朝、それは多くの生物が活動を始める時間帯である。
「スフェーン。起きてください」
「んん〜…」
三階の住居スペース。そこのリビングのソファーでルシエルが軽く体を揺らした。しかし揺さぶったが彼女が起きる気配はない。
「そろそろ営業やりますよ」
「うーん…あと五分寝かして…」
そこで半分寝言なのか、スフェーンはルシエルに反応をするとため息を漏らしてルシエルは台所を見た。
「駄目そうです」
「だろうな。まあ、起きる時はしっかり起きるから今日はまだ寝かせればいいだろう」
サダミも片手にフレンチプレスを持ちながら答えると、そのコーヒーの香りでスフェーンは目を覚ます。
「ん〜、Good Morning…」
軽く目を擦って彼女は顔を上げると、そこで白のTシャツに灰色のドルフィンパンツと毎度のことながら『風邪引くぞ』と言いたくなる格好をしてソファで寝ていた。
「またその格好で…」
「毛布かぶって寝ていたから大丈夫よ」
この格好になると『夏が来た』と思わせる格好だ。これでも彼女は良い所の出であるからか、服装に関しては季節感のある服を纏うし、ドレスコードもしっかりとしている。少なくとも、育てた子供達が王立学校に行っても恥ずかくならないくらいのマナーを叩き込んだのはスフェーンである。
「コーヒー入ったわよ」
「はいよ…」
白磁のコーヒーカップに注がれた珈琲を前に彼女は嬉しげに珈琲を一口。普段の彼女は何も入れずに飲むのが好みであることを知っていたので、サダミは彼女には何も出さずに珈琲を淹れて提供してからすぐに新しい一杯を淹れる。
「サダミ、私には砂糖とミルクメガ盛りで」
「はいはい」
注文を入れたルシエルは、こっちはこっちでどうなのだろうかと言う注文をしてくる。少なくとも珈琲を何だと思っていると言いたくなる注文だ。酷いとここに練乳を追加するので『こんなの珈琲砂糖になるでしょうが!!』と何度怒鳴ってきたことが…。
「(どうせなら折衷して丁度いい塩梅になってほしいものよ…)」
何故か好みは両極端なこの二人にサダミはため息を漏らすと、コーヒーを飲んだスフェーンはルシエルに言われていた。
「どうして目覚められるのに毎日同じ時間に起きないんですか?」
「電気も人間も、起動する時が一番エネルギーを使うんだよ」
目覚めた彼女は姉にそう返すとマグカップを再度傾ける。
「寝方が涅槃みたいになってましたよ」
「涅槃?」
ルシエルから飛び出た知らない言葉にサダミは首を傾げた。
「これです。仏教で一番高貴な姿勢だとかで…」
聞かれた彼女はそこでサダミの眼鏡に資料を投影すると、その姿を見て彼女はやや怪訝に聞いた。
「なにこれ、マライア・キャリー?」
「「ブッ」」
スフェーンとルシエルは吹き出した。
「マライア・キャリーて…」
「寝そべってはいますけど…」
「いやだって、彼女いつもこんな姿勢してたし…」
吹き出した二人に少し困った様子でサダミは言う。何ちゅう言い方をするんだとスフェーン達は笑うと、彼女達は珈琲を飲み終えて店の準備を始める。
「今日剪定やってもらっても?」
「ん、オケマル」
手で返事を行いながらスフェーンはサンダルを履いて階段を降りていくと、そのまま倉庫で剪定鋏を取り出して庭園の剪定を行っていく。
「…ん?」
その時、サダミは店の入り口のドアを開けると、目の前の道路に一台の黒塗り高級ミニバンが停まっていたのを見た。
「ねえ、誰か停めるって聞いた?」
「何かあった?」
庭園に出て行ったスフェーンは戻ってきて首を傾げると、二人は停まっていたミニバンを見る。
「これこれ。誰か停めるとかってあったっけ?」
「いや、なんも知らないけど?」
二人は道路の半分を埋めるほどに停車していたミニバンに首を傾げると軒先の監視カメラを使って確認する。そこでは真夜中に停まって降りてくる二人組の姿があった。
「あー、こいつら夜中から停めてら」
「邪魔なんだけど…入り口の目の前に停められてるし…」
映像を確認した二人は再度ミニバンを見ると、
「あー、すいませ〜ん」
そこで話しかけられて二人は声のした方を見る。
「それ俺の車なんで、触んないでもらえます?」
そこでヘラヘラとした様子の二人を見て途端に『うわ、違法駐車だこれ』と察しつつサダミは言った。
「じゃあ車退かしな。ここにいると邪魔だよ」
ミニバンを指差しながら彼女は言うと、そのいかにもチャラいていてアホズラを晒している一人が言った。
「えー?知らないっすよー、そんなの〜」
「…」
そこで男二人はサダミに答えると、彼女は少し目元を暗くさせた。こう言う連中は普段からそう言うことを着ているのだと長年の経験が教える。
ーーそしてこう言う連中にまともに取り合う方がバカを見ると言うことも…。
故にサダミはすぐに問題の解決策を打ち出す。
「…スフェーン」
「お、やる?」
その問いかけにサダミは頷くと、スフェーンはニンマリと実に良い笑みを浮かべた。
「うししっ、おまかせ〜♪」
そこで彼女はルシエルを呼ぶと、そのまま店の外に出てある場所に向かって行った。
「許さん。ウチの営業の邪魔をするのならな」
「あ?」
サダミは二人に言った直後にピシャリと音を立てて引き戸を閉じると、そのまま走って店の裏の車庫に入る。
「なんだアイツ?」
「知らね。まあ行こうぜ」
そこで二人は車を置いて近場のマンションに行こうとすると、直後にカタカタと音を立てて角を曲がって出てきた車両に二人は驚愕する。
「は?」
「戦車…!!?」
車庫を開けて出てきたのは、小柄な車体に履帯を履いた四式軽戦車である。
この車両は昔、列車の防衛用に安くなっていたものを買ったのだが、全周旋回できない砲塔に地味に装填しずらい配置だったりと、詐欺にあったような絶妙な使いずらさからすぐにガレージ行きとなり、ドーザーを付けて冬の雪かきや面倒なお客の威嚇以外で出番がない車両であった。
そんな軽戦車を持ち出したサダミはシエロが操作して砲弾が装填されたのを確認する。
『装填完了』
「撃て!」
「え!?ちょ、ちょっとーー…」
ッ!
