TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#464

今から一〇〇年以上昔、この大陸を巻き込んだ戦争があった。

 

ーー『立憲内戦』

 

四津ヶ原大公率いる立憲君主派と、カリオテ王率いる専制君主派の戦争だ。

国が真っ二つに分かれた内戦だ。

一二〇年に渡って行われたアン1世の治世が終わり、カリオテ王の治世は専制君主体制をより強固なものにしていた。

この戦争自体は教科書にもよく載っているし、今のこの国の政治体制はこの頃から継承されている。

戦争は四津ヶ原大公率いる立憲君主派が勝利し、この国は王侯貴族による民主化革命を迎えた。

 

アンナ・パトシリアが国王在位中に婚姻し設けた子は全員が徹底した帝王学を施され、大陸を収めて分割した地方に地方担当行政官として送り込んだ。

第一大公と俗に言われる四津ヶ原大公は、アンナ・パトリシアの第一子の長男がその始まりである。

彼女が産んだ十三名の子供は全員が大公の爵位を建国後に与えられた。大陸統一戦争の前に生まれた子供達は、自分たちはどんどん肌が枯れていくにも関わらず、赤ん坊の頃から姿が変わらぬ母親を見て一体どんなことを思ったのだろうか。

 

今では初代当主達の玄孫ですら早いと死んでしまっている時代だ。その真意を確かめる術は存在しない。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「河嶌つばさ様ですね。お待ちしておりました」

 

巨大な装飾の施された鉄格子を石造りの門を前に従者が俺を招き入れる。

ここは王都カンナハの中心地に程近い第三行政区の一角にあるウェスト・チェストリー地区。ここは一般的に高級住宅街として、王侯空族のタウンハウスが立ち並ぶ場所である。中央政府官庁が立ち並ぶ第二行政区に隣接しており、ここからだと中央駅のアクセスも好立地な場所である。

 

無論ここは国の中でも警備が特に厳重で、入るたびに交番に常駐している警察が確認してくる。自分とて記者じゃなかったら怪しまれているところだった。

 

この日、河嶌つばさは出版社の会議で彼の案が通ったことで、世の中に散乱している王宮事変に関する都市伝説をまとめた一覧表とその精査を毎月記事にすることが決まり、その足を使って彼は数件のアポを取って取材を行っていた。

王宮事変の際に参列をしていた王侯貴族の中でも今も存命している面々はおり、当時の資料をひっくり返して所在地をリストにまとめていた。

 

「初めまして。趙様」

「ああ、初めまして河嶌記者くん。礼儀正しい子は好きだよ」

 

そこで午前中に彼は事前にアポを取ってタウンハウスに案内されると、応接室で彼はある人物と会っていた。

 

 

 

趙李明。

趙伯爵家初代当主、元外務省ヴェルヌ大陸局局長兼憲法製作委員会委員長。

 

アン1世の統治時代、彼女の治療を受けて彼女に恭順を誓い、大陸統一戦争では外交団の一員として『外務省の梟』と呼ばれ、その外交手腕はパトリシア王国の永世中立化に繋がったとされる外交の達人。今は伯爵家当主の座を降り、生まれ故郷の領地で紹興酒を作っている。

 

 

 

俺はそんな外務省の元要人を前にICレコーダーをつけてインタビューを始めた。

 

「王宮事変の時、私は玉座の間の左翼、五列目の左から三番目の位置に立っていた」

 

二人の間で太陽の光が差し込む中、彼はソファに座って語った。

 

「何度も取材はされたよ。だから何度も同じことを言ってしまうよ?」

「いえいえ、趙伯爵にはご足労をおかけして申し訳ありません」

 

目尻が垂れ下がった糸目。少し元気の無さそうな彼の顔は、外交という場において気の弱そうな男として映ったことが彼の最大の武器である。

この他人に気を使う口調も常日頃からの癖であり、その彼の容姿と雰囲気が外交官の隙を作らせた。そして彼は建国後の憲法制定時の憲法製作委員会の一員に選ばれ、立憲君主制政治の礎を築き上げた。

彼がアン1世に狂信的なまでの崇拝をしていることはその筋では有名な話であった。

 

「アンナ様に野盗で吹き飛んだこの右手を異能で治してもらったことが、私にとっての天啓だった」

 

彼は今もその容姿に違わぬ煌めいた眼差しで話す。

 

「王宮事変の前に爵位を授かり、スラム街で企業の施しを受けていた私は文字を学び、数字を数え、歴史を知った」

 

そう言い、彼はソファの彫刻された材木に触れる。

 

「アンナ様は王宮事変で第一二大公に殺害された。無論、当時の専制君主体制を批判する大陸の諸民族は多くいた。しかし国王陛下は、そうした諸民族の問題に自ら足を運んで対応された。警護上の問題は承知の上でだ」

 

当時、まだ大陸を平定してから一二〇年余。大陸国家として大陸統一戦争の際に民衆からの圧倒的な支持を得て国王に推挙されたアンナ・パトリシアは、目の前の老齢な外交官を見てわかる通り、敬愛されていたのだと理解できる。

 

「国民からあれほど愛されていた国王陛下を暗殺したのだ。王侯貴族の間でも当惑していた者もいた。

あの建国記念日の日、国王陛下は立憲君主制への移行を表明する演説文を用意した。下書きを書いたのは私だ」

「…よく、存じております」

 

