「発射」
そうスフェーンが言った直後、最後尾に連結されている装甲車から砲弾が荒野に向かって飛翔する。
トラオムではすっかり見慣れた景色であるが、遥か昔の旧暦の時代にもなるとここもテラフォーミングによって美しい緑の世界が広がっていたのだろう。
『ぎゃあっ!!』
今では一面の砂と荒野の大地に、スラブ軌道の路線と汚い野盗団の車両が火花と機械油を散らしながら破壊されている景色が広がっていた。現金輸送用車両を四両も連結した荷物列車はさぞ野盗団の目には
「命中。多脚戦車一台」
「了解です」
砲弾が命中して多脚戦車が木端に吹き飛び、後続で隠れていた歩兵部隊が右往左往しているのを確認する。
「…」
運転室ではスフェーンがタブレットを操作して主砲を発射しており、軍用ゴーグルは負担になるからと使用を控えていた。
「敵に乗り込みますか?」
「うーん、やめとく」
ルシエルにそう答えると、彼女は運転室の窓を開けて目を細めて荒野の中で進む野盗団を見ると、腕を伸ばして指を鳴らした。
ピシャァァァァアアッ!!
すると直後に荒野に稲妻が迸る。異能によってエーテルの霧の中で生み出された霧は、接近中の歩兵部隊を一網打尽にした。
「くそっ!」
「異能者だと!?」
その攻撃を前にオートマトンに乗っていた野盗達は若干狼狽えた。異能というのは面倒な力であることは重々周知されているからだ。
異能を
極めて発動条件が限定されるその技は主に空間エーテル濃度が調整されている市街地においてよく使用され、また建物に潜んだりしている敵兵の早期発見や効率的な攻撃が可能なことから、対市街地戦の特技兵としてよく編成されていた。
その点、不老者は空間エーテル濃度が低くても体内のエーテルを燃料に異能を発動できた。そのため感染者は九割以上がそのまま不老者化手術を受けているという。
「気をつけろ!」
「姿を見せるな!」
そう言って一斉に彼らは地面に伏せる。異能者は視線を固定することでその能力を発揮することとなる。そのため、視界に入らないことが異能攻撃を受けない最も簡単な対策であった。
「発射!」
「撃て!」
そこで野盗は叫んで
「砲弾?」
「対戦車砲だ。砂丘の裏に隠れているな?」
そこで一晩寝たことで回復したスフェーンは手を向けると、対戦車砲の近くに用意されていた弾薬箱に砲弾が向けられる。
「問題無し。撃て!」
直後、装甲車が発砲を行う。76.2mm砲弾は直線に近い放物線を描くと、荒野の河原に着弾をする。
「くそっ!」
「近いぞ!」
「撃ち返せ!」
巻き上がった土煙が彼らの頭上に降り掛かり、野盗達のヘルメットに土が被さる。至近弾で数名の野盗が榴弾の爆発によって被害が出ていた。
「装填!」
そこでピックアップトラックから降ろされた75mm砲弾が抱えられて装填されると、尾栓が手動で閉じられて測距が行われる。
「
二門の対戦車砲が展開しており、その近くには弾薬を積載したピックアップトラックが停車していた。
「撃て!」
指示を出すと二門の対戦車砲が発射される。放たれた砲弾は放物線を描くと一発が機関車の天板をすり抜け、もう一発はアクティブ防護システムによって迎撃される。
「うおっと」
『気をつけろ!』
榴弾が迎撃の際に爆発し、その熱波が機関車を襲いかかった。
「反撃しろ!」
「近づいてくるやつだけを狙え」
添乗している護衛兵達も機関銃や自動擲弾発射器を用いて荒野を前進してくる敵部隊を攻撃していく。
「こっちは走りながらだ!」
「上空援護はできないのか!?」
「ダメです。通信妨害を受けています」
上空を飛行しているジャイロダインは通信妨害を受けたのを確認すると、接近していた野盗の歩兵部隊に対して翼下に懸下していた一〇〇キロ爆弾を投擲していく。
「国連軍だ!」
「くそっ!対空防御だ!」
そこで彼らは一度通過したジャイロダインを見ると、直後に後ろから重量級サイボーグが持っていた12.7mm機関銃を放って攻撃を行う。
「おっと」
「気をつけろ」
その銃弾はテーパー翼を貫通したので思わずジャイロダインのパイロットは驚くとガンナーがそれを諌めた。
「反撃だ。通信ができん以上、勝手にこっちで攻撃するぞ」
幸いにも列車は止まらずに運行を続けていた。おかげで味方部隊は全員が列車に乗り込んだまま迎撃を続けていた。
「そろそろ戦闘機が上がってくる頃合いだ。先に全部落とすぞ」
「了解」
そこでジャイロダインで彼らは機首の30mmガトリング銃を放つ。三本の銃身が回転をしてガンカメラに合わせて攻撃を行うと、直後に無誘導航空爆弾が投下される。