そこで発射された
「「ぎゃあぁああっ!!?」」
そこで悲鳴を上げるアホ二人。しかもこう言う馬鹿どもが買う黒塗り
するとその吹き飛んだ車の奥から道路に振動が響くと、直後にこの静かな街の雰囲気とは大凡に合わない、道路一杯に幅を取って
「ちーっす、Uber Shellで〜す。砲弾のお届けに上がりました〜」
そして急制動で止まった車両の運転室のハッチを開けて、ヘルメットをかぶっていたスフェーンが身を乗り出した。
「あ、え、えっと…」
「え…?」
『これ以上なにをどうしろと言うんです!?』と言う具合ですでに廃車確定の車を前にアホどもは抱き合って怯える以外できなかった。
「お届け内容はいかがなさいますか?榴弾ですか、キャニスター弾ですか?」
「キャニスターで」
「かしこまりました〜」
そこで四式軽戦車のキューポラから顔を覗かせていたサダミは注文をつけると、注文を受けたスフェーンはその通りに車内で砲手席に座っていたルシエルに言う。
「キャニスター弾一発入りました〜!」
「了〜解。砲弾装填完了」
砲塔を旋回させ、主砲の仰角が下がる。
「ま、待ってーー…」
「撃てぇ!」
その直後、76.2mmライフル砲の射撃を超至近距離で受け、発射されたキャニスター弾はごっそり車のエンジン区画を吹き飛ばして破壊してしまった。
「ついでに邪魔だからどかして」
「りょ〜か〜い」
サダミが言うと、四式軽戦車はバックをして道を譲ると、残骸となったアルファードは装甲車に押されて強制撤去されていく。
「「…」」
その様子をただ茫然と地面にへたり込んで眺めるアホ二人。強制退去アンド廃車となった自分達の車にただ眺めるしかできない。そして装甲車に押されて退去させられる車の残骸はそのまま道路に放り出されると、流石に二発の砲声が轟いて何だ何だと野次馬が出てきた。
「なんだ今の音!?」
「違法駐車だよ」
「あー、こりゃクサビさんの所だで」
近所の住民は装甲車とボロボロの残骸を前に察した様子ですこし爽快な様子もあった。
「またこの時期か」
「最近は減ったじゃないか?」
彼らは口々にそう言いながら退かされる車を見ると、その車は大通りに放り出されてスフェーンの操縦する装甲車は停車してバックを行った。
「やあやあ、今日は一段とやったねえ」
「そりゃ当然」
そこで話しかけられたスフェーンは多いに頷く。
「『馬鹿に理屈』よ」
「なにそれ?」
そこでエンジンを切って走行車を降りたスフェーンは聞いてきた近所の子供に答える。
「『無駄でバカを見る』って意味」
「馬鹿者に世間一般の常識は通用しませんからね」
一度痛い目を見ないと理解できないとルシエルも降りてきて言うと、パトカーのサイレンが鳴って目の前に白黒ツートンの赤色灯を灯した公用車が止まった。
「あーあー…」
そこでパトカーから降りてきたアンドロイドの刑事が呆れた容姿で残骸となったミニバンと装甲車を見た。
「やりすぎだって、クサビさん…」
「あら、世の中やりすぎって言葉はないのよ?」
そこで廃車どころか資源ゴミとなったミニバンを手に苦笑する馴染みの刑事。
「違法駐車ですか?」
「そう、店の前に停めてていずれ邪魔になっちゃうから」
条例で禁止されている行為を行ったとして正当な権利だと主張すると、警察もスフェーンを前に淡々と業務をこなしていく。
「刑事さん、こいつらにやられたんです…!!」
「りゅ、榴弾撃ちやがって…俺の車を…!!」
そこで警察を前に自分達のことを棚に上げてスフェーン達の蛮行を訴えると、そんな彼らに冷めた目で警察官は言った。
「馬鹿タレ、ここは事業用車以外の路駐禁止だぞ」
「「え?」」
そこで知らされた事実に二人は目を丸くすると、容赦なく警察官は言う。
「お前らが百悪いから。ほい、条例違反で現行犯な」
そこでサクッと二人は手錠をかけられると、そのまま揉め事になる前にパトカーに突っ込まれて消えて行った。
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