その後、列車が脱線した閉塞は封鎖された。
「オーラーイ」
「気をつけろよ!」
現場では夜な夜な探照灯が照射され、操重車が二台出動して陥没した穴に落ちた機関車を引き上げていた。
「あーあー」
「結構死体も混ざってやがるぜ」
近くでは複数の国際停戦監視軍部隊が散らばった野盗の回収を行っていた。生命維持装置が起動している野盗から順々に到着した病院列車に乗せられ、拘束されていく。
「逃げ出した連中は?」
「対戦車ヘリコプター部隊が追っかけてる。国軍も総出でお出ましだとさ」
「やれやれ…呆れたもんだな」
国軍は反政府勢力の居処を掴む機会だと感じて熱心に国際停戦監視軍に容疑者の引き渡しを求めてきた。
「列車は?」
「現金輸送車だけ装甲列車が回収しに来ている」
そこで現着した部隊は、そこで荷物列車に連結されていた現金輸送車は国連軍の装甲列車が解結してから全て持って行った。
「その方がいい。これじゃあ、反政府勢力がどれだけうじゃうじゃ出まくるかわかったもんじゃねぇぜ」
そこで拘束をされ、比較的軽症だった野盗を見る。正確には反政府勢力で、彼等が自然主義寄りの思想の持ち主であることはすでに知られた事実であった。
「しかし国軍もでしゃばってくるとは思わなかったが…」
「えぇ、お陰で引き渡し要請が凄いらしいですよ」
そう言いながらその兵士達は大穴の空いた路線を見る。
「あーあー、しかし派手に吹き飛んだもんだ」
「どうやら荷物列車にも狙いがあったとかって話ですけどね」
「へぇ、まあ金にはなるだろうけどよ」
そこで事情聴取で得た情報に彼等は首を傾げながら所々が破損した荷物列車を見ていた。
「貨車の被害は?」
「ロケット弾の破片が突き刺さってる。中の荷物も一部はおじゃんだな」
「あーあー、可哀想に」
彼等は切り離しが行われている様子を見ながら被害に遭った面々に哀れみを持っていた。
「ったく、面倒な…」
「機関車が脱線したらそりゃあこうなりますって」
ナッパ服の上から防弾チョッキやら諸々の諸装備品を纏っていたスフェーンは操重車で脱線区間から引き上げられる自分の機関車を見つめる。安全の為、作業中は機関車から離れている必要があった。
救援列車が事故車両以外を切り離して事故現場を保存しており、野盗の治療と拘束をするための病院列車が到着をしており、他にも警戒部隊として駆けつけた陸軍部隊などが立哨をしており、宛ら駐屯地のようになっていた。
「機関車自体は無事です。外装パーツが一部傷ついたってところですかね」
「良かった。中のエーテル機関がやられたら大惨事だったよ」
釣り上げられて線路上に復帰しようとしている様を見てスフェーンは言う。無論、費用は全部襲撃してきた連中に請求である。この類の賠償金は基本的に流れる術は無いので、刑務所でせっせと働けと思ってしまう。
犯罪者であっても腕さえ良ければ働き口なんていくらでもあった。金が全てであった時代の名残というべきか、刑務作業中に習得した技術を使って技官となって軍警察に入隊したなんていう嘘みたいな話もあった。
「まあ、牽引できそうな傷でまだ良かったけど」
「連絡入れますか?」
「うん、入れといて」
脱線をした事で機関車は全般点検をする必要が出てくるのだが、生憎とこの機関車はほぼワンオフ機であり、点検を行うとなるとこの機関車をよく知っている人の方がやり易かった。
「自走できそうですけど、どうしますか?」
「ああ、牽引で」
「分かりました」
そこで復旧作業中だった職員が聞いてきたので、スフェーンは早く着く方を選ぶと、スフェーンの保有している車両は機関車と連結をされる。
「事故車両運びまーす」
「はーい」
そこでスフェーン達は傷だらけの機関車を見上げてから運転室に乗り込む。
「やれやれ、こんな面倒なことになるとは…」
「費用は全部向こうが肩代わりしてくれます。まぁ、絞れるだけ絞ればいいと思いますよ?」
「鬼か」
そこでゆっくりと後ろに引っ張られていく車両。これから船に乗って帰国することとなるのだが、知り合いの整備工場に連絡をしておく必要があった。
「船の手配諸々含めても時間かかりますね」
「面倒な事だね、全く…」
スフェーン達はそんな話をしながら合造車の片付けをしていく。急ブレーキをかけたせいで車内はモノが荒れ放題になっていた。
「あーあー、もうグチャグチャ」
「皿が割れていなくて良かったです。物が散らかっただけで終わりましたよ」
クローゼットから服が飛び出したり、冷蔵庫の蓋が開いて中身が飛び出ていたりとなかなかに悲惨な状況が生まれていた。
地面に転がった人参やネギ、最悪なのは飛び出して割れた卵である。
「あちゃー、卵ほぼ全滅してる」
「それはもう買い直しですね」
ため息混じりにルシエルはベッド周りの片付けをすると、そこで転がった調味料を拾っていく。
「他に酷い有様の場所はありますか?」
「ガレージかなぁ…正直見たくないけど」
「どうせ片付けることになりますよ」
問題を後回しにするとろくなことがないというのは古事記にも書かれている通りの為、二人は部屋の片付けを終えてからガレージにつながる部屋を開ける。
