TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#456

トラオムの世界ではどこでもオーロラが見える。旧暦の時代、まだ人類が宇宙に上がるまでオーロラというのはなかなか見ることができない自然現象だったそうだ。

 

「まあ、見えてると言っても…」

「全部活性化エーテルとエーテルですので、本物のオーロラではありませんけどね」

 

そう言いながら、スフェーンとルシエルの二人は合造車の上で座り込んでいた。二人はそこから空を見上げており、列車は駅に停車した状態で夜間留置していた。鉄道管理局の危険度が高いこの国では、夜間の鉄道運行に制限があり、その為に彼等は駅の中で一晩過ごす事となっていた。

 

「しっかし、まさか待たされるとはね」

「パトリシアではありませんよ?夜間運行なんて危険です」

「昔は割と平気でしてたんだけどなぁ…」

 

スフェーンは煙草(チェ・レッド)に火を付けてから再度空を見上げる。

 

「そんな一千年以上も昔と比べだらダメでしょう…」

「違うって、災禍時代の話だよ」

 

一息吐いてからスフェーンはルシエルに答えると、そこでルシエルは苦笑する。

 

「またそれも何世紀前の話ですか」

「ほら、あの時代も色々と大変だったでしょう?」

「まあ、線路を巡って何処でも戦争が始まっていた時代ですからね」

 

企業間抗争の絶頂期とさえ言わせしめた修羅の時代。とにかくやりたい放題だった時代だ。

 

「少なくともE兵器が飛び交ってたのはマジ無法地帯だった」

「国と言っても中では企業が鎬を削っていましたからね」

 

国会はあっても企業が裏から支配していたあの時代、議員は企業の代弁者として自分たちに有利な法案を通そうと買収や脅迫を使って、逆にそれを阻止したりと国会の外での争いと言うのも頻繁に起こっていた。

 

「で、企業を倒そうとした軍事政権が現れたり…」

「その軍事政権とて、次第に企業に飲み込まれていましたよ」

「まあ、大体そんなところでしょう。世の中金持ってる奴が強いわけだし」

 

そうした目に見えて分かる紛争もまた、災禍時代の象徴である。

一般の会社員ですら常に銃を持ち歩くことが必須となっていた時代で、スフェーンや、当時は列車に乗り込んでいたサダミも武器が手放せない時代だった。

 

「言っても私たちも昔はお金持ちでしたよ?」

「ええ、全部カフェの開業資金で消えたがな!」

 

念のため、車内の金庫には金塊とウィール紙幣が用意されているが、それは本当に緊急用の金であって手を出すことはない。

 

「お陰で経営で火車なんですけど」

「まぁ、あれだけ無茶をやってたらそりゃあ皺寄せが来るでしょうね」

 

ルシエルは冷淡に言ってカフェの気の入り具合を思い返す。少なくともあのカフェは一部の客単価の高さと、周りの土地の地主をしているにも関わらず自転車操業である。ぶっちゃけ王立学校の学費とバイト代、日々の光熱費や税金諸々を差し引いたらすっからかんになりかけである。

 

「ぶっちゃけますが、傭兵時代の貴方の方が資産はありましたよ」

「そうなんだよね〜」

 

煙草を吹かしながら彼女は頷く。傭兵時代…と言ってもかなり昔の話になってしまうが、その頃の彼女の保有していた資産というのは今よりも多かった。

著名な傭兵だったこともあり、仕事を受けるたびに依頼料は倍々で増えていた。まあ、だからこそ宙ぶらりんになっていた資産を丸々換金してアタッシュケースパンパンの金塊になったわけだが…。

 

「傭兵…ねぇ」

「引っ張られていませんか?」

「やぁ…まぁ、痛い目見たくないからあれだけどさ」

 

一応、これでも傭兵ギルドが発行をしている傭兵証明証は持っていた。鉄道運転免許証と同じく国際的に信用のある免許証であるため、身分証明証として使える。

 

