集落に探索に向かったスフェーン達と、真夜中に不用意に列車に近づいた人影があってから数時間後。
陽が昇り、今日の出荷作業を行うスフェーンたちは駅の前でサイロに貯蔵されていた穀物の積み出し作業を行なっていた。
「…こっちか」
積み込み作業を行なっている最中、サダミは村の中に出て散策を行なっていた。
彼女は地面に近づいて足跡を探し、その度に匂いも探していた。
『昨晩は風が吹いていたので、匂いはさほど残っていませんね』
「仕方ないか…」
そこでため息混じりに昨晩に列車に近づいて来た人影を探そうと目論んだが、その正体は分からずじまいだった。
「熱源が全体にあったと言う事は確実に生物なんだがな…」
『金属反応も確認できませんでした。残念ながら体格までは分かりませんでしたが…』
二人は昨晩の出来事を帰って来たスフェーン達に伝えた所、不用意に列車に近づいて来たと言う事で若干の警戒をしつつも、物的損害が無かったことからそれ以上の追求をしようとはしなかった。
「全く、アイツらは犯罪予防をしようとしないのが問題点だ…」
『でも起こるかどうかも分からない問題を探すよりは効率的かも知れませんよ?』
「やられる前に問題の芽を潰せるなら潰しておいたほうが、後が楽なような気もするが…」
掠れてしまった匂いを辿りながら街中を歩くサダミにシエロは答える。
『それは後々に過剰な正義による暴走を招くのでは?』
「だから第三者の目が必要なの。世論っていう第三者がね…」
彼女がそう言った時、村の中で話し声が聞こえて来た。
「?」
サダミはそこで知った声である村長が話している様子であったので、挨拶がてら話しかけようと思った。
「困ったな…」
その一言が彼女の耳は入って来て、その瞬間にその声色から少し頭のあの朗らかとしていて快活な雰囲気のあったあの人が深刻げにしている事にすぐに体が反応して盗聴の姿勢を作っていた。
「親父、どうするんだ?」
「村長、これ以上の徴収は来年の種籾すら持って行く勢いです」
「これでは飢え死にになるぞ」
建物の影に隠れて聞き耳を立てるサダミ。彼女の耳は普通の獣人よりも良い耳をしていることを誇りにしていた。なのでこの距離でも彼女は彼らの会話をしっかりと聞き取る事ができた。
「これ以上は無理だ。何とか交渉をしておかなければ…」
「しかしアイツらが聞くと思うか?」
「彼らとて鬼じゃない。こちらの事情を知れば理解するはずだ」
そんな話をしながら村長達はその場を後にすると、静かになった通りになってからサダミは顔を覗かせた。
「徴収?」
『あの内容ですと、村の財産をどこかに運び出している可能性がありますね』
盗み聞きしていた情報から推測を重ねると、サダミは昨晩の不審者の追跡を諦めて駅に戻って行く。
「ん?」
その途中、彼女は走って去って行く一人の人影を見た。
「あいつは…」
『シュペーア君ですね』
走り去って行った小さな人影を見送ってサダミはそのまま村の外にある駅舎に向かった。
「おっ、お帰り〜」
ホームでは穀物の積み込み作業を行っていたスフェーンが呼びかけた。
「思ったより早い帰りね」
「ああ、少し気になる事があってな…」
「?」
スフェーンは首を傾げると、サダミは顔を上げてやや鋭い視線を送った。
「中で話したい」
「…了解」
その目を見て真面目な話で、尚且つ面倒ごとの予感を感じ取ってスフェーンはゆっくりと頷いた後でハーベスタから直送でホッパ車に積み込まれる穀物を見上げた。
「ねーちゃーん!」
その時、ホームに入ってくるのは村の子供達だ。
「あそぼーぜ!」
「すまんね、これから仕事なんだ」
「そうだぞ、仕事の邪魔はするなよ」
スフェーンは集まって来た子供達にそう答えてから軽く頭を撫でると、村側の大人が注意をした。
「えー、つまんねー」
「悪いね。これもやらなきゃお前たちも村で欲しいものが買えないんだぞ?」
「それは…」
困ると言った様子でその男児は顔を顰める。
「ほら、早く行くよ」
その後ろで遊びにきたはいいものの、遊べないことを理解した他の子供が腕を引っ張って彼らは渋々駅を後にして行った。
「すみませんね」
「いえいえ、子供がこんなに笑っているのを見れたら十分ですよ」
スフェーンは担当者に笑みを見せてから列車に乗り込むと、列車は進発を始めた。
数日をかけて穀物の出荷を行うスフェーン達は、ホッパ車を貸出先であるサイロを管理する農業組合の所有するサイロまで運ぶ。この施設は付近から回収した穀物を梱包して出荷を行う場所であり、かつては国営企業であった施設であった。
「回収を確認しました。ご苦労様です」
コンベアを伝って上から注ぎ込まれて行くのを確認しながらスフェーンは担当者と顔を合わせる。
「んっ!んん〜、これでまた休憩すっか」
「この次はコンテナに積載した農作物の運送です」
「ああ、また忙しくなるやつか…」
「魚運ぶわけであるまいし、問題ないでしょう」
