こう言ってはなんだが、この店は設備が整っている。
「〜♪」
その日、朝からスフェーンはハンディファンを持って風を送り込みながら炭に火をつけていく。
彼女は白のノースリーブにホットパンツと、おおよそこんな日本庭園で火を炊く格好ではあり得ない服装で炭に火をつけていた。
「お、何だ。誘惑でもしてんのか?」
「んな馬鹿な。海水浴場じゃあるまいに」
そんな格好を見て常連客は茶化すように話しかけると、スフェーンは呆れたため息をついた。
「じゃあ何でそんな格好なんだ?」
「サダミが通販で買ったら『思ったよりでかいサイズで履けない!』ってなって…」
「ふっ、はっはっはっ!つまりお下がりか!!」
髭面のツルツルピカーの仙人のような容姿の爺は快活に笑って縁側に座って話すと、スフェーンは突っ込む。
「そうだよ。こんなん四捨五入したらパンツだよ!!」
彼女は不本意ながらも履かされたこの服装に不満げに地団駄を踏んでいた。
意外な事かも知れないが、ウルフカットなぞやっているスフェーンは水着以外でこういう足を大きく見せる服は苦手であった。理由としては『水着はそういうモンだから』だそうで、普段から足を大っぴらに見せる事は自分の足が太めということもあって苦手であった。
「クサビさんの場合は足太いからいいじゃねえか。足太いのは魅力だで?」
「気色悪ぃ」
少なくともスフェーンは生まれた頃から胸派の代表者を自認しており、サダミの尻派とは相容れない嗜好の持ち主であった。
「少なくともこの前死んだアルキッシュは高校の時そんなこと言ってたな。『太ももに挟まれて死ぬなら本望』とな」
「あいつマジかよ…」
そこで知りたくなかった常連客の話にスフェーンは引き気味に答える。
「クサビ〜」
「はいは〜い」
そこで炭に火を付けていた彼女は、サダミに呼び出されて彼女は炊き立てのうるち米を太い竹串に付けて行く。
「あ、それ履いたのか」
「まあ君からの貰い物だし、履かなきゃもったいないかなって」
スフェーンはそう返すと、そこでサダミは色々と全景を見回して感想を述べる。
「ふむ…いい具合じゃないか?似合ってる似合ってる」
「マジな雰囲気で言うのやめれ。突っ込みずらいわ!」
そのコーデのスフェーンを前にサダミは少し意外な様子で言ってきたので、その本心からくる反応に彼女は対応に困っていた。
「何だ、今日は五平餅を売るのかい?」
「ええ、居る?」
朝から
「タレは醤油かい?胡桃かい?」
「どちらでも」
サダミはそう答えて俵状にうるち米を幅広の串に付けて完成させると、引っ付かないようにそのまま用意した醤油ベースのタレと胡桃味噌のタレを選択式に用意する。
「じゃあ両方一つづつくれ」
「おほ〜、強欲だねぇ」
「あったりめえよ。腹はち切れるまで食って死にたいもんさ」
「はっはっはっ!懐かしいねえ、昔は小遣い握りしめて悩んだもんだ」
老人はそう話し、昔にこの店で経験した懐かしい記憶を思い出しながらグラスを傾ける。
「食べれるの?」
「はんっ!まだまだ歯が生え揃ってるのが俺の自慢よ」
自慢げにその老人はニッと笑って自分の健康的な歯を見せつける。確かの彼の歯は、歳の割にはとても健康的な生え揃い方をしていた。
「ほい」
「はいよ〜」
そこでうるち米を付けた五平餅をまず炭を焚いたU字溝に次々と並べて表面を炙って行く。そして表面を焦がすのを見て一人が言った。
「ん、良い香りだ」
「まだ塗ってねえって、あんたそんな鼻がいいわけないでしょ?」
五平餅を焼き始めたのを見て常連客の老人やルポライターなどは次々と集まって出来上がりを子供のように楽しみにしていた。
「この町で育ってきた奴でこの店で食ったことがない奴は、嘘つきって事だよ」
「ああ、違いない」
ここの近所に住まい、散歩がてら毎度この店に寄り道をするご長寿は外れ値に値する
「ここの五平餅はデカいのが最高に良いんだ。全く」
「俺が外に出れない理由の一つだな」
「私も嫁入りした後はここに通ったものだね」
縁側に座り込んで彼等は口々に懐かしんでいた。全員が生まれたからからスフェーンやサダミを見て育ってきており、この店で小遣いを握りしめて学校帰りに寄り道していた。初めてここで酒を飲んだという奴もいた。
必ずと言っていいほど、人生の何かしらのタイミングでこの店に彼等は訪れた愛すべき常連客であった。
「ほれ、喋るなら手伝ってくれよ〜」
そこでスフェーンが団扇片手に話しかけてきたので、老人達は口を揃えて返した。
「勘弁。火傷しちまいそうだ」
「私はもう年取って手元が狂っちまうよ」
「何だよ、昔は喜んで手伝ってくれてたじゃないか」
スフェーンはそう言って縁側に座る老人達がまだ尻も青いような昔と照らし合わせた。
「いつの話をしてるんだか…」
「私はもう一〇〇だよ」
「はっはっはっ、俺なんてこの前玄孫できたんだぞ?」
全員が懐かしんで縁側に並んで昔から変わらない景色に哀愁を覚えていた。
「懐かしいねぇ、ここは昔からちっとも変わらない」
「ああ」
「その分、安心できるってもんさ」
