燃えている駐屯地の中、燃えていた建物に近づいて煙草を近づけて火を付ける。
「ねえ」
「ん?」
そして愛飲している煙草を吸いながらスフェーンは問う。
「初めて銃を撃ったのって、いつか覚えてる?」
「銃…か。ふむ…」
その質問に彼女は少し意外に思いながら貰った機関銃を肩に掛け直して思い出す。
「…まだガキンチョの頃。私がスラムで孤児をしていた頃だな」
「へえ…」
「ギャングに敵対組織のことをチクって日銭を稼いでいた頃の話さ」
スラム街出身で、治安官の経歴を持っていたかつて彼だった者は言う。
「ある日、ギャングの下っ端に追いかけられていた時に落とした拳銃を拾った」
そして同時に自分はギャングにチクッたことがバレて命の危機にあった。
「で、路地裏で隠れて撃ったのが初めてだった」
「当たった?」
「全然?外れてその後に蹴り飛ばされ、殴られ、拳銃も奪われてしまった」
苦い思い出だと彼女は言うと、スフェーンを見上げて聞いた。
「そう言う君は?」
「私?…そうね」
そこで灰を捨てて彼女は指で煙草を挟んで少し懐かしげに語る。
「私は狩猟の先生から借りた猟銃が最初だったかな…それで近くの山に出かけて
彼女から語られたのは流石というべきか、そうした階級の人間がやりそうな遊びの話だった。聞いていたサダミは遠い世界を見ているような気がした。
「鹿っていうのは敏感な生き物でね、一度銃声がするとすぐに逃げて同じ場所にはなかなか戻ってこなくなってしまう」
だから猟犬を使うという。
「猟犬は賢い。だから本人が望む場所に獲物を追い立ててくれる」
そして狩猟対象であった鹿は植物の新芽を食べてしまうことから、緑林教においては緑化を妨げる害獣として積極的に狩ることを求められる動物であった。
「私も優秀な猟犬を飼っていて、彼らは実に良い場所に誘導してくれた」
彼女は懐かしんで初めて銃を持った時のことを思い出す。
「散々事前のレクチャーを受けていて、それでも初めて使うものだから緊張してしまって、外してしまった」
そこで彼女は一服する。
「当たったは良いが、致命打にはならなかった」
そして煙を吐き出す。
「だからその後、血を辿って山を探した」
そして煙草を弾いて灰を捨てる。
「そして山の斜面で呻きながら倒れていた鹿を見つけた」
瞼の裏でその時の映像を映しなら彼女は言う。
「申し訳ないことをしたと思った。なにせその鹿は私に実害を与えたわけではなかったからね」
そう言い、彼女は吸っていた煙草がフィルターギリギリまで使っていたことに気がつく。
「その後、私は贖罪の意味も込めてその鹿の首筋にナイフを当てて仕留めた」
そして吸い終えた煙草を燃え盛る炎の中に放り込んだ。
「流石は元金持ち」
「はははっ、とっくの昔に没落した家の子の話さ」
よくあることだと言って彼女はサダミを見ると、そこで震えた様子で地面に座らされている一人の男が聞いた。
「あ、あの…」
「ん?ああ、ごめんごめん。話を遮ってしまったね」
スフェーンはそう言って笑うと、その直後に老人の頭に向けてサダミが自前の拳銃を取り出して引き金を引いた。鮮血と脳髄が飛び散り、この駐屯地の近くの村長であるという身なりの良かった男はそのまま倒れた。
「ひいっ…!!」
そしてその返り血が顔に付いたことで悲鳴を漏らす豪華な身なりをしていた老婆。彼女は今時珍しい金歯で揃えられた歯をしており、他の村の面々も同様に入れ歯や装飾品は必ず何かしら豪華にできていた。
「こいつは大した事はなさそうだが…」
「まあ柔らかい部分はこれから集まれば良いでしょう」
死体を確認しながらサダミは簡単に老婆に銃口を向けて引き金を引き、命乞いの言葉もなく地面に鉄分とタンパク質、一部はカルシウムを撒き散らしていく。
「スフェーン」
「ん?」
そこでルシエルが出てくると、彼女は背中にタンクを二本備えた火炎放射器を持って来た。
「お、あったね」
その火炎放射器にたっぷりとナパームが入っていることを確認すると、ルシエルは背負って聞いた。
「やって良いですか?」
「ええ、ミディアムくらいで頼む」
スフェーンは頷くと、火炎放射器を背負ったルシエルは駐屯地の中で生き残っていた面々を集めた司令部に向かう。
「やって」
「ん」
スフェーンは彼らを見下ろすと、隣で火炎放射器を構えたルシエルを見て生存者たちは震える。
「ま、まって…」
そして駐屯地の施設の中に集められた、やけに村の規模の割には全員が良い格好をしており、豪華な装飾品を纏っていた面々は施設の入り口から火炎放射器によって焼かれていく。
「「「っーーー!!」」」
そして密閉した空間にナパームの炎が撒かれ、中に居た面々は一斉に焼かれていく。悲鳴すらも一瞬で喉が焼かれたので悲鳴や呻き声すら上がらない。
「おー、これはすごい」
サダミはそこで焼かれていく面々を見ながら両手で死体を引っ張りながらそんな感想を漏らしていた。
ーー傭兵の仕事をしていた頃の話だ。
こういう事は、戦場ではよくあることだった。
子供というのは、人間の深層心理の中でどこか安全な存在であると思っている…いや、おそらくはそう教育を受けてるのだろう。だから、気を許してしまう。
子供に爆弾をつけて敵地に送り込み、自爆させる。