その時、鮮魚輸送列車を思い出して二人は時間制限付きでどの列車よりも優先して運ばされる仕事を思い出す。確かに割りがいいのだが、時間制限がある分速度を落としていられないラリーのような状態で走らなければならない。野盗襲撃の確率は変わらないので忙しさが増える仕事なので、報酬が割に合わないと途端に誰もやらなくなる仕事である。
「今回の荷物は梱包された米を一二〇トンです。産業米ですので、まあ単価は安いですね」
「その分運べばいいんだけどさ…」
ホッパ車の切り離しを行いながら三人は話して行く。
「その分台車に負荷が掛かる」
「ええ、そろそろ全般点検の季節ですし、台車交換も一斉に行うこととなります。出費は重なりますよ」
「うわぁ、こりゃ大変だ…」
そしてホッパ車が入換機によって回収されると、次に積卸線に向かうために分岐点を通過して行く。
『最近は頑丈な台車も出ていると言う話ですが?』
「高いんだよそれ。私もこの前読んだけどさ」
その妻面で赤旗を振りながらステップに立って誘導を行うスフェーン。運転台は無人で、シエロが遠隔操作で運転を行ないながら話しかけた。
体と核を共有する人格であるルシエルとシエロ。スフェーンから知識を受け取り、学びの探究心を獲得した事で人格に変容をもたらしたルシエルは、同じ生まれのシエロにも同様に教育を施していた。
『ではお金を貯めてローンを立てては?』
「まあそれもありっちゃありだけどね…」
そこであらかじめコンテナが積載されていたコンテナ貨車を確認してから一度停車をすると、線路に降りて自動連結器の確認を行う。
「ん、良し。前に出しちゃって」
旗を使って誘導を行うと、貨物列車はゆっくりと前進を行なって重たい鉄と鉄がぶつかるガシャンと言う音を立てて自動連結器の錠が落ちて固定されたのを確認すると、列車が僅かに前後して連結器が外れないかどうかの確認を行う。
「オッケー、ジャンパ線繋ぐわよ」
スフェーンはナックルがしっかりと噛み合い、連結器の確認を行ってから列車同士のジャンパ線を持ち上げてそれぞれ接続を行う。
「接続完了」
『接続確認しました』
シエロが運転台に追加された新たな列車情報を確認して報告を行うと、繋いだスフェーンは反対を確認する。
「戻りましょう」
「了解」
ルシエルは作業を終えて列車のステップを登って運転台に繋がるドアを開ける。
「今日の登り当番はサダミですか」
「おかげでこっちは雑魚寝担当」
キャビンは片側にしか用意していないので、ハズレの運転台は後ろに僅かに生活空間があるだけの激狭空間。しかも普段はパントリーとして使用しているので真っ当な人が暮らせる空間はさらに減じていた。
「仕方ないですよ、じゃんけんで負けたんですから…」
「こっち二人よ?人数的にキャビンある方がいいのに〜!」
「まあ、最悪私が戻れば良いだけなんですけど」
そして運転台でコンテナを次々と積載して行く揺れを感じながら二人は持ち込んだ装備品の確認を行う。
「予備弾薬は?」
「この前仕入れたばかりです。古い弾薬から使っていきます」
二人とも仕事の前に防弾チョッキや弾頭を入れるバックパックを持ち込んでいた。
「よっしゃ、いっちょやりますか」
「ええ、了解です」
二人は装備品の確認を終えると、丁度よく無線が入って来た。
『スジが降りた。そろそろ出発線に移動する』
運転台に座ってサダミが言うと、二人は頷いて列車の後ろから窓を開けて前後の安全確認を行う。
「車両の移動を確認。左良し」
「右良し。積み込み作業完了しています」
軽く安全確認を行うと、直後に汽笛を鳴らして列車はゆっくりと進み出した。
「信号良し」
先頭の運転台に座ってサダミは指差し確認を行うと、列車は荷物を積載した状態でゆっくりと前進を始め、出発線から本線に向かう分岐点を越えて貨物線に進入していく。
その頃、ラタマでは出発して行ったスフェーン達のいない時間を過ごしていた。
「あー、姉ちゃん達来ねえかなあ」
「早いって」
「そうよ、早くても三日後じゃないと帰ってこないわよ」
村の広場で今日の授業を終えて自由時間と農作業の手伝いをしていた。数日前にスフェーン達は荷物の積み出しで出て行ってしまったので、彼らはつまらなさそうにしていた。
「ちぇ〜、姉ちゃん達があれば楽できたのによー」
「居ない人を言ってもしょうがないでしょう」
彼らはそんな愚痴をこぼしながらも、黙々と収穫した穀物から不純物をとっていく作業を行なっていた。
「おい、シュペーアはどこ言ったんだよ」
「さあ?さっき教室から出て行ってから見てないのよね」
「ったく、あいつどこ行ったんだよ」
そして姿が見えず、後で目一杯文句でも言ってやろうかと思いながら空の籾殻を掃いて捨てていく。
「ん?」
その作業をしていると、一人の子供が聞きなれない機械音を聞いて不思議に思ってその方角を見た。
「どうした?」
その違和感を察して他の面々が顔を上げて聞くと、振り向いたその子供は徐に村の外の少し小高い丘上を指差した。
「あれなに?」
「?」
そこで一人の子供が首を傾げて指を差した時、その差した方角から閃光と少し遅れて爆発音が響いた。
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