とある日、サダミはスフェーンに言った。
「ちょっと買い出し付き合ってよ」
「え?何それ、ラブストーリー並みに突然来るやん」
その直後にお盆で頭頂を叩かれた。
「って〜」
「馬鹿なこと言ってないで、ほら行くわよ」
「ほいよ〜」
サダミはそこでルシエルと共に店の車庫に向かうと、そこで
「なんか久しぶりじゃない?こうやってみんなで車乗るの」
「そもそも、私たちは時たま国を出ることもあるくらいですし…」
『確かに、意外と全員が車に乗って出かけることは少ないかもしれませんね』
シエロもそんなことを言い、全員が同じことを思った。
ーーそもそも車乗るよりも機関車に乗っている気がする。
運び屋をまだ生業にしているスフェーン達は特にそう感じた。
店を裏から出た彼女達は、石畳で舗装された護岸沿いの道を走る。
「で、今日の買い出しって何買うの?」
「とりあえず緊急で足りない肉類を買っていく予定」
「OK、商店街の方で良いわね?」
「その方がありがたい」
サダミはスフェーンの行き先に頷くと、三輪トラックは道路を出て市電が目の前を通過したのを確認してから信号を渡って角を曲がる。
車道は片側四車線の大通り。両脇には複数の建物が建ち並んでいる。中央の二車線は市電も走る路線が埋め込まれており、基本的に市電運行の時間帯の走行は注意する必要があった。
「へえ、今日は結構空いているのね」
「おかげで渋滞に巻き込まれないのがありがたいけどね」
ハンドルを握りながら彼女達か車を走らせると、川を横断する巨大な鉄橋を越えていく。橋の上では市電が通過しており、自動車がその脇を抜けていく。
「川を超えた先は住宅街…か」
そこで鉄橋を越えると、低い建物やマンションが立ち並ぶ住宅街が広がりつつあった。
「最近は宅地開発で新しく住居を建て直す公債が出てたわよね〜」
「買った?」
「まあね。安定している国債だし、簡単に買えるし」
そこで彼女達は再開発が行われている団地を見ながらそんな話をしている。長い間この王国で暮らして来た彼女達は、あのカフェから見える景色の偏旁には時折哀愁を覚えることがあった。
「懐かしいねえ…昔はここに野球場があったんだけど」
「ああ、立憲内戦のすぐ後に第二次首都改造計画の中で改造された護岸工事で無くなった」
彼女達は昔の光景に懐かしみを感じながら手慣れた様子でハンドルを切ると、車は狭い路地に入って駐車場に停める。
そして三人はドアを開けて車を降りると、そこで賑やかな様子の声を聞く。
そこは住宅街の中にある商店街。昔馴染みで、建国時の羽布張りの露天時代の頃から知っている商店街であった。今では全部アーケードに覆われており、その下で多くの人々が闊歩していた。
「ん?おお、クサビさん。いらっしゃい」
「よう、いい品物はあるかい?」
そこで鮮魚店に入ると、店先で禿頭の親父が買い出しに来たスフェーンに珍しがり、同時に彼女が不老者であることを子供の頃から知っていたので、目上の人の口調で話しかけれた。
「ええ、今日は天然物が多く入って来ているよ」
自分の曾祖母さんすら知っている目の前の女性に店主は朝仕入れたばかりの鮮魚を紹介していく。
「じゃあこれとそれとあれを…」
「毎度!」
そこで氷の上に乗せられた魚を確認して夜のバー営業に出す肴としてメニューを考えながら包まれた魚を受け取る。
「あら、サダミさん」
「どうも」
精肉店ではサダミを前におばちゃんが少々驚いて彼女を見下ろした。
「今日はどうしたの?」
「ミンチを買いに来た。いつもの合わせで三〇〇グラム欲しい」
「はいよ、牛四、豚六で良いかい?」
「ああ、頼んだ」
そこでおばちゃんは笑って頷き、慣れた様子で屈んでトレーにミンチを取り出して計量を行っていく。
「はい。三〇〇ね」
「ありがとう」
そこで代金を支払ってから彼女は商店街を歩くと、多くの店がスフェーンやサダミを見て何かと声をかけられる。
「クサビさ〜ん、この前彼氏に振られて…」
「おお、そうかそうか」
青果店の前で中学生の店主の娘をスフェーンは介抱しており、その訳を相槌をしながら話を聞いていた。
「サダミさん。今度ここで祭りがあるんだけど、またお願いしても良いかな?」
「キッチンカーか?」
「そうそう」
そこで彼女は毎年頼まれている出店について聞かれたので二つ返事で答える。
「まあ毎年出ているし、別に聞くこともないでしょうに」
「いやぁ、これでもお二人がここじゃあ一番長いし、分かんないことがあったら聞けって先代も言うし…」
「チッ、私は百科事典じゃないっちゅうのに…」
すっかり商店街の生き字引となってしまっており、電話でもしょっちゅう聞かれることが多い。特に小学生とかが自由研究で商店街の歴史を書くときとか、商店街が露天時代だったことなども聞かれる。まあ確かにその時代を生きていたのは確かだし、その話になると『ああ、もう夏休みか』と思わせる話である。
流石にムカついたので自分の子供達はスフェーンのところに預けて機関車に乗せて飛ばさせた。おかげで自由研究と絵日記は困らなかった。
