TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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今回はオートマトン戦闘はないです。


#45

ベガスシティに着いて早々、車上荒らしの被害に遭ったスフェーンは列車の横で軍警の事情聴取を受けていた。

初めは訝しまれたが、いつも通り運輸ギルドのカードを見せると納得してもらえた。

 

「それで、何か盗まれたものは?」

 

車上狙いということで現行犯で逮捕された例のドレスを着ていた少女、軍警は慣れた手つきで調書を作っていた。

 

「レーズンです」

 

事情聴取を受けるスフェーンは真剣な表情で答える。

 

「…はい?」

 

お前は何を言っているんだ?とでもいう表情を浮かべる職員。しかし私は至って真面目だ、部屋に置いてあったレーズンを一房丸々消えた痕跡があった。

 

「部屋に置いてあったとっておきのレーズンを喰われました。あの女に」

 

ルマリテで購入したレーズンはまだ食糧庫に残っており、スフェーンの大切なツマミとして誰にも食べさせても無かった。

無添加天然由来の美味い乾物を得体の知れない車上狙いに喰われた事実は万死に値した。

 

「徹底的に締め上げて下さい」

「お、おぅ……」

 

そんなスフェーンにやや引き気味の職員、食べ物の恨みは恐ろしい事を思い知るが良い!!

 

「と、取り敢えず向こうの親御さんから連絡があるかも知れないから。連絡先を教えてくれ」

「はい」

 

そこでスフェーンの個人番号を記すと、軍警の職員…一般的には治安官と言われている職員は最後にスフェーンに印字された調書の紙を渡す。

 

「じゃあ、証拠も揃ったから。何かあったら連絡してくれ」

「分かりました」

 

聴取を終え、スフェーンは足元の小石を軽く蹴飛ばす。

 

「けっ、お嬢様が車上荒らしするんじゃないよ」

「まぁ、あの人は常習犯だからねぇ」

「おいおい…」

 

まじかよ。車上荒らしの常習犯かよと軽く思うと、その治安官は言う。

 

「偶にああやって列車に隠れて過ごしては他の街に移動するお転婆なお嬢様だ」

 

聞けば良いところのお嬢様だが、街を抜け出しては彼女の父親から通報を受けて捜索願いが出され。大体は近くの街で捕まってこの街に送還されるらしい。

 

「俺たちとしちゃあ、大人しくしておいて欲しい相手だね。胃が痛むよ」

「そりゃあなんとも…」

 

ご苦労様ですと声をかけると治安官は去って行き、遠くではサイレンの音が響いていた。

あのお転婆だと言う犯罪者お嬢様はきっと喚き散らしているだろうと言う妄想を掻き立てながらスフェーンはその後の混乱で色々と放り投げてしまった服の入った袋を手に取る。

 

『申し訳ありません。スフェーン』

「良いの良いの。今度鍵でも付けて対策すればいいし」

 

列車のロックシステムを突破され、今回のような事態になったことにルシエルは不甲斐なさを感じるも、スフェーンはあまり気にしていなかった。

レーズン一房持って行かれたが、今回の良い教訓だっだとして対策を考える。

 

デジタル社会で最強の安全装備、それは鍵を使ったアナログな鍵穴を付ける事。ピッキングには腕前と時間が関わって来るので侵入には時間がかかる。

 

全てをデジタル技術に頼っている以上、途中にアナログなシステムを挟めば、忽ち侵入者はその解除に一苦労し、事実上最強の防壁が完成する。

いくら最強のシステムロックがあったとして、それらが一切使えないアナログなダイアル錠を前にしては、クラッカーは手も足も出ない。

 

「そもそもクラッキングできるお嬢様ってなんなんだよ」

『そう言ったツールを持っているのでは無いのですか?』

「映像あるか?」

『こちらに』

 

