TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#470

ーーレッドサン。

 

今も昔も、彼ほど著名な傭兵もいないだろう。

 

暗暦の末期に登場し、数多の戦場を駆け抜けた企業間抗争が生んだ天才…或いは天災。

その素性は今も一切分かっていない。一部では落ちぶれた企業の御子息や、スラム街で生まれた孤児であるという話もあるが、いずれも憶測の域を出ていない。

 

南北戦争やパシリコ戦争で多く名を挙げた傭兵も確かにごまんと存在する。しかしそれらは全て記録された上の名前だ。

彼ほど膨らんだ無敵の武勇伝を持つ男もいないだろう。

 

ーージェローム・サックス。

 

彼もレッドサンの話をする上で欠かせない一人だ。

 

彼の肝入りで創設された傭兵ギルド。

今まで多くの傭兵業と言うものは、全て個人的な取引によって行われてきた。統一された傭兵業の斡旋業者というのは無かったのだ。

一部の企業がそうした斡旋業務を行なっていたが、トラオム全体で画一化されたシステムを持つ、運輸ギルドのような組織はかつて存在していなかった。その為、野盗団が金を貰って傭兵業をしたり、傭兵が逆に野盗団を率いていたりと、有象無象の修羅の世界が広がっていた。

 

そんな状況を打開する為、世界中の傭兵や斡旋業者を一つに取りまとめたのがブルーナイトこと、ジェローム・サックスだ。彼が元々治めていた赤砂傭兵団は当時から世界的にも著名で、企業の支援を受けて大きく勢力を伸ばしていた組織で、その事務所や施設などを丸ごと供給する形でその組織は誕生した。

世界中の傭兵団や斡旋業者に招集を行い、傭兵ギルド創設に関する宣言を行った。

 

無論、その事に反発する組織もいたが、概ね好意的に社会から受け止められた。でなければ今もこの傭兵ギルドが無限に乱立する企業によって押し潰されないわけがない。

 

その後その傭兵団は、現在は桜花武士団や五獣傭兵団といった今の傭兵業の花形とも言われる傭兵団に吸収されて消滅していた。傭兵ギルド創設時に彼は『両立できないから』と自ら相棒と築き上げた歴史を壊したのだ。

 

その事に憤慨して独自で傭兵団を作った組織も無論存在したが、彼の優秀さと性格が垣間見えるのは、この時に所属していた傭兵全員に責任を持って新しい職場を与えた事だろう。

 

元々、赤砂傭兵団というのも誰かが勝手に呼称したのが始まりだという。その事を当時のレッドサンは一度たりとも認めたことはなかった。確かによく見て見ると、多くの著書に散見されるレッドサンの思想についてだが、彼は一貫して『個人で営業を行う傭兵』を辞任していた。

 

初期の赤砂傭兵団の資料を読んでも、大半の話に出てくるのがサックス氏についての話ばかりだ。この場合は『二人に弟子入りをした集団』というのが正しいのだろう。事実、赤砂傭兵団からのちに五獣傭兵団の中核を担う人材が現れている。

 

彼等はサックス氏の企業の支援。それもアイリーン社の支援を受けて拡大をした事に対して反発をした事で生まれた傭兵団であることは、今日ではよく知られている。

 

しかし赤砂傭兵団が解体された事により、最近の五獣傭兵団は内部のいざこざが絶えないという話もある。共通の敵がいなくなった後の内ゲバというのは、歴史のうちに何度も繰り返されてきた行為だ。もしかすると、五獣傭兵団も解体されるかもしれない。

 

現在、傭兵ギルドは世界中に支部を持つ傭兵業務斡旋業者だ。依頼を匿名で行うことも可能で、絶対安全を謳っている。というより、軍警察と同じでハッキングなんて行おうものなら、すぐに逆に攻撃を受けてすべての情報が丸裸にされて指名手配である。そうなるくらいであればハッカーも攻撃をしないというものだ。

 

傭兵ギルドは軍警察とも業務提携を行ったことで、システムの防衛や人材派遣を受ける代わりに軍警察からの依頼は仲介手数料が発生していなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そこで事前の情報をまとめた書類データを閉じて、彼は顔を上げる。

 

「…そろそろか」

 

乗っている新幹線の車内でその男はタブレットを閉じた。

電子グローブで卓上に投影されるキーボードを叩いて文字を打っていた彼は、もうすぐ駅に到着する。

列車は特に野盗の列車強盗の被害に遭うこともなく駅のホームに滑り込むと、自動ドアが開いて多くの乗客の乗降が始められる。

多くの人が行き交う駅構内を歩く。周りには人、サイボーグ、獣人、アンドロイド…。現在のトラオムを構成するすべての人種が闊歩していた。

 

そんな中を歩くと、駅前のロータリーで自分の名前を記した看板を持って待っていた一人のアンドロイドを見る。まるで観光に来た人のようだなと内心で思いながらその出迎えの人に近づいて話しかけた。

 

「お待ちしておりました」

 

話しかけると、そのアンドロイドは一礼をした上で出迎えた男を車に乗せて走り出す。

 

「お客さん、何処まで?」

「黒鉄ビジネスホテルまで」

「分かりました」

 

そこで運転手は頷くと、そのまま車は市街地を走る。いわゆる新市街地と呼ばれるその場所は丁寧に区画整理がなされた広い道路を持ち、いざとなれば軍警察や郷土防衛隊の装備する航空機の離陸が可能な直線距離を持っていた。

