戦闘の混乱が収まり、再び静かになった駐屯地。
残されていたのは瓦礫と灰の山と化した残骸ばかり。
黒焦げに燃え尽きたトラックや戦車の残骸が物悲しげに残され、あらゆる場所で煙が立ち上っていた。
「軍警は来ると思う?」
「さあ、暫くは来ないんじゃない?」
地べたに座り込んでスフェーンは少し休憩をしていると、弾薬を使い切って観測を行っていたルシエルが伝える。
『スフェーン、敵の増援を確認しました』
「え、何処から?」
『分かりませんが、取り敢えず北東方向から敵のオートマトン部隊を確認しました』
駐屯地から偵察ドローンを展開していたルシエルは敵総数の確認を行う。
「オートマトン四台。全員が自走迫撃砲仕様。おそらく、威力偵察かと」
『ふむ…なるほど』
そこでスフェーンは報告を聞いた後に少し考える。
「どうするんだ?」
「逆にどうしたい?」
サダミが問いかけると、スフェーンは聞き返してきたので少し好戦的に笑みを見せた。
「…了解」
その返答を見てスフェーンは少し笑うと、昔と比べて随分と血肉に飢えたもんだと思いながら化け猫と化した妹の頭を軽く触れる。
「よっしゃ、まあもう一回やって行こうか…」
そこで対戦車ライフルを握ると、サダミは長年使い古された武器を前に艶さえある銃床を見つめる。
「言っても君も同類ではないのか?」
「はて?言い出しっぺの法則ってご存知で?」
なんとも言えない表情を浮かべてスフェーンは一度こちらを見てから所々で煙がまだ立ち込めている駐屯地を歩く。
「ちなみに聞くが、まだ誰か残っているか?」
「死体だけです」
見事なまでの皆殺し宣言を行うと、彼女は瓦礫の山となった駐屯地の中で面白い装備を見つけた。
その頃、駐屯地に接近中だったオートマトン部隊は後続部隊の為の偵察任務を受けていた。
『駐屯地から救援要請?』
『襲撃を受けたそうだ』
そこで地上を移動しているオートマトン部隊で隊長機が言うと、彼らは威力偵察も兼ねて駐屯地に繋がる山道を進んでいた。
『煙が上がっているぞ』
『急ぐぞ。中で何か起こったようだからな』
コックピットで空高く煙が立ち込めていたのを見て隊長機は指示を送ると、直後に砲声が響いて着弾した。
『砲撃!!』
『散開しろ』
即座に山道の森林に分かれて彼らは隠れると、直後に地面に着弾して砲弾が起爆する。
『榴弾だ』
『気をつけろ。こちらも準備砲撃を行うぞ』
砲撃を受け、彼らは装備していた81mm迫撃砲に砲弾が自動で装填されると、迫撃砲による砲撃が駐屯地に向かって着弾していく。
その間も駐屯地側から何度か砲撃が着弾し、部隊の周りで土煙が上がった。
『命中を確認』
『気を抜くな。二台は支援砲撃を続行し、我々分隊はこのまま接近を行う。バッチェム』
『了解』
コールサインで呼ばれ、オートマトン二台はそのまま前進を行う。
本来であれば何もなさげな山道であるが、この先にある駐屯地は彼ら統一防衛隊の主要な駐屯地として機能していた。
『任務は駐屯地の全情報の抹消だ』
彼ら先行部隊は救援要請のあった駐屯地の現状を把握し、どのようになっているかを報告することを目的としていた。
『後続の砲兵はどうなっているんで?』
『予定通りなら、こちらに向かってきているはずだ』
後方で自走迫撃砲仕様のオートマトンによる砲撃が断続して行われている中、二台のオートマトンは駐屯地跡に接近していくと、被っていたHMDに警告が表示される。
『気をつけろ。かなり空間エーテル濃度が高くなっている』
『この地域は除染されているんじゃないんですか?』
『本来はな…』
以前ではあり得なかった事象を前に、彼らは警戒度を上げて進んでいく。これ以上の接近は機器に異常をきたす可能性すらあるほど高濃度のエーテル、それもより危険な活性化エーテルが蔓延していた。
活性化エーテルは機械でも侵食する可能性を秘めており、サイボーグですら特別な密閉構造を有していなければ侵食による破壊の危険性すら孕んでいた。
『これ以上の接近は危険では?』
『活動可能時間を設定する』
空間エーテル濃度の上昇を受けて隊長機は機器を操作すると、僚機にも時間制限の赤い点滅が表示された。
『分隊、支援砲撃を中止。以降、制限時間までに戻ってこなかったら撤退してくれ』
『よろしいのですか?』
『お前たちまで命を無駄にするわけにはいかん。それだけだ』
そこで隊長機はそのまま前進を続けると、駐屯地が見えた頃合いで僚機を停止させる。
『バッチェムはここで待機。何かあれば、すぐに撤退しろ』
『了解。まあ様子見はさせてもらいますよ』
そこでその手に小銃を握りながらパイロットは答えると、隊長機は駐屯地の中に進んでいく。
「一体何があったんだ…」
怖いほど静かな駐屯地を見つめてオートマトンは囲まれていたヘスコ防壁を見上げ、次に駐屯地の入り口に入っていく。
「っ!!?」
そしてその先で見た光景に彼は目を疑った。
「こんな場所に森なんてあったのか?」
そこは青々と植物が茂った施設が並んでいた。とてもこの濃度の空間エーテルが広がっている景色とは到底思えなかった。
