TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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傭兵ギルドには、創設の立役者となったレッドサンの馬鹿でかい銅像が用意されている。これは桜花武士団の団長であった濵田さくら氏による提案とされているが、これが彼女の嫌がらせであることはサックス氏の本に記載されている。

 

このような経緯から銅像の撤去を求める声もあるが、撤去費用を考えると赤字であることから傭兵ギルド本部一階に半ば放置されたような状態だった。

 

「…」

 

そんな嫌がらせの極みとも言える銅像を見上げながら男は傭兵ギルド本部一階を歩く。この施設には当然ながら多くの傭兵が出入りを繰り返しており、男の周りにも自動小銃を背負った少々小汚い面々が歩いていく。

 

自分の身を守る権利を特に尊重する傭兵は、常に何かしらの武器を携帯している。多くが歩兵であるので、必然的に自動小銃が背負われている。この黒鉄市はこうした傭兵の自己防衛の権利を尊重して武器携帯に関する規則は、全長500mm以下の銃火器の所持の制限と他の都市と比べても緩かった。

 

基本的に傭兵というのは、最も軽装備で動きやすい歩兵が割合として最も高い。車両の整備費用や購入費用などを鑑みると、オートマトン乗りなどの車両持ちというのは意外と少ない。

 

そんな中でもこのレッドサンやブルーナイトといった此度の傭兵ギルドを作り上げた著名な傭兵というのは、多くはオートマトン乗りであることが災いし、今も『傭兵の中で名をあげるのであればオートマトンがいい』というゲン担ぎも含めた盲信があった。

 

「レッドサンが資金提供を行ったことは確実…か」

 

その傭兵ギルドの中にある施設の一つ、資料館の中に残されていた資料の一つであるブルーナイトの傭兵ギルド創設の際に用いられた資産の一つであるレッドサンの用意した金塊。

今の価値からしても凄まじい金額を有するその金塊は、レッドサンが生前にどれほどの資産を蓄えていたのかを窺わせる。

 

「流石に二つ名がつく傭兵は違うな…」

 

一流の傭兵ともなれば下手な銀行員よりも豪華な生活を送れるのだろうという()を見せる代表的な例だ。多くの傭兵はこの金塊を基準に研鑽をしているといっても過言ではないと言われている。

彼と共に組んでいたブルーナイトも同等の資産を持っているのではないかと噂されており、今はサックス財団による孤児院の経営や医療業務の画一化を目的とした団体を運営している。それだけで、夢は膨らむというものだ。

 

しかし彼に言わせて貰えばそれはまやかしに過ぎないという。

 

 

ーー(レッドサン)は恐ろしいほどに資産運用が上手かった。

 

 

サックス氏の執筆した自伝にはそう記されている。彼の購入した株や土地というのは、基本的に値上がりは確実であったという。

 

それが天賦の才であったのか、緻密な計算によるものなのか、それはまだ分かっていない。

もし後者であった場合、彼は相当な教育を受けていたこととなり、まず傭兵としてはあり得ない知識を持っていたことになる。

 

「…レッドサン、ブルーナイト」

 

一瞬、子供が名付けたのかと思うような二つ名であるが、こと傭兵の業界においてはこの二つは尊敬と畏敬の狭間に存在する象徴であった。

味方であれば心強く、敵に付けば命はない。

戦場という簡単に命のやり取りを行える場所において、敵に誰がいるのかという情報を仕入れることは、即ち命に直結することであった。

 

『最強』の名を欲しいままにした二人のペアは、当然依頼料も跳ね上がる。企業はこの腕前を喉から手が出るほど欲しがったに違いない。事実、多くの企業は彼等の模倣を次第に求めるようになった。

 

ジェローム・サックスに関しては、その前歴が軍警察に所属していたスラム街生まれの孤児であったことはすでに知られている。これほど情報化が進んだ世界であるにも関わらず、その素性が分かっていないレッドサンという個人については、些か『異常』とも言える気がする。

 

エレベーターで降り、傭兵ギルドの受付に降りると、そこのホログラム掲示板に無数に上げられるこの地域で発行された依頼の山。その山を前に仕事を探す無数の証明書を持つ傭兵。

基本的にこの傭兵ギルドで発行された証明書を持っていれば、誰でも傭兵業を行うことができる。逆に言えば、この証明書を持っていないのに傭兵を行っているのは、傭兵ギルドを通していないアングラな仕事であるというわけだ。

 

基本的に初回の発行に際して証明書の手数料は取られないのが、この組織があっという間に世界中に広がった理由だろう。再発行や更新時に手数料は取られるが、傭兵業を行う上でこの傭兵ギルドというのは仕事を簡単に探せる必要不可欠な組織だ。

これにより、資金の流れが明細化された傭兵業は一つの仕事として認知されつつあった。

 

傭兵と言っても単純に戦争行為ばかりするのが仕事ではないのも、また傭兵ギルドに多くの依頼をする理由の一つだ。

列車の護衛、物資の護衛、野盗討伐…他にも諸々の依頼はあり、その種類は運輸ギルドと同じくらい存在する。

傭兵ギルドはその特性上、運輸ギルドと似たような目的で創設されており、両者は実際に業務提携を結んでいて、システムの多くが傭兵ギルドと運輸ギルドは似通っていた。

 

「今日はどうしたものかね…」

 