それで仲間が何人も死んだ。治安官の頃だったそうだ。企業間抗争の際、避難民の中に爆弾を持たせて自爆させて少しでも多くの死傷者を出させる。そうする事で行軍を遅らせる遅滞戦術の一つだ。
それで病んで自殺した治安官や、集団虐殺に走った指揮官さえいる。人を壊すのに実に効率的で、効果的な戦法だ。
現代の戦争では、三割の損耗が出れば撤退をしなければならないという。
これもまたスフェーンからの受け売りであるが、なぜ三割なのかと言うと、人というのは思っている以上に重たい。故に一人を運ぶのに二人が必要になる。
医療技術の発達によって、人は撃たれても適切な治療を行えば回復ができるようになった。そして治療を行えば戦力として数えられるがゆえに、生きている場合は後送する必要が出て来た。
もしこの三割が全員負傷者となった場合、その人員を運ぶのに二人。つまり戦力となる人間の六割が割かれることとなる。そうすれば、まともに戦闘が行える人員は一割。つまり壊滅することとなる。そうなったら厳しい戦いになるのは素人目から見ても想像ができる。
「…」
そこで黒焦げとなった子供の死体を見て彼女はふと懐かしい感覚を思い出す。
戦場では爆弾を背負った子供を殺し、帰って来てはスラム街で子供を拾っていた。
あの孤児院を作ったのは、自分なりの身勝手である。
或いは、子供を殺したことに対する後ろめたさがあったからだ。
「はあ、嫌になってくるものだ」
そんな感情も、最近では湧かない。特にこの後のことなど楽しみにしているほどだ。
「スフェーン、こっちやってるよ」
「んん〜、分かった」
そこでサダミは火炎放射器で轟々と燃やされているのを見ながら足元に大量に傷口から草花を生え散らかしている死体から植物のある部分を切り取っていく。
使うのはかつてある武器屋でもらった銃剣。丁寧に石で研ぎあげた最高級に切れ味を整えた一品だ。
「シュペーア君」
「っ!?はいっ!!」
燃えている駐屯地の中、体育座りで座り込んでいたその少年にスフェーンは話しかけると、彼はひどく驚いた様子で声を裏返して顔を上げた。
「もうすぐ終わる」
「っ…そう、ですか」
村の生き残りで、この組織…統一防衛隊に連れ去られていた彼は、スフェーン達によって救助されていた。他の村の住人と混ざりつつも、避難先のコンテナの中に閉じ込められていた様子で彼は残骸ばかりが並ぶ駐屯地で座り込んでいた。
「そうそう、君に聞きたいことがあるんだよ」
そこでスフェーンはシュペーアを見下ろしながら質問した。
「君、本当は何歳なの?」
「っ!!?」
その質問をした時、彼の目は大きく見開かれた。そして咄嗟に体が反射的に動きそうになると、先にスフェーンが制した。
「おっと、動かないで〜」
そこで指を差し出すと、わずかに静電気が迸った。
それが異能であり、同時にこの空間に広がる空間エーテル濃度で異能は発動できない事は肌感覚で分かっており、そこから彼は推定した。
「ふ、不老者…」
「おお、大当たりだよ」
体がエーテルで置換されている肉体を持つ不老者は、空間エーテル濃度が低くても異能をある程度放てる。そしてそのことを知っている時点で十分な教育をされているとわかる。
「ラタマのことチクッたの、君でしょ?」
「…」
その問いにシュペーアは沈黙する。
「いつから…」
「んなもん初めっからに決まってんだろ」
呆れたように彼女は軽くため息を吐いて彼を見る。
「村の様子を夜な夜な歩き回って見ていて、村長が米を出し渋ると言った途端に皆殺しだ。ついでに言うと、サダミがその現場をたまたま見ててね」
彼女は訳を話し終えると、後ろからルシエルが話しかけた。
「スフェーン、終わりました」
「おう、お疲れ」
彼女はその手に赤熱した火炎放射器を背負っており、燃料を使い切ったのだと彼は理解する。
「全く、村ぐるみで統一政府を盾に周辺の村々で略奪をしていたとはね、よくやるもんだ」
「よく燃えましたよ。ここの村の住民は脂が乗っていたようでしたので」
「おいおい、ミディアムにしろ言うたやろが」
ルシエルに軽く注意をすると、その瞬間に恐怖からシュペーアは振り返って逃げ出そうとした。
「あがっ…!!」
足を撃ち抜かれ、血肉が弾け飛んで彼は地面にうつ伏せになる。
「あらダメよ〜」
彼女は拳銃を握っており、撃たれた彼は血を垂れ流して悲鳴を上げた。
「た、助けで…」
「無理」
這って移動しようとすると、今度は手を撃ち抜かれた。子供の体に撃ち込まれたマグナム弾は、簡単に体を爆ぜさせた。
「殺さないのか?」
「言ったでしょう?あの時、申し訳ないって思ったから私は苦しんでいた鹿を仕留めた」
そう言ってから悶えている彼を見る。
「でもこれはどう思う?」
「…あの廃村で見つけた日記帳が役立つとは思いませんでしたが……」
ルシエルはそこで、廃村で村長が書き記していた日記帳に書かれていた話を思い出していた。
「まあ、こっちはこっちで別の作業しようか」
「分かりました」
二人はそこで頷くと、振り返って死んでいく少年を背に向けた。
お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。
次に外伝書くなら
-
南北戦争(圧倒的作者の趣味)
-
アンジョラの病院(数話で終わる)