部屋のベッドで座って目を閉じると、列車側面の小型カメラに取り付けられた映像が流れる。

そこにはフラフラと歩き、列車を物色するワイン色のドレスを見に纏っている少女の姿があった。

 

「…列車を物見遊山しているみたいだな」

 

そして自分の列車の前に立って少し興味深げに見ると、彼女は袖の中からスマートフォンに似た機械を取り出すと、扉のロックシステムに差し込んでいた。

 

「オリジナルか…」

 

見た事のないクラッキング装置だったのでその能力は計り知れないが、ルシエルの一般よりは遥かに硬い防護を相手に強行突破したその能力の高さに警戒をする。

 

『使われている元の機種は判明しました。しかし…』

「中身は別物だろうよ」

 

意味がないと言い、スフェーンは映像を切ると目を開ける。

 

「取り敢えず、飯を食いに行こう」

『おすすめの飲食店をピックアップ致します』

「頼んだ。私は着替えるよ」

 

そう言い、購入したスーツを着る為に久しぶりにナッパ服を脱ぐスフェーン。

油が付かないようにナッパ服はオートマトン格納庫に放り込み、下着姿のままインナーを着た上でシャツとネクタイ、ベストとジャケットを羽織る。

 

傭兵の時は忙しかったり、とにかくジェロ…ブルーナイト達の拾ってきた孤児等の養育費で稼いだ金が消えていっており。そもそもこんな事は無かったが、今の私は稼いだ金で食事や日用品を買っている。その日暮らしに近いので、ある意味で本来の傭兵に近い生活をしている。

 

「そもそも依頼主が会社ばかりだったからな…」

『スフェーンの場合、仲介役の人間が前金を持って来て依頼をしていましたからね』

「今考えると、恐ろしい話だ」

 

アタッシュケースに入れられた金塊が前金や依頼料として入って来たあの頃の景色はよく覚えている。

 

ダイヤモンドなどの宝石と違い、金原子の単一構造でできた金塊は物の価値として非常に安定しており。ダイヤモンドなどの炭素原子の骨格組み換えでできてしまうような宝石は逆に装飾品としての価値しか無く。信用度で言うと金や銀、プラチナなどの貴金属とは雲泥の差があった。

 

市井では天然のダイヤモンドと人工的なダイヤモンドでは、技術が進歩したこの時代ではほぼ見分けが付かず。認定された証明書でなければ天然ダイヤモンドと認められないのだが、その証明書が偶に裏取引で売買されているのだ。

一応、目に見えないほど小さな番号の刻印が天然物には記されてるが、そんなものはいくらでも複製できた。

 

そして依頼料として入った金塊はそのままアンジョラの経営する孤児院に吸い込まれるように消えていた。

共通電子通貨で支払われた分は自分の銀行口座に入り、それも毎月孤児院に消えていた。

 

「さて、どうかな?」

『よく似合っていると思います。スフェーン』

 

スーツ姿のスフェーンはそこで軽く体を回して確認をする。あぁ、今までマトモに服を持った事なかったから鏡で自分の姿が見れない。

 

「仕方ね、代用すっか」

 

そこで一旦列車を降りると、入り口のカメラの映像をリアルタイムで見ながらそれを鏡代わりにする。

 

「おっ、良いねぇ」

 

仕立てる時も面倒がかからなくて、工業サイズでピッタリだったスフェーン。そのスーツ姿は中々様になっていた。

 

「これで街中歩いても違和感はないな」

『私としても、スフェーンが服をようやくマトモに着るようになって嬉しいかぎりです』

「貶してんのか褒めてんのかどっちよ」

 

ルシエルの呟きに苦笑しながらスフェーンはもう一度列車に戻って左横腹に拳銃入りのホルスターを装着し、序でに予備弾倉ポーチも右に斜めに差し込む。

5.7mm口径の超硬ワックス弾と実弾入りの弾倉それぞれを一本ずつ入れ、最後に銃剣を挿す事でロリコン対策を施す。

 