傭兵ギルド本部を後にした彼は、そこで黒鉄市の郊外に存在するという噂のホテルのことをふと思い出した。

 

「確か名前は…」

 

そこで簡単に検索をかけると、AR端末は彼を『ホテル・ヴォンゴラ』に案内する。

この黒鉄市の郊外にある湖に浮かぶ島を改造して作られたのホテルは、ウエルズ大陸の中でも指折りの高級ホテルとして知られている。

その美しい情景と、船か水上機でなければ向かうことができない湖の上の城は、訪れた宿泊客を楽しませてくれる。

 

今回は旅費の全てが経費で落とされるので、どうせなら泊まってやりたかったが、事前に上司に念を押されてしまったことで断念せざるを得なかった。しかしそれでも食事くらいは許されるだろうと想像して彼は旧市街地に向かうトロリーバスに乗り込んだ。

 

「(どんな食事があるんだろうなあ…)」

 

そんなことを内心で思いながら彼はバスの窓に投影される企業の広告を見る。

この街は軍需産業がとても栄えた街である。そのため、市内を走る市所有の公共交通機関はどこもかしこも企業の広告だらけだ。

市議会にも企業の影響をビンビンに受けている現状、企業間抗争が絶えない都市でもあった。

 

「うおっと…」

 

そう思った直後、トロリーバスは急停車して乗客達は驚いた声を漏らした。

 

「なんだ渋滞か?」

「この先で爆破テロだってよ」

「チッ、これじゃあ次の商談に遅刻しちまう…」

 

すぐにバスが停車した事情をSNSなどで把握した乗客達はため息を漏らすと、トロリーバスはすぐに運行の取り止めを運賃の精算を開始してしまった。

 

「どうしよう…」

 

男も強制的にトロリーバスを降ろされ、やや途方に暮れながら近くの空いていたファストフード店に入った。

 

「(やけに運転士が多いな…)」

 

そして店内の客層で男は少し首を傾げると、店名を見て納得していた。

 

「ああ、ここ運輸ギルドの店か…」

 

注文用の端末で注文している列に並びながら店名を確認して、彼は簡単にハンバーガーのセットを注文する。

 

「…」

 

その直後に男はすぐに提供された紙に包まれたセットを食べていく。

中に挟まれている温まってしなっているレタスと合成肉を使ったパテは、どこに行っても変わらない味で逆に安心感すら与える。入ってしまったものは仕方ないので、今日の昼はこれで済ませるかと思いながらハンバーガーを食べていくと、ふと違和感を覚えた。

 

「?」

 

その視線を感じて彼は顔を上げると、視線の先では呆然とこちらを見ている一人の少女がいた。

 

『…』

 

その少女は自分が食べていたハンバーガーを見つめており、絶妙に食べずらい雰囲気が出来上がっていた。

 

「(こんな街に子供一人で?あり得ないだろ…)」

 

即座に男は困惑してその少女の視線を気にしないように食べようとするが、窓越しに少しつま先立ちをして見ている様子のその少女に、次第に気まずさを感じて男はテイクアウトして店を出る。

 

「はあ…」

 

そしてため息混じりに彼は運輸ギルドの屋上に上がって操車場を見下ろせる屋上庭園に入る。

世界中に鉄路を伸ばしている鉄道管理局の傘下にある組織はさすがというべきだろう。今この瞬間も列車が出入りをしており、多くの貨物列車が出入りを行っていた。

 

「…?」

 

そんな中、留置線をふと見たときに彼は違和感を覚えた。

それは留置線に停車していた多数の貨物列車の中にあった。

 

「…!?」

 

その列車はカーゴスプリンター。企業の運営する貨物列車としてはよく使われる形態の貨物列車だが、見たことの無い塗装をしている。企業のロゴも無いので、確実に個人が運営していると見ただけでわかる。

赤と灰色の塗装。その塗装に、男は見覚えがあった。

 

「!!」

 

その直後、口にハンバーガーを押し込んでから立ち上がって慌てて施設を降りて行く。

 

「何処だ…?」

 

男はそこで運輸ギルドの証明書を持つ者以外が入れないゲートの前でその列車を前に首を左右に振って人を探す。

 

「…」

 

しかし運輸ギルドの何処を見てもそれらしき影は見ることがなかった。

 

「…はあ」

 

流石に物の取引量が多いこの街で目的の人物を探すのは困難かと軽くため息をしながら彼は施設を後にすると、そこで男は市街地を歩く。

 

ここは市内でも湖とは反対にある郊外に近い場所だ。そのため遠くを見つめると黒鉄市に聳え立つ多数のハイパービルディングを見上げることができる。

 

この市の条例により、傭兵ギルド本部よりもビルの高さは一〇〇m低い高さまでが建築基準とされており、企業はその通りにビルを建造していた為、一本だけ突き出たようなビルの上からホログラムの広告塔が大々的に空まで上がっていた。

 

「うおっ!?」

 

そんな見慣れた景色を見つめていると、直後に男は歩いていたところを人混みの中で肩をぶつけられて、不意をつかれた声を漏らしてしまった。

 

「これは失礼」

「ああ、いえいえ…こっちこそすみません…」

 

ぶつかってしまった事に男は相手を見た時、彼の目は大きく見開かれた。




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次に外伝書くなら

  • 南北戦争(圧倒的作者の趣味)
  • アンジョラの病院(数話で終わる)
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