河嶌は頷く。故に彼はアン1世からの信任も厚かった人物であったことが伺える。

当時、あの建国記念日の玉座の間の式典にてアン1世は、今の専制君主体制から立憲君主体制への移行による民主主義政治の創設を約束する演説を行う予定であった。

 

「まだ諸民族の独立の可能性を捨てきれない時代に国王陛下の急速な民主化に危惧していた」

「…そのことを他の貴族も承知していたのですか?」

「ええ、王宮事変の数年前から国王陛下は地方自治関連法を制定し、国会開設の準備の為の整備をしていたからね」

 

その演説文は第三代パトリシア立憲王国国王によって代読という形で立憲内戦後に正式に発布された。

この国の国王はこのような歴史から民衆に信任を得て国王に就任し、その見返りとして王室は国民に郷土防衛と、国民全員に諸々の平等な権利を約束していた。

 

「晩餐会でも薄々皆気がついていた。民主政治を取り入れるのだろうとね」

「…」

 

無論、既存の王侯貴族は強く反対しただろう。当時の政治体制を見ていると、全権を担っていた彼女はその人気から安定した治世を施しているようにしか見えなかったからだ。

諸民族が不満を叫べば列車に飛び乗って現場に向かい、本人たちから話を聞き、その地方に赴任した行政官に対策を細かく指示をさせる。

そうして彼女によって問題が解結すると、今まで体制批判をしていた者たちですら熱悦な彼女の支持者となった。だから彼女は大陸を収める女王になったのだ。

 

「だが、急速に取り入れようとした民主体制だ。混乱を危惧していたという大公の考えは分からなくもなかった」

 

彼女は自分に向けられた批判を検閲させることもなかったし、検閲させようとする動きをむしろ静止させることの方が多かった。

報道の自由を保障していたこともまた、国民から今もなお敬愛される理由だろう。

 

「独立派は今もたまに燻っているだろう?」

「はい…今はまだデモで済んでおります」

「昔は彼らも武器を持って軍の輸送隊に襲撃を仕掛けたこともあるくらいだったんだ。今ではすっかり形を潜めてしまっているけどね」

 

過激派によるテロ行為というのは、最近では滅多に聞くことは無い。平等な徴税に、民族や種族で差別を禁止することを憲法にまで記載した。そして安定した経済成長により、自治権も保障されている現状でこれ以上に求めることがない独立派は自然に消滅しまっていた。

 

「多分、大陸統一戦争やトラオムの歴史を見て諸民族の独立運動は彼らの目には想像以上に恐ろしく見えていたんだろうね」

 

地方の行政担当官として大陸を収めていた大公。大陸を統治する上で彼らが最も恐れたのが反乱であった。

 

「だが実際はそんな事もなかった。むしろ国王陛下を暗殺したと勘違いした王政派が暴走するほどだった」

 

イシュ=ケリオト大公は王宮事変で最初の挨拶の際に短刀を用いてアン1世を暗殺した。

当時、王宮事変の暗殺は事故として処理をされ、あの式典に参加していた多くの貴族はその後の立憲内戦や病などで多くが死去していた。

元々不老者というのは死にやすい種族でもあるため、今も存命の王宮事変関係者というのは意外にも少なかった。不老者でなければ尚更寿命という枷などに縛られてそもそも生きている人がいない。

 

「暗殺をした際、国王陛下はイカルス大公の陰に隠れて私は上手く見えなかった。多分、そこら辺は左翼側にいた人たちの方が見えていたんじゃないかな」

 

彼はそう言い、事前に聞かされていた質問内容に答えていく。

 

「さっきも言っていたけど、私はあの式典の最中は前方にはいた。だけどイカルス大公は短剣を国王陛下のどこに刺していたかは見れていない」

「いえ、貴重な情報です」

 

そこでわざわざ紙に図式まで書いて持ってきてくれた趙に河嶌は感謝しながら受け取る。

 

「結構昔のことだから、私もかなり曖昧なのは許してくれ」

「いえいえ、検証などでもよく使えると思います」

 

そこでありがたく受け取ると、彼はそこで事前にアポを取った際に送った質問状に次々と彼は答えてくれる。

 

「イシュ=ケリオト大公がアン1世の民主化改革を恐れていたのはそうだろう。だが市井でよく言われている『自分が王権を握りたかった』というのは大間違いだ。彼は王権を握った先で国家体制の盤石化を狙っていたのだからね」

 

イシュ=ケリオト大公は王宮事変の後、大公会議によって玉座に座る権利を得た。その時の大公会議の議事録は全て記録されており、国立公文書庫に申請をすれば閲覧が許される。そして幾らか彼は事前に用意した質問状に丁寧に答えてくれた。

その内容は流石元外交官と言うべきだろう。事細かく、口で聞こうとしていた質問にも答えてくれた。

 

「まぁ、とりあえず私が答えられるのはこのくらいかな」

「分かりました。ご協力ありがとうございます」

「何の何の、気遣いのできる人は好きですよ」

 

普段はいきなりアポだけ取って呼び出させて色々と詰問してきたりという迷惑な記者がいたんだろうな、とその一言で理解すると河嶌はまとめたレコーダーや事件時の資料を受け取ってから屋敷を後にした。




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