積み出しを終え、救援物資を受け取ったスフェーン達。
「しかし難民救援の物資だっていうのに、普通に生活を送っていたのはいかがなものかね」
ガントリークレーンを操作して積み込まれて行くコンテナを見上げながら呟く。
「その方が儲かるからだろう?」
『実際問題、村の住民はこの支援物資のおかげで少し余裕ある生活が送れていますし…』
「意外とギリギリな経営してんのね。あんなに農地あるのに…」
シエロが反応して、彼女の脳裏には黄金色に輝いていたあの農地が思い浮かんだ。収穫作業も順調に進んだことで、自分たちが運んできたこのホッパ車が最後の積み出し列車であった。
「ああ、そのことで一つ気になる噂話を仕入れた」
その時、隣でサダミが言った。一体なんだろうかと疑問に思うと、彼女は言う。
「どうやら村長、どこかに収穫した米を送っていたっぽい」
「へえ、何処に?」
「さあな、しかし随分長いことやっていたらしいが、だいぶ絞られていたらしい。出る前に嘆いていたよ」
彼女はそう言い、出発前の村長達の話を思い出していた。
「やれやれ、変な宗教に手でも出した?」
「さあな、詳しくは知らないが…」
碌なものでは無いだろうと容易に想像がついた。こう言う搾り取ってくる系は大抵が宗教関連の悪徳商法だ。
「もしくは賊が脅しているか」
「どうでしょうね、あの村の雰囲気と私たちが襲われていない事を考えたら…その線は無さそうだけど」
そんな事を想像しながらコンテナを車両満載に積み込みを終えると、ダブルスタックされた車両に彼女達は乗り込んでいく。
「全く、新興宗教が絡むと碌な事がない」
「そもそも宗教団体が野盗に襲われている時点で察しろという話なんだが…」
列車に乗り込みながらサダミは言うと、スフェーンは笑いながら呟く。
「いつの時代も寺院と地主と商人は粛清対象だからねえ…」
直後に後ろで待っていたルシエルが笑っている場合か、と軽く注意を入れながら三人が乗り込むと、列車はゆっくりと速度を上げて走り出して行った。
スフェーン達は列車を走らせ、荷物の積み卸しを行なっていると、ある街で呼び止められた。
「調査?」
「ああ、昨日ラタマの方で砲撃音を聞いた連中が帰ってこないんだ」
顔馴染みであった駅の職員と軽く話しながらスフェーンは首を傾げた。
「アンタら、これからラタマに行くだろ?」
「帰ってこないやつ含めて、どうなってるか見て来てくれと?」
「頼めるか?」
「まあ、荷物届けるのも仕事ですし…」
ほぼ二つ返事の要領でスフェーンは依頼を受けると、積み込みを終えた列車は駅から走り出していく。
「何があったんでしょう?」
「さあね…」
その時、僅かにスフェーンは警戒した様子でラタマがある方角を見つめる。
「スフェーン?」
「ん?」
すると運転席に座っていたルシエルが聞いて来たので顔を下げる。
「何か感じましたか?」
「んー、嫌な予感はするよね」
スフェーンはそう言うと、サダミが反応した。
「なら、武装をした方が良さそうだな」
そこで彼女はテキパキと防弾チョッキやマガジンポーチ、弾薬盒などを装備し始めていく。こう言う時のスフェーンの嫌な予感というものは、大体が当たるので彼女達も相応に身構えて準備を整える必要があった。
「列車運転は?」
「私がしましょう」
ルシエルがそこで運転台に座ると、スフェーンもサダミから防弾チョッキを投げ渡されてナッパ服の上から装備品を纏っていく。
「武器は?」
「取り敢えずこっちかな」
そう言いながらガレージのガンラックから散弾銃を手に取ると、次にスピードローダーの帯を腰に巻いていく。
「弾は?」
「散弾とスラグにドラゴンブレスを交互にってとこかな?」
そこでスピードローダーに弾丸を装填していく。予め持っている散弾銃にも装填をしていくと、その隣でサダミも短機関銃に拳銃弾を装填していく。
「全く、どうして嫌な予感は当たるものかね」
「世の真理とかじゃ無い?知らんけど」
そんな事を話しながら二人は準備を進めていくと、列車は目的地のラタマに向かう途中で偵察ドローンを飛ばしていたシエロが言う。
『付近に複数の熱源探知』
「どうせ野盗よ、迎撃しなさい」
スフェーンは即刻指示をすると、直後に列車に衝撃が走った。
『敵発砲。おそらく榴弾です』
着弾したのが榴弾だと瞬時に計測を行うと、直後に列車の自衛装備が展開して砲撃を行なった方向に向けてミサイルとガトリング銃の攻撃が行われた。
『うおっ!?』
『撃ち返しやがったぞ!』
稜線の影に隠れて砲撃を行なったオートマトンから驚愕した様子の無線が入り、それを聞いてスフェーンは鼻で笑った。
「はっ、無反動砲は撃ったらすぐに捌けなきゃ死ぬぞ」
その直後、着弾したミサイルがオートマトンをトップアタック攻撃で破壊した。
『うわぁあっ!!?』
そしてその爆発で弾薬に誘爆を起こしてオートマトンが乾いた水田の真ん中で吹き飛んだ。
「ちっ、野盗の襲撃か…」
「こりゃあマズいわね」
すぐにでも状況を把握しなければならないと確認して彼女達は列車を制限速度ギリギリで走り続けていく。
その後、急いで駆けつけたラタマに降り立つ二人。
「…」
嫌な静寂が広がり、目の前には無数に煙の上がる建物が残されていた。
「行くぞ」
「ええ…」
サダミも警戒した様子で短機関銃を握って肩に当てながら駅舎を降りる。