市内の高架道路は、いざとなれば支柱を破壊することで高架道路を盾にすることも考慮されていた。

 

まさにここが『戦うための街』と言われる所以だ。傭兵都市とはよく言ったものだと思う。

かつて改名前はマーセナル・タウンと言われたこの街は、現在は傭兵ギルド本部が設置された事による新市街地の建設とハイパービルディングの建造も終えて久しい。

 

多くの傭兵がこの街に集結し、軍需企業もこの地にて多数の新兵器の戦場での有効性を証明する場所として栄えていた。

元々、この地は傭兵の街として流れ着いていた空母を中心に街ができていた。それらは一般的に、今は旧市街と呼ばれる場所にある。今も完全に改造をされて原型を留めていない空母があるはずだ。

旧市街地はこの繁栄を続ける新市街地を前に以前から住んでおり、市民権が発行された市民の移住が行われていた。

 

「初代市長はジェローム・サックス…」

 

その市街地に投影される無数の軍事企業の最新鋭の電磁パルス攻撃を行える迫撃砲弾や手榴弾の広告を見ながらタクシーは市内のホテルに到着する。

フロントのロビーはビジネスホテルらしく自動チェックイン機があるだけで、一部の緊急対応のためのアンドロイドが待機している以外に人の姿は見当たらない。

 

簡単にその男はチェックインを済ませると、部屋のルームキーを受け取ってエレベーターに乗り込む。

 

「…」

 

部屋は小さなワンルームにユニットバス。一般的な見覚えのある企業の画一化された部屋だ。同じグループのホテルなら何度も泊まっている。

軽く持っていたバストンバッグを放り投げてから窓際に備え付けられた化粧台に座って早速パソコンを開く。

 

「取材相手は…」

 

そこで彼は今回行う仕事の内容を改めて確認する。

 

「…レッドサン。その足跡か…」

 

そこで調べて、改めて彼はため息を漏らす。会社から届いたメールを読んで、改めてその企画された特集にため息をつく。

やりたくない仕事の類でもあったので、彼はパソコンから視線を背けてホテルの部屋のテレビを付けた。

 

『ーー在。アリアドール合州国、並びにサブラニエ連邦はパシリコ共和国との国境にさらに二個師団の展開を行なっており、緊張の高まりが懸念されーー…』

 

ちょうどテレビは夕刻のニュースを報道しており、そこでさらに国境沿いに配備が進んでいるという軍隊を見ていた。

 

二年前、南北戦争で分裂していたユクレイン共和国、ベラルン共和国、カザフティア共和国の三カ国がオロシャ連邦との併合に合意した頃から高まりを見せているパシリコ共和国との緊張。

今、この男がいるヴァイナハルテ誓約同盟は、周辺をアリアドール合州国、サブラニエ連邦、パシリコ共和国というウエルズ大陸を三つに分割する大国に挟まれた国家だ。

南北戦争時、この黒鉄市を中心に傭兵ギルドを盾に永世中立を宣言したことで戦火を免れたこの国家は、傭兵ギルドがあってこそ成り立っていると言っても過言ではなかった。

 

「戦争か…」

 

その緊張を前に、男はかつての景色を思い出す。

南北戦争の頃はまだ学生で、一〇〇ウィール紙幣で世界を買えるとすら思っていたような年頃だった。

 

軍警察とサブラニエとの戦争、という印象が強いあの戦争は、この男にとってみれば遠因に故郷というものを考えさせられる理由を作った。

あの後、パシリコ共和国が主導したと言われる国家解体により、サブラニエは三つの構成国を抱えるオロシャ連邦として再スタートを切った。

企業支配主義の旧弊を一掃し、民主主義を絶対視したパシリコ率いる自然主義体制は、その後にこのトラオムの世界にはかりし得ない影響を与えていた。

 

多くの国で革命が勃発し、企業支配の強い国々は次々と倒れると、パシリコへの恭順を誓うようになった。

そのことは一介の記者として、少し危機感を覚えるほどにはその宗教じみた森林信仰を目の当たりにしていた。

 

緑林教と呼ばれするその宗教団体は、この街にも神社という形で存在している。

神に名は存在しないというのが彼らの考え方で、単純に『森の神』と称する無形の存在を彼らが崇めていた。

 

これもまた面倒な話だが、この緑林教というのも原理教典主義者やら新解釈派、穏健派などといった無数の派閥が鎬を削っているとも言われ、実際にそのやりとりは苛烈さを増していると聞いていた。

 

「はあ…こんな状況で過去の最強の傭兵を調べたところで…」

 

男はため息混じりに今回の仕事である。かつて存在した、最強のオートマトン乗りであるといまだに名高い個人傭兵の跡を追うことに呆れていた。

 

レッドサンといえば、傭兵に憧れるものであれば一度は望む極致。しかし現実はやや誇張された伝説もあるそうで、噂によれば散々彼にしてやられた他の傭兵団が嫌がらせの目的で色々な施工を行なったなどとも言われている。

 

「…取り敢えず、明日は傭兵ギルドに取材だったか…」

 

そこで男は改めて予定を確認し、携帯電話に話しかけて予定を聞くと、自分の想定通りの返答である事をその後に彼はホテルを出る。




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次に外伝書くなら

  • 南北戦争(圧倒的作者の趣味)
  • アンジョラの病院(数話で終わる)
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