現在のスター・オンス通貨とウィール通貨の為替相場は二:一ほど。ほぼ全ての額で硬貨を使用するオンスは持っている量が多ければ多いほど重量が嵩張ってしまうのが難点であった。
王国の硬貨は全て
国民皆兵を宣言し、永世中立国化を宣言している王国がもし他国と戦争になった際には国内の通貨を全て紙幣に兌換する準備も整えられていた。
「…」
その時、スフェーンは二両ある炭水車の一つに設置された喫煙室でタバコを吸っていた。主に武装車と勝手に呼ばせてもらっている車両で、その名の通りにこの炭水車は上部に複合型CIWSが搭載されている。
連装30mmガトリング銃と対戦車ミサイル発射器を備え、先の戦闘でも十分に効力を発揮したそれは、現在は合造車のガレージに用意した弾薬箱を持ってきて弾薬を装填していた。
運輸ギルドの規則で、機関車は炭水車を含めて一台の車両とされているので、スフェーンは合造車含めて二両分の鉄道使用料を毎年支払っていた。一部はケチるために炭水車に住居機能を付与した改造車もあるそうだが、客車での快適な暮らしを求めたスフェーン達は余分に使用料を支払うことを選んでいた。
「スフェーン?」
「ん、すぐ行く」
そこで喫煙室の外から話しかけれたので、彼女は灰皿に吸い殻を押し込んで部屋を開ける。
「どう?」
「もうすぐ出発します」
「了解」
スフェーンはルシエルに確認を取ると、いつも被っている軍用ゴーグルを外していた。虹と灰色の双眸は見る者に違和感を感じさせ、誰しもが義眼であると思わせる。
「…ん?」
「どうかしましたか?」
スフェーンはそこで違和感を感じてルシエルがそれに気がつく。
「いや、ちょっと…一瞬ぼやけた気がしてね」
「ふむ、調整してみますか?」
「うん…」
彼女はそこで左目を閉じて右目だけで辺りを見回す。
この虹色の瞳はルシエルと交換して得た目。全てのエーテルを見通し、ルシエルと視界を共有できるための目。逆に灰色の瞳はルシエルの今見ている視界を共有できた。
「特に問題はないと思うけどね…」
「視界に違和感があるのは良くないですよ?特に今は仕事中で何かと危険です」
「まあ,今は問題なさそうだからまた何かあったらその時言うわ」
彼女はそう言って一瞬ぼやけた片目を軽く揉んでから背中に
「いでっ」
スフェーンはただでさえ角を持っていることで頭をぶつける機会が時折あった。今も彼女は二段ベッドの上に登って天井に頭をぶつけた。
「…今年のは特に大きいんだよなぁ」
そこで彼女は頭上に生えた一対の鹿角に触れる。よくトナカイと勘違いされるが、その角と違ってこれは鋭く尖っている。人を刺殺することすら出来る鋭さで、毎年生えては抜け落ちる。
「スフェーン?」
「あぁ、大丈夫。ぶつけただけだから」
「うっかり角折らないでくださいよ?血が止まらなくなって大惨事になりますから」
「うん、一回やって痛い目見てるんで大丈夫」
あの時、血が止まらなくなって合造車がスプラッタな景色になったのを覚えていた。ひたすらに痛くて泣きまくったのを覚えている。
「大体、あれも事故で脱線した時に頭打ったのが理由じゃん」
「予測可能回避不可能?」
「そゆこと。自分でわざわざ神経通っとぉコイツ切るわけないじゃん」
スフェーンはそう言ってベッドに寝転がる。持っていた銃はベッド脇に立てかけていた。
「大丈夫ですか?」
「襲撃があるまでちょっと休憩してる」
「分かりました」
そこで疲労が溜まっている様子のスフェーンにルシエルは頷くと、そのまま彼女は機関車の運転室に座る。幸いにも核を分離したとはいえ、スフェーンとは今でも繋がっていた。
「進発許可、申請」
そして運転台に取り付けられたタブレットを操作して
「進発許可、確認。本線信号、良し」
ルシエルはそこで運転室の窓から見える列車前方の景色を確認する。
エーテル機関を三台、全ての動輪に接続をされた構造で巨大なスポーク動輪はロッドで接続されていた。
「出発進行」
マスコンを操作して彼女は列車をゆっくりと前進させ始めると、荷物列車は駅を出発して走り出す。
分岐点を通過しながら緩やかに曲線を描いていたホームを出ると、列車はそのまま本線に進入をして新しい閉塞区間に移動する。
「閉塞良し」
やけに静かな車内で彼女は本線に入った事で自動運転に切り替えると、そのまま運転室を後にする。
「大丈夫ですか?」
「何とか…」
そこで合造車の車内で彼女はベッドで横になる妹に話しかけると、彼女はグッタリとした様子で答えた。
「ちょっと目がね〜」
「襲撃が来ても大丈夫ですか?」
「多分」
スフェーンはそう答えると、そこで口の中にジャリッとした感覚を感じた。
「ああいや、訂正。口の中まで結晶ができてきた」
「…典型的な疲労状態じゃないですか」
