パトリシア立憲王国の治安というのは、今のトラオムにおいては高い治安を維持できていると言われている。
まあ基本的に他国が戦争やら内戦やら紛争やらで何かと軍事行動をしている時点で比較対象が終わっているというのもあるだろうが…。
厳格な移民政策、永世中立。
現在唯一の大陸国家であり、全ての物資の自給自足を国策に掲げるこの巨大国家。それを統べる政府。
「…」
深夜、
彼らはこの時間帯に建物を一周して塀で囲われた施設やシャッターの閉じられた土蔵風の車庫を見る。
「ここにしよう」
一言言うと、彼らは赤外線暗視装置をつけて塀に脚立をかけて中の庭園に足をつける。
「…」
その庭園は両脇を樹齢の長く経過した
とんでもない店に入ったのではないかと思ったが、警報装置の類は鳴っていなかった。彼らの手には拳銃が握れ、いざとなった時に対応することができた。
「…すげぇ」
そこでバックアップ用に少し距離をとって脚立を反対に傾けていたもう一人は呟く。
「これだけあって不用心な…」
そして警報装置も、警備用のロボットも見当たらない様子に呆れたため息を漏らしていた。そして飛び石を伝って歩いていく。この砂利が防犯砂利の可能性を考慮していたのだ。
侵入した庭園から建物に入れるドアを確認すると、そこで静かに部屋の鍵を開けていく。鍵はアナログな鍵であったが、この泥棒はピッキング装置を差し込んで簡単に開けてしまった。
「…」
そしてノブを回して静かにドアを開けると、暗い店内で静かに何かを叩いている音がした。
僅かに灯りも漏れており、つま先から地面に足をつけて足音を消すと、拳銃を握ったままた一気に飛び出した。
「動くな!」
そこで拳銃を突きつけて彼はレジに立っていた若者に言った。
「泥棒…ですか?」
その少年は、今日はバー営業をしていたバイト先でもある友人宅に一泊する予定であったために、この時間になってレジ誤差の計算を行なっていた。
「動くなよ」
そこでいきなり現れた泥棒に驚愕すた様子で少年は両手を上げると、その泥棒は手早く開けっぱなしだったレジの現金を入れているトレーに手を伸ばして札束をポケットに入れていく。泥棒の顔は覆面で覆われていて少年は体格でしか姿を確認できない。
「よし」
そして現金の類を銃を突きつけながら奪っていくと、彼らは店を出て行こうとした。
「あの、こうってはあれですけど…やめていた方が…」
そこで金髪碧眼の少年は恐る恐る言い、こいつは一体何だと怪訝に思わせた。
「?」パンッ!「!!?」
その直後、首を傾げた泥棒は衝撃を受けた。
ーー飛び散る鮮血、穴の空いた引き戸。
少なくとも静寂には似合わない状況だ。
「っ!!」
男は撃たれたと分かる直前に側頭部を振りかぶったフライパンで殴られた。
「ガハッ…!?」
骨にミシッと音がなった気がして男はそのまま地面に倒れると、レジの照明に照らされて螺鈿に反射する白銀のウルフカットが白のタックトップと灰色のドルフィンパンツを履いてサンダル姿でその手にフライパンと
「サダミ、もう一人は?」
『逃げた!今塀よじ登って裏に回った!』
そこで彼女は
「ガッ!…くそっ!!」
しかし撃たれたもう一人はそのまま倒れて塀の外に転がり、三階のベランダから見えなくなった。
『くそっ、逃した!』
「おう、待ってろ。ぶっ殺してやる」
「え、ちょっと…」
そこで一人血まみれの重傷者を出しながら彼女はそのまま店から飛び出してしまったスフェーンは、銃とフライパンを持って庭園を走って勝手口を飛び出す。
「っ!」パンパンッ!