この星に於いて同性婚は許される事はあっても、ロリコンだけはどの場所に行っても許されざる行為であり。ロリコンは犯罪と言うのは世界共通の認識だった。

 

「よし、んじゃあ街に行きますか」

 

服を変えただけで大変身を果たしたスフェーンはサングラスを付けて目線を分からなくすると、サングラスの視界を通常の色に補正する。

 

 

 

 

 

そして着替えたスフェーンはベガスシティに戻ると、早速ドレスコードの必要な店へと向かう。

 

ベガスシティの特徴でもある巨大なカジノ街、数多の高級ホテルや劇場、テーマパークなどが存在し。中でもベガス・ストリートと呼ばれる中央大通りは片側六車線の巨大な道路が設置されていた。

 

「おぉ〜…」

 

そして陽が落ちた後でも、街はとても明るく。至る所でジャズの音楽が鳴り響き、富豪や上流階級の人間達が踊り狂う。まさに大人も子供も全てが興奮するような都市だった。

 

「さすがは眠らない都市。夜中も派手だ」

 

すると目の前をパトカーがサイレンを鳴らして走り去って行き、その後ろでは噴水が水のショーの演出をしていた。

 

「試しにカジノでも行ってみるかなぁ」

『スフェーンの現在の資産ですと、楽しむ程度であれば可能かと』

「てか、私でもカジノできるのね」

 

前に寄ったウリヤナバートルでもカジノはあったが、ここまで派手なものでも無かった。

 

『ここではウリナヤバートルよりもカジノに対する年齢対象は数段低いかと思われます』

 

ルシエルはベガスシティのカジノに対する民衆の意識の程度を告げると、スフェーンもそれに納得していた。

 

「んじゃ、ちょっくら飯前に寄ってみますかね」

 

正直、勝てるとは到底思っていないので金は娯楽のために捨てる感覚だった。

 

 

 

 

 

それなのに…

 

「赤の十四」

「「「おぉ〜!!」」」

 

インサイドベットの一目掛け、配当36倍をしたルーレットの前でスフェーンは唖然となる。

 

「これで四回連続だ」

「なんて奴だ…」

「すげぇ…」

 

積み上がるチップの上にドリーが置かれ、賭けたチップの配当が行われる。

そしてスフェーンの前には自分の色のチップが山積みとなってディーラーによって差し出され、スフェーンは呆然とそれを見つめる。

おかしい、楽しむほどの金額しか賭けて居ない筈なのにどうしてこう当たった?

 

「次はいかがなさいますか?お客様」

「…」

 

ディーラーの悪魔の囁きとも言えるような問いかけにスフェーンは降りた。

 

「すべてカジノチップと交換してください」

「畏まりました」

 

ここは初心者用の優しい台、何気に初カジノを体験するスフェーンは初めこそ負け続きで、所詮はこんなもんだろと思ってこの金が消えたら食事をしに行こうと思って居たのだが。スロットで中当たりをした辺りから雲行きがどんどん怪しくなって来たのだ。

 

スロットで当たって少し気分の良くなった自分はその後ルーレットに走ったのだが。そこで今日の夕食分位は残してあとは全額一目掛けをしたのだが…

 

「どうしてこうなった……?」

 

額が大きくなって安い丸チップから角チップ二枚となった自分の今の所持金を見て困惑するスフェーン。この金額だと、今日の夕食どころか二週間分の食費にもなりそうだった。

 

自分の運の良さに唖然となっていると、カジノの中でスフェーンはある人影を見た。

 

「あれ?あの女…」

 

それは数名の黒服のボディーガードに囲まれ、ハイローラー用の台でブラックジャックをする一人のワイン色のカクテルドレスに身を包んだ少女。

 

「まぁーじかよ…」

 

その顔は間違いなく、あの車上狙いをして軍警にドナドナされた筈の少女だった。




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