途中で野盗の襲撃を受けていたので、確実にそう言う事なのだろうと内心で予想しながら、それが外れている事を願って村の方に走る。
「…」
ハンドサインで三人は走ると、最後尾でルシエルは拳銃を持って後方を警戒している。今の時刻は夕刻で、思わずスフェーンは時間を確認してしまう。
「こんな陽が出ている間から襲撃なんてするの?」
「それだけ自信があるって事じゃ無いのか?」
そこで水田の畦道の近くで倒れていた親子を見つけると、手首に触れて氷のように冷たくなっているのを感じ取った。
「駄目。だいぶ時間が経っている」
「そうか…」
そしてよく見れば他にも同じように死体がゴロゴロと転がっており、ありとあらゆる場所で血が流れていた。
彼女達の鼻には血と肉の焼けつく匂いが常にまとわりついていた。
「酷い…」
防衛用に装備され、今は砲撃で破壊されてしまっていた柵を越えて村に入ると、そこではまず街路樹に人が吊るされていた。
「…」
その吊るされた人は村長とその息子だった。彼らは首元から『私は異端です』と書かれた反省札を下げられて吊るされていた。
「…他に生き残りを探そう」
「そうね…」
「私はこっちを探します」
ルシエルは言って村を探していくと、二人も別れて村の中を探索していく。
「皆殺しの手口は変わらないか…」
その中、破壊されて略奪がされた様子の村の倉庫を見つめてスフェーンは呟く。そこには頭から袋を被せられて壁に血を撒き散らして斃れている無数の死体があった。
「…」
全員が知った顔の住民ばかりだ。出発前に穀物の管理を行っていた男もその中にいた。
『スフェーン…』
その時、サダミが震えた声で話しかけて来た。どうしたと問いかけると、彼女は答える。
「子供達がいた…」
彼女は村の孤児院の前で立っていた。その施設は未だに煙が残っているほどまだ燃えて久しく無いほどだった。
「火責めにあったようだがな」
彼女はそこで無数に葛折になっている小さな黒い人影を見下ろす。
『…そう』
その短い報告を聞いて、僅かに目を伏せてからスフェーンは大きくため息を吐いた。
「村から来た人たちがいるはずです。探しましょう」
そこでルシエルが燃えて、入り口の近くで倒れていた夫婦と思われる焼死体を見ながら告げると、その直後に彼女の耳にエンジン音が聞こえた。
「っ!」
直後に体が動いて村の物見櫓の梯子を登ると、視界の遠くに走り出していくピックアップトラックを見た。
「いた…」
ルシエルは即座にそれが敵であると認識をしてスフェーンに叫んだ。
「スフェーン!方位二二〇。距離八〇〇に敵視認」
『任せろ』
座標を受け取って彼女は頷くと、目を赤く灯らせてから指で銃の形を作ると砲撃を始めた。
「着弾。右三〇」
『修正射!』
直後、光線が水田を突き抜けて稜線を貫通して逃げ出そうとした車両のエンジンを的確に撃ち抜いた。
「サダミ」
『分かってる』
そこでスフェーンが話しかけると、隣からサダミが飛び出して行って道を全速力で飛ばしていく。その間に彼女は短機関銃に銃剣を取り付ける。
「っ!」
接近をすると、破壊した車両から銃撃が飛んで来たので彼女は引き金を引くと、的確に弾頭は車から飛び出して来た野盗の身体を撃ち抜き、同時に手元で指を弾くと、直後に野盗に雷のような音が響いた。それで一人が過電圧によってサイボーグが弾け飛んだ。
「何だ!?」
「異能だ!」
「撃ち殺せ!」
仲間が弾け飛んだ事に驚愕をしたが、それでもすぐに対応をして持っていた自動小銃で反撃を行う。
「ぐはっ!?」
しかし直後に村から飛んで来た光線が野盗達の一人を丸ごと消し飛ばした。
「くそっ…っ!!?」
毒吐いて逃げ出そうとしたが、その前に目の前に一人の影が飛び出してその長い刀身が特徴的な銃剣を迎撃しようとした野盗の喉に深く突き刺さった。
「貴様の記憶を貰おう」
「ひっ…」
そして突き刺して倒した一言呟くと、直後に彼の視界いっぱいに虹色に反射する金属的な結晶が彼の頭を覆い尽くした。
その後、スフェーン達は燃え尽きた村で立ち尽くしていた。
「生まれも育ちもパシリコであるなら、その地に住まうものは身ながら兄弟姉妹。それが連中の感覚なのだろう」
スフェーンは燃えて炭となった材木を建物の中に放り投げる。
「まあ『異端は異教より憎し』と言った具合かな」
彼女は野盗に襲撃を受けた事で他の村と同様に皆殺しにされ、田畑を荒らされた様子の村を見つめる。
「…何処のカルト宗教の話だ」
「これ」
スフェーンが目の前の看板を首から下げられた住民を指差し、その隣で背筋に冷たい感覚を感じ取って思わず顔色が悪くなるサダミ。
「森林信仰も解釈の違い一つでここまで荒れ果てるんだ」
二人は煙の上がる村の施設や、地面に下ろされていく死体を見ていく。
駆けつけて来た近くの村の民が黒焦げとなった小さな亡骸を蒼白した顔で集めていく。
「…スフェーン」
「分かってる」
サダミは話しかけると、彼女は分かっているように頷いてから制する。
「やれやれ、産まれは違っても人の性からは逃れられないもんだね…」
そして少し疲れたように彼女は煙草を取り出して火を付けた。
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