エーテルが空を覆っている中、荒野の一角に設営された野営地があった。
「新しいパーツ交換を用意してくれ」
「こっちに新しい油圧ダンパー送ってくれ」
夜であるにもかかわらず照明を燦々に照らして発動機の音が響いていた。
野盗の襲撃などを警戒し、都市部以外で真夜中でも照明がばっちりと付いているような場所というのは軍警察以外では限られてくる。
「次の目標だ」
その野営地の傍で一人の人物が一枚の写真を手渡す。
「赤いカーゴスプリンター。お前の機体と同じ色の列車だ」
「同じ色…」
そこで写真には留置線から出ていく一本の貨物列車を写していた。それは目的の路線を走ると事前に運輸ギルドに潜り込ませていたカナリアから受け取った列車であった。
「頑張ってこい。喜美子」
「はい」
そこでフルフェイスヘルメットを被ったそのパイロットはオートマトンに乗り込んでいくと、ハッチが閉じて修理中のオートマトンを数台置いていきながら多脚戦車と共に荒野を出て行く。
真夜中の荒野を走る貨物列車の中で、スフェーンは運転席に座って読書灯を点灯していた。
彼女が読んでいたのは遥か昔、旧暦の時代に出版された本であった。
『相変わらず古い書物がお好きですね』
「まあね…」
今時は値も張る紙と革で出来たハードカバーの本。こう言う時、積極的な植林活動を行う緑林教の活動圏内にある地方では他の地域よりも関税がないことで安く購入ができた。
その隣で運行計画表を見せながら立てかけていたタブレットでは、二四時間年中無休でニュースを報じ続ける国際報道番組がテロップとともに原稿を読み上げていた。
『現在、パシリコ・サブラニエ国境付近の活動は活発化しており、緊迫した状況が続いています』
そのニュースでは上空の軍警察が撮影した人工衛星からの映像が映し出されていた。
『こちらに写っていますのは、パシリコ共和国軍が使用する陸上艦。そしてすぐ近くですね、こちらにはサブラニエ軍の陸上戦艦が展開しています』
そこでキャスターは衛星画像を分析した上で多くは後方からの支援砲撃と、前線司令部としての機能を持ち合わせる設計思想ゆえに、こんな近距離で会うことはない陸上艦同士が同じ画角に収まっている映像だ。これはなかなか珍しい光景と言えた。
「随分近いわね」
『凡そ一〇キロ前後…少なくとも陸上艦が向き合う距離ではありませんね』
双方の陸上艦は砲口をそれぞれの領土に向けながら警戒を促していた。いつでも撃てるように、また撃たれても即刻反撃ができる体制が整えられていた。
『また戦争ですか…』
「でも昔とはまた違うわよ?」
ニュースを見ながらルシエルは世界中を巻き込んだ大騒動となったあの戦争を思い出すと、スフェーンはそれを否定する。
「今回は軍警察がサブラニエについてるってところが特にね」
『昔では考えられませんね』
そこでこの国境緊張に関連したニュースとして連続して話題となっているのはアリアドール・パシリコ国境地帯である。
現在、軍警察はとある疑惑によりパシリコ共和国政府に対して制裁措置を国際社会に求めていた。
『現在、アリアドール合州国国境付近には新たに軍警察の二個歩兵師団が到着したとの見方もあり…』
『一連の共和国政府による異能者・不老者への弾圧行為に対し、軍警察、並びに国連は<共和国市民法>の撤廃を求める決議案を先ほど国連総会にて可決しました』
試しに配信サイトを変えてみると、そこでも同じニュースが報道されていた。
『はぁ…またですか?』
「まあ、自然主義者だったらいずれやるでしょうね」
苦笑気味に彼女は栞を挟んで本を閉じる。
『私たちも笑い事ではありませんよ?』
「そりゃあね。気をつけなきゃならないわな」
ルシエルが注意をすると、スフェーンはそれには大いに頷く。これでも不老者に限りなく近い肉体であるので、自然主義者と会う際は気をつける必要があった。
「まあかつてのニュルンベルク法のようなことがあったら大惨事になっちゃうからね」
『そもそもすでに過激派による虐殺が行われていると言う噂もありますが?』
ルシエルはそこでネット上で仕入れた告発文などで軍警察が動く動機となっている疑惑の映像の内容を口にする。
自然主義の思想というのは、人類をエーテルの力から解放させることにあるという。
現在、このトラオムにおいて全てのエネルギー源であり、全ての始まりでもあるエーテル。かつて起こった大災害は、この星から全ての緑を奪い去った。そしてその後に降り注ぐエーテルは、その特性である有機物を食らい尽くす特性で世界中の土地を荒野に変貌させた。
「今更エーテルを使わないつったってね…」
『ここまで浸透したら無理では?』
ルシエルも少々苦笑気味に返すと、スフェーンも頷く。
「まあ世間様に余計な迷惑をかける前に、軍警は何かしら理由付けてパシリコをぶっ壊したいんでしょ?」
彼女はそう言いながら本を運転台の隣に置いて水筒を手に取る。
「かつての宗教とか、環境保護団体とか、動物愛護団体みたいにはね…」
そして蓋をとって中の緑茶を飲んでいく。
