廃村となった集落を訪れたスフェーンとルシエルは、街の真ん中を分けるように整備されていた街を見る。
「あー、これはひどい」
屋根が一部崩落している施設を見ながら思わずスフェーンは呟く。
「滅多撃ちです。砲撃を村に叩き込んだような跡がありますね」
そこで街の集会場が崩壊しているのをルシエルは見つける。
基本的に市街地が全域にわたって砲撃された痕跡があり、無事な建物を探す方が苦労しそうなほどであった。
「なにこれ、無事な建物が全然無いじゃない」
「砲兵隊の直射を受けたような破壊痕ですね」
そこで崩壊した壁を見てルシエルが判断を行うと、足元に散乱した瓦礫を見つめる。
「煉瓦…」
「粉砕されているものもあります。おそらくは榴弾でしょう」
足元の床に空いている無数の着弾痕は、破裂した榴弾の外殻を見る。
「…もう少し調べてみますか」
「了解」
そこで片手にロケットランチャーを担いでルシエルはスフェーンと共に暗闇の中を歩く。
「なるほど、これなら住民が皆殺しになるわけだ」
「しかし砲撃程度では皆殺しにできるとは思えませんが…」
そもそも建物が残っている時点で砲撃の密度はさほど高くない。本気で砲撃で街の住民を虐殺するのなら、もっと徹底的に砲撃は行わなければならない。
「そもそも野盗如きがわざわざこんなに大量の砲弾を撃ち込む必要があるの?」
大砲による砲撃というのは、測距や操砲などの技術に専門の知識が必要となってくる大人数が必要になってくる兵器だ。この村の住民を全滅させるほどの威力であるとするなら、少し野盗団が扱うには負担の大きい兵器である。
「無反動砲の可能性は?」
「どうでしょう、この破壊痕からすれば可能性としてはあり得ますが…」
無反動砲であればオートマトンに装備可能だ。その名の通り発射後の反動を発射時の燃焼ガスで相殺する無反動砲は、オートマトンに装備することで簡易的な砲兵として運用可能なことは知っていた。FCSが装填・照準・発射までの手順を全て自動で制御してくれるため、オートマトンは対応可能な兵器であれば装着してシステムに組み込むだけで様々な兵器を使用可能であった。
「発射地点は推測できませんか…」
破壊された家屋を見ながら二人は探索を行なっていると、村の集会所に入る。
「ふむ…」
「…」
集会所の中は屋根が残っており、その中で割れた窓ガラスや風が吹き付ける
「この中で焼き殺されたのは事実のようですね」
ルシエルはそこで足元の焦げた床板を踏んで炭になっているのを確認する。砕けて炭となった床板が所々で脆くなっており、落とし穴のようになっていた。
「うわっ」
「気をつけ。建物は脆いよ」
早速ルシエルが床板を踏み抜いて視線がガクンと落ちると、隣でスフェーンが遅い忠告を入れた。床を踏み抜いた彼女は次はないように足元に注意しながら集会所を探索する。
「村長の家は?」
「集会所の右隣のはずです」
そして崩落した村落の施設をくまなく見ていく二人。事前に仕入れた情報ではこの集会所に葛折になって遺体が並んでおり、状況から見て砲撃によって全滅させられたのだろう。
「酷いことをするものね」
「人なんて所詮、過去の歴史から学ばない存在ですから」
「おほー、言うようになったものだねえ」
穴だらけの集会場を見て、榴弾が至近距離で叩き込まれたものと推測できるこの場所の近辺を探索する。
かつて噴水があったのであろうその場所は、今は枯れた水源がわずかに溜まっていた水が苔むしる程放置されていた。
「この村に住むって言うのは?」
「今のところは考えていないと言う話ですが…」
「ふむ、なるほどね…」
先にラタマに住む住民に色々と話は聞いていたので、その後のこの村の状況確認をしてくれと頼まれたことも相まってこの時間に訪れていた。
「…ここがそうね」
そして折れ曲がった支柱を越えてスフェーンは村の中でも二階建ての庭付きの一軒家を見る。
「隣の村だってのに、随分とラタマと作りが違うのね」
「元は村長が趣味で作った建物という話がありますが?」
「ふーん…」
スフェーンはあまり興味がない様子で適当に返すと、壊れて侵入する必要もない柵を越える。村はそもそも電気が通っていないため、警備システムも電気がなければ動かなかった。
「ふむ…」
そして銃弾の貫通痕が生々しく残っているドアを押し開けて建物の中に入ると、ひとしきり略奪された様子で何もまともなものが残っていない様子の村長の家を見ていく。
「調べて行きますか…」
「大丈夫なの?」
ルシエルがその廃墟の家を見て言うと、隣でライトを照射しながら聞いてくる。相変わらず眼球を光らせるので、見ている者からすればツボにハマって笑い転げてしまいそうになる光景だ。
「スフェーン、せめてライトは手元にあるのを使えばよろしいのでは?」
その様子を見て天井を照射していたスフェーンに話しかけると、彼女は視線と共に灯りが必ず照射されることが便利なのか、軽く返事をしつつも使い続けていた。
「こっちの方が楽でね」
「はぁ…」
まあ羞恥心を感じないのであれば好きにしてくれと言った様子で見慣れてしまったルシエルは黙々と施設の捜索を行う。
「間違っても残ったものは持っていかないでくださいよ?」
