レストランで食事をするスフェーンとユウキ。
「で、嫌な話って?」
スフェーンが話して促すと、ユウキは少し声のトーンを落として話し出す。
「実は今仕事でレッドサンの取材をしているんですけど」
「はぁ…?」
そこで彼女は一瞬驚く。ああそうか、まだ中身のことは話してなかったっけ。
「なんでまた…」
「上から言われたんですよ。これでもかつての著名な傭兵がこの街にいたこととか色々特集して書かなきゃいけなくて…」
「うわぁ…」
事情を聞いてやや引き気味に見てくるスフェーン。
「まあ、こんなものは適当に書いてチャチャっと仕上げてあとは優雅に休暇を満喫すればいいんですよ」
「おおう…そう…」
そこで笑って言い放ったユウキに、やや引き気味にスフェーンは聞いていた。
「で、最近になってパシリコ系企業が色々と戦力拡大のために色々と試行錯誤していると言う話がありまして…」
「へえ…」
彼女は提供されたホットサンドを食しながら彼の話を聞き続ける。
「元々パシリコ…いや、緑林教が戦争忌避を基本にしているのは知っていますよね?」
「まあ…そうね」
そこで新興宗教である緑林教の聖典を思い返しながらスフェーンは頷く。
かつて、グリーンボウルがあった場所を聖地に、モハメド・イル・パシリコヴァが始めた聖典の神格化。そのことを軍警察や周辺国は強く警戒していた。
「そんな国がわざわざ戦争をふっかけるかもって?」
「いえいえ、そう言う訳じゃないですよ。ただ、戦争を毛嫌いする国民であっても国防力は必要ですからね…」
彼はそう話し、噂程度に聞いた話をスフェーンにする。
「だからパシリコの企業が税金使って強力な兵士を育成しているって噂。聞いたことありません?」
「そんなの、他国より軍事力が低いって言われた頃から言われた噂話じゃないの」
そこで優雅に食事をしていくスフェーンにユウキは続ける。
「それが本当にやってるかもって話なんですよ」
「へえ…」
「なんで興味なさそうなんですか…」
「だって、実際迷惑かかることなんてないし…それがどうしたって話でさ」
彼女はそう返すと、ユウキはそこで提案を持ちかけた。
「だから一緒に調査しません?」
「ほ?」
『お前は何を言っているんだ?』とでも言いたげな表情でユウキを見つめるスフェーン。一瞬言っている意味が理解できなかった。
「なんでそんな目に見えてわかる火の粉を被んなきゃならないのよ」
「その方が面白そうじゃありません?」
「テメエは何言ってんだ?」
真顔でスフェーンはユウキの正気を疑った。
「用心棒が欲しいんですよ。子供でも犯罪組織壊滅させられる凄腕じゃないですかスフェーンさんは」
「ヤダよ。クソガキ精神滲み出てるじゃん」
「お願いします。絶対売れる記事になりそうなんですよ〜!」
「パパラッチなら週刊誌にでも突っ込んどけよ」
過去の経験を棚に上げて手を合わせて頼み込む彼にスフェーンは嫌な予感を感じて徹底した逃げに走る。
「ってか、あん時はアンタの尻拭いさせられたんですけど?」
「あの時はクソ生意気なガキってことで許してくれませんか?」
「阿呆か」
スフェーンは毒吐いて返すと、ホットサンドを食べる。
「安全面云々は一旦置いておこう。だがパパラッチなんてそもそも人としてどうなの?」
「売れれば大衆ウケはいいですよ?」
「そもそもウケ狙いで記事書くなよ…」
呆れる彼女は、次に綺麗に磨かれた灰皿の上で食後の一服を始める。
「ゴシップなんて大抵その方が売れますもん。実際」
「いやまあ…逆張り記事書いて下手に炎上するよりかはマシかもしれないけどさ…」
ユウキの言い分には思わず苦笑してしまうと、聞いていたルシエルが話しかけてくる。
『一度話を聞いてみるのはどうなんですか?』
「(嫌だ。私は傭兵かっつーの)」
『だったら、傭兵ギルドでギルド証を発行されては?』
「(え?)」
そこで困惑気味になるスフェーンに、ルシエルは言う。
『再来年から傭兵免許証を持っていない人の銃器所持は、国連所属エリア以外では法律違反となります。ついでですし、傭兵免許証の発行を行いながら最初の依頼という形で受けてみるのはいかがです?』
「(え、絶対やばい臭いしかしないんだけど)」
『大丈夫ですよ。核が壊れなればそもそも私たちは死にませんし』
「(み、身も蓋もねえ……)」
ルシエルからのぶっちゃけられた話に反論のための言葉を探すが思い浮かばず、スフェーンは苦笑気味に聞いていた。
「(てか、再来年からそんなルール適用されるの?)」
『ええ、どうやら武器の管理を行うための法案が通るそうで』
「(マジか…)」
そこで知った新たな情報に驚いていると、ユウキは提案する。
「どうです?」
「えー、でも絶対ヤバいやつよ?それ」
確信めいた様子でスフェーンはユウキに答える。
「記事が出来上がったら報酬も出しますって」
「でも流石に企業相手に喧嘩売るのはヤバいって…どう考えたって」
彼女はそう言うと、ユウキはそれでも言い返す。
「そもそも、そう言う企業の汚職をすっぱ抜くのが僕達みたいな報道機関なんですけど?」
「それやるくらいなら産業スパイ放った方がよっぽど世の安寧になると思われ」
全力で巻き込もうとするユウキと徹底的に逃げに入るスフェーン。
しかし悲しいか、この場で乗り気なのが二人もいたことが災いしていた。