『宗教ですか…面倒な相手じゃありません?』
「宗教弾圧は流石にまずいでしょ…」
そんなことを話していると、ルシエルが警告を鳴らした。
『警告。方位三〇に熱源探知』
「敵?」
直後にルシエルが計測する。
『接触まで七〇秒』
「迎撃して」
スフェーンは彼女の計測結果に即決して破損兵器を満載した列車から自衛火器を展開して迎撃を行わせる。
『数五。っ、ミサイル発射を確認!』
「そっち迎撃優先して。ミサイル発射」
そこで対地・対空を行える汎用ミサイルがCIWSから発射されると、発射された無誘導ロケット弾に近接信管が反応して爆発を起こすと、空中で爆発が発生する。
「うわっ、もうこんな近づかれたの?早くない?」
『敵、遠赤外線で視認』
スフェーンは爆発の光を見て若干冷や汗をかくと、CIWSのカメラでルシエルが敵を視認した。
『敵部隊はオートマトン四、多脚戦車一』
「野盗でよくあるやつ!迎撃!ガトリング砲はそっち狙って」
連装式のガトリング銃が一斉に発射されると、轟音が運転室に振動となって伝わって、その発火炎が僅かに列車を照らす。
『スフェーン。襲撃部隊中央のオートマトンは、現在発表されているどの企業の車両とも該当しません』
「じゃあ試作機?」
『おそらくは…』
そこで遠赤外線カメラで確認した機体を見てルシエルが報告をすると、それにスフェーンは訝しんでいた。
直後にスフェーンは接近した野盗に向かってサングラスをとってから、茶緑色に目の色を変えて視界に捉えた多脚戦車を狙い撃ちにする。
「解析。終、了っ!」
「っ!!?」
燃料タンクに詰まったエーテルが膨張し、多脚戦車のタンクから侵食して電子機器に干渉を行うと、車内システムを一時的に落とす。
『何だ!?』
『電装系にシステム異常!再起動中!』
その直後、多脚戦車は突如動きを変えた。
「ありゃ、システムと頭は別系統だったか」
多脚戦車の動きを見て人の記憶を喰えなかったことですぐにスフェーンは相手が射撃システムと搭乗者が接続していなかったことにやや驚いた。
「まあ良いか」
直後、彼女は過電流によって電装系を破壊し、掌握した射撃装置を操作する。
「っ!?FCS起動?!勝手に動き出したぞ!」
『どういうことだ?!』
そこで多脚戦車に装備された120mm滑腔砲が発射された。
『っ!!』
その直後、APFSDSの砲弾を先頭を進んでいたオートマトンが瞬時に反応をして僅かに避けて遠くに砲弾が飛翔していった。
その砲撃の反動で砲弾が装填され、新たに砲弾が装填された瞬間に砲撃が飛んで今度は砲口の動きを回避した。
『っ!!?』
しかし砲撃の発砲炎に紛れて飛んできた残っていたロケット弾がそのオートマトンの右腕を飛ばした。
「システムがハッキングされた!」
『シャットダウンさせろ!』
「ダメだ!そもそものシステムが動いていない!」
そこで火花を散らして真っ暗になった全ての状況を伝える。
『じゃあどうして動いているのよ!』
「知るか!」
電装系が全てショートを起こして動かないのに破壊されているのに動いているのを見て叫ぶと、一人が指示をした。
『
「ちっ!」
そこで搭乗者は足元の紐を引っ張ろうとした。
「うおっ!?」
しかし直後にその多脚戦車に激しい振動が走ると、真後ろで一台のオートマトンが持っていた25mm自動小銃の銃口をオートマトンの後部に向けていた。
『お、おい…!』
それに一台が注意しようとしたが、先にそのオートマトンが発砲をして上から至近距離で正確に機関部に多数の銃弾を叩き込んだ。
「ヒィイ!!」
それに搭乗員は悲鳴を漏らすと、直後に銃撃を行ったオートマトンはその僅かにこびり着くように僅かに滲んでいたエーテルを、右腕が飛んでハッチが割れたオートマトンが見ていた。
「…」
そして機関部をと破壊した後、射撃が止まると直後にそのオートマトンのパイロットは沈黙した多脚戦車にホッと安堵する。
『大丈夫か?』
そこで仲間のオートマトンが近づいてくると、そこでハッチが欠けていたオートマトンは機関部が破壊されて動けなくなった多脚戦車を見つめる。
ーーサク。
その時、自分が見ていた視界に僅かに視界に細長い影が視界に映り込んだ。
『警告。警告。右肩に外傷。流血を感知』
直後に警告音が鳴り響く。
『外傷は破片によるものと推定。パイロットの保護プログラム実施』
自動的にパイロット負傷による緊急治療が始まると、直後に急速にその音が遠くなって、視界も段々朧げになっていく。
『麻酔剤投入。パイロットの保護を最優先し、操縦を自動操縦に切り替えます』
負傷をし、下手にパニックになって心拍数が上昇し、余分な流血を防ぐ目的で全身麻酔が即座に実行され、同時に圧迫止血のために着込んでいたパイロットスーツが膨らんで負傷箇所の圧迫を開始した。
「…」
どうして怪我をしたのだろうかと考える間も無く、そのパイロットが視界が暗くなった。
次に目が覚めると、そこは真っ白な空間だった。
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