「そりゃ当然。盗難になっちゃう」
遺跡でもあるまいし、と言ってからスフェーンは建物の蹴破られたドアを潜って部屋の中に入る。
「ふむ…」
そして風が吹いたことボロキレとなってしまったレース状のカーテンが揺れている寝室に入る。
「執務室は上です」
「ん」
ルシエルが話しかけてきたので、スフェーンは頷きつつもその寝室に据え置かれたベッドを見つめる。
「…」
そのベッドは布団が乱雑に床に落ちたまま埃をかぶっていた。
荒らされた村長の屋敷はありとあらゆるものが略奪されており、まともなものは残っていなかった。
「よほど派手にやっているわね…」
一体どういう理由でこの村は略奪をされたのか。
「そもそも収穫期でもないのにどうして…」
彼女は疑問に思った。聞くところによると、この地区で育てられていた作物は米。収穫時期はラタマでもそうであったが、ようやく収穫が始まろうとしている時期だ。
通常の野盗であるなら、収穫した穀物が大量に残されているもう少し後の時期に村を襲い、食料を奪うはずだ。
『スフェーン』
その疑問を巡らせる前にルシエルが呼んできたので、スフェーンは寝室を後にして階段を登っていく。
二階建ての建物は、いつか建てようと考えている喫茶店の建築には使えないだろうかなどと考えていると、階段を登った二階の執務室で彼女はその手に一冊のノートを開いて待っていた。
「どうした?」
「日記を見つけました」
元々は執務室であった様子で、調度品の類は軒並み破壊が強奪がされた部屋の中で、ルシエルは残っていた日記を見せてくる。
「野盗襲撃直前までの内容が記されています」
スフェーンはそこで内容を一枚ずつめくって行くと、次第に彼女の顔色は曇っていった。
ラタマに残って夜中の列車で留守番を担当していたサダミは煙草に火を付けていた。
「ふぅ…」
紫煙を吐き出し、吸うたびに先端が赤く灯る。
傭兵をしていた頃から吸っていた愛飲する銘柄は、ラム酒を彷彿とさせる甘い香りと比較的重たいタールのどっしりとした吸いごたえがあった。
『お二人は相変わらずの愛煙家ですな』
「ああ、酒に次ぐ楽しみの一つだ。戦場じゃあ、吸っていないやつを探す方が苦労するもんだ」
ヘロインやモルヒネで散々自滅して行く連中を見てきたサダミは、薬物は一切してこなかった。その点、スフェーンは痛み止め目的で常にモルヒネを持ち歩いていたなとふと思い出す。
「思えばあれから何世紀が経ったものか…」
すっかり色々と慣れてしまい、変わってしまったこの世界。
パシリコ共和国が崩壊した後にばら撒かれたE兵器よって再び世界が荒廃してしまうとは誰も想像だにしていなかったことだろう。
『幸いなのは、サダミの家系図は今も根強く残っていることでしょうか?』
「ははっ、そういえばそんなこともあったものだな…」
すっかり遠い昔話になってしまったその話に、彼女は懐かしさを感じてその話題を振ったシエロに笑ってしまう。
現在もサックスの血筋は世界中で医療事業を展開しており、自分が生きていた頃からは考えられないほどに成長していた。
「病院列車を自前で何本も持っているほどの企業だ。流石に笑うしかないだろう」
あの病院と孤児院からよく成長したものだと思えてしまう。
傭兵を生業としていた時代、最強の片割れと言われ、恐れられ、敬われていた彼とともに歩んでいたあの頃も懐かしくなってしまった。
「それも今じゃあ、これが当たり前か…」
そこで彼女は寂しくなってしまった自分の股間部を一瞥する。少なくともかつての愛妻を撃ち落とした自慢の一本は、生まれ変わりの代償として天に召されてしまい、あっという間に涼しくなってしまった期間の方が長くなってしまった。
『すっかりタマナシですね』
「ウッセェ」
余計なひと言を言ってきたシエロに軽く反論をしていた。
「ん?」
その時、彼女は気配を感じ取った。
「…これは」
そして風の流れに乗って感じた皮脂の香りを嗅ぎ取り、直後に風上に向かって視線を向ける。
彼女は長く付き合ってきたこの体を通じて、今までの経験と合わせてこの匂いが何なのかをすぐに把握する。
ーー緊張した人の匂い。
人間の感情というのは、時に臭いとなって表に出てくるものである。運動した後の汗と緊張の冷や汗の感覚が違うように、体から流れ出る匂いもまた違うものだ。
『警戒。列車に接近する熱源を探知』
「了解」
そこでホームの上でのんびりと待っていた彼女は煙草を投げ捨てると、被っていたブランケットの下に隠していた短機関銃の銃口を匂いのした方角に向けた。
「…」
そして足音を殺して爪先から踵に掛けて歩き出す。幸い、夜で野盗の襲撃も警戒してホームの照明は落とされているので、彼女は安心して歩くことができた。彼女は耳を左右に動かし、銃床をしっかりと肩に押し当てた上で視線を左右に動かしながら銃口を前進させた。
ガサガサガサッ!
しかしこちらを暗視装置か何かで見ていたのか、動いた瞬間に逃げ出してしまった足音が聞こえ、サダミは距離もあったので諦めて銃口を降ろして列車に戻って行った。
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アンジョラの病院(数話で終わる)