地面や木々には蔦や葉が血管のように生えており、青々とした緑を見せつけていた。それがより一層、この駐屯地で何があったのかと入ったパイロットを困惑させた。
「…」
その様子を見てその兵士は少し警戒をしつつも、オートマトンを動かして崩壊している駐屯地の様子を見る。
自分の記憶が正しければ、ここには非自然的な駐屯地が設置されていたはずだ。囲んでいるヘスコ防壁を確認してそれは嘘ではないと認識する。
「誰か生き残りはいないのか…」
そこで残骸となって黒焦げている戦車を見る。
そこでは何か巨大な爆発によってできたであろうクレーターのようなものもあり、しかしその近くに死体が見当たらない。この状況では絶望的かとも思いながら、この駐屯地から聞いていた色々な噂を前に罰が当たったのだろうかとも邪推してしまう。
「っ、これは…」
生存者と情報収集を目的に駐屯地を歩き回った時、パイロットはその景色を見て思わず立ち止まってしまった。
「死体の山…か」
そこでは雑多に山積みになった死体の山が残されており、この濃度の空間エーテル故に腐敗することもなくさまざまな死因で死んだであろう死体が百単位で転がっていた。
「ん?」
その時、パイロットは格納庫の影で僅かに反射した光を見た。
「っ!!」
その直後、格納庫に一瞬の閃光が見えるとマズルブレーキが発火炎と硝煙を吐き出しながら砲弾を発射していた。
「うおっ!!?」
そして放たれた砲弾は、発射直後に奇跡的に感知できたことで僅かに回避し、砲弾は胴体を擦り、腕部をごっそりと持っていって弾き飛ばした程度に終わった。
「チッ、ボディが割れたか…」
パイロットは割れて太陽光が差し込んだコックピットを確認してガスマスクを装着すると、即座に振り返って撤退を行なった。
「これでは段着観測も無理だ」
証拠隠滅の前に自分たちの命の危機があると感じ取り、彼らは退却を初めていった。
そして撤退していくオートマトン部隊を、上空で仁王立ちして見ていた一人の人影がいた。
「敵、撤退していく模様」
空色の瞳で膨大に展開されている空間エーテルで足場を作った彼女は、上空で観測と偵察を行っていた。
『戻ってくる可能性は?』
「無線を傍受したが、そのまま逃げ帰っていくつもりらしい」
大人しく撤退していく彼らを見ながら告げると、そのまま彼女は二又の尻尾を揺らしながら地面に帰還すると、視線の先で
「証拠隠滅に来たってところかな?」
「どうもそのようだ」
そこであらかじめ準備されていた徹甲弾と
「思っていたよりもあっさりとしていますね」
少し不満げに彼女は言うので、スフェーンたちはそんな彼女に引き攣った顔を見せた。
「あまり無茶すんなよ」
「無論です」
当たり前だと言わんばかりにルシエルはやや反論気味にスフェーンに言った。
「まあいいや、作業を続けようか」
「ええ、あいにく周辺の細菌などの諸々の腐敗要因は放出したエーテルに食われてしまいましたので、劣化は遅くなるでしょう」
そこで彼女たちは積み上げられていた死体の山を見上げた。
「近くに水源はあるか?」
「駐屯地に水タンクが」
「よし、始めますか」
彼女たちはそこでその死体の山を前に少し腕まくりをした。
そして文字通り三日三晩作業を行い、彼女たちはようやく食事にありつく。
「今日の夕食は?」
「シチューにしようと思っていた」
崩壊した駐屯地の一角で彼女たちは火を焚いて話す。
「シチューか…良いな」
「肉をふんだんに使った贅沢な一品や」
スフェーンはそういい、少し自信ありげに飯盒にたっぷりと注ぎ入れる。
「いただきます」
そして湯気が立つシチューを受け取って早速サダミは肉を齧った。
「んん、よく血抜きされている」
「そりゃあ吸い上げて全部エーテルになったんだからね。ただちょっと臭いかもだけど」
ほろほろと崩れ、柔らかくなるまでよく煮込まれていたそのシチューは、ハーブで臭み消しがされていた。
「いえ、全然いけますよ」
駐屯地ではそう話ながら彼女達は笑う。
「流石はスフェーン。どんな肉でも美味しく調理されています」
「おお、じゃあ今度は別のものでも試してみるかね」
そう言いながら筋肉を齧ると、スフェーンの頭上の鹿角に咲く林檎の花が開花を始めていく。
「何度見ても思うが、これはすごいな」
「良いものでしょう?」
「まあ…」
開花した林檎の花からは活性化エーテルが大量に放出され始め、周りに積み上げられた骨の山などに吸着していく。
「まあ出るのは活性化エーテルなんだけどね」
「まともな人なら生きていける環境ではなくなるな…」
そこでただでさえ蔓延していた空間エーテル濃度がさらに上昇しているのを感じ取ると、サダミは苦笑しながら一層鬱蒼となりつつある駐屯地を見る。
「でも、これでしばらくは肉には困らないわよ」
「それは良いことを聞いた」
十分な補充ができたと言った彼女にサダミは笑みを見せると、隣でルシエルも安堵したように頷いていた。
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