サダミの名前の由来は黒猫好きで有名な宇多天皇の諱からとりました。
ラタマ、それが今回の旅の最終目的地である。
場所はパシリコ地方にあるとある支線。今は単線区間のローカル線だが、かつてはここをパシリコの軍用列車が通っていたような場所だ。
かつて、パシリコは全土に鉄道管理局の把握していない…鉄道管理局の申請を受けることなく独自で敷設された路線が存在している。軌間は汎用性も鑑みて鉄道管理局の標準軌と同じである。
ただこうした類の路線は主に補給物資や兵器を装備して運ばせることが多いため、特に『軍用路線』と言われる呼び方をされる。
こうした類の路線は国が独自に敷設をするため、鉄道利権を脅かす存在として国家を超えた組織である鉄道管理局は発見次第、撤去を求めることが多い。
しかし裏ではそうした軍用路線に対し、管理者がいない場合は路盤ごと剥ぎ取って自分の路線の資源にしているとか、新たに路線図に書き加えて管理下に置いていたりと火事場泥棒のようなことをしていると言う噂もある。
「お疲れ様でした」
駅に到着をすると、ほぼ無人駅のような小さな駅舎で一人の老人が出迎えた。そして手を差し出してきたのでスフェーンは握り返す。
「ああ、これはどうも」
スフェーンは出迎えた老人に会釈をすると、彼は運ばれてきた物資を見て言う。
「どうぞ、こちらにお茶を用意してありますので」
「いやはや、これは申し訳ない」
スフェーンは背中に散弾銃を背負って降りたにも関わらず、その人物は対して警戒を持つこともなく物資を運んできたスフェーン達をもてなした。
村は比較的小さい物だが、この駅舎からは小さな村落の施設と広大な田畑が伺える。若干黄金色が目立つ色合いの水田が村を覆うように広がっていた。
「随分と広い水田をお持ちのようで」
「ええ、もう一ヶ月もすれば刈り入れが始まります」
駅舎を離れ、コンテナの荷下ろしを簡易起重機が行う中、運転士二人は案内されて村に入る。
現在、難民NPO団体の依頼を受けてこの村や地域一帯に物資を運び入れたスフェーン達。その内容は実に様々で、食料から日用品、機械部品まで含まれていた。
村はいくつかの住居が密集しており、周りを塹壕や逆茂木、物見櫓が囲んでいた。街の中心には大通りがあり、いかにもな雰囲気のある田舎町である。…防衛設備以外は。
「村長、新しい運び屋だ」
「ああ、よくぞお越しなさった」
そこで村の中でも煉瓦造りの二階建ての庁舎らしい場所を案内されて入ると、そこでは白い顎鬚に窪んだ頬を持つ見た目からして長老感漂う老人が座っていたソファから杖をついて立ち上がった。
「初めまして、この村の村長のアーティフです。此度は仕事を受けてくださってありがとうございます」
「スフェーンです。しばらくご厄介になります」
「サダミです。よろしくお願いします」
挨拶をすると、早速アーティフは二人に茶を用意した。
「これは、チャイですか?」
「生憎、このようなものしか出せませんがね」
「いえ、ありがとうございます」
そして出されたトルコチャイを二人は用意されていた角砂糖を入れてから飲む。砂糖はあまり多く使わずに僅かに甘みを感じる程度で十分だ。
チャイダンルックというポットを二段に重ねたような見た目の茶器を使って入れられたこのチャイは、綺麗な鮮やかな色合いのガラス製の容器に注がれていた。
「(熱いの大丈夫なの?)」
温かいチャイを提供されたが、スフェーンは隣で平気そうな顔をしているサダミを見る。彼女は猫舌であり、熱い食べ物が苦手であるのだが、この温度なら問題ないのかと隣で砂糖を何個も入れる、茶に対する冒涜を行っているサダミを見る。
「今回の納品目録はこちらとなります」
「確かに」
そこで事前に渡されていた資料をアーティフに渡すと、彼は頷いてから目録の内容である肉類を確認して伝票にサインを行う。
「我々はコンテナを回収してから出発します」
「分かりました」
簡単に仕事の話を淡々と終わらせるスフェーン。事前に前金はもらっているため、彼女達は仕事をこなしていく。
「村長」
「おお、そうだな」
そこで先ほど案内した男がアーティフに耳打ちをすると、彼は頷いてからスフェーン達に提案をする。
「如何です?そろそろ昼食の時間なのですが」
「お食事のお誘いですか?良いですね」
「…」
二つ返事ではファンは御相伴に預かろうとすると、隣でサダミは無言のまま頷く。
このチャイを飲んでいて毒物をまさか仕込むわけではないだろうし、こちらに対する警戒もなさそうな雰囲気で、彼女はこの村は問題ないと判断していた。
時折あるのだ、運び屋に毒を飲ませて始末してから物資を漁ろうと目論む村単位での野盗団というのが。まだそのような村にあたったことはないが、被害にあったという人間は聞いていた。
「どうぞ、食事は集会所で行なっていますので」
「お邪魔させてもらいます」
そこでスフェーン達は案内をされて村の中でも大きな施設に案内される。
「皆んな、今日から来る運び屋の人だ」
その施設では大人も子供も一緒くたに集まっており、村長が紹介を行ってからスフェーン達は帽子を一旦脱いで会釈をすると、村の面々は新しい運び屋に和かに会釈をした。
