TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

466 / 475
#466

王宮事変と立憲内戦は切っても切り離せない関係である。

こうも陰謀論と都市伝説に塗れていると、史実を精査するだけでも大変な苦労になるものだ。

何があって、何が本当に起こったことなのか。それを精査することは悪くない事だろう。

毎月、記事に書いてアポを取れた人からの取材を一言一句間違えず文章に落とし込んで、国から正式に発表された史料も活用して再現映像を制作していく。

 

意外にもこの王宮事変と言うのは、多くの謎が残された事件だ。

まず第一に国から発表された情報というのはさすがと言うべきだろう。今まで仕入れていた王侯貴族の話を聞いていても分からなかった詳細な当時の状況が記されている。

全てがガラスで造られた短刀を持ち込んでいたイシュ=ケリオト大公は、王侯貴族の挨拶の際に最も彼女との距離が近い場所でその短刀を彼女の心臓に突き刺したとされている。

今まで取材を行って来た関係者の取材で判明したのは『誰も殺害された瞬間の様子を見ていない』と言う事だろう。

 

河嶌は自宅でホログラムを作りながら当時の王宮事変に関する資料を読み漁っていた。

オカルト部が立ち上げた企画で、ほぼほぼ彼が取り仕切っていると言っても過言ではない王宮事変から立憲内戦に関わる都市伝説や陰謀論の精査。

なぜこの様な噂が立って今もなお書かれるのか、なぜ王宮事変は陰謀に塗れてしまったのか。それをすべて整理してくのは楽しかった。気分は探偵や歴史研究家の気分だった。

 

実際、俺は王宮事変のことを長年調査していると言う噂の歴史学者にもアポを取って話を聞いていた。

 

「いやはや、私なんかに話を聞きに来る人がいるとは思わなかった」

 

大学の小さな資料室で痩せこけた男はそう言いながら俺を見る。

 

 

 

マハトラ・デヴィ。

現カンナハ中央大学、歴史学部王国史学科准教授。

 

王宮事変の研究を専攻する歴史学者だ。学会では『冷飯喰らい』とも言われる異端児である。かつては子爵家の次男で、今はこの部屋で歴史研究に没頭していた。

 

 

 

「あの頃、私の曽祖父が参加していたそうだ。手記にも残されている」

 

彼は語る。子爵であった彼の実家は当然王侯貴族であるために王宮事変に参加していた。

 

「あの時、私の曽祖父は左翼側の端に近い場所に立っていたそうだ」

 

当時の現場検証は今まで幾度となく行われ、映画すら製作された。ドラマも作られた。

 

「アン1世が暗殺された時、曽祖父は混乱の最中にあった玉座の間において大公が刺した後のことは記されていなかった」

 

刺された瞬間、その後の混乱、逃げ出す貴族。混乱の度合いを垣間見ることができる数少ない史料だ。何せ王宮事変に関する記録と言うのは少なくない資料が立憲内戦で消失してしまっていた。

 

「今の教科書に書かれている事実は、全て作られた歴史だと断定している」

「…何故ですか?」

 

聞いてみると彼は確信している様な様子で話す。

 

「彼女の国葬をした時、棺を見た曽祖父は違和感を感じたそうだ」

「違和感?」

 

彼が感じた違和感というのは、彼の曽祖父が熱心な愛国者であったことから感じた違和感であったという。

 

「曽祖父は国王が国葬されるときに馬車に乗せられる棺を見たそうだが、微妙に音が軽かったそうだ」

「音が軽い?」

「ああ、棺を馬車に乗せた時の沈み込みがほぼなかったと言う」

「…なるほど」

 

インタビューは終わったが、微妙な引っ掛かりを覚えて俺は大学を後にした。

 

「国葬、か…」

 

盲点だったなと思った。記事自体は好評を博して雑誌の売れ行きはオカルト部の歴代の雑誌売上数に並びそうな勢いである。やはり多くの国民はこう言う錯綜した情報の整理をしてくれることを願っている様子だった。

 

「戻りました〜」

「おう、河嶌。ちょっと」

 

そして出版社に帰るや否や、彼は上司に呼び出しを受けた。一体何だろうかと首を傾げたが、そこで彼は端的に言われた。

 

「上からの命令だ。今書いてる記事は来月で切ることになった」

「は?」

 

言われた河嶌は困惑した様子で上司を見る。

 

「ちょっ、どう言うことですか?」

「苦情が入ったらしい。編集部が、打ち切りを決定した」

「嘘でしょう?こんなにも評判がいいのにですか?」

 

彼は驚いた様子で上司にくってかかる。いきなりまともな理由も無く打ち切りが決定したことに困惑していた。

 

「知らんよ。でも役員からも言われちまったらどうしようもねぇだろう?」

「…」

 

予想外の人まで出て来たことに河嶌は思わず息を呑んだ。つまり、この打ち切りは役員会議で決まったと言うことになるのだろう。

 

「なんで役員がオカルト部なんかに…」

「さぁな、俺だって分かんねぇよ」

 

上司はそう言い、俺に新しい仕事を渡しながら去って行った。

デスクに残った彼は、そこで新しい仕事を前に今まで書き溜めていた資料をまとめていく。

何せいきなりな打ち切り命令だ。何も準備していなかったために彼は少し慌てて来月分の記事をまとめていく。

 

「よぅ、打ち切りだって?」

「ああ、クソみたいな役員会議で決まっちまった」

 

