TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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突然だが、諸君の嫌いな仕事はなんだろうか?

まあ世の中には自分では把握しきれないほどの仕事があるから、当然その分だけ嫌な仕事ややりたくない仕事というのはねずみ算式で増えていく。

 

ーーではトラオムにおける運び屋業務の中で最も嫌われている仕事といえば?

 

そう問われると全員から色々と出てくることだろう。重要人物の旅客や生鮮食品の運搬、企業が発注した試作品などの重機密指定品に入る物品。

まあ大抵が野盗に狙われやすいという理由で嫌われている。運び屋が嫌がる仕事=野盗がこぞって狙ってくる代物、と言っても差し支えないだろう。

野盗に襲われる回数が多いとその分出費も増えるため、運び屋や運送業者はそうした仕事を嫌がる。

 

昔は企業は傭兵を雇って指定した列車に襲撃したりさせていたが、傭兵ギルドの誕生によってそうした行為が表立って行えなくなった。傭兵ギルドの誕生によりあくまでも傭兵は不足しがちな戦力を容易に補充させることが可能な仕事に代わり、列車防御や戦争稼業で利益を出すのが仕事となった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「…」

 

その日、スフェーン・シュエットは煙草を吹かして少々苛立った様子で目の前の光景を見つめていた。

貨物駅のホームでは自動小銃を持った警察官が大量に立哨をしており、その中で天幕に覆われた大量の荷物がターレットトラックから両開き式のドアが開放された列車に積み込みされていた。

彼らがその十分に軽度された荷物を積み込んでいるぱっと見は古い客車にしか見えない車両は『マニ30形』と言う形式の車両。この車両は少々特殊な車両であるために、こうして大量の護衛に囲まれていた。

 

「畜生め…」

 

そして積み込み作業中にスフェーンは吸い殻を携帯灰皿に押し込んで舌打ちをしながら自分の機関車に戻っていく。ホーム上で暖機運転がされている自分の機関車はいつでも出発する用意が整っていた。

 

今日の仕事は鉄道郵便局からの指名依頼ということで某大陸において鉄道郵便列車の依頼を受注していた。

国連傘下の組織である国際鉄道連盟、その下にある運輸ギルド。鉄道網が発展し過ぎているこのトラオムの世界において鉄道郵便は国際郵便の側面が強かった。

 

鉄道郵便の取扱量というのは減ることを知らず、今日も貨物駅から依頼された荷物を受け取って運ぶために二〇両の郵便車(スユ44)で組成された列車が鎮座していた。銀と青15号で塗装された目も覚めそうな編成に、スフェーンは編成の前後に繋げられた車掌室付き車両(スニ41)を見つめる。今日はここに完全武装した国連軍所属の兵士が秘密裏に乗り込むことになっている。

 

「大当たりですね。スフェーン」

「うっせぇ」

 

運転室では今日の機関士を担うルシエルが皮肉混じりに言ってきたので、少し強めに反応をしてしまう。

列車の最後尾に連結された特別車の荷物はそれだけで厄介払いされる荷物であるからだ。

 

「まさか現金輸送を当てるとは…」

 

ルシエルも少し疲れた様子で編成最後尾に連結した八輪装甲車(ロイカット装甲車)を見る。

 

こと運び屋において最も嫌われる仕事の一つである現金輸送。大抵の場合は国連軍の輸送列車に紛れる形で運行をされるのだが、ごく稀に運び屋にその依頼が割り当てられることがある。個人で列車を運行する運び屋は運送業者と違って融通が利きやすいことから、運輸ギルドは出発直前に連絡を入れて専用の現金輸送用の車両を編成の最後尾に連結する。これは運転免許証を持っている運び屋は強制的に仕事をせざるを得ず、おまけに後で補償をしてくれるとはいえ、大量の野盗が襲いにかかってくる厄介な仕事である。

 

この直前の通達や列車の最後尾に連結されることから、運び屋業界ではこの仕事を命じられた時に皮肉をつけて『追加組成された』というのだ。そう言うと大抵が哀れんだ目で慰めてくれる。そして哀れんで酒や肴を奢ってくれたりする。

 

「編成の最後尾に四両のマニ30が連結されるそうですね」

「積んでいるのはウィール通貨とスター・オンス通貨がメインだそうよ」

「あら、母国の通貨じゃあありませんか」

 

そこでルシエルは積み込み作業を行なっている状況を確認しながら言った。

現金はこの世界の通貨の基本である。サイボーグやアンドロイドなどのデジタル技術が進んだ現在において、ハッキングなどの心配が必要ない現金というのは信用の高い通貨だ。逆に電子通貨ほど信用されない通貨もない。

 

「弾薬の確認したほうがいいかな…」

「大丈夫だと思いますよ?買ったばかりで十分にありますし」

 

そこで発行されたばかりの新札のポリマー紙幣や硬貨を満載した箱を積載していくのを確認する二人。すると彼女達に連絡が入った。

 

『積み込み作業、完了しました』

「了解」

 

ルシエルは連絡を骨伝導インカムで聞いて直後にタブレットを操作して進発許可を司令に求めると、直後に司令部から返信を受けて列車はゆっくりと走り出す。

 

ウィール通貨と言えば、コイツは南北戦争中のどさくさに紛れて国連軍の前身の軍警察が発行を始めた独自通貨だ。当時はすっかり信用を失っていたも同然であった共通電子通貨から代替せしめ、今では国際的に使用可能な通貨だ。当時、この電子通貨と1:1の割合で交換できたこともウィール通貨が世界的に流通する理由であった。