直後に足を引きずって逃げ出そうとしたもう一人が持っていた拳銃の引き金を引いてきたので、その銃口からルシエルが瞬時に弾道計算を行うと、フライパンを傾けて火花を散らしながら拳銃弾を弾いた。
カンキンッ
撃ったのは曳光弾だったので、弾道が緑の光線を描いて遠く川辺や上方向に弾いて飛んで行ったのが見えた。
「なっ…!?」
コイルガンで銃身を加速した音速の何十倍の速度で飛翔した拳銃弾を弾いたことに目を見開いて驚愕すると、スフェーンの虹色の瞳を持つ右目から凄まじく眩しい閃光が照射された。
「うわっ!!?」
その閃光に思わず照準がずれてしまうと、彼女はフライパンを握っていた腕の肘で小銃を挟んで固定すると、照星で照準を合わせて引き金を引いた。
パンッ!「!?」
その小銃弾は泥棒の右肩に命中すると、二発撃たれた泥棒は直後にスフェーンは畳み掛けるように飛び出してフライパンを振りかぶって腓骨を折った。
「ぎゃぁああ!!あああぁあああ!!」
脹脛にある細い骨。そこを両足ともにフライパンを縦に叩きつけられておられた泥棒は、その痛みで悲鳴を上げた。
「うし、もう動けねえだろ」
そんな泥棒をささっと対応させると、遠くからサイレンの音が鳴った。
翌朝、『臨時休業』と油性ペンで書いた文字で張り紙をして、射撃でひび割れた引き戸のガラスを覆い隠している店を見て驚いた声が飛び出た。
「あれ、今日休み?」
「ああ、泥棒が入ったんだってよ」
そこで常連客は予想外な臨時休業に驚くと、隣の家の家主が言って事情を理解して哀れんだ視線を送った。
「ああ〜、そりゃあ災難だ」
いつものスフェーンに連れ出されたり、店主の気分だったりといった休業理由よりはマシだなと思いながら常連客は諦めて帰っていく。
「それは店主か?泥棒か?」
「いや泥棒さ」
常連客は即答すると、その家主は笑った。
「へへへっ、救急車で運ばれてったぜ。ありゃあ全治何ヶ月だろうなあ」
「入った店間違えてるぜ」
「違いねえ」
大いに常連客に家主は頷くと、隣の三階建ての家を見た。
「あのさぁ…」
その店内では呆れたため息をついて響はカウンターに座って優香にほうじ茶を飲む二人を半眼で見る。
「撃って足止めしただけていいじゃん。何でそこで脚と頭蓋折っちゃうの?」
彼はそう言い、頭頂骨骨折と腓骨骨折と言う重傷を負った強盗の診断結果に呆れていた。後ここにそれぞれ右肩部と左大腿の銃創が含まれる。
「逃げ出さないため」
「脚一本残したら引きずって逃げるでしょ?」
「本当は皿も割っておきたかったわね」
「ああ、そしたら動けなくなるからな」
次々と彼女達は強盗の方が哀れに思えてきそうなやり口に引き気味になりつつも『まあ全部正当防衛になるのか…』と考えてしまう子供達。
「それに銃創だって
「そうだ。鉛中毒にならない」
「「そう言う問題じゃねえよ」」
そこで響と時雨の二人は同時に突っ込んだ。さすがこの両親に育てられてきたからと言うべきか、芯の強さをしっかりと受け継いだ気がするこの兄妹は何と言うべきか、下手な家族よりも似たもの親子をしている気がした。
そんな光景をアンドリューは静観して見ていると、警察の実況見分や聞き取り調査などの諸々の後始末を終えてぐったりしていた二人は言った。
「「泥棒は殺すに限る」」
息ぴったりな二人のサムズアップに響はカウンターを叩く。
「価値観が古いわボケェ!今は法の支配の時代ぞ!?」
彼はそう叫ぶと共に嘆く。
そうだった。この人たち災禍時代は愚か、行動思想の根っこは旧暦の時代の人間だから価値観が今の時代とは乖離しているのだ。
ーーつまり遵法意識がこの時代の人間では考えられないくらい低い。
人の命がすぐに吹き飛んでしまうような環境で育っていけば、私有財産を犯そうとする連中の命など取るにならないことだろう。
詐欺、強盗、殺人…企業が支配していた何でもありの修羅の時代を生きていた
そんな彼女達に法律の重要性を説いたところで馬耳東風といったところだろう。
「警察官が引いてたじゃん…」
「昔だったら殺してたわよ」
「それ災禍時代の話とかでしょ?何年経ってると思ってんだ」
時雨も夜中に飛び出し、発砲し、強盗をボコボコにしたこの血の気の多い両親に頭を抱える。
「別に悪いのか?」
「いや?資産を守るための正当な権利だぞ」
そこで純粋に首を傾げているスフェーンとサダミ。何も悪いことをしたと思っていない雰囲気の二人にアンドリューが言う。
「あの、一応この国で私刑が許されるのは裁判所の許可があってからですし…」
「私刑ちゃう。正当防衛」
「せ、正当…?」
スフェーンの断言にアンドリューは逆に困惑して答えてしまう。すると彼女は畳み掛けるように言う。
「世の中やりすぎなんて言葉はないっちゅうねん」
「まそうだけど、さ…」
こめかみに指を当てて難しい顔をする響。まあ気持ちは分かる…本音としては分かりたくはないけど。
「じゃ、じゃあ…僕はこれで」
「おう、怖い思いさせて悪かったね」
「い、いえ…」
それよりもスプラッタな光景を前に銃口を突きつけられた時の恐怖よりも勝ってしまっていたアンドリューは少し急足で店を後にしていた。
そして帰宅後、泥棒に出会した話を彼は兄弟姉妹に話した。
「…てなことがあって」
「おお、まじ災難だったな」
兄は話を聞いて哀れんだ様子で答えてくれてた。泥棒に出会した事を兄に話した時、そこで聞いていた一人が立ち止まって言った。
「おう、そんな奴死んじまえ」
「Oh…」
そこで即答して実父は言うと、アンドリューは『しまった、言わなきゃよなった』と口元に手を当てて後悔する。
「俺の息子に銃を突きつけたんだ。そうだな…全身サイボーグ化させての強制労働か、不老者化して強制労働もありだな」
「…」
よりにもよって死刑よりも残酷と言わせた刑罰を課そうと画策する父親を宥めることにいつも以上に苦労する羽目になってしまった。
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