夕貼のスキー場を後にしたスフェーン達は、急行に乗って乗ってきた機関車を留置した礼幌に戻ってくる。
「ふぅ…」
「二回スイッチバックしての到着か…」
礼幌駅に到着し、そこで軽く伸びをする二人。礼幌駅は大陸北部のハブ駅で、大陸北部管区の司令部も備えていた。巨大なターミナル駅には夜にも関わらず多数の旅客便が発着していた。
「とにかく、お祓いでいい人みっけたからやって貰わないと」
「せやね」
そこで彼女の目に投影され、予約をしておいたお祓い師を見た。
その後、自分達の機関車の前で祓え串を振ってお祓いをしてもらう。呼んだのは神職の老齢な男だ。ここら辺ではかなり腕が良いと評判のある男だ。直接顔を合わせた瞬間にサクラではないと理解した。
「今日はよろしくお願いします」
「いえいえ、此方こそ」
夜であるにも関わらず神官は頭を下げてスフェーンに言うと、彼はそこで早速スフェーン達のお祓いをしていく。
こんなサイボーグやアンドロイド、異能者や不老者が闊歩している時代になんとも古風なことをしていると思われるかもしれない。
或いは異能という非科学な状況があるからこそ、こうした儀式は昔以上に需要があるのだろう。かつては未来を見通せる異能や人の心を読む程度であった異能は、長年の研究と学問の確立によって人為的に自然現象を起こすことすら可能であった。
「有難うございました」
そこで祈祷料を払って神官は有難く受け取る。するとそう言ったことを感じ取りやすいのか、その老齢な神官は告げる。
「いやはや、やりがいのある仕事でしたよ」
そう言い神官は祈祷料を受け取ってから貨物ターミナルを後にする。こう言った神事に関する需要は鉄道業界でもある為、運輸ギルドには分社まである事が多い。なんとなく見つけたらお参りをしたくなるのは、この星に生まれた人間のサガとでも言うべきだろうか。
「んん〜っ、これで運気が回ってくるといいけど」
「塩撒くかね」
そこで二人は機関車の運転室に入ると、そこで運転室の上に飾ってある神棚を見る。そこには交通安全で有名な神社で買った御札が飾られていた。
「ふぅ、明日から仕事だで」
「荷物片付けたら寝ましょう」
そこで二人は炭水車を抜けると二人は合造車でスキーの荷物の片付けをする。
雪対策で立体駐車場に機関車を停めており、二人はそこで明日からの石炭輸送任務に備えて準備をする。
「メロンどうするよ?」
「後で食べたい」
スフェーンの問いにサダミはそう答えると、この冬の寒さで天然の冷蔵庫となっていたメロンを片手にスフェーンは頷く。
「どのくらい?」
「丸々でいいわよ。どうせ二人で食べるでしょう?」
「了解」
スフェーンは頷いてそのメロンをサダミが片付けている中で包丁を取って台所で切っていく。
半分に切ると、中から果汁が溢れ出し、赤い果肉と大量のタネが姿を表す。
そして再度縦に包丁を入れると、その後に種と果肉の間に包丁を入れてから三角コーナーに種を放り込んでから残った種を削るように取り除いていく。
「そういえばやったっけ、この種でメロン作れねぇかって」
「あぁ、全然発芽しなかったあれね」
そこで二人は昔懐かしい実験を思い出す。
サダミはその苦い思い出に少し笑うと、ボストンバッグから洗濯をしたばかりのスキーウェアを取り出す。ホテルにあったランドリーで洗濯をして乾燥機にまで掛けていた。試しに香りを嗅ぐといつも使っている洗剤の香りがした。
「うん、しっかり乾いてる」
「生乾きだけは勘弁してよ?」
「乾燥機にかけたんだからしないわよ」
スフェーンにそう答えた彼女は合造車に備え付けられたクローゼットを開ける。長い間家としても使う為、部屋は余すところなく収納や何かしらの物が置かれていた。
「しっかし、相変わらず衣装持ちね」
そして大きなクローゼットに収納されたスフェーンの服に呆れる。
「どうしたって高いとこに行くと増えるわよ。まさか全部Tシャツで済ませるわけにもいくまい」
彼女はそう言いながら手元で食べやすいように皮と果肉を切り離して一口サイズに切り分けていく。サダミはそこで自動清掃機が合造車を清掃していたのを確認した。
「家帰ったら掃除しないとなぁ」
「あぁ、そろそろワックスがけの日?」
掃除機を見て呟いた彼女にスフェーンは店のことを思い出す。王都に構えた立派な店であると自負しており、アンナから近くの土地ごと提供されたあの場所を思い出す。
「ええ、手でワックスがけしないとわかる人にはわかるのよね…」
「それもまま変態だと思うんですが」
「そりゃあそう」
サダミは大いに頷くと、スキーウェアを干し終えてアイロンを当ててシワを伸ばしていく。
「そろそろ出せるよ」
「はいはい。ちょっと待ってて」
そこでスフェーンはメロンを切り終えて皿に盛り付けていた。サダミはそのメロンの香りを嗅ぎ取ってスキーウェアを全てアイロンがけすると、すぐに部屋に用意されたちゃぶ台に滑り込んだ。