「クサビ。あれ買ってください」
「はいはい」
そこでルシエルは商店街のわたあめ専門店を指さしたので、スフェーンは笑いながら小銭を渡してルシエルは小走りでわたあめを買いに突っ込んでいった。
「ソラちゃんは相変わらずだね」
「甘いものには特に目がないからね。アイツは」
そんな様子を見て商店街の面子と笑って見る。ああ見えて子供っぽいところが抜けきれないのは何故だとついつい思いたくなってしまう。
それからも少し店に立ち寄っていき、商店街での買い出しを終えた彼女達は、帰り際に駐車場の近くにあったコンビニに立ち寄っていた。
「んん〜、やっぱこれだよね〜」
「スフェーンがコンビニで買うパンいつもそれだな」
チョコパンを齧るスフェーンにサダミはコンビニチキンを取り出して食べる。
「言うてサダミも毎度チキン食ってますやん」
「もちろん。コンビニ毎に差異があるが、比較的安定して美味い食べ物だからな」
彼女はそう言うと、衣の付いた揚げ鳥を齧ると肉汁が溢れてくる。
「そもそも昔から鶏料理が好きジャマイカ。君は」
「ああ、子供の頃。スラムで飛び切りのご馳走が鶏の丸焼きだったからな」
「なるほど…」
サダミの生まれを思い出してスフェーンは納得をすると、彼女は袋を破って中のパンを食べる。そう言えばこいつの生まればスラムだったな…。
「んん〜、美味い」
「どこのコンビニに行ってもそのチョコパンは必ずありますからね」
「そうそう!それがまた良いんだよ」
しっとりとしてもっちりとした食感。そして生地に練り込まれたチョコレートは、会社毎によって違うが、基本的に似たような商品が置かれている。
運び屋の仕事で遠くに向かっても、コンビニ入れば基本的にこのチョコパンを購入して食べる。
「どこの企業のものを食べても安定した味。会社ごとに食べ比べても構わないし…」
彼女はそう言いながら千切って口に放り込む。
「でも実際、どこか一番美味いかなあ…」
「それは人によって変わるだろう。そもそも味の好みなんて人によって違うし…」
トラックの前で彼女達は食べていく。ルシエルはヤンキー座りをしながら自分の顔の何倍も大きなわたあめにかぶりつく。
「しかしルシエルは相変わらずわたあめね」
「ええ、最高の食べ物ですよ」
どこか誇っているように彼女は大いに首肯する。彼女は昔からわたあめが何よりの好物であるが、一体どこで目覚めたのやら。
「でも結局、人間は大半が甘いものが好きではありませんか?」
「まあ、あんまり甘いものが嫌いってのは聞かないかもね」
スフェーンはルシエルに頷くと、そこで甘いと聞いて連想してふと思い出した。
「流石に甘すぎるものは私もダメよ?」
「ああ、グラブジャム食った時に吐き出してたな…」
サダミも昔、スフェーンが海外に行って買ってきたメチャクチャに甘い食べ物を思い出して盛大に吹き出して色々と大惨事になったことを思い出す。
「あれと比べたらこのチョコパンの程よい甘さな事」
「あれは外れ値だって。どう考えても」
そう言いサダミは時折、海外から凄まじい食べ物を買ってくることのある彼女に半眼にもなってしまう。チャレンジ精神が度を越すのもまた如何なものだろうか。
「そう言えばさ、甘さって単位とかあるのかな?」
「え?」
「どうでしょうね…」
そんなスフェーン肩飛び出た疑問にシエロが答えた。
『現時点で甘味に関する国際的な単位は設定されていません。強いて言えば糖度が最もそれに近い言葉でしょうが、スフェーンの想定してるのはスコヴィル値に近しいものでしょう』
「おう、説明サンクス」
適切な回答をしてくれたように思うシエロにそう言うと、彼女はパンを食べ切って袋を片付ける。
「んじゃあ、そろそろ行きますか」
「「了解」」
二人は買い出しを終えて、荷物を荷台に乗せ終えてから車に乗り込んでいくと、サダミが帰りはハンドルを握る。
「事故んないでよ?」
「失敬な。運転に必要な身長は足りている」
そこで耳が大きくて車の天井を掠めてしまいそうな彼女はスフェーンに反論気味に返すと、アクセルを踏んでトラックを走らせる。
彼女達が乗る三輪トラックは、その見た目からも分かる通りに、下手にハンドルを切るとそのまま横転してひっくり返ってしまうことが多々あり、実際何度か彼女達は運転をしててやらかしていた。その証拠に、車体前方には何個か窪んだ跡があった。
すると運転室で腹の虫が鳴いた。
誰が鳴らしたと思うと、ルシエルが自分の腹に手を当てた。
「なんか、お腹空いてきましたね」
「帰りにどこかに寄り道する?」
彼女はいっそ堂々として言うとサダミが聞いた。
「じゃあ帰りサガミにすっか〜」
そこでスフェーンは提案すると、二人はやや驚いた。
「え、サガミ?」
「なんでまた和食…」
「何言ってんだ。サガミは最強なんだぞ?」
そこでスフェーンの提案に二人は表情を引き攣らせると、彼女は真顔で答えていた。
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