TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#460

機関車を王国に移送させる前、スフェーン達はこの仕事でともに戦った国連軍の兵士と酒の席に参加することとなった。

 

「運び屋ってのは移動手段を持っているんだな」

「ええ、バスもタクシーもねえような場所に行くことはよくありますからね」

 

よく展開式のトレーラーを牽引して知り合いの農園に行くことなど幾千回。思えば前任のバイク以上に永井付き合いだなと思ってしまった。

 

「すげぇな、スラムじゃあ中々見ねえぜ」

「どうなんでしょうね?」

 

スフェーンは目の前の男の経歴を知らないのでやや適当に答えると、他の隊員達の姿は無かった。

 

「休暇が出たんですね」

「ああ、元々こっちに駐屯地があるんでね。他の連中は先にやっている」

 

男はそう言いスフェーン達の乗ってきたATVを見る。軍用で元々は国連軍…ではなく軍警察で使われていた機体だろう。他に荷物が括り付けられた様子はないが、砂で汚れているので何か乗せて使っていたというのが伺えた。

 

「隊長さんは?」

「俺は駐屯地から銀チャリだよ」

 

そう言い駐輪場に停めていた自転車に跨った。

 

「この先におすすめの居酒屋があるんだ」

「へぇ」

「美味いんだ。おすすめはどて煮と鰹のたたきなんだ」

「どう言う組み合わせですか?」

 

話を聞いていたルシエルがやや顔を引き攣らせた。

 

「美味けりゃなんだっていいんだよ」

「いやま、そうですけど」

 

究極的な話を聞き、ルシエルは男に言うと彼等は街を走る。

その居酒屋というのは国際停戦監視軍の駐屯地の近くにあり、また運輸ギルドからも比較的近い場所であった。

 

「お?運転士さん達だ」

「隊長、お先に失礼してます」

 

裏通りの、バギーですら通過不可能な程の路地に入り口を構えており、ATVも途中で路肩駐車場に停めてきていた。そして赤い提灯を下ろしていた店の引き戸を開けると、そこでは店を貸し切って見知らぬ顔の面々が座敷席で座っていた。

 

「ったく、何本開けてんだよ」

「任務成功祝いですよ」

「列車事故ってんのにか?」

「積荷は奪われませんでしたって」

 

休養を与えられた護衛部隊はほぼ全員いるそうで数名女性が座っており、あの中に居たのかと少し意外だった。

 

「どうぞ」

「あぁ、大丈夫です」

 

席に座ったルシエルはグラスに注がれようとされたビールを断った。

 

「今日、運転ですので」

「あら、ごめんなさいね」

「いえいえ」

 

軽く注ごうとした女性にルシエルは首を左右に振ると、その隣で瓶ビールを開けてジョッキに注ぎ始めるスフェーン。

 

「お?良い飲みっぷりですね」

「じゃなきゃやってられないですよ」

 

この見た目で飲むのかよと見ていた面々はその違和感に子持ちや兄弟姉妹持ちを中心にやや引き攣った様子でジョッキを傾けるスフェーンを見た。

 

「スフェーン」

「大丈夫だって。そんな無茶しないから」

 

彼女はそう言うと、そこで立ち上がって勝手に音頭を取り始めた。

 

「えー、皆さん!今日はお仕事お疲れ様でした〜」

 

彼女は片手に並々に注がれたジョッキを掲げる。

 

「まあ、色々と言うと面倒なんで早速飲みましょう。乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

 

彼女の音頭に合わせて一斉に居酒屋に居た面々はジョッキを掲げた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

そしてスフェーンは軽くため息混じりに柵にもたれかかっていた。

 

「スフェーン」

「ん?」

 

そこでルシエルが話しかけると、彼女は振り向いた。

現在、二人はパトリシア王国に向かう鉄道連絡船に乗り込んでいた。事故車両のなったしまった事で一時的に運行権を停止されてしまったスフェーンの機関車は修理のために帰国の途についていた。

 

「もうすぐ王国ですよ」

「へいよ〜」

 

王国まで直行便が出ていた港にて鉄道連絡船に積載してから目的地まで移送を行う。自走可能な事故車両の扱いのため、移動は機関車が牽引をすることとなる。無論、諸々の諸経費は全部野盗達に借金させている。

昔からこのシステムでこの世界は回っており、金融業者もそれを専門にした金融業者が出てくる始末である。特に不老者の技術が現れると、それを肉体に施して借金返済まで働き続けるという地獄の様な拘束をする場合もあるそうで、永遠と借金を背負わされることとなる犯罪者達は『嫌だ!ここから出たくない!』と言って刑期満了で出所を拒否するパターンも多いとか。

 

「どうですか?」

「全然大丈夫」

 

ルシエルにそう返すと、彼女は大人の姿でルシエルと身長差を三〇センチ以上差をつけて見下ろしていた。出国前に体を変質させた結果である。毎度見られるたびにサダミにドン引きされるのは良い加減慣れろと言いたいのだが…。

 

「接岸するので、下船準備をしますよ」

「りょーかい」

 

頷くと彼女は遠くに見える街の明かりを目にする。

この鉄道連絡船は多量のコンテナも積載しており、この港で鉄道を積卸しながらコンテナも積卸を始めていく。

 

船体後方のハッチが開いて機関車が中に連結された鉄道車両を引っ張り出していく。その中には前面が傷だらけのスフェーン達の機関車と合造車もあり、船倉から引っ張り出される。

その間、スフェーン達は旅券を持って入国管理局で審査を受けていた。王国の旅券を前にアンドロイドの入国審査官がスフェーンの顔写真と出入国履歴を確認してから判子を持ち出して押した。