「お待ちどう」
「おぉ…」
そして硝子製の容器に備えられた赤い果肉のメロンに少しだけ目を光らせる。年不相応な反応にも見えたが、彼女は直ぐにフォークを手に取ってメロンを一口で頬張った。
「んん〜、美味いねぇ」
「手が込んだフルーツの味がする」
スフェーンも満足げにメロンを食べて感想を呟くと、完熟しているのをしっかりと感じとる。
「熊討伐の報酬でこれなら十分かもしれない」
「本当?私、撃った熊の剥製でも買おうかと思ったんだけど」
「買ってどこに置くのよ」
「カフェ」
「馬鹿じゃないの?」
コンセプトが壊れると言って即座に却下をした彼女であったが、スフェーンは別に置いていても問題はないと思っていた。
「えぇ、格好いいじゃん」
「どこがだ。客が腰抜かすぞ」
彼女はそう言ってありありとその姿が思い起こされる。
「だって君が狩ったヒグマよ?欲しくない?」
「いや全然」
即答する彼女だが、そもそもそれ買うのにいくらかかるんですか?という疑問があった。常にカフェは凝った嗜好の影響で赤字ギリギリなのだ。これ以上の出費は痛いものがある。
「えぇ〜、買おうよ〜」
「嫌」
「二階に彩追加しようぜぇ〜」
「置かれるのは彩じゃなくて恐怖と怒声と思われ」
しかも最悪なことに二階には熊の剥製を置ける場所がある。スフェーンはこれ見よがしに熊の剥製。…多分彼女のことだから全身剥製を買うに決まっている。
あそこにあの怪物に見えたヒグマを飾られたら一気にカフェが親父の物置部屋に変わってしまう。置き場所は階段を登った先にあるため、登るたびに客はあの熊の剥製を見ることになる。
「うーん…」
二人はそこで黙々とメロンを食べていく二人。時間は真夜中に入りかける時刻で、二人は合造車に灯りをつけていた。
「あぁ〜。疲れた」
「後で寝ましょうや」
この数日はひたすらにスキーで滑っていた記憶しかない二人。途中で変な兵士に出会したという不可解な出来事があったが、二人は五体満足でトラオムを歩いていた。
「結局あれはなんだったのか…」
「さぁね、第8師団なんて南方防衛の要よ?こんな場所にいる訳もないし」
「リエナクトは行っていなかったのでしょう?」
「多分、これ以上話を進めると泥沼化するで?」
「ふむ。ならやめておこうか」
スフェーンの注告にサダミは素直に頷いて従うと、吹雪の中で出会したあの光景を振り返りながら
『ちょっと、喫煙室で吸ってくださいよ』
「別に子供いる訳じゃないからいいでしょう」
喫煙にシエロが口を酸っぱくして言うと、毎度の恒例行事やや適当にサダミも答える。
「そういえば
「あぁ、あの小銃?」
そこでスフェーンは彼女が持っている
「どこであんなアンティーク銃を手に入れたかと思っていたのよね」
「まともな入手方法ではないのは事実ね」
「でしょうね。
そう言いスフェーンは彼女が持っていた小銃を預かっていた期間に外側から見ていたが、エーテルに塗れていたそれは時間の経過とともに消えてしまっていた。
「あれは結局何だったの?」
「さぁ?まぁ、話したところで事実かどうかも分からない」
「あーね。あの兵士しかり、どうしてこんな変なことが起こるかね」
呆れてため息を吐く彼女はサダミに釣られて
「私たちが変な生まれだからじゃないの?」
「おーおー、怖いことを言わんでくれ」
そう言い二人はお互いにライターをちゃぶ台に置いて話す。
ライターは二人とも同じ会社の高級ライターで、お互いに傭兵時代から使ってきた色である赤と青のライターだ。
「そういえばあの
「ああ、知り合い。仕事で武器屋街に出かけた時に売っていたの。ヴィンテージ扱いで」
メロンを片手にスフェーンはサダミの生誕祝いで贈った銃の話をする。
「銃剣も使えるしいいかなって」
「まあおかげで苦労することはなかったけれども」
彼女は少し苦笑気味にスフェーンから渡された時の心境を思い出す。
「寡夫だったと言うのにね…墓場で叩き起こされて今やカフェの店長だ」
「面白い人生でしょう?」
「さぁね。少なくとも人の道を外れたとは思っているよ」
そう言い彼女は手を弾くと、ポッと指先から蝋燭大の炎が上がった。
「人の道を外れた自覚があるの?」
「ふっ、そりゃあね」
そこで二人は灰皿に吸い殻を押し込んで火を消す。
「さぁ、寝よう寝よう。全部忘れちまおう」
「悪いことは忘れるって?」
「それができたら苦労しないさ」
夜食を食べ終え、二人はパジャマに着替えて歯を磨いてから合造車に備え付けられた二段ベッドの下に入る。二段ベッドは時折寝ぼけたサダミがスフェーンのベッドに入り込むと言う事故が何度も起こっていた。
「おやすみ〜」
「おやすみ」
スフェーンは部屋の明かりを消すとそう言ってその直後に布団をかぶって寝息を立て始めた。
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