ルシエルはそこでため息を吐くと、そこでベッドを上がってスフェーンを見下ろした。すると案の定、彼女は体の至る所からエーテルの結晶体が溢れていた。
「情報過多になっていますよ」
「うん…」
少し酩酊したように彼女はルシエルに受け答えると、その直後にまた顔に新しい結晶が形成されていく。
「触りますよ」
「はーい」
そこでルシエルはすぐに彼女の纏っていた防弾チョッキやナッパ服を脱がせると、下着も外してから額に顔を当てると、その後にルシエルは常にエーテルに晒されてきて情報体と接触してきた影響で血栓のような塊ができている彼女の核を確認する。
「後から分かったとはいえ、これは少々厄介ですね」
そこで彼女はスフェーンの胸に手を当てると、そのまま手を体の中に沈み込めてから彼女の体内を漂っている核に触れる。
「…」
そして次に彼女はその確認まとわりついていた活性化エーテルを除去していく。
「スフェーン」
「ん」
そして彼女が合図を送ると、スフェーンは目をゆっくりと開く。それに合わせるように体から突き出ていたエーテル結晶は吸い込まれるように消えていった。
「また詰まったか…」
「活性化エーテルがまた結晶体になりかけてましたよ」
「ごめんね。ちょっとここら辺はそう言うのが濃いみたいで」
「自然現象相手にはどうしようもありませんよ」
ルシエルはそう言って起き上がったスフェーンが再び角を客車の天井にぶつけたのを見る。
「今回は脳に結晶ができていました。だから目眩があったのでしょうね」
「どうする?オペレータしたほうがいいかな」
「まだそこまでじゃありませんが…」
ルシエルはそこでスフェーンに言うと、彼女はそこで脱がされた状態で彼女に言う。
「マッパになったし、もうこの際ちょっと休憩しておこうかな」
「…分かりました」
ルシエルはそこで今し方の状況を考えて頷くと、着ていたナッパ服を脱いで彼女も上裸になると、ベッドでスフェーンと背中合わせに肌を合わせる。すると次第に子機であるルシエルの体が溶けていくようにスフェーンの体に消えて行くと、彼女は目を閉じてから再度目が開かれる。
『ごめんね』
「いえ、スフェーンの健康が第一ですから」
そこでルシエルは下着を付けて先ほど彼女が脱がせたナッパ服を着込んでいく。
「最近は多いですね」
『何かね。活性化エーテルが寄り付くのよね』
スフェーンはそう言って先ほどの疲労を思い出す。
「浄化機能は常に作動しています。それの影響では?」
『そうかもね』
活性化エーテルは人体に有毒な作用を齎すが、代わりにエネルギーが放出されている状態でもあるため、エーテル機関の燃料として使われる。
大気中を漂うエーテルは、そのおかげでスフェーン達は空間エーテルがエネルギー源となって活動できていた。但し、臨界エーテルに活性化エーテルな引き寄せられる性質によって時たまこうした活性化エーテルが纏わりつく問題が発生していた。
『かと言って浄化は止めないけどね』
「ええ、分かっていますよ」
スフェーンにルシエルは分かっているので頷いてから防弾チョッキを羽織る。体内に蓄積される活性化エーテルを非活性化させるための工程をこの体は持ち合わせており、スフェーン達は常にエーテルを吸引していた。
この肉体は不老者ともまた違う構造を有しており、概念の時点から違っている。しかしそのことをそもそも定義していないため、この肉体に対する名称は存在しない。だから便宜的に外観の特徴が似ているから不老者と周りには伝えていた。
『あぁ〜、疲れちゃうなぁ…もぅ』
「仕方ありませんよ。核を分離した弊害のようなものですから」
かつてであればオペレーターのように同じに核を共有していた二人だが、臨界エーテルの吸引に核の拡大と分離をしたことによって幾つかの問題点も浮上していた。例えば今のように活性化エーテルがこびり付いて体内のエーテル循環に血栓ができてしまう事などだ。
『ぶっちゃけ、別れないほうが良かったのかなぁ』
「如何でしょうかね?」
ルシエルは軽く肩をすかしながら言う。
「私がスフェーンと同じ身体を手に入れられたのは核を分離したおかげでもありますからね」
彼女はそう言いながら運転席に座って自前の武器を確認する。
「しかし、対戦車ミサイルを早々に使うことになるとは思っていませんでしたよ」
『普通はそうやねん』
危ない荷物を積んでいるせいで余計な出費となってしまっている現状、スフェーン達は少し表情を歪ませながら橋梁を渡って行く光景を見る。
「偵察は如何ですか?」
『ん〜、問題なさそう』
そこでスフェーンはドローンのガンカメラを使って周囲の状況を確認して行く。
「体調の方は?」
『体動かしてないから随分と楽よ〜』
スフェーンはそう答えて回復を始めている状態を伝えた。
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