「初めまして、暫くご厄介になります。スフェーンと申します」
「同じく、サダミと言います」
ナッパ服を着た鹿と黒猫の獣人が挨拶をすると、その後に集会所に複数の面々がやってきた。
「さあどうぞ、今日のお昼ですよ」
「これはどうも」
「失礼します」
二人は配られたおにぎりをありがたく受け取ると、味噌汁と合わせて盆に用意された。
「「「いただきます」」」
そして手を合わせて食事を始める。
「「っ!!」」
その瞬間、米を食べた二人は目を見開いて驚愕して動きが止まった。
「「美味っ!」」
ぴたりと止まった後、二人は目を見開いて顔を上げた。すると二人の反応を見て一人の筋肉質な若い狼の獣人が笑った。
「ええ、ここの水は軟水ですからね。格別ですよ」
分かっていたようで彼は二人を見ると、スフェーン達も頷く。
「これ新米ですか?」
「いや、去年の物だ」
「へえ、これは美味しい」
スフェーン達はそう言いながら箸を進めていくと、見慣れない客人を前に子供達が話しかけてくる。
「ねえねえ、お姉さん」
「お、良いこと言うじゃないか君」
そこで話しかけてきた子供にスフェーンは笑うと、目を見つめる。不老者であるために年齢詐称も甚だしい老人であり、それ故に仲間内や顔馴染みからは『婆さん』なんて言われる始末であったので、久しぶりの見た目相応な呼び方に嬉しくなる。
「お姉さん達は運び屋なの?」
「ええそうよ」
「じゃあ村に肉とか届けているの?」
「そうね、あとトイレットペーパーとか色々持ってきたりしているわね」
スフェーンは一仕事終えた後であるため、今回運んできた物資を思い返しながら答える。
「じゃあ、お店で売ってるものとかを持ってきたの?」
「そうね、依頼を受けて運んできたから…」
「じゃあ、今日お店開くってことじゃん!」
「行こ!もしかしたら新しいものとか入ってるかもだし!」
そう言って子供たちは意気揚々と集会所を出ていく。
「こら!まだご飯食べていないでしょう!」
その後を追いかけて走る女性。実に賑やかでありながら和やかな場所が広がっていた。
列車を運行する上で最も警戒するのは襲撃。
「現在、偵察ドローンによるスキャニングを実施中」
そう報告を行うのはキャビンのベッドの上で丸裸で座っていたルシエル。まだ呼び出したばかりで見繕う物を付ける前に偵察を行っていた。
彼女の視界にはドローンからの映像、車両の自衛武装の状態、装弾数その他諸々が表示されていた。
「シエロ列車の自衛は任せます。こちらは優先撃破目標の管制をフリップに表示しますので」
『了解』
「スフェーン」
『へいへい、分かっているってばよ』
そこで対戦車ライフルをガレージに用意した銃眼から覗かせて返すと、彼女は槓桿を押し込んで銃弾を装填すると虹色の瞳を大きく見開く。
いつも付けているサングラスはあくまでも面倒な視線の注目を避けるためで、本人からすれば視界に色補正をかけなければならない面倒な装備品であった。
『照準確認しました』
かつて、この肉体を形作った根底に存在する自分たちの間で行った契り。その対価として行った移植。その効果はお互いにどのゆな状況なのかを直接視界に収めることができる点だろう。
現在、襲撃を受けている列車の中でスフェーンは視界に捉えた敵集団を見る。
「野盗?」
『にしては組織化されている。見てみなさい』
運転台でサダミが話しかけると、彼女の視界にスフェーンの視界が投影される。
そこでは土煙をあげて突撃を行ってくる集団の影があった。
「陽動じゃないの?」
『熱源探知を行っていますが、現状は確認されていません』
土煙をあげて突進してくる集団を前に自衛装備のCIWSが展開され、照準を合わせる。
「射撃用意、FCS起動」
そこで照準を合わせた時、無線が入った。
『ーー返す。繰り返す!こちらは統一防衛隊!当該列車、直ちに敵対的行動を静止せよ!』
意外な通信内容に聞いていた面々は困惑する。
「はい?」
「え?」
『どう言うことですか?』
「不明。現在、詳細把握中」
スフェーンたちは困惑していると、さらに続報が入ってくる。
『現在、我が部隊は哨戒任務中である。こちらに敵意はない』
そう言いながら接近してくる部隊は、整然とした規律を感じ取れる編成で列車に接近していた。
「こちら貨物3088便。現在難民支援NPOからの依頼を受け、物資輸送任務中」
『…了解した』
サダミが無線で返答を行うと、通信を繋いできた指揮官と思われる男は頷いた上で通達を行う。
『現在、この路線は警戒対象である。最寄りの駅で停車し、臨検を行いたい』
「理由を聞かせてもらいたい。現在こちらは空のコンテナしか積んでいない」
彼女は答えると、その部隊は返す。
『指名手配された人物が隠れて搭乗している場合が考えられるため、臨検を行いたい』
その内容にサダミたちは訝しんでいた。
「どゆこと?」
『我々に臨検を行う権利を持っているのは軍警だけですよ?』
しかしここで無理に逃げようとするとさらに面倒なことになるので、彼女たちは軽く相談した後に列車の速度を落とし始めた。
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