「実質これで二枚持ちやねんな」

「その二枚、片方は資料館行きって知ってます?」

 

そう言い苦笑するルシエル。無論、そのことは重々承知していたのでスフェーンも口には出さなかった。

 

「全く、面倒なことをしてくれるもんだよ」

「恨みを買っていた貴方が悪いのでは?」

「心外だよ」

 

彼女はそう言って煙草の灰が風に流されて消える。巨大なアーチ状のガラス張りのトレイン・シェッドで覆われた駅構内は、他の幾つかのホームにも翌朝の始発に備えて夜間留置された列車が待機していた。

 

「…そろそろかな?」

 

そして懐中時計を確認して今も明かりがついている駅舎を見ると、深夜の人気の少なくなった駅舎に一台のトラックが停車した。

そのトラックはアンドロイドや獣人が降りてきて荷台からカートを降ろして駅を抜ける。駅員も彼らの制服を確認してから帽子を外して会釈をした。

 

「注文を受けてきました」

「はーい」

 

そこでホームに立ってスフェーンは制服を纏った二人を見る。彼らはスフェーンが頼んだ武器屋の面々だった。

今までの戦闘でかなりの弾薬を消費したことで彼女達は業者に連絡をして弾薬を大量に発注していたのだ。今の時間帯、駅構内の夜間留置ということで護衛兵達も全員が休憩をしていた。

 

「30mm銃弾と76.2mm砲弾ですね」

「はい。満タンでお願いします」

「分かりました」

 

まるでガソリンスタンドの容量で彼女は注文をすると、店員達も承諾をして機関車の補給口に給弾装置を接続する。

 

「…待って」

 

そして給弾しようとした直前、リンクレス給弾装置から焼尽薬莢の弾薬が装填されようとした瞬間、スフェーンが言った。

 

「装填はこっちで行うわ」

「え?しかし…」

 

そこで困惑する店員にスフェーンはそのリンクレス給弾装置に流れる寸前だった弾薬を見る。

 

「…」

 

その弾薬を前に軽くため息を吐いた。

 

「阿呆。錆弾じゃないのよ」

 

彼女はそう言って顔を上げようとした時、彼女のこめかみに銃口が向けられた。銃を抜こうと思ったが、不可能と判断して両手をゆっくりと上げた。

 

「動くな」

「…」

 

その時、内心で彼女は『ああ、やっぱり』という感想が漏れた。この武器屋は野盗とグルだったのかは定かではないが、まず間違いなく敵であると認識される。

 

「悪いな」

「愚かな…逃げられると思うの?」

「ああ。じゃなかったらこんなことするわけないだろう?」

 

そう言い、銃を突きつけた獣人はスフェーンを見つめる。その後ろで数名の同じ制服を纏った店員が平然と通過してきていた。そして彼らは一直線に現金輸送車に向かっていた。

 

「大人しくしていてくれ。俺だって子供を殺したくないんだ」

 

彼はそう言うと、スフェーンはほくそ笑んでいた。

 

「さぁ?どっちが追い込まれているのかしらね?」

「?…っ!!」

 

スフェーンは余裕を持った様子で答えたので、二人は困惑していると彼らは気配を感じて列車の上を見上げた。

 

「大丈夫ですか?」

 

そこでは屋根の上からルシエルが拳銃(TRR8)を構えており、いつでも撃てるようになっていた。

 

「常に天井には気をつけな?坊や」

 

彼女はそこで獣人の男を見上げると、その直後に気が抜けた瞬間に彼女は彼の両手で敵方の手を左右で叩いて銃を手放させると、その一回転した銃を握って自分の懐から自分の拳銃(Anderson Wheeler Mark VII)を取り出して銃口を向ける。

自動拳銃と中折れ式拳銃の二丁持ちで彼女は敵を見ると、直後に発砲した。

 

「っ!」

「ぎゃあっ!」

 