 

「お帰りなさい」

「どうも」

 

入国審査をすんなりと終えて帰国すると、ルシエルも出てきて旅券を仕舞い込む。

 

「しっかし増えたわね」

 

スフェーンはそこで旅券を開いて様々な国の出入国スタンプを見て呟いた。

 

「そりゃあこんな仕事をしていれば旅券は判子まみれになりますよ」

「ふははっ、こりゃあ警察の追跡も苦労するぜ」

「犯罪でもする気ですか?」

「んなわけ」

 

スフェーンはそう言いながらルシエルから旅券を回収して袋に入れると、その足で運輸ギルドに足を運んで中のカフェで待ち合わせをする。

 

「お待たせしました」

「いえいえ、そんな事はありませんよ」

 

そこで待ち合わせをしていた顔馴染みの不老者が答える。彼は自分と同じ会社に勤めている運転士だった。

 

「しかしお疲れでしたね。まさか追加編成される(現金輸送する)とは」

「飛んだご苦労よ。おかげで運行権停止(自走不可)よ」

運行権剥奪(免許取上げ)よりはましですよ」

 

そう言うと彼は待ち人が来たので代金を支払ってから店を後にして貨物ターミナルに移動する。

 

「あーあー、こりゃあ酷い」

 

そしてスフェーンの傷だらけの車体を見て思わず言ってしまう。

 

「何やったら戦艦並に頑丈な機関車でこうなるんですか?」

「野盗が四〇センチのロケット砲をぶち込んだのよ」

「あー、なるほど」

 

そんなものを持っているのなんて野盗じゃなくて反政府勢力だ、と言いながら彼は自分の機関車(LMS 5形)に乗り込むと、スフェーンの機関車を連結してから貨物ターミナルを出る。

目的地に着くまで間、スフェーンは合造車で紅茶を飲んでいた。

 

「飲み会からもう二週間だって」

「早いですね」

「全くよ」

 

ルシエルは金庫を開けて中にこの仕事で使わなかった通貨を分けていた。これからウィールに両替して置くのだ。今時、翌日にこの通貨が使えなくなった。なんてことが多々ある為、外貨は安定した価値があって世界中で使えるウィール通貨に両替するのが運び屋などの世界的に移動する人間の性であった。

 

『もうすぐ目的地だ』

「了解」

 

そして連絡を受けてスフェーンは頷くと、列車はある場所に到着をする。

 

「来たぞ」

「牽引するぞ」

 

その場所に到着するや否や、待っていた電気機関車(デキ3形)によって連結がされた後に引込線から車両工場に引っ張られる。その施設は巨大で、複々線の線路の先に多くのクレーンやコンテナが積み上がり、製作されたばかりの巨大なエーテル機関などが留置されていた。

ここは国立先進技術研究所第一車両工場。国内の鉄道関連技術の組み立て・整備を行う施設だ。その名の通り、ジョンが名誉所長を務める国立機関であり、様々な分野での研究を担当する国内に分散している施設の一つである。

 

「よっと」

 

巨大な工場に到着してから機関車から降りると、一人の女性が彼女を待っていた。

 

「お帰り。スフェーン姉さん」

「うぃ、また世話になるわ」

 

そこで軽く手を合わせて作業着を着て所々が油で汚れていた女性を見る。

 

「みくり」

「うん」

 

スフェーンに言われて山城みくりは頷くと、彼女は前面が傷だらけの機関車を見た。

 

「うわぁ、また壊したね」

「ロケット砲撃ち込まれたにしてはまだマシだと思うわよ」

 

煙草に火をつけながらみくりに答えると、チョコレート色の塗装が剥げて下地の装甲板が剥き出しとなった機関車を見る。

 

「何センチ?」

「四〇」

「なるほど、巡洋戦艦の砲弾くらいってことね」

 

そんなロケット砲を喰らってこの傷かと内心で舌を巻きながら彼女はエーテルの声を聴く。

 

「…うん、誰も怪我してなさそう」

「そうか。それならよかった」

 

スフェーンは安堵してため息を吐くと、切り離された合造車のガレージのドアが開いてルシエルが降りてきた。

 

「一応全般点検をするから、だいたい二週間は動けないと思う」

「了解」

 

みくりから予定を聞くと、早速クレーンが近づいてきて台車と車体の切り離し作業が始められる。

エーテル機関は大災害以前の産物、車体はジョン謹製と言う走る国家機密の様な機関車である為、整備主任はこの機関車を使った際に携わっていた山城みくりが専属で担当していた。

ここには鉄道車両の全般点検なんてお手の物にできる設備と人員が揃っていた。早速機関車の台車を前に熟練工に新米が手解きをされていた。

 

「合造車はどうする?」

「置いてくわ。預かってもらって良い?」

「分かった」

 

エーテル機関の整備においては彼女の右に出るものはいないと言わせるほどの腕前だ。ジョンの手ほどきで不老者化手術と若返り手術を受けた彼女は、実に若々しい姿でこの組み立て工場を取り仕切っていた。

王国が建国した際にスフェーンに呼ばれてこの地に移住していたのだ。

 

「スフェーン姉さん」

「ん?」

 

そこでみくりはATVに保存の効かない食料品を載せていたスフェーンに話しかけた。

最初に出会った頃から変わらない姿の彼女で色々と不思議な人であるが、今でも彼女はスフェーンを姉と仰ぎ見ていた。

 

「今回は散々だったね」

「全くよ」

 

みくりにスフェーンは心底不満げな顔をして頷いた。




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