに対して銃を持ったまま手を大きく広げてヒグマに対抗をすると、二人は持っていた銃の引き金を引いた。
ッ!ッー!
拳銃弾と小銃弾が同時に響くと、至近距離で撃たれたヒグマは驚いて立ち上がった。
「ビビって立ち上がったか」
「敵前で止まっちゃあいかんで」
サダミはそこで握っていた騎兵銃の槓桿を操作して新しい弾薬を装填すると、銃剣を突き立てながら引き金を引いた。
するとそのヒグマは心臓を至近距離で小銃弾で貫かれてそのまま仰向けになりながら地面に斃れた。
「あぁ、怖っ」
「し、心臓止まるかと思った…」
これほど銃を持ってきていて正解だったことはないと思いながら二人は地面にへたり込むと、その様子を見ていた直売所の販売員が驚いた様子でスフェーン達を見ていた。
「あんた達大丈夫か?!」
「な、なんとか…」
「し、死んだかと思った…」
「そりゃあこっちが言いたいよ」
そこで死体となったヒグマを見て店主はひどく安心した様子で二人を手招きした。
「早く、こっちに来なさい」
「あ、はいっ…」
スフェーンはすぐに反応をして立ち上がったが、サダミは緯度と立ちあがろうとして再度地面に座り込んでしまう。
「あっ。こ、腰が…」
腰が抜けてしまった彼女にスフェーンは、サダミを背中から道あげて直売所の中の施設に引きずり入れた。
その後、倒されたヒグマを役所の職員が駆けつけて回収にきた。幸いにも人的損害は無かったためにあまり大事にならずにスフェーン達は解放された。
「ご苦労様でした」
「いえ…」
そこで人里に降りてきた熊を射殺した謝礼金が現地で渡されると、そこで二人は唖然となって軽トラックに乗せられるヒグマを見た。
「あのヒグマって…後で毛皮と買ってもらえたりしますか」
「すみません。それはできないんです」
「あぁ、はい。無理なら良いんです」
なんとなく運が良かったとはいえ、討伐したこのヒグマの剥製でも作れないかなぁ。などと思っていたが、その望みが簡単に立たれたことに少々肩を落とした。
「ですがこの熊の所在を追うことはできます。一応、この後の官公品払い下げオークションで出たりはしますので…討伐者は優先的に入札できますよ」
「分かりました」
そこで優先的に落札ができることを知ると、そこで『これってダメなやつなのでは?』と内心で思った。
官公品払い下げオークションは、その名の通り国が税金で買った設備や装備、税金滞納者などから押収した品々をオークションにかけて売り捌くシステムである。軍用品の払い下げもここで行われており、スフェーン達はよくお世話になっていた。
「アンタ達よくやるねぇ」
「ええ、まぁ…」
「死ぬかと思いましたけど…」
ヒグマを前に二人はすっかり憔悴していると、直売所の年老いた犬の獣人の恰幅の良い婆ちゃんは網にメロンを入れて渡してきた。
「ほれ、持ってきな。ヒグマ討伐のお礼だよ」
「あ、ありがとうございます…」
スフェーンはメロンを受け取ると、ずっしりと実の詰まった重量感を感じ取った。
「あ、これ箱でお願いします」
「はいよ。毎度ありね」
その隣でサダミがメロンを箱で購入すると、婆ちゃんは笑顔で頷く。おまけ感覚でもらったメロンにはお得感を感じながらしりを触ると、柔らかかったので食べ頃であるとわかる。
「もらっちゃった…」
「お得じゃない?食べ頃もらったわけだし」
そして箱を抱えて駅に乗り込む。正直、荷物でバカ重いのだがこの際我慢する方向で少しばかり足元にドーピングを行った。
「あ、来た」
「一本乗り過ごしたのは痛手だったわね」
そう話していると六両編成の
この列車はこの夕貼駅で終点となる『急行夕貼』。ヘッドマークに専用の看板が貼り付けられ、冬季限定の増便列車であった。
列車のドアが開くとそこからスキー客が次々と降りていき、新しい観光客がスキー場を利用しにここを訪れる。
「あぁ、怖かった」
「なんでこんな経験を何度もしなきゃならないんだ…」
サダミはそう愚痴って吹雪の中の出来事や先程のヒグマの一件を思い出す。
「帰ったらお祓いでもしたもらおうかな」
「割としたい。ていうか直ぐにしたい」
スフェーンはそこで腕の良いお祓い師をルシエルに頼んで検索をしてもらう。
『おすすめのお祓いはこちらですね』
ルシエルはそこで少し不満げであったが、確かに呪われて面倒なことになったら嫌だなと判断して要望通りに腕の良いお祓い師を検索した。
「後で機関車もお祓いしてもらおう」
『それが宜しいかと。辺な気をもらったような気がしてなりませんし…』
シエロもスフェーンの意見に同意をすると、二人は急行のあらかじめ指定した座席に座って列車が出発するのを待っていた。
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