「まあでも、面白そうですし、考えものですかね」
「本当ですか?!」
「(!?)」
ルシエルが入れ替わって答えると、不意打ちをやられたスフェーンは驚愕する。
「だったら面白そうな場所があるので、すぐに行きましょう!」
するとユウキは先を立ち上がってスフェーンの手を引っ張ってレストランを後にする。
「ぎゃぁぁぁああーーっ!!」
そしてそのまま市街地に向かう連絡船に飛び乗ると、二人は新市街地に向かう。
「(おい!何勝手に話しとんねん!)」
『下手に逃げられて時間取られるよりはマシだと思いましたので』
「(ふざけんな!)」
連絡船でガッチリと腕を掴まれ、逃げようにも逃げられない状況が出来上がっていた。
「傭兵ギルドで発行をしてからで良いかな?」
「あっ、勿論ですよ!その方が後で軍警に捕まっても色々と面倒臭くないですしね」
「何でそのこと知ってんねん…」
「そう言う鉄火場経験は豊富ですから」
「自慢できる?それ」
戦場記者でもやっていたのだろうかと考えてしまう様な今の発言。すこしユウキの経験は気になるところではあるが、多分聞いたら遠い目を浮かべることとなる気がしてやめた。
「僕も持っていますし…と言うより、スフェーンさんが持ってないのって意外でした」
「いやぁ、いるかな?って思ってね…」
元々列車の運転士としてあまり出番の少ない武器。今までは自由にぶっ放しても問題にはならなかったが、傭兵ギルドという組織の誕生で武器の取り扱いに関する国際的な意識向上が流行になりつつあるのも情勢の変化というべきなのか…。
「でも持っていた方が治安官に捕まっても拘束される時間は短くなりますよ?」
「へえ〜」
そこで少し意外な情報を知った彼女は、早速新市街地の船着場で下船をしてからその足で傭兵ギルドまで向かう。
「しかし、スフェーンさんがおすすめした場所がまさかホテル・ヴォンゴラだとは思いませんでしたよ」
「そう?」
「ええ、泊まれるとはいえ高級ホテルですからね。敷居が高くてちょっと…」
ユウキはそう言い、スフェーンが待ち合わせ場所に指定した高級ホテルに少し奥手になってしまっていた。
「そうか、高級ねえ…」
スフェーンはユウキからの話に少し意外だったが、世間一般ではそうなのかと納得してしまう。
そもそもの話、彼女がやり手だとは思っていなかったのでホテル事業の初期投資も順調に返済されているのを仕事が終わる毎に確認していた。
「ええまあ、歴史あるホテルですし、支配人も傭兵の聖母と言われているマダムプエスタですし…」
「あーね…」
ユウキからの話というのは、自分以上に今の傭兵の世界について詳しいように思えるので、話を聞いているだけで色々とタメになるものだ。
インターネット上の情報が嘘も真実も混ざり合った環境であるために、こういう伝聞された情報というのもバカにできない時代である。
整備された街並みの中、二人は切り替わった信号を確認して横断歩道を越えると、そこで広い公園を備え、天を貫かんばかりに高く聳え立つ巨大な施設を見る。
「(まるでソビエト宮殿だな…)」
その建築物の見た目をそう揶揄しながら彼女は多くの傭兵が出入りする施設に入る。
その施設はかつて相棒であった男がたった数年で作り上げた施設。構想は十数年。今までの下地や自身の名声があったとはいえ、たった一代でここまでシステムを作り上げるとは見上げた才能だと感心してしまう。
「新規発行って簡単なの?」
「お金と文字が読めたらいけますよ」
「ほーん」
そこで傭兵ギルド本部に入った彼女はユウキに教わりながら機械を操作していく。
「へえ、免許は更新制なのね」
そこで簡単に免許申請を行う。スフェーンはそんなことを呟きながらこの前の仕事で得た報酬から発行料を用意して受付を終わらせる。
そして受付に移動すると、そこで簡単に顔写真の撮影を行ってからすぐに発行された。
「早いわね」
「待たされることはないですよ?」
そこで運輸ギルドで発行されていた運転免許証で使用されていたのと同じ顔写真が印刷された傭兵ギルド発行の証明書を持って彼女は見つめていた。
「最近は顔写真ばかりなのね」
「アナログですからね。一番安心できるシステムでもありますよ」
そんなことを話しながら新たに発行されたその免許証を財布にしまい込んでスフェーンはユウキを見る。
「で、これからどこにいくの?」
「あっ、ちょっと待っててくださいね」
質問をされて彼は手の甲に触れると、掌からホログラムが投影された。
「この路線で襲撃をしているって噂の野盗団の根城に行きたいんです」
「え、そんなところまで分かってんの?」
そこでスフェーンはユウキから齎された情報の精度に驚いていると、彼は少し得意げに笑った。
「まあ、こういうのはそういうのが得意な人に聞くと意外と分かったりするんですよ」
「へえ…」
「特に反企業的な思想家の人たちに頼むと簡単に教えてくれるんですよね〜、ああいう人たちって煽てておけば気分が良くなる人たちばっかなんで」
「おおう…」
随分と逞しくなったもんだと聞いていたスフェーンは、かつてのクソガキがより悪辣な形で成長したような雰囲気が漂う彼をやや引いて見てしまった。
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