そして撃たれた二人はそれぞれ頭と足を撃たれ、直後にスフェーンの異能で電撃が迸って気絶させた。

 

「何だ!?」

「くそっ、機関車の方だ!」

 

そして現金輸送車の方に走っていた他の面子も銃声と雷鳴に気がついてその方に注意が行った。

 

「何だ!?」

「銃声だ…!!」

「総員警戒!」

「非常ベル鳴らせ!」

 

この音は容易に眠っていた護衛兵達を飛び上がらせ、直後に列車全体に緊急ベルが鳴り響いた。

 

「くそっ!バレたぞ!」

「逃げろ!」

 

その音を聞き、蜘蛛の子を散らすように強盗達は逃げ出し始める。

 

「敵だ!」

「泥棒だ!」

「拘束しろ!」

 

一斉に銃火器を持って列車から飛び出すと、スフェーン達は気絶させた二人をワイヤー銃を使って二人をボンレスハムのように拘束していく。

 

「やれやれ、店員に紛れて泥棒とはね」

「呆れたやり方です。グルでしょうか?」

「いや、どうだろうね」

 

ルシエルの疑問にスフェーンは拘束した強盗達の匂いを嗅ぐ。

 

「こいつ臭いから強盗でしょ」

「え?そういう判断ですか?」

 

意外な判別方法にルシエルは目を見開きながら引き攣らせた。その視線の先では慌てて逃げ出す強盗と、それを追いかける護衛兵というやや間抜けにも見える景色が広がっていた。

 

 

 

その後、拘束した店員に扮した強盗は移送中の武器屋を襲ったことが発覚し、数時間ごに本物の武器屋が来て弾薬を補給して行った。

 

「なんで強盗って分かったんだ?」

 

そして76.2mm榴弾を車内に運んでくれる護衛兵が首を傾げて聞いてきた。

 

「普通、武器屋が錆弾なんて渡してくるわけ無いじゃないですか。店の信用に関わってくる話ですし」

「まぁ…確かに」

 

彼女の話に妙に納得できた様子で護衛兵の隊長は頷いた。

 

「それも年の功っていうものですか?」

「そうですね…悪人って基本的に人目を気にして帽子を目深く被ったりするものですしね」

「なるほど。さすがですね」

 

やりにくいなぁ、と内心で隊長は思った。このように幼女の容姿をしていても実年齢は一体どれだけなのだろうかという話だ。基本的に今の時代に子供が機関車を運転するなんてまずあり得ない話であるため、この双子が不老者であることは確実なのだ。災禍時代の企業の非検体なのだろうかという邪推すらしてしまった。

 

「どうですか?さっき揚げたばかりのポテトなんですけど」

 

そんなことを考えている隣の男に対してスフェーンは容器に入れたフライドポテトを渡す。ちゃんと人数分が用意されていた。

 

「え?いいんですか?」

「どうぞどうぞ」

 

細切りのポテトに軽く塩と乾燥パセリが散りばめられた一品に丁寧さを感じた。

 

「ありがとうございます。失礼します」

 

隊長はそう言って容器を受け取ると、それを隊員達に配って消えていった。それを見送ると彼女は合造車に戻って、そこで先ほどとは比べ物にならないほど山となったフライドポテトを前に摘んでいく。

 

「なんでこれってオーロラソースって言うんだろう?」

 

その途中で彼女はケチャップとマヨネーズを1:1で合わせたソースを前に首を傾げた。

 

「フランス語で曙、明け方を意味するaurore(オロール)から来ているとか。このオレンジに近いピンク色がその名称の由来だとかで」

「へぇ」

 

ルシエルが説明を入れると、スフェーンはへぇボタンを連打した。

 

「英語ではフライソースとも言われるとか」

「んな古語の話されたって分かんね」

 

スフェーンはそう言って軽く一蹴してから程よく塩を振られたフライドポテトを食した。




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  • 娯楽禁止の街
  • 永遠の統治者
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