「「はぁ…」」
そしてその先でこれまた散乱してい為ガレージに二人は露骨に嫌な顔をした。
「面倒な…」
「仕事増えますね」
そこで彼女達は散乱したガンラックや弾薬。リローディングマシンやロケット弾頭などを元の場所に直していく。
「異能使って動かしたい」
「無茶言わないでくださいよ。さっきの戦闘時に全部使っちゃいましたよ」
「空間エーテル濃度がゼロに近似できるぜ今なら」
そう言いながら彼女は頭上の満開の鹿角に触れる。花の感触を感じながら蕾に触れる。
「育っちまったよ」
「そりゃあ空間エーテルを吸い切ったらそうなりますって」
隣でルシエルは呆れながら散らばっていた弾薬を回収していく。ガレージには弾薬の他、昔から使ってきた工具箱やガンラック、パーツ云々が詰まっていた。
「パントリーとかどう?」
「無事でしたよ。食糧庫はそんなに酷くありませんでした」
散らばったガレージで彼女達は復旧作業をしていると、彼女に連絡が入った。
「あっ、護衛隊長からだ」
「どうしました?」
スマートフォンを開いて彼女が言ったので、ルシエルは首を傾げた。
「飯だって。この先の駅で飲むとかで」
この襲撃で一期的に休暇が与えられ、危険手当も入ったと言うことで酒の席のお誘いの連絡だった。
「良いですね。飲みのお誘いですか?」
「そそ、行く?」
「ええ、人と食べるご飯は最高の娯楽です」
彼女は頷くと、そこで二人はガレージの片付けを済ませると私服に着替えた。
その後、機関車は救援列車に牽引されて貨物ヤードまで移動すると、そこで二人は合造車を降りる。
「待ち合わせは?」
「この先の運輸ギルドです」
「了解」
そこでガレージの整理も終えて二人は私服に着替える。
「んしょ」
そこで獣人用に穴の開けられたヘルメットを被るスフェーン。
「出しますよ」
「ほーい」
そこでルシエルは
「…」
「大丈夫?」
「ええ、何年乗っていると思っているんですか」
スフェーンにルシエルはそう返すと、エンジンのかかったバギーはエンジン音を奏でながらホームに出ると、スフェーンはそこで合造車のガレージのドアを閉めた。
「鍵の閉め忘れは?」
「無いよ」
そこで確認をしてスフェーンはルシエルの後ろに座って腕を回す。ルシエルもヘルメットをかぶって待ち合わせ場所の確認をすると、バギーのエンジンを吹かしてホームを後にする。
「ふふふっ」
「何笑ってるんですか?」
「いやねぇ、数時間前まで死にかけの戦闘をしていたのに飯とはね」
機関車は整備工場行きが確定し、これから鉄道連絡船に乗せて帰国である。
「生還祝いですよ。平和な時代とはいえ、生きることはいいことですから」
「全くね」
スフェーンはルシエルの意見に大いに賛同すると、運輸ギルドのアスファルトで敷き詰められた道路を走る。貨物ターミナルの敷地内は複線専用列車が停車してコンテナの積み下ろしが行われていく。世界規格で統一されたこのコンテナは鉄道・船舶・航空機全てで使用可能である。
遥か昔となってしまった大災害において多くの技術がロストテクノロジーと化してしまった。かつては繁栄の頂点に至ったとさえ言われたが、今では宇宙に上がることすら一苦労する技術レベルまで落ちていた。
大災害以降、カーマン・ラインまで打ち上げられたエーテルは今もこの星を薄殻で覆っている。空に見えるオーロラは、かつてトラオムで起こった内戦によるE兵器の乱用だと言われている。災禍時代も似たようなもので、パシリコ戦争末期にやぶれかぶれに世界中にばら撒いたE兵器の設計図が戦争を激化させ、島一つが丸々吹き飛んだ事故を起こした。だから今でもパシリコ人は『戦争の火種』として世界中から警戒される人種として見られていた。
「そろそろですよ」
「へーい」
そこでルシエルが言うと、二人は運輸ギルドの前のロータリーに到着する。
「ん?」
その時、ロータリーのベンチで私服姿で座っていた男が顔を上げてバギーに跨った二人の幼女を見た。後ろに乗っていた少女の鹿角は見間違うはずがなかった。
「おーい、こっちだ」
そこで軽く手を振って合図を送ると、後ろに乗っていたスフェーンが降りてきてヘルメットのバイザーを上げて男を見上げた。
「へぇ、意外と若いんですね」
「そりゃあ、あなたと比べられたら誰だって若造ですよ」
男は表情を引き攣らせてスフェーンを見下ろす。
「素顔がわからなかったものですから助かりました」
「当たり前ぇだろ。普段はフルフェイスヘルメットで顔隠してんだから」
「ああ、マフィアに顔お覚えられないためによくなりますよね」
「そうだよ」
軍警察の頃からの伝統で、警察や軍などの武装組織はマフィアや野盗などの犯罪組織に顔を認知させないために全員が同じフルフェイスヘルメットをかぶっていた。
「よく知っていますよ。軍警察の頃からずっとそうでしたから」
「軍警察って…」
いつの時代の話だよと男は目の前のロリバ…年不相応の少女にまた顔を引き攣らせた。
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