珈琲や茶を片手に彼等は懐かしんでいると、提案から小さな影が走って縁側に戻ってくる。
「じーちゃーん」
小走りで入ってきたその子供はまだ丸い顔をあげて一人の老人に近づくと、そこで顔を煌めかせて庭園の中の池を指差した。
「中にでっかい鯉がいた!」
「おお、そうかそうか」
そこで孫に朗らかに答える爺さん。スフェーンはそこで五平餅をひっくり返しながら聞いた。
「どう?鯉に餌あげてみるかい?」
「やる〜!」
鯉に餌やりと聞いて子供は目を明るくさせて頷くと、爺さんは申し訳なさそうに頭を下げる。
「すみませんね」
「いやいや、昔の君を思い出して懐かしいくらいだよ」
「ははは、そう言われると恥ずかしいな」
そう言いながら彼は縁側から降りて庭園を子供と共に歩くと、灯籠に手を伸ばす。
「…ふはは」
思った通り、言われなくともその中に入っていた袋詰めの鯉の餌。昔から変わらなかった。子供の頃、こっそりここで餌を取ってばら撒いていた事をふと思い出し、次に自分の孫に餌を渡していく。
「わあっ!いっぱいきた!!」
そこで後に反応して鯉が集まり出したのを見てその孫は笑うと、彼は自分の子供をここに初めて連れてきた事を思い出す。
「…」
懐かしいと思う反面、嫁として出ていってしまって号泣した結婚式を思い出してしまった。
「ほら、こうやって手を叩くとさらに集まってくるんだ」
彼は孫にそう話して二人で手を叩くと、鯉は音に反応してさらに集まってきた。
「ほれ、餌だぞ〜」
「えさ〜!」
そして少し独特の匂いを放つ鯉の餌を池に投げると、鯉はバシャバシャと音を立てて口を開けて餌を食べていき、水飛沫がかかった事で子供は大はしゃぎだった。
「すっかりアイツも孫煩悩爺さんやな」
「悪戯やってここに足突っ込んだのが懐かしいもんだね」
そんな事を話しながら二人で味噌や醤油をハケを使って塗っていく二人。
「ああ、良い香りだ」
チリチリと音を立てて香ばしく焦げ目がつき始めていくと、その香りにふと彼は思い出す。
「覚えているか?高校の帰りにここに寄り道をしてお前が告白してたの」
「あー、見事に失敗して泣きながら夜まで不貞腐れて大変だったわね」
「やめろ、また古い話を持ち出す…」
くすくすと笑って懐かしむスフェーンに呆れた様子で珈琲を飲む常連客。
「あら、良い匂い」
すると店の扉が開いて一人の来店客が零した。
「いらっしゃい、アニータさん」
サダミがそこで顔を覗かせたアニータに会釈をすると、彼女は次にかなり大胆な服装をしていたスフェーンに意外そうな顔をする。
「あら、あなたそんな服持ってたの?」
「
「ああ、なるほど」
その一言で妙に納得がいくと、彼女は他の客と同様に座敷席に座る。
「で、今日は何を出してくれるのかしら?」
「五平餅」
「あら、それは最高ね」
そこで絶賛焼き上げられている五平餅を見てアニータも注文を入れる。
「私は二つ、醤油と胡桃を」
「何だよ、結局アンタもかい」
「あら、皆さんも?」
その問いに老人達は頷く。
「勿論」
「土産にも丁度いいんだわ」
「孫が喜ぶもんでね」
老人達はそうな話すと、そこでスフェーン達は陶器の皿に焼きたての五平餅を並べて提供した。
「ほい、出来上がり」
「おお〜、これこれ」
早速焼き立ての五平餅を前に老人達は嬉しげに頬張っていく。
両面を焦げ目がつくまでしっかり炭火で焼き上げられた五平餅は甘くも香ばしく、ほかほかに湯気の立つ中のうるち米をが半殺しのおはぎのような食感を与える。
「んん〜、美味しい」
「変わらない味だ」
「これ食って育ったようなもんさ」
口々に懐かしくなりながら彼等は五平餅を食べていくと、スフェーンは池のほとりで遊んでいた老人を呼ぶ。
「ヨウさ〜ん、出来上がりましたよ」
「おう、今行く」
そこで鯉に餌を与えていた二人は縁側に戻ると、そこで老人はアニータを見た。
「おや、アニータさん」
「こんにちは」
彼女は会釈をすると、次に彼の孫を見る。
「あら、もうこんな大きく?」
「ええ、ほら。ご挨拶しなさい」
「はじめまして」
散歩に付き添ったその子供はアニータにお辞儀をすると、彼女は笑みを浮かべて頷く。
「良い子ね、将来は大物にでもなるかしら?」
「いやぁ、誰に似たんだか悪戯ばっかりするもんでね」
「あらあら…」
初恋の相手にいつまで経っても頭が上がらない容姿の彼に、アニータは微笑みを浮かべてその子供とお手玉で遊び始める。
「昔、貴方もこんな具合で遊んでいたわ〜」
「ええ、母から聞いています」
そこで楽しげに笑っている孫を前に彼もよく遊んでもらったことを思い出していた。
「ほれ、出来上がったわよ」
「ありがとう。クサビさん」
すると注文した胡桃タレの五平餅が直で渡されると、アニータは見慣れない格好に首を傾げた。
「ところで…あなたそんな服を着るなんてね?」
「お下がりだよ!自分から進んでこんな破廉恥な服着るか!」
「何が破廉恥だぶっ殺すぞ!」
そこでサダミが突っ込むと、二人は五平餅を他所に喧嘩を始めてしまった。
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