強力な電磁パルス攻撃と電波妨害によって戦場に霧を作ることが当たり前の時代であるため、奇襲攻撃以外で精密誘導爆弾が使われることは無く、こうしてジャイロダインには極めて安価な無誘導の航空爆弾が多数搭載されていた。
国連軍、ひいては軍警察の頃からの伝統でもあるジャイロダインのテーパー翼には多種多様な兵装が装備可能だった。
「発射」
そしてロケット弾が一斉に発射されると、対地攻撃で一斉にロケット弾が荒野に降り注ぐ。僚機も一番機の攻撃に合わせて斉射を行っていく。
「敵!方位九〇、距離四〇〇!」
「迎撃だ!撃て!」
そこで上空を飛行していた編隊に野盗は
「被弾!被弾した!」
「エンジン停止。まだ行ける」
自動消化装置が作動し片方のエンジンが停止をしたが、胴体や搭乗員に怪我は一切なかった。
「気をつけろ」
「ああ、わかってる」
そして被害を受けたことで二機のジャイロダインが帰還しようとすると、パイロットは通信を受けた。
「お、来やがったぜ」
IFFの反応を確認して無線妨害を受けている中でレーザー光通信を確認すると、彼らは上空を飛行する戦闘爆撃機を認知する。
『HQ、こちらアイアンウルフ01。指定空域に到着。指示を乞う』
上空に展開した二機の戦闘爆撃機はそこで雲の上に展開して荒野を見下ろす。すると川辺や線路沿いに黒胡麻のような影が複数展開しているを確認した。
『こちらHQ。空域には味方がいる。ホワイトハンド隊の空域離脱確認を待て』
そこで管区司令部は攻撃を受けている現金輸送列車護衛のために淡々と仕事をこなしていく。そして攻撃を受けたと報告のあったジャイロダイン編隊を離脱させる。電波妨害網からIFFの識別が確認できたのが合図となった。
『アイアンウルフ、攻撃を許可する。列車に添乗している兵士のレーザー誘導を確認してから精密爆撃を開始せよ。走行中の列車には当てるな』
『アイアンウルフ01、了解。これより攻撃を開始する』
攻撃許可を受け取り、編隊はそこで列車から照射された目標に向かって水平爆撃を開始する。
『投下用意』
『用〜意…投下!』
そこで二発のLJDAMが投下されると荒野に五〇〇キロ爆弾が着弾していく。
「くそっ、空軍だ!」
「伏せろ!」
その衝撃波は河原で展開していた対戦車砲陣地に到達し、その正体が戦闘爆撃機であることは直後に聞こえてきたジェットエンジンの音で認知する。
『こちらアイアンウルフ01。敵対戦車砲陣地確認。攻撃許可を求む。送れ』
『こちらHQ。アイアンウルフ、攻撃を許可する』
『了解。攻撃する』
司令部からの許可を得て編隊は精密誘導爆弾の投下を行う。
「敵機投下!」
「退避!」
「逃げろ!」
そして上空に二機の戦闘爆撃機を見ていた一人の野盗が叫ぶと、砲兵指揮官が叫ぶ。投下された熱源誘導爆弾は
迎撃も試みられるが、そもそも航空爆弾というのは外郭が硬い上にこの大きさの爆弾は小さい。そして投下速度も幾らか低下しているとはいえ、軽く時速一〇〇キロは超える。
そして機関銃の追従も許さず、投下された二発の爆弾は対戦車砲の真上から突き刺さって爆発を起こした。
「うおっ!?」
「ぎゃあっ!」
投下された二〇〇キロ航空爆弾は簡単に対戦車砲と牽引車を吹き飛ばし、複数の野盗を爆発に巻き込んだ。時間差をおいて投下されたことで土煙が高く舞い上がった後に同じ規模の爆発が地面を抉り取っていく。
「攻撃しろ!」
「撃て撃て!」
そこで23mm機関銃が発射され、対空攻撃が行われると曳光弾が荒野を通過し、その前を戦闘爆撃機が通過していき、巻き上げられた土埃が風と共に彼らに襲いかかった。その背後では弾薬に誘爆を起こした対戦車砲陣地が木っ端微塵に吹き飛んでおり、連続した小爆発が周囲にいた野盗団を巻き添えにしていた。
「くそっ!国連軍がこんな重武装かよ!」
「だからやめろって言ったんだろうが…!」
そこで隣にいて不用意に立ち上がった仲間が、列車から放たれた異能で生命維持装置が起動して倒れ込んだ。
「まともに立てねえ」
「異能者連れてこい!」
襲撃を敢行した野盗団は多くの仲間や部下が荒野の地に倒れているのを目撃しながら現金輸送列車の襲撃をそれでも続行する。
この襲撃に協力した反政府系組織も機関銃や対戦車兵器も持ち出して攻撃を行うと、直後に異能者が飛び出して列車に攻撃を敢行する。
「っ…!」
狙うは列車の連結器。ブレーキ管を破壊して列車を停止させようと試みた。しかしその前に砂丘に護衛兵の擲弾が着弾して異能兵は爆発した擲弾の破片を受けて肌のありとあらゆる場所が引き裂かれた。
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