今は国連がその通貨の価値を保証し、管理通貨制度に基づいて大陸に一つずつ設置された造幣局と印刷局から発行されるウィール通貨。国連傘下の国際通貨銀行が発行を行なっており、基軸通貨としてウィール通貨を運用しながら国連加盟国の通貨も準備資産として蓄えている。

 

「添乗員に重量級サイボーグが居る。頼れる戦力にはなりそうね」

「上空にジャイロダインがくっつくから大丈夫だとは思うけれどね」

 

現金輸送列車に任命され、その為に国連軍からのバックアップを受けることとなる当列車。上空警戒と援護で衛戍地から陸軍所属のジャイロダイン(複合ヘリコプター)が護衛につくこととなっている。

 

 

 

そして列車は貨物駅から出発をするとそのまま貨物専用線から本線に進入。その後にターミナル駅に到着する。

 

「…」

 

鉄道郵便列車ということもあり、駅では大量に受け入れた郵便物がパレットに乗せられており、職員がホバーパレットを使って貨車に荷物を積載していく。船舶で表すならバラ積みのように郵便物を積載しており、濃紫色の制服を纏った国際鉄道連盟(IRF)の職員は順々に荷物を車内に運び入れていった。

 

「こっちだ」

「気をつけろよ」

 

行き先によって仕分けを行なっており、巨大な引き戸を全開にして荷物を積み込んでいた。駅では今も多量の旅客列車が着発を行い、多くの種族が出入りを行なっていた。

 

「…」

 

その喧騒の中、ホームを見下ろせるカフェの一席で一人の男がコーヒーを片手に着発を行う駅の列車を見つめていた。

男はその中でチョコレート色の機関車に牽引されている鉄道荷物列車を見た。

 

「チョコレート色の機関車…炭水車二つ…」

 

彼はそこで取り出したメモ帳にボールペンを使ってその列車の特徴を書き記していく。

 

「先頭に装輪戦車…炭水車上部に複合CIWS」

 

そして列車に装備された武装を確認していくと、郵便物を積載している様を見下ろしていた。

列車は二〇両の郵便・荷物車を連結しており、その最後尾には二両の妻面がまっさらな客車が連結されていた。

 

「現金輸送用客車、二両…か」

 

列車の編成を確認して男はその列車が出発するのを見送ると、その直後にカフェを後にする。

 

 

 

ターミナル駅から進発をした荷物列車は、そのまま本線に進入をしてトラオムの荒野に敷設された路線を走る。

最後尾に連結された二両の特別車には護衛兵が常駐しており、三交代制で監視を行なっていた。

 

「あぁ…しっかし嫌だなぁ。現金輸送をするとは」

「まあ依頼先まで届けたらそれで終わりですから」

 

ルシエルはそう言いぼやき続けるスフェーンを宥める。

機関士として運転を今回は担当しているが、この機関車の所有者はスフェーンで登録されていた。運転免許証を持っていることで二人は合法的に機関車の運転をこなしていた。元々二人は免許制度ができる前にマスコンを握っていたので、新制度で導入されたこの免許制度は筆記試験だけで免許を取得していた。

 

「敵が来たらすぐに対応しないとなぁ…」

 

スフェーンはそこで上空を遠くから警戒飛行を行っているジャイロダインの現在位置を確認する。

現金輸送列車に指定されたことで、この列車は最大限の要警護対象に指定されており、国連軍も野盗襲撃を警戒して兵士を同乗させて警戒にあたらせていた。

 

「…来ましたね」

「え?早くない?」

 

すると上空に飛ばしていたドローンが熱源を探知し、そのことにルシエルはすぐに気がついて呟くと、スフェーンは呆れたため息をついた。

 

「やれやれ…」

 

そこで彼女は席を降りようとしたが、ルシエルが言った。

 

「今日は私が迎撃しますよ」

「お?オケオケ」

 

少々意外と感じつつもスフェーンは運転席に座って交代をすると、ルシエルは運転室を後にして合造車に出る。

車両は以前まで使っていた旅客キャビンを使ったなんちゃって車両ではなく、本物の客車を使った車両だ。以前に使っていた貨物列車が破壊された際に新調した代物で、内装は旅客キャビンから移植した代物である。

 

「…」

 

その中を歩いてルシエルはふとこの旅客キャビンを買った遠い昔の日を思い出す。今となってはその場所も長年の戦争と都市の発展による再開発によって失われてしまって久しい。

 

「えっと、敵は…ああ、意外と少ないですね」

 

そして合造車の中の元々は荷物車であった場所にて彼女は自分の武器(PSRL-1)を肩に担ぐと弾薬箱から新品の対戦車ミサイル弾頭を取り出すと、ピカティニー・レールに装着されたスマートフォンに弾頭のQRコードを読み込ませてミサイルとの接続を終えてから客車の天井の非常口を開けてから脚立を立ててそこで彼女は屋根から装填を終えたロケットランチャーの照準を荒野に向ける。

 

「熱源探知。照準…」

 

そしてスマートフォンの画面に接近してくるオートマトンの熱源を探知すると、警告音と共に照準が固定される。

現金輸送列車は、不用意に接近をした場合でも事前警告なしで発射をしても咎められることはなかった。

 

「ロックオン。発射」

 

そして引き金を引くと、彼女の持っていたロケットランチャーから対戦車ミサイルが発射をされた。




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