するの耳の早い同僚が話して来たので適当にあしらいながらキーボードを打つ。

 

「話じゃあ、役員会議でも全会一致だったらしいしな」

「は?マジで?」

 

その時、同僚から聞いた話に思わず顔を向けてしまう。

 

「あの役員会議で全会一致なんてあるのか?」

「噂だよ噂、本気になるなよ」

 

河嶌に同僚は軽く諌めてからデスクを去った。

 

 

 

その後、来月分の記事をまとめてから退社した彼は、そのまま自宅に帰って部屋に積み上げられた資料を見る。

 

「…これも無駄足に終わったか」

 

その資料は全て王宮事変と立憲内戦に関わる本だ。昔からアナログな性格だと言われていた彼は、とことん調べて記事にすることを生業として長年やり続けていた。一冊の本、それは王宮事変の陰謀論が書かれた一冊だ。ありきたりで良くある話だが、内戦後に御家潰しとなったイシュ=ケリオト大公の隠し財産の在処を推測する都市伝説だ。

 

王宮事変の後、国王に就任したカリオテ王は国内の反体制派に統制をかけ、国内の治安維持向上を図った。当時はまだ統一後のアン1世の独裁政権によって国が成り立っており、彼女と言う楔石が外れたことによる分裂を恐れてのことであった。

彼が何故アン1世の暗殺を行ったのかは今でも謎のままであり、その真相は解明されていない。

 

 

 

立憲内戦の始まりは、そんなカリオテ王の治世が四〇年ほど続いた頃の話だ。この頃、王宮内である疑惑が浮上したのだ。

 

 

ーーカリオテ王は不老者化手術を受けたのではないか。

 

 

その疑惑が持たれたのは、彼の長い治世においてその容姿が変わらなかったことから始まる。無論、以前からその疑惑はあったのだが、本格的に噂となり出したのはこの頃からだ。

 

王室典範の最初に記された条文である『王室関係者の非不老化』これを意図的に破ったのではないかと囁かれたのだ。無論、国王自身はその事を公的に否定していたが、盤石な専制君主体制が構築されるのを前に諸民族はその噂に敏感に反応した。

そして第一大公や第三大公、第六大公と言った立憲君主派の大公やそこに付随する各王侯貴族もこの疑惑に反応した。元よりアン1世の暗殺に好感を持っていなかった者達である。一二〇年に渡る彼女の治世は国家をより盤石なものにする上で排除するべきではなかったと言う意見が日に日に強くなっていた。

 

そして四津ヶ原大公は立憲君主派を名乗り、当時の王国議会でイスカリオテ王朝に民主政治の導入の要求を高らかに宣言。一定の賛同を得たものの、憲法改正案を王国議会は否決した。

 

そして世暦一二八五年、六月九日。第一大公、四津ヶ原大公が王国からの離反を表明。同日から一週間の間に第二大公、第三大公、第六、第八、第一三大公が一斉にイスカリオテ王朝からの離反を表明し、そこに各王侯貴族や軍もついた。そして明順要塞砲撃を単に発し、本格的な立憲内戦が幕を開けた。

 

第一大公率いる立憲君主派を西軍、カリオテ王率いる専制君主派を東軍と呼称し、内戦は二年で終結した。

 

副都小坂を進発し、パトリシア立憲王国の西王朝を名乗った。

西軍はあくまでもこれは立憲戦争、民主化戦争と捉え、亡きアン1世の悲願を達成することが彼らの目的であった。

何せまだアン1世の統治時代を生きていた者が多い時代だ。その呼び掛けに王侯貴族や国内の諸民族が呼応して次々と西軍に加担し、離反した国軍部隊は増えた。無論静観を決め込んだ王侯貴族もいたが、次第に優勢な西側に加担するようになった。

 

戦争から一年後に首都カンナハを失陥した専制君主派は北に逃亡し、本拠地を大陸北方の主要都市の北部台に移して徹底抗戦を訴えたが、西軍は民主政治を確約し、民衆の人気があった四津ヶ原清松は次々と都市を攻略していく。

史上最大の兄弟喧嘩とも言われるこの異父兄弟による戦争は、北部台における六芒郭の戦いをもって終結する。その際、カリスト王は部屋を丸々吹き飛ばす量の爆弾を使って家族と共に自決。遺体すら残さなかった。

 

遺体が発見できなかったことで彼が不老者化手術を受けていたのかはいまだに分かっていない。だが、自らの遺体を残さなかったと言う事は、自分の体を調べられたくなかったと言う事であるとされ、公式には不老者化手術の可能性は断定されていない。しかし状況証拠的に、カリスト王は不老者だったのではないかと言われている。

 

「後にイシュ=カリオテ大公領は、アンデルセン公爵とサックス公爵などの武功を上げた公爵家に分割か…」

 

この家も公爵の中でも名家とされる一家だ。旧暦の頃から家系図がある由緒正しい家柄。後者は『傭兵公爵』とも言われ、世暦史上最も立身出世した家であるとさえ言われた。

 

「…やるか」

 

その数々の資料を前に、彼は思い立ったように自室のパソコンの前に座り込むと、今まで調べた資料を精査していく。

 

「打ち切られたが、個人的な調査なら許されるだろ」

 

知りたい欲望に駆られ、突き動かされるように彼はパソコンを叩くと、今までの取材をまとめ始めた。




お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。